式場の成約率1ポイントは、問い合わせ何件分に当たるか
式場の成約を増やしたいとき、最初に思いつくのは問い合わせを増やすことだと思います。広告を足す、媒体の掲載枠を上げる、SNSの更新を増やす。どれも「入口の数」を増やす手です。
ただ、成約までには入口のあとに、来館するかどうかと、契約するかどうかの2つの関門があります。入口の数、来館率、成約率。この3つは掛け算でつながっているので、どれを動かしても成約数は変わります。では、同じ労力でどれがいちばん効くのか。
結論から言います。成約率が1ポイント上がる効果は、仮の数字だと問い合わせが3件強増えるのと同じです。来館率の1ポイントでも、問い合わせ2.5件分に当たります。広告費を足す前に、すでに来てくれた二人の取りこぼしを見るほうが、先に効く場面が多いはずです。
この記事に出典の数字はありません。以下の数字はすべて、僕が計算しやすいように置いた仮のものです。業界の平均ではないので、自分の会場の数字に置き換えて読んでください。
仮の会場を1つ置く
計算のために、月の数字を次のように置きます。
- 月の問い合わせ:100件
- 問い合わせから来館する割合(来館率):40%
- 来館から契約する割合(成約率):30%
掛け算すると、100件 × 0.4 × 0.3 で、月の成約は12件です。来館は40組、契約は12組。この会場をA会場と呼びます。
ここから、3つのどれかを少しだけ動かしたときに、成約が何件増えるかを見ます。「少しだけ」の大きさをそろえないと比べられないので、まず「1単位ずつ」動かします。
| 動かすもの | 動かす幅 | 成約の増え方 |
|---|---|---|
| 問い合わせ | 1件増やす | 0.12件 |
| 来館率 | 1ポイント上げる | 0.30件 |
| 成約率 | 1ポイント上げる | 0.40件 |
問い合わせが1件増えても、そのうち来館するのは4割、契約するのはさらにその3割なので、成約には0.12件しか届きません。一方、成約率が30%から31%になると、来館した40組のうち0.4組が契約に回ります。
割り算すると、成約率1ポイントは問い合わせ約3.3件分、来館率1ポイントは約2.5件分です。入口を1件増やすことより、あとの2つを1ポイント動かすことのほうが、1単位あたりでは重いわけです。
「1ポイント」と「1件」は同じ難しさではない
ここで反論が出ると思います。問い合わせを1件増やすのと、成約率を1ポイント上げるのとでは、難しさが違うだろう、と。そのとおりです。
問い合わせを1件増やすのは、広告費を足せばできます。成約率を1ポイント上げるには、接客か提案か見積もりのどこかを直さないといけません。お金で買える手と、直さないと動かない手の違いです。
なので、単位あたりの重さだけで「成約率から直そう」と言い切るのは乱暴です。見るべきなのは、同じ予算・同じ手間でどれだけ動くかです。そこで、もう少し現実に近づけて計算します。
広告で問い合わせを10件増やす場合
A会場が広告費を足して、問い合わせを月に10件増やしたとします。来館率と成約率は変わらないとすると、成約は 110 × 0.4 × 0.3 で13.2件。増えるのは1.2件です。
仮に、追加の問い合わせ1件を取るのに8,000円かかるとします(これも仮の数字です)。10件で8万円。1.2件の成約を増やすのに8万円なので、追加の成約1件あたり約6万7千円です。
この数字は、広告で増やした分の費用だけを成約で割ったものです。実際には、追加分は元の問い合わせより質が低いことが多いので、来館率や成約率が少し下がる可能性もあります。その場合、追加の成約1件あたりの費用はもっと高くなります。
成約率を5ポイント上げる場合
同じA会場が、接客を見直して成約率を30%から35%に上げたとします。成約は 100 × 0.4 × 0.35 で14件。増えるのは2件です。
広告のほうは10件増やして1.2件、成約率のほうは5ポイントで2件。成約率の改善には広告費がかからないので、費用の面だけを見れば、成約率のほうが安く済みます。ただし、成約率を5ポイント上げるのは簡単ではありません。接客の研修や、見積もりの出し方の見直しには、担当者の時間がかかります。その時間を数えないと、安いとは言い切れません。
来館率を5ポイント上げる場合
来館率を40%から45%に上げた場合は、100 × 0.45 × 0.3で13.5件。増えるのは1.5件です。問い合わせへの返信の速さ、予約の取りやすさ、予約フォームの項目数など、手を入れる場所は多く、どれも広告費はかかりません。
3つを並べると、同じ「5ポイント/10件」の改善で、成約は問い合わせ1.2件、来館率1.5件、成約率2.0件と、あとの段ほど大きくなります。掛け算の構造上、後ろにあるものほど、前に積み上がった数全体にかかるからです。
後ろの率が低いときほど、前を増やすほど損をする
もう1つ、見落とされやすい点があります。成約率や来館率が低い会場が問い合わせを増やすと、取りこぼしも一緒に増えます。
A会場の成約率が30%ではなく15%だったとします。問い合わせ100件、来館率40%、成約率15%なら、成約は6件です。ここで広告を足して問い合わせを10件増やすと、成約は6.6件。増えるのは0.6件です。成約率が30%のときの1.2件の、ちょうど半分です。
つまり、成約率が低い会場が広告を足すと、費用の半分が、来たのに契約に届かなかった二人に消えていくことになります。逆に成約率が高い会場なら、広告の効きは大きくなります。入口を広げるのは、後ろの率がある程度整ってからのほうが、同じ費用の効きがよくなるわけです。
これは、広告を止めろという話ではありません。後ろの率の水準によって、広告の「効き」が倍も違ってくるので、広告費の判断は成約率とセットで見たほうがいい、という話です。
3つの率を見る順番
では、実際に自分の会場で、どの順番で見ればいいか。僕は次の順番を勧めます。
1. まず、3つの数字を同じ月で出す
問い合わせ数、来館数、成約数を、同じ月の同じ集計の仕方で出します。ここで大事なのは、問い合わせの月と成約の月がずれることを織り込むことです。問い合わせが4月でも、契約は6月になることがあります。1か月ずつの率は多少ぶれるので、3か月分をまとめて見るほうが落ち着いて読めます。
問い合わせ数の数え方もそろえます。電話、メール、LINE、媒体経由、公式サイト経由を、同じ1件として数える。同じ二人が複数の媒体から問い合わせたときは、1組として数える。この線を決めておかないと、来館率が実態より低く見えます。
2. 率の低い段を探す。ただし「低い」の基準は過去の自分
他社の平均と比べる必要はありません。自社の過去12か月の中で、いちばん良かった月と悪かった月を比べます。来館率なら、良かった月はなぜ良かったのか。成約率が下がった月は、担当者の入れ替わりか、繁忙で見学の時間が短くなったのか。
自社の中で幅が大きい率ほど、直せる余地があります。毎月ほぼ同じ数字で動かない率は、構造的に決まっている可能性が高く、手を入れても動きにくいです。
3. 直しやすい段から、小さく試す
来館率は、返信の速さや予約フォームのように、仕組みで動かせるものが多いです。成約率は、人の接客に依存する部分が大きく、直すのに時間がかかります。なので、来館率を先に動かし、そのあいだに成約率の要因を探す、という並行が現実的です。
試すときは、一度に1つだけ変えます。返信の速さを変えたのと同じ月に予約フォームも変えると、どちらが効いたのか分かりません。
4. 広告の判断は、直した後の率で計算し直す
来館率や成約率が上がると、広告1件あたりの成約の効きも上がります。先ほどの計算で、A会場が成約率を30%から35%に上げると、広告で増える問い合わせ10件あたりの成約は、1.2件から1.4件に増えます。広告の「元が取れる上限」も、その分だけ引き上げられます。
広告費の上限を決めるときは、現在の成約率で計算するのではなく、直した後の成約率で計算し直します。そうしないと、直したのに広告の判断が古いままになります。
例外:来館の枠が足りない会場
ここまでは、枠に余裕がある会場の話でした。土日の見学枠が埋まっている会場では、話が変わります。
A会場の土日の見学枠が、月に44組分しかないとします。来館40組は枠にほぼ収まっていますが、問い合わせを10件増やして来館が44組になると、枠は満杯です。さらに増やしても、来館できない二人が出ます。この場合、問い合わせを増やすことの効きは頭打ちになり、来館率を上げても枠の中でさばけなくなります。
枠が足りない会場で、すぐに効くのは成約率と、来館1組あたりの質です。来館数が変わらなくても、成約率が上がれば成約は増えます。逆に枠に余裕がある会場は、来館率と問い合わせ数にも伸びしろがあります。
枠の使い方を見直す場合は、平日に誘導する、夜の枠を足す、1組あたりの時間を調整するなどの手もあります。ただ、それは別の判断になります。ここで言いたいのは、枠の上限が見えているかどうかで、3つの率の優先順位が入れ替わることです。
3つの率を見るときの落とし穴
最後に、数字を読むときに起きやすい取り違えを3つ挙げます。
率の分母が月ごとに違う:来館率を「その月の来館数÷その月の問い合わせ数」で出すと、問い合わせが増えた月は来館が遅れて入るので、率が低く見えます。3か月まとめて見るか、問い合わせの月ごとに追いかけます。
平均すると、改善した段が見えなくなる:媒体ごと、担当者ごとの率が違うのに、全体の平均だけを見ていると、どこが足を引っ張っているか分かりません。可能なら、媒体別の来館率と、担当者別の成約率を並べます。ただし、担当者別は件数が少ないので、1人あたり月10組程度では、1組の違いで率が10ポイントも動きます。1か月の数字で担当者を評価しないほうが安全です。
良い月の数字を目標にしてしまう:たまたま良かった月の率を基準にすると、翌月から全部「未達」になります。3か月の移動平均を基準にして、そこからの上下を見ます。
まとめ
- 成約は、問い合わせ数 × 来館率 × 成約率の掛け算。仮の数字では、成約率1ポイントは問い合わせ約3.3件分、来館率1ポイントは約2.5件分に当たる
- 問い合わせを1件増やすのは広告費で買えるが、率を1ポイント上げるには接客や仕組みを直す必要がある。単位あたりの重さと、直す難しさは分けて考える
- 成約率が低い会場ほど、広告で増えた問い合わせの効きが悪い。広告費の判断は成約率とセットで見る
- 見る順番は、同じ月で3つの数字を出す、自社の過去と比べて幅が大きい段を探す、直しやすい段から1つずつ試す、直した後の率で広告費の上限を計算し直す
- 見学枠が満杯の会場は、問い合わせと来館率の伸びしろが頭打ちになる。成約率が優先になる
- 数字は3か月まとめて見る。担当者別の率は、件数が少ないうちは評価に使わない
