式場の広告配信エリアは、来館者の住所を移動時間で並べて決める
式場の検索広告やSNS広告には、配信エリアの設定があります。多くの管理画面で最初に出てくるのは「会場から半径〇km」という指定です。初期設定のまま、あるいは担当者の勘で決めた半径のまま、何年も動かしていない式場は少なくないと思います。
僕は、この半径の決め方に不安があります。半径は地図の上の距離で、二人が会場に来る手間は、電車の本数や高速の有無で決まる移動時間だからです。地図で10kmの二人と、電車で乗り換えが2回ある30kmの二人では、見学に来る確率も、来たあとの成約率も同じとは限りません。
この記事では、来館簿に残っている住所を使って、配信エリアを移動時間の帯で決め直す手順を書きます。実際の数字は式場ごとに違うので、途中の計算はすべて仮置きです。実在する式場の実績ではありません。自分の台帳に当てはめるための型として読んでください。
半径で決めると何が起きるか
半径指定の問題は2つあります。
1つは、近くても来ない二人を含んでしまうことです。川や山を挟んでいて、直線距離は近いのに、車で回り込むと1時間かかる地域があります。こういう地域の二人は、距離だけ見ると「商圏の中」にいますが、見学の候補には入りにくい。広告費だけ消えます。
もう1つは、遠くても来る二人を外してしまうことです。直線で40km離れていても、特急や高速で40分の二人は、日曜の午前なら普通に来館します。半径を30kmに切っていたら、この二人には広告が届きません。
どちらも、地図の距離で決めているから起きます。二人の側から見た会場までの近さは、距離ではなく「その日に行く手間」です。手間を測る一番素直な単位は、移動時間だと思っています。
手順1:来館簿の住所を移動時間の帯に並べる
材料は、すでに式場の中にあります。見学予約フォームや来館時のアンケートに、住所の欄があるはずです。ここで必要なのは番地まで細かい住所ではありません。市区町村か、郵便番号の上3桁があれば足ります。
並べ方は次のとおりです。
- 直近1年の来館簿から、来館した組の市区町村を集計する
- 市区町村ごとに、会場までの移動時間を調べる。地図アプリの経路検索で、日曜の朝に出発した想定で出す。車なら高速を使った時間、電車なら乗り換え込みの時間
- 30分以内、30〜60分、60〜90分、90分超の4つの帯に分ける
- 帯ごとに、来館組数と成約組数を数える
住所は個人情報なので、集計に使うのは市区町村までにします。個別の二人の住所を広告の運用担当に渡す必要はありません。帯ごとの組数と成約数だけを共有すれば足ります。
なお、車で来る式場と、電車で来る式場では、帯の切り方が変わります。郊外型の式場なら車の時間、駅前の式場なら電車の時間で並べます。迷ったら、予約フォームで「どうやって来るか」を聞いている式場は、その回答の多いほうを使います。
手順2:帯ごとの来館数と成約率を出す
ここから先は、仮の数字で考えます。年間の来館が480組の式場を想定します。帯ごとの内訳と成約率は、次のように置きました。
| 移動時間 | 来館組数 | 成約率(仮) | 成約組数 |
|---|---|---|---|
| 30分以内 | 288 | 38% | 約109 |
| 30〜60分 | 120 | 34% | 約41 |
| 60〜90分 | 48 | 26% | 約12 |
| 90分超 | 24 | 17% | 約4 |
合計は来館480組、成約約167組、全体の成約率は約35%です。
この成約率の差は、僕の仮定です。ただ、遠い二人ほど、見学後に持ち帰って別の式場を回る手間が増え、再訪しにくくなるという構造は、一般に起こりうる話だと思っています。自分の式場で実際にどれくらい差があるかは、台帳で出してみないと分かりません。差がほとんど無い式場もあるはずです。差が無ければ、この記事の後半の結論は変わります。
手順3:帯ごとの広告費を割り当てる
次に、広告費です。管理画面で、配信エリアごとの来館1組あたりの費用を出します。エリアを帯に対応させるのが面倒なら、市区町村ごとに配信設定を分けて、あとから帯にまとめます。
仮に、来館1組あたりの広告費が次のようになったとします。遠くに配信するほど、見学の予約に至る確率が下がるので、来館1組あたりの単価は上がっていきます。
| 移動時間 | 来館1組あたりの広告費(仮) | 帯の広告費 |
|---|---|---|
| 30分以内 | 8,000円 | 約230万円 |
| 30〜60分 | 12,000円 | 約144万円 |
| 60〜90分 | 20,000円 | 約96万円 |
| 90分超 | 36,000円 | 約86万円 |
成約1組あたりに直すと、広告費は次のとおりです。
- 30分以内:約2.1万円
- 30〜60分:約3.5万円
- 60〜90分:約7.7万円
- 90分超:約21万円
成約1組の粗利を仮に90万円とすると、90分超でも成約1組あたり21万円で、粗利は上回ります。つまり、この数字だけ見ると「全部の帯で黒字だから、全部配信すればいい」という結論になります。
ここで止まると、多くの運用はそうなっています。でも、僕はこの比べ方には1つ抜けがあると思っています。
抜けているのは、見学枠の数です
式場の見学枠は有限です。ブライダルフェアや個別見学の枠は、土日の午前と午後に集中します。人気の時間帯は、広告を増やさなくても埋まります。埋まっているところに、さらに遠い二人を呼ぶと、近い二人がその枠を取れなくなります。
そこで、比べる単位を「来館1組あたりの粗利」から「見学枠1つあたりの粗利」に替えます。枠が足りている日は、遠い二人を呼んでも誰も困りません。枠が足りない日は、遠い二人を呼ぶことが、近い二人を断ることと同じ意味になります。
仮の数字で、来館1組あたりの粗利(成約率×粗利90万円)を並べてみます。
| 移動時間 | 来館1組あたりの粗利(仮) |
|---|---|
| 30分以内 | 約34万円 |
| 30〜60分 | 約31万円 |
| 60〜90分 | 約23万円 |
| 90分超 | 約15万円 |
枠が余っている日は、どの帯の二人が来ても、この粗利から広告費を引いた分だけ増えます。枠が埋まる日は、1つの枠に90分超の二人が入ると、30分以内の二人が入った場合に比べて、約19万円分の粗利を失う計算です。広告費の差まで足すと、失うものはもう少し大きくなります。
この差は、仮の数字で作ったものです。大事なのは金額ではなく、「枠が埋まる日と、余る日で、遠い二人の価値が変わる」という構造です。
手順4:枠の埋まり方で配信を切り替える
構造が分かれば、運用は単純にできます。
- 土日の人気時間帯が、2週間先まで埋まっている:30分以内と30〜60分の帯だけに配信する。60分より遠い帯は止める
- 平日や、土日でも午後の遅い枠が空いている:60〜90分の帯まで広げる
- 閑散期で、どの枠も半分以上空いている:90分超の帯にも配信する。ただし、遠方向けの案内を添える(後述)
配信の切り替えは、管理画面のエリア設定を週に1回見直すくらいで足ります。毎日触る必要はありません。見学枠の埋まり具合を、運用担当と予約担当が週に1回共有する時間を作る、というほうが本当の作業です。
この分担は、広告会社に任せきりにしていると崩れます。広告会社は予約数や来館数で評価されるので、枠が埋まっていても「配信を絞ろう」とは言いにくい。枠の状況を知っているのは式場側ですから、式場から「今週は60分より遠い帯を止めてください」と伝える必要があります。
遠い二人には、広告文を替える
遠い帯に配信するときは、広告文と、飛び先のページを近い二人向けと分けます。近い二人に響く文言は「駅から徒歩5分」「いつでも見学できます」のような身軽さです。遠い二人には、この言葉は刺さりません。遠い二人が気にするのは、来る手間に見合うかどうかです。
遠い帯向けには、たとえば次のような中身を置きます。
- 見学と試食と打ち合わせを1日で終えられる日程があること
- 駅からの送迎や、駐車場の台数
- 来館が1回で済む場合の進め方(オンライン相談で先に見積もりを出す、など)
こうした案内が無いまま遠い二人を呼んでも、予約フォームまでは来るのに、日程の調整で離脱します。これは広告の問題ではなく、受け皿の問題です。受け皿を整えずに配信だけ広げると、帯の中の成約率が仮の数字よりさらに下がります。
自分の台帳で確かめるときの注意
最後に、台帳で数字を出すときに間違えやすい点を書いておきます。
1つ目は、サンプルの少なさです。90分超の帯は、年間24組のような小さい数字になりがちです。成約が4組か6組かで、成約率は17%にも25%にも動きます。1年分で足りなければ、2年分を使います。それでも少ないときは、帯を60分超で1つにまとめます。
2つ目は、住所が現住所とは限らないことです。実家のそばで挙げたい二人は、現住所は遠いのに、実家は会場の近くにあります。このタイプの二人は、遠い帯に入っていても成約率が高く出ます。予約フォームで「現住所」と「実家の所在地」を分けて聞いていない式場は、遠い帯の成約率を読み違えるかもしれません。分けて聞けないなら、遠い帯の数字は参考程度に見ます。
3つ目は、広告以外の流入が混じることです。口コミや紹介、媒体掲載から来た二人も、同じ来館簿に載っています。広告のエリアを決めたいのに、広告以外の経路で来た二人まで集計に入れると、広告の効きが分からなくなります。来館簿に「どこで知ったか」の欄があるなら、広告経由だけで並べ直します。
まとめ
- 配信エリアを「半径〇km」で決めると、近くても来ない二人を含み、遠くても来る二人を外す
- 来館簿の市区町村を、移動時間の帯(30分以内、30〜60分、60〜90分、90分超)に並べ直す
- 帯ごとに来館数と成約率を出す。住所は市区町村までで足り、個人の住所を共有する必要はない
- 来館1組あたりで比べると、遠い帯も黒字に見える。見学枠が埋まる日は、遠い二人が近い二人の枠を取る
- 枠が埋まる週は近い帯だけ、空く週は遠い帯まで広げる。切り替えは週1回の見直しで足りる
- 遠い帯には、1日で済む日程や送迎など、来る手間に見合う案内を添える。受け皿が無ければ配信を広げても成約率が下がる
- この記事の数字はすべて仮置き。自分の台帳で帯ごとの成約率の差を出すところから始める
