式場の内金は閉館したら戻るのか|預かる側が決めておくこと
式場が契約時に預かる内金は、その式場が閉館したら二人に戻るのでしょうか。経営者の側から見ると、あまり考えたくない問いです。ただ、結婚式は契約から挙式まで数か月から1年以上あることが多いです。その間、式場は二人のお金を預かったまま営業しています。式場が続く前提でしか内金の扱いを決めていないと、続かなかったときに困るのは二人であり、最初に電話を受けるのは現場のプランナーです。
この記事では、前払いで預かるお金を法律がどう守っているかを確認し、式場が自分の預かり残高を数え、閉館に備えて先に決めておくことを整理します。法律の部分は自治体の消費者向け資料と報道に沿っています。預かり残高や件数の数字は、構造を見るための僕の仮置きで、実在の式場の実績ではありません。個別の契約の判断は、弁護士や消費生活センターに確認してください。
預かっているお金は、名前より性質で分ける
式場の契約書には、申込金、予約金、内金、中間金、残金といった言葉が並びます。呼び方は式場ごとに違います。戻るかどうかを考えるときは、名前ではなく、次の2つの性質で見ます。
- 挙式という役務の対価の前払いなのか、キャンセル料に充てる預かり金なのか
- 契約が成立したあとに払うものなのか、成立前に仮押さえとして払うものなのか
内金は多くの式場で、契約時に払う対価の前払いの一部です。挙式が行われれば、そのまま代金に充当されます。ここまでは当たり前のことです。ただ、挙式が行われなかったとき、つまり二人がキャンセルしたときと、式場が営業を続けられなくなったときでは、扱いが別の話になります。
二人がキャンセルした場合は、契約書のキャンセル料の規定で決まります。式場が続けられなくなった場合は、式場が役務を提供できないので、二人は払った分の返還を求める立場になります。ただし式場が破産手続に入れば、二人は債権者の一人として手続の中で扱われます。契約書の文言ではなく、式場の財産がどれだけ残っているかで、戻る額が決まります。この点は、式場の側から見ると見えにくい部分です。
割賦販売法が守っているのは、互助会のような前払式特定取引
前払いで預けたお金を守る仕組みとして、割賦販売法があります。宮城県の消費者向けの説明では、消費者が商品の引渡しやサービスの提供を受ける前に代金を支払う取引を「前払式取引」と呼びます。その間に事業者の経営が悪化して倒産すると、消費者は思わぬ損害を受けるおそれがあります。
そこで割賦販売法は、前払式特定取引を行う事業者に、次のことを求めています。
- 一定の資力と信用力のある法人だけが行えるように、許可制にする
- 消費者からの預かり金の半分に相当する額を保全する義務を課す
- 万一のときでも、半分程度は返金が受けられるようにする
宮城県の同じ説明は、前払式特定取引の代表例として、百貨店などの友の会と、冠婚葬祭互助会を挙げています。互助会は、結婚式や葬式の役務の提供または取次ぎを行うもので、月々の掛金を積み立てる形をとります。
ここで線を引いておきます。この法律が守っているのは、掛金を積み立てる前払式特定取引です。式場が契約時に内金を預かり、残りを挙式の前後に受け取る一般的な結婚式の契約が、同じ許可と保全の対象になるのか。僕が確認できた資料の範囲では、それを示す記述を見つけられていません。ですから、この記事では次の前提で考えます。
内金を預かる式場は、互助会のような法律上の保全を前提にできない。守るかどうかは、式場が自分で決める
この前提が正しいかどうかは、式場の契約形態や取引の仕組みで変わりえます。気になる式場は、顧問の弁護士や所管の窓口に、自社の契約が前払式特定取引にあたるかどうかを確かめてください。確かめた結果、あたるならこの記事の多くは不要になります。あたらないなら、以降の話が自社の問題になります。
閉館は、特別な話ではない
式場の破産や閉館は、遠い話に見えるかもしれません。ただ、報道されている事例はあります。東京商工リサーチの情報によると、「ブリリアント」ブランドの結婚式場を運営するBrilliaは、2017年3月8日に東京地裁に破産を申請し、同日に破産開始決定を受けました。負債額は約50億円で、同時に破産開始決定を受けた関連会社3社と合わせた4社の負債見込みは約100億円です。
同じ報道によると、Brilliaは東京、名古屋、栃木などでも式場を運営し、関連会社の分も含めて全国8か所で展開していました。2016年8月期には過去最高の約65億1600万円を売り上げています。売り上げを8か所で単純に割ると、1か所あたり約8億円です。業績は拡大の方向にあり、2017年にも関西で新規開業を予定していました。事業拡大に伴う設備投資で資金繰りが悪化し、一部の店舗を他社に譲渡したうえでの破産でした。
この事例から読み取れることは、2つあります。
- 売り上げが過去最高でも、設備投資と資金繰りの組み合わせで、式場は止まる
- 拡大の途中に止まるので、その時点で契約済みの二人が多い
売り上げが落ちて静かに閉じる式場より、伸びている最中に止まる式場のほうが、預かり残高は大きくなりやすい。これは僕の見立てですが、構造としてはそうなります。契約が増えている会場ほど、挙式前の二人が多く、預かり残高が厚いからです。
預かり残高を、仮の前提で数える
自社の預かり残高を、一度数えてみてください。ここでは仮の前提で計算します。実在の式場の数字ではなく、構造を見るためのモデルです。
- 年間の挙式は150組
- 契約から挙式までの平均は10か月
- 契約時に預かる内金は1組30万円
- 1組あたりの平均単価は350万円
1年間に契約する組数は、挙式の組数と同じ150組とします。契約してから挙式までの平均が10か月ですから、ある時点で内金を預かったままの組数は、150組×10か月÷12か月で、平均125組です。預かり残高は、125組×30万円で、3,750万円になります。
もし契約から挙式まで平均12か月なら、同じ計算で150組、4,500万円です。契約から挙式までが長い式場ほど、預かり残高は積み上がります。
年間の売り上げを150組×350万円で5億2,500万円とすると、内金は1組あたり単価の約8.6%です。8.6%の預かりを、式場は常に抱えていることになります。年間売り上げに対して預かり残高が占める割合は、3,750万円÷5億2,500万円で、約7.1%です。
数字としては小さく見えます。ただ、閉館したときに困るのは二人の側です。125組の二人が、それぞれ30万円を失うおそれがあります。一組ずつの金額は大きくなくても、同じ日に125組が同じ式場に連絡を取ります。そのうえ、内金のほかに中間金を払っていれば、損失はその分だけ増えます。
もう一つ、式場の側から見える数字があります。この預かり残高を、日々の運転資金に使っているかどうかです。内金は入金されたとき、会計上は前受金です。しかし現金は口座に入っています。給与や仕入れの支払いに回していれば、閉館の直前には、預かり残高分の現金は残っていません。預かり残高と現金残高を並べて見たことがある経営者は、意外と少ないのではないでしょうか。
閉館のとき、二人が困る3つのこと
式場が止まったとき、二人が困ることは3つに分かれます。
1つ目は、お金が戻るかどうかです。これまで見たとおり、破産手続の中では、戻る額は式場の財産次第です。
2つ目は、挙式の日をどうするかです。挙式日まで半年を切っていれば、新しい会場を探すこと自体が難しくなります。人気の日取りは、他の式場でも埋まっています。前の式場に払った内金は戻らないか、戻っても時間がかかるので、新しい会場に払うお金も二重にかかります。
3つ目は、招待客への連絡です。招待状をすでに出していれば、日取りや会場の変更を伝え直す手間が出ます。ここは式場のお金の話ではありませんが、二人の負担としては大きい部分です。
この3つのうち、式場が事前に手を打てるのは、1つ目と2つ目です。
式場が先に決めておく5つのこと
閉館の可能性は、ゼロではありません。ただ、考えたくないことを考える必要はあっても、悲観する必要はありません。次の5つは、営業を続けている間に決めておけることです。
1. 内金を、別口座で管理するかを決める
預かり残高を、運転資金の口座と分けるかどうかです。分ければ、閉館の直前でも、預かりの分の現金は手元に残ります。分けない場合も、預かり残高と現金残高を、毎月並べて見る習慣は作れます。
先ほどの仮の前提で、互助会の保全の考え方を借りて、預かり残高の半分を別口座に置くとします。3,750万円の半分で、1,875万円です。契約が月に12.5組ほど入る式場なら、毎月の内金は375万円です。その半分の約190万円ずつを別口座に移すのが、毎月の作業になります。運転資金への影響は、年間売り上げ5億2,500万円に対して、1,875万円分の拘束です。資金繰りの余裕と相談して、割合を決めます。
2. 契約書の返還の規定を、閉館の場合まで書く
多くの契約書は、二人からのキャンセルの規定はあります。ただ、式場の側の事情で挙式ができなくなった場合の規定は、薄いことがあります。式場の都合で挙式ができなくなったときに、内金をどうするのか。返還するのか、他の式場への引き継ぎに充てるのか。ここを契約書に書いておくと、二人にとっての見通しが立ちます。
契約書の文言は、法律の専門家に確認してから変えてください。ここで言いたいのは、規定が無いより、あるほうが二人も式場も動けるということです。
3. 引き継ぎ先の式場を、あらかじめ話しておく
挙式の日が決まっている二人に、同じ日に別の会場を用意できるかどうか。これは、近隣の式場や、同じ法人のグループの式場と、事前に話しておけるかどうかで決まります。
ここで、引き継ぎ先に出る負担を数えます。先ほどの仮の前提で、125組が内金を払ったまま引き継ぎ先に移るとします。引き継ぎ先が、前の式場に払った内金の分を値引きして受け入れるなら、1組30万円で、125組なら3,750万円の負担です。単独の式場が引き受けられる額ではありません。複数の式場で分け合うか、引き継ぎ先の受け入れ件数に上限を決めるかになります。
これは、自社だけで決められる話ではないので、業界団体や近隣の式場との関係が土台になります。ただ、一社だけの努力で足りる話ではないことは、数字を見れば分かります。
4. 内金の額を、預かりの重さとして見直す
内金が30万円から10万円に下がれば、預かり残高は3分の1の1,250万円になります。閉館のときの二人の損失も、3分の1です。
一方で、内金が下がると、二人が契約をやめるときの心理的なハードルは下がります。キャンセルが増えるかもしれません。キャンセル料の規定は、挙式までの時期ごとに段階的に決めている式場が多いので、内金とは別に設計できます。内金の額は、成約を安定させる役目と、閉館の損失を重くする役目の両方を持っています。どちらを重く見るかは、式場の経営判断です。
僕の感覚では、内金の額は、閉館の損失を考えて決めている式場は、ほとんど無いと思います。成約率やキャンセル率で決めています。そこに、閉館のときの損失という物差しを一つ足すだけでも、判断は変わります。
5. 閉館の可能性があるときの、連絡の順番を決める
営業を続けられるかどうかが分からなくなったとき、誰に何を最初に伝えるか。契約済みの二人、提携先のドレスや写真の業者、従業員のどれを先にするかは、状況によって変わります。ただ、順番が決まっていないと、最初の連絡が遅れます。
二人への連絡が遅れるほど、二人が新しい会場を探す時間は減ります。できる限り早く、ただし事実を確かめてから、連絡する。この順番を、社内で一度決めておくと、現場が迷いません。
数字の見方
この記事の計算は、すべて仮の前提です。自社に当てはめるときは、次の3つを入れ替えてください。
- 年間の挙式組数
- 契約から挙式までの平均の月数
- 契約時に預かる内金の額
この3つが分かれば、預かり残高は、年間組数×月数÷12×内金で求まります。式場の会計の前受金の残高と照らし合わせると、仮の計算と実際のずれも見えます。前受金に、中間金や残金の一部まで含まれているなら、実際の預かり残高は仮の計算より大きくなります。
まとめ
- 式場が契約時に預かる内金は、式場が続く前提でなければ、戻るとは限らない。破産手続の中では、二人は債権者の一人になる
- 割賦販売法が預かり金の半分の保全を求めているのは、互助会などの前払式特定取引。一般の式場の契約が同じ対象かは、僕の確認した範囲では示す資料が見つからず、確かめるのは各社の宿題
- 報道されたBrilliaの破産は、2016年8月期に過去最高の売り上げでも、設備投資と資金繰りで止まった例。伸びている最中に止まる式場ほど、契約済みの二人は多い
- 預かり残高は、年間組数×契約から挙式までの月数÷12×内金で数えられる。仮の前提では3,750万円で、運転資金に使っていれば、閉館の直前には現金が残っていない
- 式場が先に決めておけるのは、別口座の管理、契約書の返還規定、引き継ぎ先の話、内金の額の見直し、連絡の順番の5つ
- 内金は、成約を安定させるお金であると同時に、閉館のときの二人の損失を決めるお金でもある
