親の「結婚・子育て資金の一括贈与」は2027年3月末が期限。結婚の枠は300万円で、式場の領収書の出し方が二人の払い出しを左右する
見学の席で、二人の片方がこう言います。「親が結婚の費用を出してくれるんですが、銀行の手続きがあるみたいで」。このとき、プランナーが「領収書はお出しできます」で止まるのか、「どの形の領収書が必要か、先に銀行で確かめてもらえますか」まで言えるのか。この記事は、その差がどこから生まれるのかを書きます。
話の中心は、親や祖父母が子や孫にまとまったお金を渡すときの非課税制度です。正式には「直系尊属から結婚・子育て資金の一括贈与を受けた場合の非課税」といいます。結婚式に使える親の援助として、いま二人の頭の中に浮かびやすい制度の1つだと僕は見ています。ただ、この制度は渡して終わりではなく、使うたびに領収書を金融機関に出す仕組みです。つまり式場が出す書類が、二人の手元にお金が出てくるかどうかに関わります。
先に断っておくと、制度の細かい扱いは金融機関ごとに違います。この記事で事実として書くのは、国税庁と信託協会の資料で確認できた範囲です。式場の件数や割合、手間の時間は、僕が置いた仮の値です。
制度の中身:確認できたこと
国税庁のタックスアンサー(No.4511)で確認できたのは、次の点です。
- 対象は、平成27年4月1日から令和9年(2027年)3月31日までの間に、信託受益権や金銭などを取得した場合
- 受け取る人は、契約を結ぶ日に18歳以上50歳未満
- 受け取る人の前年の合計所得金額が1,000万円を超えると、この制度は使えない
- 非課税になるのは、1,000万円まで
- 取扱金融機関の営業所を通じて、「結婚・子育て資金非課税申告書」を出す
- 契約の期間中に贈与した人が亡くなった場合や、契約が終わった場合には、相続税や贈与税がかかることがある
この制度の期限は、もともと2025年3月31日まででした。2025年度の税制改正で2年延びて、いまは2027年3月31日です。国税庁のページには、延長前の経緯までは載っていないので、ここは解説記事で見た内容です。
1,000万円の内訳として、結婚に関する費用は300万円までと言われています。信託協会の資料でも、1,000万円のうち300万円までを結婚費用に使えると案内されています。結婚費用の範囲は、挙式費用や衣装代などの婚礼費用、新居の家賃や敷金、引っ越し費用が対象と説明する解説が多く、顔合わせや結納の費用、指輪、エステ、新婚旅行は対象外と書かれています。ただし、国税庁のページにはこの範囲が載っていなかったので、実際に何が通るかは、二人が使う金融機関の案内で決まると考えたほうが安全です。
払い出しの流れも、信託協会の資料に出ています。二人は信託銀行に払い出しを請求するとき、結婚・子育て資金にあてたことが分かる領収書等を出します。信託銀行がその領収書を確認して、払い出しをします。
この流れから、式場が知っておくべき性質は3つです。
- 親から二人の口座にお金が入るのではなく、二人が先に使った分を、領収書を出して後から払い出す
- 領収書が出せなければ、その分は払い出せない
- 結婚の枠は300万円までで、超えた分は二人が別の手元資金で払う
3つめは、見積もりの総額との関係で効いてきます。マイナビウエディングの「結婚・結婚式の実態調査2026」では、結婚式の総額は平均326.1万円でした。総額に対して300万円は9割強で、挙式と披露宴だけならほぼ枠に収まる大きさです。一方で、衣装や新居、引っ越しまで同じ枠で払うと、すぐに足りなくなります。
使われているのは、どれくらいか
利用がどれくらい広がっているかは、信託協会の集計を引いた記事で確認できます。令和2年3月末時点の累計の契約数は6,959件、信託財産の設定額は203億円。別のサイトでは、令和5年3月末時点で契約件数が7,591件、設定額が約236億円と紹介されています。同じ時期の教育資金の制度は26万2,159件でした。どちらも二次情報なので、信託協会の原資料で確かめたい数字です。
ここから分かるのは、結婚・子育て資金の制度が、教育資金に比べるとずっと小さいことです。この数字は、結婚だけでなく子育て分も合わせた累計の契約数なので、結婚式に使った二人はさらに少ないはずです。累計7,591件を、年に直すと何組か、という計算はしません。契約が何年にわたる累計なのか、僕が確認できていないからです。
だから式場の側では、年に何組来るかを数字で言い切れません。そこで、この先は仮の式場で、利用が1年に何組あるかを動かして計算します。
仮の式場で、領収書にかかる手間を計算する
前提を置きます。すべて仮の値です。
- 年に120組が契約する式場
- 制度を使う二人の割合は、0.5%、1%、2%、5%の4つを見る
- 領収書を、金融機関が求める形に整える手間は、1組あたり1.5時間
- その時間の人件費は、1時間2,500円
利用する二人は、割合が低いほど少なくなります。
| 利用する二人の割合 | 年の組数 | 領収書の手間 | 人件費 |
|---|---|---|---|
| 0.5% | 0.6組 | 0.9時間 | 約2,250円 |
| 1% | 1.2組 | 1.8時間 | 約4,500円 |
| 2% | 2.4組 | 3.6時間 | 約9,000円 |
| 5% | 6.0組 | 9.0時間 | 約22,500円 |
5%でも年に約2万円で、1%ならほぼ数千円です。領収書を整える手間は、費用として見ると小さな金額です。「うちには関係ない」と放っておくか、「ちゃんと対応する」と決めるか。決めるのにお金はほとんど要らない、というのが最初の結論です。
では、何が問題になるのでしょうか。僕は、手間の大きさより、二人の側で何度も払い出しが起きることだと考えています。
結婚式の費用は、1回で払い終わるわけではありません。内金、中間金、残金のように、何回かに分けて払う式場が多いからです。仮に3回払いとすると、二人は3回、領収書を信託銀行に出して払い出しを請求することになります。領収書が1枚で済む式場と、3枚になる式場では、二人の手間が3倍になります。親から見れば、「手続きが面倒な式場」に映るかもしれません。
ここで、式場が決められる線が3つ出てきます。
- 領収書の宛名を、二人のどちらにするか。制度を使う二人は、受け取った本人名義のほうが通りやすいはずですが、これは金融機関ごとに確認が要ります
- 領収書の但し書きに、婚礼の費用だと分かる書き方をするか。「お品代」だけでは、何に使ったか分からない可能性があります
- 領収書を、支払いのたびに出すか、まとめて最後に出すか。まとめると二人の手間は減りますが、先に払った分が長く払い出せません
この3つのうち、どれが正解かは僕には言い切れません。金融機関によって、受け付ける書類の形が違うからです。式場にできるのは、見学や契約の席で、「親御さんが制度を使うなら、使う金融機関に領収書の形を先に聞いてもらえますか」と1つ質問することだと思います。これなら、式場が間違った書き方を断定する危険がありません。
契約日で変わる期限の分かれ目
もう1つ、時間の問題があります。制度の期限は2027年3月31日です。この日までに、二人が金融機関と契約を結んで、親からの資金を預け入れる必要があります。いまから期限までは、164日です。
解説記事では、期限内に口座を開設して資金を預け入れていれば、払い出しは期限のあとでもよいと説明されています。つまり、期限があるのは預け入れで、払い出しは挙式の日に近い時期でもかまわない、という整理です。ここは国税庁のページでは確認できなかったので、断定せず、二人の金融機関に確かめてもらうのが前提です。
この整理が正しいとすると、式場の契約日と挙式日の関係で、二人の動き方が変わります。契約を2026年10月18日に結んだとして、挙式までの期間を仮に6か月、10か月、14か月とします。
- 6か月:挙式は2027年4月。預け入れの期限(2027年3月31日)の直後で、契約から預け入れまで、ほぼ半年しかない
- 10か月:挙式は2027年8月。期限のあとに挙式が来るので、預け入れを先にして、払い出しを挙式の時期に回す
- 14か月:挙式は2027年12月。同じく期限のあと。内金から残金まで、払い出しが2027年内に分かれる
どの場合でも、預け入れを3月31日までに済ませる必要があります。期限が近づくほど、二人は金融機関への相談を急ぎます。契約を3月に結ぶ二人は、契約と同時に銀行へ走らなければなりません。
だから、期限の直前に契約を迷っている二人には、式場のほうから「制度を使うなら、3月末までに預け入れが必要なので、先に銀行へ行く日を決めておいてください」と伝えたほうが親切です。これは、二人の判断を後押しする話ではなく、期限を知らずに制度を逃す二人を減らす話です。
上乗せの効果は、仮に計算しても小さい
最後に、収益の側を見ます。制度を使う二人は、親から枠の分だけ使える資金があるので、予算が上がるのではないか、と考える人もいると思います。
ここは確認できた数字がありません。そこで仮の計算です。制度を使う二人が、見積もりを20万円、30万円、50万円ずつ上乗せすると仮定します。粗利率は40%、利用する二人の割合は1%と2%の場合を見ます。
- 上乗せ20万円:1%で年9.6万円、2%で年19.2万円
- 上乗せ30万円:1%で年14.4万円、2%で年28.8万円
- 上乗せ50万円:1%で年24.0万円、2%で年48.0万円
仮に2%の組が50万円ずつ上乗せしても、年の粗利は48万円です。領収書の手間は最大でも年2万円台なので、手間に比べれば得ですが、この制度を目当てに集客を変えるほどの金額ではありません。
また、この計算は上乗せが起きると仮定した場合の値です。実際に上乗せが起きるかどうかは、僕は確認できていません。親が資金を出すと、二人が予算の上限を上げるのか、それとも自己資金を温存するだけなのか。ここは式場ごとの数字を見ないと分からないところです。
式場が決めることは、3つに絞れる
ここまでを式場の運営に引き寄せると、決めることは次の3つです。
- 見学や契約の席で、制度を使う親がいるかどうかを聞くか。聞くなら、費用の話の流れで1つだけ
- 領収書を、どの宛名・どの但し書きで、何回に分けて出すかを、あらかじめ決めておくか
- 期限の2027年3月31日が近づく時期に、契約する二人へ伝える一文を用意しておくか
どれも費用はほとんどかかりません。かかるのは、プランナーが「聞かれたら答える」から「聞かれる前に1つ置く」に変える手間です。
この制度は、使う二人が少ないぶん、使う二人には強く効きます。累計7,591件という規模は、全体から見れば小さくても、使う二人にとっては、親の300万円が使えるかどうかの話です。そのときに、式場の領収書が足を引っ張らないこと。守るのは、売上の上乗せではなく、契約後の「思っていたのと違う」を1つ減らすことです。
まとめ
- 結婚・子育て資金の一括贈与は、期限が2027年3月31日。非課税は1,000万円まで、結婚費用は300万円まで
- 二人は先に払い、領収書を金融機関に出して払い出す。式場の領収書が出せなければ、その分は払い出せない
- 累計の契約数は7,591件(令和5年3月末、二次情報)。教育資金の26万件に比べて小さいが、使う二人には強く効く
- 仮の式場で領収書を整える手間は、利用が5%でも年約2万円。費用より、3回払いで3回の払い出しになる二人の手間のほうが重い
- 領収書の宛名・但し書き・出す回数は、金融機関ごとに違う。式場は断定せず、「先に金融機関に聞いてもらう」質問を1つ置く
- 期限は預け入れの側にある。契約が3月に近い二人には、先に銀行へ行く日を決めてもらう
- 上乗せ効果は仮に年48万円まで。制度を目当てに集客を変える金額ではなく、守るのは契約後の「聞いてない」だ
