結婚新生活支援事業は、結婚式の費用には使えない。二人の手元では新居の先払いと式場の内金が同じ月に重なる
契約の日、二人が内金の話で少し黙る。「引っ越しの費用もあるので、もう少し先でもいいですか」。そう言われたとき、プランナーが返せる答えを式場が決めているかどうか。この記事は、その手前にある制度の話から始めます。
自治体が出している「結婚新生活支援事業」という補助金があります。新婚の二人が新居を借りたり引っ越したりするときの費用に、最大で30万円、年齢によっては60万円が出る制度です。結婚を応援する制度なので、結婚式にも使えると思っている二人は少なくないのではないか、と僕は見ています。結論から書くと、結婚式の費用は対象外です。しかも補助金は、先に自分で払ってから申請して、約1か月後に入る後払いです。
つまり二人の手元では、新居のために払う分と、式場に払う分が、同じ時期に重なります。補助が増やしてくれるのは、あとで戻ってくる現金であって、式場の予算ではありません。この記事では、制度の中身を自治体のページで確認したうえで、仮の二人を置いて支払いの重なりを計算します。そのうえで、式場が見学や契約で何を聞けばいいか、内金の期限を動かすならいくらの手間で済むかを整理します。
先に断っておくと、制度の条件は自治体ごとに違います。この記事で事実として書くのは、横須賀市と浜松市、仙台市の公式ページに載っていた内容だけです。計算に出てくる家賃や引っ越し代、割合は、僕が置いた仮の値です。
制度の中身:横須賀市と浜松市のページで確認したこと
結婚新生活支援事業は、国(こども家庭庁)の交付金を使って、市区町村が実施する補助金です。実施するかどうか、上限はいくらか、年齢や期間をどう切るかは、自治体が決めます。2026年10月時点で、僕が公式ページを読んだのは次の2市です。
横須賀市のページでは、対象経費は「住宅賃貸費」「引越し費」「住宅取得費」「リフォーム費」で、結婚式費用は含まれていません。住宅賃貸費の中身は、賃料、敷金、礼金、共益費、管理費、仲介手数料です。上限は、婚姻日の年齢が二人とも29歳以下なら60万円、39歳以下なら30万円、49歳以下なら20万円。二人の所得の合計が500万円未満であることも条件です。
浜松市のページも、対象は住宅の取得、リフォーム、賃貸(敷金、礼金、仲介手数料を含む)と引っ越し費用で、結婚式の費用は入っていません。上限は、二人とも29歳以下なら60万円、39歳以下なら30万円。年齢は婚姻日で見ます。二人の合計所得が500万円未満という条件は、横須賀市と同じでした。
横須賀市のページでは、一律に上限額が出るわけではないと読めます。実際に払った対象経費が上限より少なければ、その額までです。ここが、あとの計算で効いてきます。
期間の切り方は、2市で違います。横須賀市は、婚姻届の受理日が2026年1月1日から2027年2月25日まで、対象の支払いは2026年4月から2027年2月25日までです。申請の受付も2027年2月25日までで、交付は申請から約1か月後です。浜松市は、婚姻が2026年1月1日から12月31日まで、対象の支払いは2026年4月1日から2027年1月31日までで、申請は9月1日から2027年1月29日まで。予算がなくなり次第終了で、予約が要ります。交付は申請から約1.5か月後です。
もう1つ、2026年度に変わった点があります。横須賀市は、2026年4月1日以降の申請から、指定の講座の動画視聴か、相談・受診が申請の要件に加わったと書いています。39歳以下の夫婦は必須です。仙台市も、今年度から夫婦ともに市の指定する講座の受講が要件に加わったと案内しています。浜松市のページにも、2026年度の講座の要件が載っていました。
整理すると、この補助金は、次の4つの性質を持っています。
- 結婚式の費用には使えない(確認した2市)
- 先に払ってから申請する。交付は約1〜1.5か月後
- 婚姻日の年齢、合計所得、婚姻日の期間で、使える二人が絞られる
- 講座の受講が先に要る。予算が尽きれば早く終わることもある
仮の二人の支払いを並べる
では、補助を使う二人の手元の動きを見てみます。前提は次のとおりです。すべて仮の値です。
- 新居の家賃:月9万円
- 敷金1か月、礼金1か月、仲介手数料は家賃1か月分に税を足した9.9万円
- 初月の家賃9万円
- 引っ越し代:8万円
- 補助の上限:30万円(二人とも39歳以下)
- 式場の内金:30万円
賃料にあたる分を合わせると、敷金9万円、礼金9万円、仲介手数料9.9万円、初月の家賃9万円で、36.9万円です。引っ越し代8万円を足すと、新居の費用は44.9万円。上限30万円より多いので、補助は30万円満額です。二人の実質の負担は14.9万円になります。
ここまでは、制度の説明にもよく出てくる計算です。式場に関わるのは、次の見え方です。
入居の月に、二人は新居に44.9万円を先に払います。同じ月に式場の内金30万円が来ると、手元から出ていく現金は74.9万円です。補助の30万円が入るのは、申請をして、書類が整ってから約1か月後。戻ったあとの負担は44.9万円で、ピークとの差は30万円です。
つまり、二人が見ている「補助のおかげで負担が軽くなる額」は14.9万円でも、資金繰りの山は74.9万円まで上がります。内金の請求が山の上に乗ると、二人は「もう少し先でもいいですか」と言いたくなります。式場から見ると、その一言は、契約を後ろにずらす理由か、他の会場に流れる理由に変わりえます。
なお、初月の家賃を補助の対象にできるかどうかは、自治体や名目で扱いが違うかもしれません。ここでは賃料にあたるものとして数えました。自分の商圏の市のページで、対象経費の書き方を確かめてください。
補助を受けられる二人は、どれくらいいるのか
補助を使える二人は、式場の来館者のうち一部です。婚姻日の年齢が39歳以下で、合計所得が500万円未満で、実施している自治体に住んでいて、申請の期間に合う二人だけだからです。
この割合は、僕は出典を持っていません。仮に、年120組の式場で2割の二人が条件に合うとすると、24組です。1割なら12組、3割なら36組です。商圏の市が実施していなければ、ゼロになります。
数字を置かずに言えるのは、次のことです。補助を使える二人が来館者の中にいる確率は、自治体によって全く違います。同じ県内でも、実施している市と実施していない市があります。したがって、全員に補助の話をするのは筋が悪く、「聞いて、当てはまる二人にだけ使う」のが妥当です。
見学で聞く2つの質問
補助の有無を式場が把握する方法は、二人に聞くことです。ただ、「補助金を使いますか」と聞くと、二人は構えます。制度の窓口は自治体であり、式場が申請の可否を判断する立場ではありません。式場が聞いてよいのは、日程と資金の都合に関わる、次の2つだと僕は考えています。
1つ目は、入籍の予定日です。補助の対象になるかは婚姻日で決まります。横須賀市は2026年1月1日から2027年2月25日、浜松市は2026年の1年間と、市によって区切りが違います。入籍日が区切りの外にずれると、二人は補助を使えなくなります。挙式の日取りを決める前に、入籍をいつにするかを二人が決めていることは、多いはずです。聞いておけば、挙式日の候補が入籍の前後どちらかを知れます。
2つ目は、新居の入居時期です。入居月は、二人の現金が一番出ていく月です。たとえば「4月入居、挙式は9月」の二人なら、契約が1月でも2月でも、内金は新居の費用よりかなり前に払い終えています。「入居と契約が同じ月」の二人にだけ、内金の期限の相談が出てきます。
この2つは、補助の話をしなくても聞けます。入籍日は挙式日の相談の一部ですし、入居時期は、新居の下見や荷物の運び入れの都合として、打合せの日程にも関わります。式場は、補助金の使い方を教える側に回らず、二人の都合を知るだけで十分です。
内金の期限を動かす場合の損益分岐
次に、入居と契約が同じ月の二人に限って、内金の期限を契約日から45日後まで延ばす運用を考えます。補助が入るのを待てるように、猶予をつけるイメージです。申込金は契約日に受け取ったまま、内金だけ後ろにずらします。
猶予を認めると、式場の手間は、請求日の管理と入金の確認です。仮に1組あたり15分、人件費は1時間2,500円とします。猶予を使うのが、先ほどの24組全員だとしても、手間は次のとおりです。
24組 × 0.25時間 × 2,500円 = 15,000円
年間で1.5万円です。猶予で成約が増える分を、1組の粗利を仮に140万円として換算すると、次の式になります。
15,000円 ÷ 1,400,000円 = 約0.011組
つまり、猶予の運用が元を取るために必要なのは、約90年に1組の成約の増加です。手間だけを見ると、損益は誤差の範囲にあります。
ただし、この計算は手間しか見ていません。猶予には別のリスクが残ります。内金が入るまでの45日間に、二人が契約を取りやめたら、式場は内金を受け取れていない状態で解約を受けることになります。その場合に、受け取れなかった内金分をどう扱うかは、契約書の書き方しだいです。
猶予を設計するなら、次の3つを先に決めておくのがよいと思います。
- 猶予を認める条件:入居月と契約月が同じ、など、二人の都合が確認できる場合に限る
- 猶予の長さ:補助の交付が約1〜1.5か月後なので、45日が上限の目安。それ以上は他の支払いのずれと区別がつかなくなる
- 猶予中の解約の扱い:契約書にキャンセル料の起算日を書いておく
猶予は、全員に出さなくても構いません。入居の都合を聞いた二人にだけ、「内金は45日後まででも大丈夫です」と言える状態にしておくだけで、「もう少し先でもいいですか」への答えが決まります。
補助を前提にした提案はしない
最後に、避けたほうがいいことを1つ書きます。補助金が出る前提で、見積もりや提案の金額を組まないことです。
理由は3つあります。1つ目に、制度の対象は結婚式の費用ではありません。2つ目に、補助が使えるかどうかは、二人の年齢と所得、住んでいる市、申請の時期で決まり、式場には確かめようがありません。3つ目に、予算がなくなり次第終了する自治体があります。浜松市のページがそうです。使えると思って契約した二人が、申請の時期に間に合わなかったら、式場の提案の一部だったかのように「聞いてない」が残ります。
制度の案内は、「新生活の補助金を出している市があるので、市のページを見てみてください」程度が限度です。式場の見積もりに、補助の額を書き込む場面は想定しません。
まとめ
- 結婚新生活支援事業は、僕が確認した横須賀市と浜松市のページで、結婚式の費用は対象外だった。対象は新居の賃貸や購入、リフォーム、引っ越し
- 補助は先に払ってから申請する後払いで、交付は申請から約1〜1.5か月後。婚姻日の年齢、合計所得500万円未満、婚姻日の期間で対象が絞られる
- 仮の二人(家賃9万円)では、新居の費用が44.9万円、補助は上限30万円。内金30万円が同じ月に来ると、手元の現金の山は74.9万円になる
- 式場が見学で聞いてよいのは、入籍の予定日と、新居の入居時期の2つ。補助金そのものの案内は、市のページを見てもらうところまで
- 入居と契約が同じ月の二人に限って内金を45日後まで猶予するなら、仮の式場で手間は年1.5万円。ただし猶予中の解約の扱いを契約書に先に書いておく
- 補助が出る前提で見積もりや提案を組まない。使えるかどうかは、式場には確かめられない
