業界動向

婚礼施設2件の譲渡額は3,777万円。仮の式場で回収年数を出すと、年間組数が1割減るだけで4.7年が22年になる

2026年2月、沖縄の光貴という会社が、札幌のブライダルハウスチュチュから、岡山の婚礼施設2件を3,777万2,000円で譲り受けると取締役会で決めました。契約の締結は2月27日、事業の引き継ぎは2026年4月1日の予定です。式場の事業譲渡の数字が公開されることは多くないので、この件を材料に、買う側が何を見て金額を受け入れるのかを考えてみます。

先に整理しておくと、開示されているのは譲渡額と日付、施設の名前、150名規模の施設を含むという点までです。売上も損益も、施設ごとの内訳も出ていません。だから、この記事の後半に出てくる売上や利益の数字は、すべて僕が置いた仮の数字です。実在の2施設の収益を推定したものではありません。使い道は、自分の会場や、自分が相談を受ける会場に当てはめることです。

開示されている事実と、書かれていないこと

確認できる事実は次のとおりです。

  • 譲渡額は3,777万2,000円で、現金で決済する
  • 対象は岡山県の婚礼施設「ザ・スタイル」と、「レストランSORA」の2件
  • 取締役会の決議は2026年2月20日、契約締結は2月27日、実行は4月1日の予定
  • 150名規模の大きな婚礼施設を含む。ただし、2件のうちどちらがそうなのかは書かれていない
  • 譲受の狙いとして、地方都市には堅調な需要があること、人員配置を柔軟にできること、大規模婚礼施設の運営ノウハウを取り込めることが挙げられている

書かれていないのは、売上、損益、資産の中身、施設ごとの金額です。2件で割れば1件あたり約1,889万円ですが、内訳が出ていない以上、この割り算には意味がありません。大きいほうの施設が3,000万円で、もう一方がおまけ、ということもありえます。

金額だけを見ると、「式場が3,777万円で買えるのか」という驚きが先に来ます。ただ、事業譲渡は会社まるごとの買収とは違い、買い手は欲しい事業や資産を選んで引き取ります。土地や建物を含むのか、借りて運営している施設なのか、人は誰が残るのか。それによって、同じ3,777万円でも意味が変わります。金額の大小は、それだけでは評価できません。

買い手が頭の中でやっている計算

事業を買うときの基本の計算は単純です。払う金額を、その事業が毎年生む利益で割ります。何年で元が取れるかです。

回収年数 = 譲渡額 ÷ 年間の営業利益

式場の経営に関わっていると、この割り算を「売る側」の立場でやる機会は少ないと思います。でも、買い手は必ずやっています。そして、この式で効いてくるのは分子の譲渡額よりも、分母の営業利益のほうです。分母が小さくなると、回収年数が急に伸びるからです。

営業利益は、さらに次のように分けられます。

営業利益 = 年間組数 × 1組あたりの限界利益 − 固定費

限界利益は、1組が増えるごとに増える粗利のことです。料理や衣装の原価、当日のアルバイト、媒体からの成約手数料などの変動費を引いた後に残る分です。固定費は、組数にかかわらず出ていく費用で、正社員の人件費、建物の維持費、減価償却、借りているなら家賃などです。

式場は固定費が重い業態です。組数が少し動くだけで、営業利益が大きく動きます。これを回収年数に置き換えると、どうなるか。仮の式場で見てみます。

仮の式場で計算する

前提を置きます。すべて仮の数字です。

  • 年間の成約組数は60組
  • 1組あたりの売上は300万円。変動費が65%で、限界利益は1組105万円
  • 固定費は年5,500万円
  • 譲渡額は、今回の開示額と同じ3,777万円

営業利益は、60組 × 105万円 − 5,500万円 = 800万円です。回収年数は3,777万円 ÷ 800万円で、約4.7年になります。

ここまでは、普通の事業譲渡の数字に見えます。次に、年間組数だけを動かします。ほかの前提は変えません。

年間組数 限界利益の合計 営業利益 回収年数
66組 6,930万円 1,430万円 2.6年
60組 6,300万円 800万円 4.7年
57組 5,985万円 485万円 7.8年
54組 5,670万円 170万円 22.2年
50組 5,250万円 ▲250万円 回収できない

組数が1割増えて66組になると、回収は2.6年です。1割減って54組になると、22.2年です。組数の変化は±10%なのに、回収年数は2.6年から22.2年まで、8倍以上動きます。50組まで落ちれば営業利益がマイナスになり、そもそも回収という計算が成り立ちません。

理由は、限界利益から固定費を引いた後の「残り」が小さいからです。60組で800万円残るとき、これは限界利益6,300万円の約13%です。この13%の中に、組数の振れが全部入ってきます。組数が6組減ると限界利益が630万円減り、残りの800万円から630万円が消えます。

固定費が動いても同じことが起きる

組数だけではありません。固定費を動かしても、同じ形で回収年数が崩れます。組数は60組のまま、固定費だけを変えます。

  • 固定費が5,000万円なら、営業利益は1,300万円で、回収は2.9年
  • 固定費が5,500万円なら、営業利益は800万円で、回収は4.7年
  • 固定費が6,000万円なら、営業利益は300万円で、回収は12.6年

固定費が500万円ずれるだけで、回収年数は2.9年から12.6年まで開きます。500万円というのは、正社員1人分の人件費と同じくらいの規模です。「引き継ぐスタッフを何人残すか」が、そのまま譲渡額の妥当性に響くことが分かります。

光貴の開示に「人員配置の柔軟性を高める」という狙いが入っているのは、この計算の分母にいちばん効く項目だからだと、僕は読んでいます。複数の施設を持てば、繁忙期と閑散期で人を動かせます。1施設ごとに固定費として抱える人員を、全体では減らせる。これは開示された文面からの僕の推測で、実際にどう運営するのかは分かりません。ただ、買い手が見ている場所としては筋が通ります。

何組あれば5年で戻るか

逆算もできます。5年で回収したいなら、年間営業利益は3,777万円 ÷ 5 = 約755万円が必要です。固定費5,500万円、1組105万円の前提だと、必要な組数は約60組です。

回収にかけられる年数を変えると、必要な組数はこう変わります。

  • 3年で回収したいなら、約64組
  • 5年なら、約60組
  • 10年なら、約56組

3年と10年で、必要な組数の差は8組ほどです。年間60組前後の会場で、8組は月に0.7組程度の差にあたります。つまり、買い手が回収期間を3年と見るか10年と見るかで、「この会場に必要な年間組数」の線は、月に1組も違わない範囲で動きます。逆に言えば、現在の組数がこの線の近くにある会場は、買い手の見方ひとつで評価が大きく変わるということです。

売る側・持つ側が見ておく数字

この計算は、買い手のためのものに見えます。ただ、いまの会場を持っている経営者にとっても、使い道があります。売る予定がなくても、自社の数字を「買い手の目」で見直すと、危うさが見えるからです。

見るのは3つです。

1つ目は、営業利益が限界利益の何%残っているかです。今回の仮の式場は約13%でした。この比率が10%を切っている会場では、組数が1組減るだけで営業利益が1割以上動きます。年間の計画を立てるとき、成約の目標を「何組」で置くだけでなく、「何組を下回ると赤字か」を同時に書いておくと、判断が早くなります。

2つ目は、固定費の中で、組数に応じて動かせる部分がどれだけあるかです。正社員を非正規に置き換えるという意味ではありません。繁忙期に外部に頼める業務、閑散期に他の施設や業務へ移せる人員が、実際にあるかどうかです。この余地は、会場単体より、複数の施設や事業を持つ会社のほうが大きくなります。買い手が複数施設を持つ会社だと、同じ会場でも固定費の見え方が違います。

3つ目は、成約組数が下がったときの底です。60組から54組に落ちるだけで回収年数は4.7年から22年になります。直近3年の組数を並べて、最も悪い年の数字で回収年数を出してみると、買い手が提示しうる下限の感覚がつかめます。平均で見ると良く見えても、最悪の年で見ると別の会場に見えることは、固定費が重い業態では普通に起きます。

地方都市の需要という言い方の読み方

開示では、地方都市には依然として堅調な需要がある、と書かれています。これは買い手の見立てであって、統計で確かめた事実ではありません。また、「堅調」が増えているのか、減っていないだけなのかも分かりません。

ただ、この言い方がどの計算に効くかは分かります。分子の譲渡額ではなく、分母の組数の見込みです。組数が大きく崩れないと信じられるから、3,777万円という金額が受け入れられる。逆に、組数が1割減る可能性が高いと見れば、同じ金額は22年かかる買い物に変わります。

だから、「地方は需要がある」という命題をそのまま信じる必要はありません。見るべきなのは、その会場の直近の組数の振れ幅です。振れ幅が小さい会場は、買い手から見て分母が安定している会場です。振れ幅が大きい会場は、同じ平均組数でも評価が下がります。

計算の限界

最後に、この計算が見ていないものを書いておきます。

  • 土地や建物の価値は入れていません。施設を所有しているなら、事業の利益とは別に資産価値があります
  • 譲渡後に必要な改装費や設備更新の費用は入れていません。引き継いだ直後に数千万円の更新が要るなら、回収年数は伸びます
  • 税金と借入の利息は入れていません
  • 買い手が複数施設の運営でコストを下げられる分は入れていません。今回の開示にある人員配置の柔軟性が、これに近いものです
  • 売上は一定として置いています。実際には、1組あたりの単価の動きも効きます

これらを入れても、組数と固定費のどちらかが動くと回収年数が大きく動く、という形は変わりません。式場の収益が、固定費を引いた「残り」の薄い構造だからです。

まとめ

  • 2026年2月、岡山の婚礼施設2件が3,777万2,000円で事業譲渡されると開示された。売上と損益、施設ごとの金額は書かれていない
  • 買い手の基本の計算は、譲渡額 ÷ 年間営業利益。効くのは分子の金額より、分母の営業利益
  • 仮の式場(年60組、限界利益105万円、固定費5,500万円)では回収4.7年。組数が1割減ると22.2年、1割増えると2.6年
  • 固定費が500万円ずれても、回収は2.9年から12.6年まで開く。人員の持ち方が評価に直結する
  • 自社の数字を買い手の目で見るなら、限界利益のうち営業利益に残る割合、動かせる固定費の余地、直近3年で最も悪い年の組数の3つを出す