取適法で式場の外注費は何が変わるか。対象になるかは資本金と従業員数で決まり、遅れた支払いには年14.6%の利息がつく
式場の経理には、装花の会社、撮影会社、司会者の派遣会社、引出物の業者など、毎月かなりの数の外注先への支払いがあります。その支払いのルールが、2026年1月1日に変わりました。下請法が改正されて、名前が「中小受託取引適正化法」、通称「取適法(とりてきほう)」になったのです。
先に結論を書きます。式場が取適法の対象になるかどうかは、式場の資本金と、外注先の資本金や従業員数の組み合わせで決まります。対象になる場合、支払いは受け取った日から60日以内、手形払いは禁止、価格の相談を断って一方的に決めるのも禁止です。遅れた分には年14.6%の利息を払う義務があります。対象にならない式場でも、取引先から「取適法ですよね」と言われる場面は、これから増えると僕は見ています。
この記事で確かめられたのは、公正取引委員会のリーフレットをもとにした県の資料と、埼玉県の案内ページです。法律の条文や、公取委のガイドブック本文は読めていません。なので、婚礼の外注が「役務提供委託」や「情報成果物作成委託」のどれに当たるかは、僕には断定できません。後半の金額の計算は、僕が置いた仮の前提で、出典はありません。
何が変わったのか
県の資料によると、今回の改正で変わった点は大きく4つです。
- 名前と用語が変わった。「下請事業者」が「中小受託事業者」、「親事業者」が「委託事業者」になった
- 対象を決める基準に、資本金だけでなく従業員数が加わった(300人と100人)
- 禁止行為に「協議に応じない一方的な代金決定」が加わった
- 手形払いが禁止され、電子記録債権のように、支払期日までに代金の満額を受け取るのが難しい手段も禁止された
あわせて、発注内容を知らせる書面を、相手の承諾がなくてもメールなどで出せるようになりました。これは式場にとって手間が減る変更です。
ここで気をつけたいのは、取適法の前の下請法は、資本金が小さい会社には関係のない話だった、という点です。従業員数の基準が加わったので、資本金が1,000万円以下の会社でも、従業員が100人や300人を超えていれば委託事業者になる、という読み方になります。婚礼会社の中には、資本金は小さくても従業員は多い会社があります。そういう会社は、今回から対象に入る可能性があります。
式場は対象になるのか
県の資料にある基準表を、婚礼の外注に関係しそうな部分だけ書き出します。取引の種類で、基準が2つに分かれます。
1つ目は、製造委託、修理委託、特定運送委託と、情報成果物作成委託・役務提供委託のうちプログラム作成、運送、倉庫での保管、情報処理のものです。この場合、委託する側の資本金が3億円超なら、受ける側が資本金3億円以下か従業員300人以下で対象になります。委託する側が資本金1,000万円超3億円以下なら、受ける側が資本金1,000万円以下で対象です。委託側の従業員が300人超の場合も、受ける側が300人以下なら対象になります。
2つ目は、情報成果物作成委託と役務提供委託のうち、上に挙げたもの以外です。婚礼の外注で当たりそうなのは、こちらだと僕は読んでいます。この場合の基準は次のとおりです。
- 委託する側の資本金が5,000万円超なら、受ける側が資本金5,000万円以下
- 委託する側の資本金が1,000万円超5,000万円以下なら、受ける側が資本金1,000万円以下
- 委託する側の従業員が100人超なら、受ける側が従業員100人以下
つまり、資本金が1,000万円以下で、従業員が100人以下の式場なら、委託する側としては対象外になります。逆に、ホテル併設や、グループ企業の一員で資本金が大きい会社は、対象になりやすいです。式場の運営会社に個別の店舗名しか意識がないと、この判定を飛ばしてしまいます。支払いをしている法人の登記上の資本金と、従業員数を確認するところから始まります。
もう1つ、婚礼の外注がどの取引の種類に当たるかは、資料からは分かりませんでした。資料では、対象になる取引に「情報成果物作成委託」と「役務提供委託」が入っていますが、役務提供委託は、運送、倉庫での保管、情報処理に限る類型と、それ以外の類型に分かれています。自分で使うために頼む役務は含まれず、他人に提供する役務の一部を外に出す場合が対象になる、という説明を各所で見かけますが、僕は原文で確認できていません。
そのうえで、考え方だけ置いておきます。式場が新郎新婦に売っているのは、挙式と披露宴という一つのサービスです。その一部である司会や撮影、装花を外注先に出しているなら、「他人に提供するサービスの一部を委託している」と読める余地があります。一方で、社内の研修を外部に頼むような取引は、式場自身が使う役務なので、別の扱いになるはずです。どちらに当たるかは、顧問の弁護士や公取委の相談窓口に、取引の中身を見せて聞くのが確実です。
対象になったときの義務
対象になった場合に、委託する側に課される義務は4つです。県の資料の表では、次のように書かれています。
- 発注するときに、給付の内容、代金の額、支払期日、支払方法を書面かメールなどで示す
- 取引が終わったら、取引の記録を作って2年間保存する
- 物を受け取った日から60日以内の、できるだけ短い期間で支払期日を決める。検査をするかどうかは関係がない
- 支払いが遅れたり、代金を減らしたりしたら、遅れた日数や減らした額に応じて、年率14.6%の遅延利息を払う
婚礼の場面に引き直すと、気をつけるのは次の3つです。
1つ目は、「検査をするかどうかは関係がない」という点です。たとえば、撮影会社から写真のデータが届いたあと、式場の側で「内容を確認してから経理に回す」運用をしていると、確認が終わるまで支払日が決まらないことがあります。取適法の読み方では、受け取った日から数えるので、確認が遅れた分は式場の側の遅れになります。
2つ目は、支払日を「月末締め翌月末」にしているときの日数です。僕が数えたところ、月末締め翌月末払いで受領日から支払日までが60日を超えるのは、7月と12月の1日に受け取った分だけで、それぞれ61日でした。1月1日と2月1日に受け取った分は58日です。個人の外注先に関するフリーランス法の記事でも同じ数え方を書きましたが、取適法でも「受領日から60日以内」の考え方は同じです。
3つ目は、減額と取り消しです。「当日に人数が減ったから、装花の金額を下げた」「天候の都合で撮影を取りやめた」といった場合、外注先に責任がないなら、減額や発注の取り消しは禁止行為にあたる可能性があります。婚礼は、人数や日程が直前まで動く商売なので、外注先との契約書に、変更が起きたときの精算方法を先に書いておく必要があります。
遅延利息はいくらになるか
ここから先は、すべて僕が置いた仮の前提での計算です。
年120組の式場が、1組あたり17万円を外注先に払うとします。内訳は、司会が5万円、撮影が12万円です。年率14.6%の遅延利息は、日割りで次のようになります。
- 17万円が10日遅れると、約680円
- 17万円が30日遅れると、約2,040円
- 17万円が61日遅れると、約4,150円
1組あたりでは、小さい額です。ただ、120組すべてが30日遅れたとすると、年間で約24万円になります。10日遅れでも、約8万円です。金額としては、経理担当者の1か月分の時間のほうが高いかもしれません。
だから、遅延利息の額そのものが怖いのではないと思います。怖いのは、遅れが「繰り返されたこと」が、指導や勧告の材料になることです。県の資料にも、面的執行の強化として、事業所管省庁に指導・助言の権限が付いたと書かれています。式場を所管する官庁からも指導を受けうる、ということだと僕は読んでいます。
価格の相談を断ると何が起きるか
新しく加わった「協議に応じない一方的な代金決定」の禁止は、式場の仕入れ担当者が一番気にするところだと思います。外注先から「花の仕入れ値が上がったので、単価を見直してほしい」と相談されたとき、それに応じない、必要な説明もしない、という態度が禁止の対象になります。
値上げを必ず受け入れる義務ではありません。協議に応じて、理由を説明したうえで、結果として据え置くのは、資料の書き方では禁止に当たりません。禁止なのは「応じない」「説明しない」ことのほうです。
ここも仮の数字で見ておきます。年120組で、装花の外注費が1組15万円なら、年間の外注費は1,800万円です。外注先が値上げを求めてきたときの年間の増加額は、次のようになります。
- 3%の値上げなら、年54万円
- 5%の値上げなら、年90万円
- 10%の値上げなら、年180万円
粗利に響く額ですから、断りたくなるのは分かります。ただ、協議の記録を残しておくのは、別の意味で効きます。相談を受けた日、相手が示した根拠(仕入れ価格の資料など)、式場が回答した日と理由を、2年間保存する書類として残しておけば、「応じなかった」と言われても説明できます。取引の記録を2年間保存する義務は、この点でも式場の自衛になります。
据え置くなら、据え置く理由を数字で言えるようにしておくのが、僕は一番よいと思います。たとえば「この単価は年間の発注数を前提にしている」「今期の発注数を増やせるなら再検討する」といった答えは、協議の形になります。
今日からできる確認
最後に、式場がまず確かめておくとよい順番を並べます。
- 運営会社の資本金と従業員数を確認する。グループ会社の場合は、支払いをしている法人単位で見る
- 外注先の一覧を作り、法人か個人か、資本金と従業員の規模を分ける。個人で従業員がいない相手は、フリーランス法の側の話にもなる
- 支払条件を一覧にする。受領日から何日で払っているか、手形や電子記録債権を使っていないか
- 確認を待ってから支払日を決める運用になっていないか。なっていれば、受領日を起点に日付を決める
- 契約書や発注書に、変更時の精算方法と、価格の相談の窓口を書く
どれも新しい仕組みを入れる話ではなく、今ある経理の流れを紙にして見直す作業です。見直した結果「うちは対象外」と分かっても、それは一つの成果です。
まとめ
- 取適法は2026年1月1日に施行された下請法の改正法で、名前と用語、対象の基準、禁止行為が変わった
- 対象かどうかは、委託する側(式場の運営会社)と受ける側(外注先)の、資本金と従業員数で決まる。情報成果物作成と役務提供の類型では、委託側が資本金5,000万円超か従業員100人超かが一つの目安になる
- 対象なら、受領から60日以内の支払期日、取引記録の2年保存、遅れには年14.6%の遅延利息がつく
- 手形払いは禁止され、電子記録債権のように満額を受け取りにくい手段も禁止された
- 「協議に応じない一方的な代金決定」も禁止になった。値上げを呑む義務ではなく、応じて説明することが求められる
- 仮に年120組・1組17万円で30日遅れると、利息は年約24万円。額より、遅れが繰り返されることが問題になる
- 婚礼の外注がどの取引の類型に当たるかは、条文とガイドブックで確かめる必要があり、この記事では断定していない
