業界動向

口コミの依頼に特典をつけるのは、どこまでがセーフか。ステマ規制で消費者庁が見るのは「星の数を条件にしたか」と「内容に口を出したか」

口コミを増やしたい式場が、一番やりたくなることがあります。投稿してくれたら特典をつける、という手です。

結論から言うと、特典をつけること自体は禁止されていません。アウトになるのは、星の数や書く内容を条件にしたとき、もしくは都合のいい投稿だけを選んで載せたときです。線を引く場所は「特典の有無」ではなく「内容に誰が関わったか」にあります。

今日は、2023年10月に始まったステマ規制のうち、式場の口コミ運用に関わる部分を整理します。法律の細かい解釈ではなく、現場が打ち合わせで「これはやる、これはやらない」と決められるところまで落とします。個別の判断が必要なときは、弁護士や消費者庁の公表資料に当たってください。僕は法律の専門家ではないので、ここに書くのは公表されている考え方の整理です。

ステマ規制は何を禁じているのか

2023年3月に内閣府告示(令和5年第19号)が出て、同年10月1日から、景品表示法の不当表示にひとつ類型が加わりました。「一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示」です。いわゆるステルスマーケティング、ステマです。

当てはまるには、2つの条件が両方そろう必要があります。

  • 事業者の表示であること(事業者が表示の内容の決定に関与している)
  • 一般消費者が、それを事業者の表示だと見分けられないこと

口コミで言えば、お客さんが自分の言葉で書いた感想は、事業者の表示ではありません。ところが、式場が「こう書いてください」「星は5でお願いします」と内容に関わって書かせると、それは式場の表示になります。それが「お客さんの本音の口コミ」の顔をして並んでいたら、見分けがつかないのでアウト、という構造です。

大事なのは、規制の対象が書いた人ではなく、依頼した事業者の側だという点です。違反すると、まず措置命令が出ます。差し止めや再発防止の指示に加えて、事業者名が公表されます。式場にとっては、金額よりも「名前が出ること」のほうが重い罰です。

初の措置命令は、500円ほどの割引だった

規制が始まって最初の措置命令は、2024年6月に出ました。相手は東京都大田区の内科クリニックを運営する医療法人です。

報道によると、中身はこうです。

  • Googleマップの口コミで星4か星5をつけた来院者に、インフルエンザワクチンの接種料金を500円ほど割り引いていた
  • 違反と認められた投稿は45件
  • 命令の内容は、星4・5を条件にした割引をただちにやめることと、今後同様のことをしないこと

金額は小さいです。大きな景品を配ったわけでもありません。それでも対象になりました。理由は「割引と引き換えに、高い評価を書かせた」からです。評価の高さが条件に入った時点で、お客さんの口コミは自由な感想ではなく、事業者が買った評価になります。

この事例から式場が読み取れることは、2つあります。

1つ目は、金額の大小は線引きの根拠にならないことです。500円でもアウトになりえます。「ささやかな特典なら大丈夫」とは言えません。

2つ目は、問題にされたのは「星の数を条件にした」部分だということです。投稿そのものに特典をつけた、という話ではありません。ここが次の節につながります。

消費者庁の運用基準が示す、セーフとアウトの分かれ目

告示には運用基準が付いていて、考え方の例が載っています。報道や解説で紹介されている範囲で整理すると、分かれ目は次のとおりです。

場面 考え方
購入者に、レビューを書いたらクーポンを渡すと案内する。内容は本人が自由に書く 事業者の表示にならない例とされている
SNSのキャンペーンで、応募者が自分で投稿内容を決める 同じく、本人の自主的な内容なら事業者の表示にならない
好意的な内容や高い星を条件にして特典を渡す 事業者が内容に関与したと見られる
集まった口コミのうち、都合のいいものだけを抜き出して載せる、内容を書き換える 事業者の表示とみなされるおそれがある

つまり、「書いてくれたらお礼をする」は、内容に口を出さないなら成り立ちます。条件が「投稿したかどうか」だけなら、そこに評価の高さは入りません。

ただ、ここで気をつけたいのは、運用基準は「やり取りの有無」「対価の有無」「過去の関係」などを総合して見ると言っていることです。「特典をつけたら必ずセーフ」とも「つけたら必ずアウト」とも言っていません。だから現場では、グレーに寄る動きを最初から避けるほうが安全です。

式場の口コミ運用で、グレーになりやすい5つの場面

ここからは、式場で実際に起きそうな場面に当てはめます。判断は、運用基準の考え方を式場に写した僕の整理です。

1. 「星5でお願いします」と言う アウトの典型です。口頭でも、アンケート用紙の文面でも同じです。「ぜひ5つ星で」という一言が、クリニックの事例と同じ構造になります。

2. 「低評価をつけるなら、まず私たちに言ってください」と言う これは見た目がやさしいので油断しやすい場面です。不満を先に聞く窓口を置くこと自体は、サービス改善として当然です。ただ、特典や丁寧な頼み方とセットで「投稿の前に連絡を」と促すと、低評価を抑えるための仕組みに見えます。窓口は、投稿のお願いとは別の案内にしたほうがいいです。

3. アンケートで満足度が高かった人にだけ、口コミの依頼を送る 自社のアンケートで高評価をつけた人にだけ「Googleにも書いてください」と送る運用は、現場でとてもよく考えつきます。投稿の内容は本人が決めているので、直ちに事業者の表示とは言えません。ただ、集まる口コミが高評価に偏るので、「都合のいいものだけを集める」運用に近づきます。依頼は、満足度で分けずに全員へ送るほうが、説明がつきます。

4. 口コミを書き換えて、サイトに載せる お客さんの口コミを式場のサイトに載せるとき、誤字を直す程度ならまだしも、言い回しを整えたり、否定的な部分を削ったりすると、お客さんの言葉ではなくなります。引用するなら原文のまま、削るなら載せる口コミの選び方を決めておく。この2つのどちらかです。

5. スタッフや関係者に、お客さんのふりをして書かせる これは運用基準でいう「なりすまし型」で、いちばん分かりやすいアウトです。式場のスタッフ、提携先、家族が、一般のお客さんの立場で書くのは避けるべきです。

仮の式場で、「全員に同じ案内を送る」運用を数える

ここからは、僕が置いた前提で計算します。実在の式場の数字ではありません。

  • 年間の施行が120組の式場
  • 挙式後に、全員へ「率直な感想をGoogleマップに書いてください」と案内する
  • お礼として、2,000円分のギフトを、投稿してくれた人に渡す(星の数や内容は問わない)
  • 案内を見て投稿する人は、全体の3割から5割とする(これも想定です)

投稿してくれた人に渡すギフトの総額は、次のとおりです。

  • 3割なら 120組 × 0.3 × 2,000円 = 年7.2万円
  • 5割なら 120組 × 0.5 × 2,000円 = 年12万円

案内の送付と、お礼の発送の手間は別にかかります。1通あたり5分とすると、120通で年10時間です。人件費を時給2,000円とみれば2万円です。合わせて、年10万円から15万円ほどで、全員に同じ案内を送る運用ができます。

一方、満足度で分ける運用はどうでしょうか。仮に、120組のうち満足度の高い8割だけに送るとします。送付先が96組になるので、ギフトの総額は2割ほど減ります。数万円の差です。この数万円のために、「都合のいい口コミだけを集めている」と見られる余地を残すかどうかが、判断の中身になります。

僕の読みでは、割に合いません。得られるのは年に数万円の節約と、少し高めの平均点です。失うかもしれないのは、措置命令の公表で出る式場名と、口コミ全体への信頼です。比べるものの大きさが違います。

「特典なし」にする、という選択肢

もうひとつの考え方は、そもそも特典を渡さないことです。

特典なしでも、口コミは集まります。投稿率は下がるでしょうが、集まった口コミは、規制の面ではいちばん安全です。その代わり、件数はふえにくいです。

実務では、次の3段で考えるのが現実的です。

  • 特典なし・全員に案内:もっとも安全。件数は伸びにくい
  • 特典あり・内容も星も問わない・全員に案内:運用基準の考え方に沿う。手間と費用がかかる
  • 特典あり・満足した人にだけ案内:グレーに寄る。避けるほうがいい

どれを選ぶかは、式場の口コミの現状で決まります。件数が十分あって平均点に困っていないなら、特典なしで足ります。件数が少なく、近隣の式場に埋もれているなら、真ん中の運用を検討する価値があります。

案内文を書くときの、具体的な言い方

打ち合わせや挙式後のメールで使う文面は、短く、条件を絞って書きます。

使える言い方は、たとえばこうです。

  • 「よろしければ、当日のご感想をGoogleマップにお寄せください。良かった点も、改善してほしい点も、ご自由にお書きください」
  • 「投稿いただいた方には、お礼として〇〇をお送りします。評価の高さや内容は問いません」

避けるべき言い方は、こうです。

  • 「ぜひ高評価をお願いします」
  • 「5つ星をつけていただいた方に〇〇を差し上げます」
  • 「ご投稿の前に、まず式場へお知らせを」(低評価の抑止に見える)
  • 「こんな内容で書いていただけると助かります」(内容の指定)

案内文は、1度つくったら使い回します。だから、いちばん最初の1通を、規制の考え方に合わせて固めておくのが効きます。スタッフが個別に「星5でお願いします」と口で言ってしまう事故は、文面を決めても起きます。それは、研修で防ぎます。

現場で決めておくこと

最後に、運用を始める前に決めておく項目を並べます。

  1. 特典を渡すか。渡すなら、条件は「投稿したかどうか」だけにする
  2. 案内を誰に送るか。満足度で分けず、全員に送る
  3. 案内文の原文。星の数や内容に触れない言い方で固定する
  4. 口コミを自社サイトに載せるときの方針。原文のまま載せるか、載せないか
  5. スタッフ・関係者の投稿を禁じること
  6. 低評価への対応窓口。投稿のお願いとは別の案内にする
  7. 担当者が変わっても同じ運用になるよう、決めたことを1枚にまとめて残す

規制の趣旨は、お客さんが「これは本物の感想だ」と信じて読めること、を守ることです。式場にとっても、口コミの価値はそこにあります。買われた5つ星は、見つかったときに、これまで集めた本物の口コミまで疑わせます。

まとめ

  • ステマ規制は2023年10月に始まった。口コミの内容に事業者が関わり、お客さんの感想に見せかけると不当表示になる
  • 初の措置命令(2024年6月)は、Googleマップで星4・5をつけた人に500円ほど割り引いたクリニックだった。違反とされた投稿は45件。金額の小ささは言い訳にならない
  • 運用基準の考え方では、内容を本人が自由に決められる口コミなら、お礼をつけても事業者の表示にならない例がある。条件に星の数や好意的な内容を入れると、アウトに寄る
  • 式場でグレーになりやすいのは、「星5でお願いします」、投稿前の連絡の促し、満足した人にだけ送る依頼、口コミの書き換え、スタッフのなりすまし
  • 年120組の仮の式場では、全員に同じ案内を送る運用が年10万〜15万円ほど。満足度で分けて浮くのは数万円で、見合わない
  • 案内文は条件を絞って固定し、現場の口頭の事故は研修で防ぐ

口コミは、集めるものではなく、集まったものを信頼してもらうものです。