式場の借入金利が1%上がると、何組分の粗利が消えるか
金利が上がる局面で、式場の経営者が最初に聞くのは「返済は月にいくら増えるのか」です。僕はこの聞き方を、少しだけ変えたほうがいいと考えています。月の返済額ではなく、「増えた返済を、披露宴の何組分の粗利で払うのか」と聞くのです。
金額のままだと、増える返済は「年に数百万円」で止まります。多いのか少ないのか、判断がつきません。組数に直すと、年間の組数の何%を借入の金利に持っていかれるのかが見えてきます。
この記事の数字は、すべて僕が置いた仮のものです。実在の式場の借入額や、今の金利水準を示すものではありません。借入の条件は、金融機関や契約ごとに違います。自分の式場の数字を入れ替えて使うための計算として読んでください。
前提を置く
計算に使う前提は次のとおりです。
- 借入残高は5億円。会場の建築や改装のために借りたもので、返済期間は残り15年
- 返済は毎年の元利均等払い(元金と利息を合わせた額が毎年同じ)
- 披露宴1組あたりの粗利は240万円。売価400万円に対して、原価が40%という置き方
- 年間の披露宴は200組。人件費や固定費は、この粗利から後で払う
この前提では、年間の粗利の合計は4億8,000万円です。借入の返済はこの中から払います。
金利が1ポイント上がると、返済はいくら増えるか
金利が1.5%のときと、2.5%のときで、年間の返済額を並べます。計算は Python で行いました。
| 金利 | 年間の返済額(元利合計) | 1.5%との差 |
|---|---|---|
| 1.5% | 3,747万円 | 0 |
| 2.0% | 3,891万円 | 144万円 |
| 2.5% | 4,038万円 | 291万円 |
| 3.0% | 4,188万円 | 441万円 |
1ポイント上がると、年間の返済は約291万円増えます。粗利240万円の披露宴に直すと、1.2組分です。年間200組の式場なら、0.6%にあたります。
数字だけ見れば、1.2組はたいした負担に見えません。ここで終わると、判断を誤ります。理由は2つあります。
見落としやすい点1:増えるのは返済額と、利息額で違う
上の表は、返済期間15年のあいだ毎年同じ額を払う前提の、年間返済額の差です。一方で、借りたばかりの1年目に払う利息だけを見ると、見え方が変わります。
借入5億円のうち、最初の1年は残高がほぼそのまま利息のかかる元になります。金利が1.5%なら利息は750万円、2.5%なら1,250万円です。差は500万円。粗利240万円の披露宴で2.1組分になります。
どちらが正しい、という話ではありません。返済額で見るか、利息で見るかで、同じ1ポイントが1.2組にも2.1組にも見えます。金融機関との交渉や稟議では、どちらの数字を見ているのかを、先に言葉にしておく必要があります。
見落としやすい点2:粗利は、組数が減ると一緒に減る
もうひとつ。上の計算は、組数が200組のままだと仮定しています。金利が上がる局面は、物価も上がっている局面です。二人の可処分所得が減れば、見積もりを小さくする組が出ます。
仮に、金利が1ポイント上がって返済が291万円増えると同時に、組数が1割減ったとします。減る粗利は20組分で、4,800万円です。返済が増えた分の291万円とは、桁が違います。
金利そのものより、金利が上がる環境で組数が動くほうが、経営への影響は大きくなりえます。金利の記事なのに、組数の話になるのは、そのためです。
借入額が違うと、組数の重さはどう変わるか
同じ1ポイントでも、借入額で重さは変わります。残り15年、同じ元利均等払いで、金利が1.5%から2.5%に上がったときの年間返済の増加を並べます。
| 借入残高 | 年間返済の増加 | 披露宴の組数(粗利240万円) |
|---|---|---|
| 1億円 | 約58万円 | 0.24組 |
| 3億円 | 約175万円 | 0.73組 |
| 5億円 | 約291万円 | 1.2組 |
| 10億円 | 約582万円 | 2.4組 |
借入が1億円なら、増加は披露宴1組の粗利にも届きません。10億円を超える借入を抱えている式場は、年に2〜3組分の粗利が金利で消えます。
つまり、金利上昇の影響は、借入の大きさと年間の組数の比で決まります。借入が大きくても組数が多ければ、1組あたりの負担は小さくなります。逆に、借入が小さくても組数が少ない式場は、同じ1ポイントで重く効きます。
自分の式場の数字で確かめるなら、次の一行を計算してみてください。
- 借入残高 × 0.0058 ÷ 1組の粗利 = 金利が1ポイント上がったときの、増える返済の組数換算(金額はそろえて万円で入れます)
0.0058は、金利が1.5%から2.5%に上がるときの目安です。残りが10年でも20年でも、0.0058〜0.0059とほとんど動きません。金利の上げ幅が2ポイントなら、およそ2倍で見ます。
変動か固定か、決める前に見る3つの条件
借入が変動金利で、これから上がるかもしれないとき、固定に切り替えるかどうかが論点になります。僕は、金利の予想を当てにいくより、次の3つの条件を先に確かめるほうが堅いと考えています。
条件1:増えた返済を、粗利のどこで吸収できるか
先ほどの計算で、増える返済が年に何組分かが分かりました。それを、今の組数のどこから払うかを決めます。
- 人気日が満席で、値上げの余地がある式場なら、客単価の改定で吸収できます
- 人気日にまだ空きがあるなら、金利より先に、空き枠の埋め方を直したほうが効きます
吸収する先が決まっていないまま固定に切り替えると、固定にしても別の不安が残ります。
条件2:固定にしたときの上乗せ幅
固定金利は、変動より高く設定されるのが普通です。たとえば変動が1.5%で、固定が2.0%と提示されたとします。この0.5ポイントは、保険料として払う金額です。
5億円なら、年間返済で約144万円。粗利で0.6組分です。この保険料を毎年払い続けて、金利が上がらなかったとき、払い損にならないか。金利が3%まで上がるなら、固定にしたほうが年に約300万円有利です。
どちらになるかは、誰にも分かりません。ただ、「0.5ポイントの上乗せは、何組分の粗利なのか」は計算できます。その組数を払ってでも、返済額を固定したいのか。経営者が言葉にして決める部分です。
条件3:借り換えの費用と、契約の条件
見落とされやすいのが、固定への切り替えや借り換えにかかる費用です。事務手数料、保証料、抵当権の設定費用、期限前返済の手数料などが、契約によって発生することがあります。
これらは契約書を読まないと分かりません。住宅ローンには、金利が上がっても一定期間は返済額を据え置く仕組みがありますが、事業性の借入には、同じ仕組みがあるとは限りません。仕組みの有無も、金融機関ごとに違います。
稟議や取締役会の資料に載せる前に、次の3点は書面で確認しておきたいところです。
- 変動金利の見直し時期と、基準にしている指標
- 返済額が金利に連動して変わるのか、一定期間は据え置かれるのか
- 借り換えや繰上返済に、手数料がかかるのか
返済の増加に備える、現場の動き
金利の話は、財務の担当者だけで閉じがちです。ただ、組数に換算できると、現場の動きに落とせます。
たとえば、増える返済が1.2組分なら、次のどれかで補う計算になります。
- 平日や閑散期に、あと1〜2組の契約を積み上げる
- 人気日の料金を、1組あたり約1.5万円上げる(年200組で約300万円)
- 値引きを、年間で約300万円分減らす
人気日の料金改定は、1組あたりで見れば小さな額です。金利上昇のコストを組数で説明できれば、現場もプランナーも「なぜ今、改定するのか」を理解しやすくなります。説明のない値上げは、現場から先に反発が出ます。
反対に、値上げを避けて空き枠を埋める道を選ぶなら、フェアの回数や広告費が増えます。その費用と、1.2組分の粗利を並べて比べてください。広告費が先に増えるなら、金利の増加分より大きな支出になっているかもしれません。
金利の数字を、組数で話す
金利が動いたとき、経営会議では「返済が月に24万円増えます」と報告するより、「年間の組数のうち、1.2組分を返済に回します」と報告したほうが、現場まで話が届きます。
月24万円は財務の言葉です。1.2組は、プランナーも営業も自分の仕事に引き寄せて考えられる言葉です。僕は、数字を共有する単位を、式場の仕事の単位に揃えるだけで、会議の質が変わると考えています。
借入が複数あるときは、1本ずつ棚卸しする
実際の式場は、借入が1本ではないことが多いはずです。建物の取得で借りた分、改装で借りた分、運転資金の分と、返済期間も金利のタイプも別々になりがちです。
この場合、全部をまとめて「借入が何億円」と見ると、どこが金利に弱いのか分かりません。次の4列で、借入を1本ずつ表にしておくと、組数への換算が早くなります。
- 残高(万円)
- 金利のタイプ(変動か固定か)と、次に金利が見直される時期
- 残りの返済期間
- 1ポイント上がったときの増加額と、その組数換算
固定で残り期間が長い借入は、見直し時期まで影響がありません。優先して見るのは、変動で残高が大きく、見直し時期が近い借入です。表を作る作業は半日で終わりますが、金利が動いてから作り始めると、会議に間に合いません。
まとめ
- 借入5億円(残り15年、元利均等払い)で金利が1ポイント上がると、年間返済は約291万円増える。粗利240万円の披露宴で1.2組分
- 借りたばかりの年の利息で見ると、同じ1ポイントが約500万円、2.1組分になる。返済額と利息のどちらで見ているかを先に決める
- 金利上昇の局面は物価上昇の局面でもある。組数が1割減ると、粗利は金利の増加分とは桁が違う額で減る
- 借入残高 × 0.0058 ÷ 1組の粗利 で、1ポイントの上昇を組数に換算できる
- 固定にするかどうかは、上乗せ幅が何組分の粗利なのかと、増えた返済を粗利のどこで吸収するかで決める
- 借り換えの費用、返済額の据え置きの有無、金利の見直し時期は、書面で確かめてから決める
