式場のジューンブライド集客は秋に雨の約束を出して始める
11月に入ると、式場の窓口には「来年の6月に挙げたい」という問い合わせが混ざり始めます。ジューンブライドです。ところが多くの式場は、この言葉をチラシの季節フェアの見出しに使うだけで、6月の挙式日を売るための準備は5月に入ってから始めます。僕は、これは順番が逆だと考えています。
6月の挙式を決める二人が迷う点は、ほぼ1つに絞れます。雨です。その迷いに答える材料を、問い合わせが動く秋のうちに公式サイトと見学の場に出しておくと、「ジューンブライドに憧れて来た二人」を「6月の挙式日を決めた二人」にしやすくなります。この記事では、その理由と段取りを整理します。
なお、後半に出てくる枠の数や金額は、説明のために僕が置いた仮の前提です。調査から引いた数字ではないので、自社の枠数と粗利に置き換えて読んでください。
認知は高く、挙げたい月でも2位
ジューンブライドは、6月に結婚した花嫁は幸せになるという言い伝えとして、結婚式に縁のない人にも知られています。式場の側は「梅雨で挙式が少ない月」と見ていることが多く、そのせいで、人気のない月として扱われがちです。
ただ、二人の側の気持ちは少し違います。アニヴェルセル総研が2024年3月末から4月初めに行った調査(20〜39歳の未婚・既婚男女416名、インターネット調査)では、「結婚式を挙げたい月」の1位は10月で、6月は2番目に人気の月でした。3位は4月です。同じ調査で、特定の月を選んだ理由として最も多かったのは「気候が良い」で、次いで「好きな季節だから」「記念日や節目があるから」でした。
この調査にはいくつか注意が要ります。サンプルは416名で、今まさに式場を探している二人ではなく、既婚者や予定のない人も「理想の月」を答えています。実際に6月に挙式した組の割合を示す調査でもありません。僕がここから言えるのは、次の2つだけです。
1つめは、6月を「挙げたい」と思う気持ちは、実際の挙式件数以上にあるらしい、ということ。2つめは、人気の月を選ぶ理由の筆頭が「気候」であり、6月はその気候の点で不利だ、ということです。気持ちは動くのに、天気で止まる。6月の問い合わせの構造は、ここにあります。
別の調べ物の中で、経済産業省の統計では結婚式場業の取扱件数は秋と春に多く、6月は12か月中7位という指摘も見かけました。ただ、原典を確かめられていないので、ここでは数字として使いません。「6月が多い月ではないらしい」くらいに留めます。
問い合わせが動くのは、6月の半年から1年前
季節ものの発信は、その季節の直前に出すものだと思いがちです。しかし結婚式の準備は、挙式の半年から1年前に始まる二人が多いはずです。仕組みとして、こう考えるのが自然です。
- 来年6月に挙げたい二人が式場を探すのは、今ごろから年明けにかけて
- 梅雨が来る5月には、すでに契約を終えて準備に入っている
つまり、6月挙式の二人への発信は、梅雨を迎えてからでは遅い。5月に「梅雨でも安心」と書いても、読むのは6月に挙げる二人ではなく、7月や秋の挙式を探している二人です。ジューンブライドの発信の旬は、挙式の前の秋から冬にあります。
ここで問題になるのは、秋の見学に来た二人には、梅雨の景色が見えないことです。10月や11月の晴れた日にガーデンを案内しても、二人の頭の中にある6月の姿は想像のままです。想像で止まったまま、しかも「雨が降ったらどうなるのか」は二人から聞きにくい。聞いたら、式場に対して失礼な気がするからです。
迷いは「雨の日はどうなるか」に集まる
では、二人は6月の何を迷っているのか。これは調査で確かめたことではなく、現場でよく出る質問の整理です。大きくは次の4つに分かれると見ています。
1つめは、挙式が雨で変わるのかどうか。屋外の挙式を予定していたとき、当日が雨ならどこでやるのか。
2つめは、ゲストの移動です。駐車場から会場までの道、傘、足元。祖父母や小さな子を呼ぶ場合はなおさら気にします。
3つめは、写真です。ガーデンで撮る前撮りや集合写真が、雨の日にはどうなるのか。
4つめは、お金です。雨天のときに追加費用が出るのか、返金はあるのか。屋外挙式の雨天返金をどう決めるかは、式場側の損益にも関わる別の論点なので、ここでは「二人に先に説明しておく」ことだけを扱います。
4つとも、答えは式場の側にすでにあります。雨なら屋内のチャペルに切り替える、ゲストには傘とタオルを用意する、集合写真は庇の下で撮る、追加費用は出ない、といった中身です。足りないのは、その答えを二人が聞く前に差し出す場所です。
雨の約束を置く場所は3つ
僕は、雨の約束を置く場所は次の3つで足りると考えています。増やすほど散らかります。
公式サイトの挙式ページ
挙式ページの下のほうに、「雨の日の挙式」という見出しの短い節を1つ置きます。書く内容は、雨のときの会場、切り替えの判断をいつ誰がするか、ゲストの移動、追加費用の有無の4つ。実際に雨の日に撮った写真があれば、2〜3枚添えます。写真が無いなら、無理に作らず文章だけで構いません。
ここで気をつけたいのは、「雨の日も素敵な挙式になります」のような感想を書かないことです。二人が知りたいのは、素敵かどうかではなく、何がどう変わるかです。「前日の18時に、屋外か屋内かを担当者から電話で連絡します」のように、時刻と人を書きます。
この節は、検索や生成AIにも効きます。「結婚式場 6月 雨」「梅雨 結婚式 屋外 雨だったら」のような言葉で探す二人は、式場の名前よりも先に、この疑問の答えを探しているからです。答えが書いてあるページは、その疑問を拾ってもらえる可能性があります。
見学案内の最後の5分
見学の最後に、6月を検討している二人にだけ、雨の日の動線を実際に歩いて見せます。駐車場から受付まで、受付からチャペルまで、傘立ての位置、屋根のかかる範囲。時間は5分で足ります。
秋の晴れた日に雨の話をするのは、少し不自然です。それでも、二人が口に出せない質問を式場から先に出すと、「ちゃんと考えている式場だ」という印象が残ります。僕は、これが一番効くと見ています。
見積もりに添える一枚の紙
見積もりに、「雨天時の取り扱い」を3行で書いた紙を挟みます。3行の中身は、雨のときの会場、追加費用、判断の時刻です。持ち帰った二人が、親や友人にこの紙を見せて説明できる状態にします。決めるのは二人でも、「6月は雨が心配」と言い出すのは、たいてい親のほうだからです。
ジューンブライドという言葉の使い方
次に、言葉の問題です。「ジューンブライドフェア」という名前は、季節の前に使うことが多いと思います。ただ、僕は名前をいつ使うかより、何を約束する名前かが大事だと考えています。
「ジューンブライド特典」という見出しで割引を出すと、二人は「6月は人気がなくて安いのだろう」と受け取ります。これは、式場が6月を売りたいときの伝わり方としては、あまり得をしません。6月の価値を、値引きで買ってもらう形になるからです。
代わりに、「6月に挙げる二人へ、雨の日の約束を先に渡します」のように、不安への答えを前に出します。割引の前に、不安を減らす。順番を変えるだけで、同じ6月の枠が違うものに見えます。
6月の枠を売る損益を、仮の前提で見る
ここからは、僕が置いた仮の前提での計算です。
2027年6月の土日は8日あります(5・6・12・13・19・20・26・27日)。仮に、式場が1日2組まで挙式を受けられるとすると、土日の枠は16です。仮に、6月の埋まり方がほかの月より低く、半分の8枠が空いたまま5月を迎えるとします。この8枠は、売れなければそのまま売上ゼロです。
仮に、1組の粗利を100万円とすると、空いた8枠は800万円の取りこぼしです。この枠のうち、秋から冬の間に1組でも多く決められれば、それだけで100万円です。
一方、雨の約束にかかる費用は、公式サイトの1節を書く手間、見学の最後の5分、見積もりに挟む1枚の紙です。ほとんどが社内の時間で、外に出る費用は印刷代くらいです。仮に担当者の時間を、見学1組あたり5分、6月を検討する組が月に20組とすると、100分。月に2時間弱で足ります。
ここで、仮に6月検討の20組のうち、雨の約束を渡すことで成約が1組増えるなら、月2時間弱の手間で粗利100万円の話になります。もちろん1組増えるとは限りません。増えないことも十分あります。だから、この施策を続けるか止めるかは、あとで述べる数え方で決めます。
効いたかどうかの数え方
雨の約束を置いたあと、「効いたかどうか」を見るために、僕なら次の3つだけを数えます。
- 6月挙式を検討している二人の、見学後の成約組数
- 見学時に雨の質問を二人から先に聞かれた回数(受付の記録に1行足す)
- 公式サイトの「雨の日の挙式」節に着いた人のうち、予約に進んだ人
1つめが結果、2つめは雨の約束を先に出したことで質問が減ったかどうかの確認、3つめがサイトの節が見られているかの確認です。2つめは、先に答えを出していれば、二人が質問してくる回数は減るはずです。減らなければ、約束が二人に届いていません。
6月の挙式を検討した組数は、数十組になる式場もあれば、数組という式場もあるでしょう。数組なら、成約が1組増えたか減ったかで効果は判断できません。その場合は、成約の数ではなく、2つめと3つめで続けるかを決めたほうがいいと思います。
雨が降った年の記録を翌年の材料にする
もう1つ、できれば残したいことがあります。実際に6月の挙式が雨だった日の記録です。
当日に屋内へ切り替えたか、判断は何時にしたか、ゲストの反応はどうだったか、写真はどこで撮ったか。担当者が10分で書けるメモで構いません。許可が取れれば、雨の日の写真を数枚、翌年の公式サイトとフェアの資料に使えます。
晴れた日の写真ばかり並ぶサイトより、雨の日の写真と判断の記録が載っているサイトのほうが、6月を検討する二人には安心材料になります。僕が6月の発信で一番不足していると感じるのは、この「雨の日の実績」です。自社の事例を使う場合は、二人の許可を取り、実際にあった日のことだけを書く。作った事例は載せません。
6月が空いている式場の優先順位
最後に、6月の枠が空いている式場が、何から手をつけるかの順番を整理します。
- 公式サイトに「雨の日の挙式」の節を足す。これは今日から書けます
- 見学の最後の5分で、雨の日の動線を歩いて見せる。6月を検討する二人にだけ
- 見積もりに「雨天時の取り扱い」の3行の紙を挟む
- フェアの名前から割引のにおいを減らし、「雨の日の約束」を前に出す
- 6月に挙式が雨だった日の記録を残し、来年の材料にする
1から3は、費用がほとんどかかりません。4と5は、来年に効いてきます。順番に並べたのは、今年の秋に間に合うものから先に置いたためです。
まとめ
- ジューンブライドの認知は高い。アニヴェルセル総研の調査(2024年、416名)では、挙げたい月の1位が10月、2位が6月だった。ただしこの調査は今の検討者ではなく、実際の挙式件数を示すものでもない
- 6月に挙げたい二人が式場を探すのは、梅雨の半年から1年前。発信の旬は5月ではなく秋から冬にある
- 6月の迷いは雨に集まる。会場の切り替え、ゲストの移動、写真、追加費用の4つ。答えは式場にすでにあり、足りないのは先に差し出す場所
- 置く場所は3つで足りる。公式サイトの挙式ページ、見学の最後の5分、見積もりに挟む1枚の紙
- 「ジューンブライド特典」で値引きを前に出すと、6月が安い月に見える。不安への答えを先に出す
- 仮の前提では、6月の空き8枠は粗利800万円の取りこぼしになりうる。雨の約束にかかるのは社内の時間が中心で、続けるかは見学後の成約組数と、雨の質問が減ったかで決める
- 雨の日に挙式した実績は、翌年のもっとも強い材料になる。許可を取り、実際にあった日のことだけを残す
