インボイスの経過措置は2026年10月に80%から70%へ。免税の外注先に年600万円払う仮の式場では、取りこぼしが年11万円から16万円に増える
2026年10月1日から、インボイス制度の経過措置が一段階変わりました。インボイスの登録番号を持たない外注先に払った消費税のうち、式場が仕入税額として引ける割合が、80%から70%に下がっています。
先に結論を言います。外注費の年600万円ぶんが登録のない先に流れている仮の式場なら、この1段階で取りこぼす消費税は年10.9万円から16.4万円に増えます。増えるのは5.5万円です。金額だけ見れば、焦るほどではありません。ただし、この割合は2028年10月に50%、2030年10月に30%と下がり続けて、最後は0になります。そこまでの累計と、「外注先を替える」「値下げを頼む」「そのまま払う」のどれが得かの分かれ目を、前提つきのモデル計算で整理します。
使う数字のうち、割合と期間は国税庁のQ&Aで確認できたものです。式場の外注費の額や、登録のない外注先の割合は、僕が置いた仮の数字です。実際の式場の数字ではありません。自分の会場の数字に置き換える手順を、最後に書いています。
80%から70%になった、というだけの話
まず制度の中身を確認します。
インボイス制度が始まった2023年10月から、式場が外注先に払った消費税を仕入税額として引くには、原則として、外注先が発行するインボイス(適格請求書)が必要になりました。ところが、個人のカメラマンやヘアメイクのように、消費税を納めなくてよい免税事業者のまま登録していない外注先は、まだたくさんいます。そういう先への支払いについては、一定の割合までなら引いてよい、という経過措置が用意されています。
国税庁のQ&A(問113-3、令和8年4月追加)に載っている割合は、次のとおりです。
- 令和5年10月1日から令和8年9月30日まで:仕入税額相当額の80%
- 令和8年10月1日から令和10年9月30日まで:70%
- 令和10年10月1日から令和12年9月30日まで:50%
- 令和12年10月1日から令和13年9月30日まで:30%
この表で、僕が最初に引っかかったのは、2026年10月の次が50%ではなく70%になっている点です。以前は「2026年10月から50%」と説明している記事が多く、僕もそう覚えていました。今回調べて、国税庁のQ&Aが80%、70%、50%、30%の4段階になっていることを確認しました。古い解説記事を見ている人は、割合がずれているかもしれません。
もうひとつ、時期の判断です。同じQ&Aによると、使う割合は、課税仕入れの時期で決まります。役務の提供を受けた場合は、原則としてその役務がすべて終わった日が課税仕入れの日です。支払った日ではありません。商品の仕入れなら、引き渡しがあった日です。
結婚式に当てはめると、こうなります。9月30日に挙式があった組の撮影料は、挙式の撮影が終わった日で見るので80%、10月3日の挙式なら70%です。前撮りは撮影の日、ドレスの持ち込みの手配代のような役務は完了の日で見ることになります(Q&Aは役務と商品の一般論を書いていて、結婚式の個別の例は書いていません。上の当てはめは、僕がQ&Aの原則を式場の場面に当てたものです)。支払いが月末締め翌月払いでも、割合を決めるのは完了日です。経理の締め処理で、支払い月で割合を選んでしまうと、10月分に80%を使ってしまうミスが出ます。
引くための条件もあります。区分記載請求書と同じ内容が書かれた請求書の保存と、帳簿への記載が必要です。インボイスがない外注先からの請求書でも、日付、取引内容、金額、式場の宛名が書いてあればよく、この点は従来の請求書とほぼ同じです。ただ、帳簿に「経過措置の対象」と分かる記載を入れておく必要があります。会計ソフトの設定が70%に切り替わっているかは、10月の締めの前に確認したほうがいいです。
仮の式場で、取りこぼしを計算する
ここから、モデルを置きます。数字はすべて仮置きです。
- 外注費の年間合計:3,000万円(税込)。カメラマン、司会、ヘアメイク、生演奏、フラワー、映像などを想定
- そのうち、インボイス登録のない外注先への支払い:20%、つまり600万円(税込)
- 消費税率:10%
600万円は税込なので、消費税のぶんは600万円÷11で約54.5万円です。この54.5万円のうち、経過措置で引ける割合が80%なら43.6万円、70%なら38.2万円。引けなかった残りは、そのまま式場の負担になります。
| 時期 | 引ける割合 | 引けない額(年) |
|---|---|---|
| 〜2026年9月 | 80% | 10.9万円 |
| 2026年10月〜2028年9月 | 70% | 16.4万円 |
| 2028年10月〜2030年9月 | 50% | 27.3万円 |
| 2030年10月〜2031年9月 | 30% | 38.2万円 |
| 2031年10月〜 | 0% | 54.5万円 |
登録のない外注先への支払いが、これからずっと年600万円のままだとすると、2031年9月までの5年間で、引けない額の累計は約125.5万円になります。内訳は、70%の2年間で32.7万円、50%の2年間で54.5万円、30%の1年間で38.2万円です。そして2031年10月以降は、毎年54.5万円です。
3,000万円の外注費に対して年16.4万円は、率にすれば0.5%強です。式場の粗利に比べれば小さい。ここは、はっきり言っておきます。2026年10月に、あわてて外注先の全員に登録をお願いして回る必要はない、というのが僕の見方です。
ただ、この数字は、割合が下がるたびに効きが大きくなります。80%から70%の変化は、年5.5万円。70%から50%の変化は、年10.9万円です。登録のない先への支払いが増えている式場や、もともと外注の比率が高い式場では、この傾きが違ってきます。
税込の支払いに対して、何%の取りこぼしか
外注先を替えるかどうかを考えるときは、上の金額より、支払いの税込額に対する率のほうが使いやすいです。税込の支払いに対して、取りこぼす額は「(1−控除割合)÷11」で決まります。
- 80%:1.82%
- 70%:2.73%
- 50%:4.55%
- 30%:6.36%
- 0%:9.09%
これは何を意味するか。たとえば、年150万円(税込)をお願いしているカメラマンが、インボイスに登録していないとします。70%の期間なら、取りこぼしは150万円×2.73%で、年4.1万円です。50%になれば6.8万円。
このカメラマンを、登録済みの別のカメラマンに替えたとします。替えたあとの料金が、今より2.73%以上高ければ、70%の間は、替えても得になりません。150万円なら、4.1万円を超える値上がりです。同じ仕事で値段が3%以上高い先に替えるなら、今のままのほうが安く済みます。50%になれば、この境目は4.55%に動きます。
つまり、消費税の取りこぼしだけを理由に外注先を替えるのは、70%の間は割に合いにくい。外注先を替える理由になるのは、料金が同じか安い登録済みの先が見つかったとき、あるいは、すでに入れ替えを考えていたときです。腕の差や相性のほうが、2.73%よりずっと大きいのが、この仕事の現実だと思います。
外注先の側でも、10月に変わったことがあります
式場の側だけ見ていると、見落とすことがあります。
外注先が個人事業者で、インボイスに登録した人の中には、「2割特例」を使っていた人がいます。売上にかかる消費税のうち、納める額を売上税額の2割に抑えられる特例です。この2割特例は、2026年9月30日で終わりました。弥生が令和8年度の税制改正を解説したページによると、その後は、登録をきっかけに課税事業者になった個人事業者を対象に、令和9年分と令和10年分の申告で、納税額を売上税額の3割にする特例が設けられます。ここは国税庁の原文ではなく解説記事の内容なので、細かい適用条件は税理士か税務署で確かめてください。
仮に、年300万円(税込)の売上がある外注先が、この3割特例を使うとします。売上にかかる消費税は300万円÷11で約27.3万円。その3割を納めるので、納税額は約8.2万円、売上の2.73%です。
ここで、目を引く一致があります。式場が70%の間に取りこぼす率(税込支払いの2.73%)と、外注先が3割特例で納める率(税込売上の2.73%)が、同じなのです。式場が登録のない先に払って損をする額と、その先が登録して納める額が、ほぼ同じ大きさになる。これは偶然で、割合を決めた法律が同じ数字を使っているわけではないと思いますが、話し合いの場面では使えます。
登録を頼むと、外注先は年に約8.2万円(このモデルでは)の納税が増えます。式場は年4.1万円ぶん(年150万円の先なら)を取りこぼさずに済みます。得する額より、頼まれる側の負担のほうが大きいケースが出てくる。登録のお願いは、外注先に負担を頼むことだと分かっておく必要があります。
値下げを頼むのは、いちばん危ない
「登録がないなら、消費税のぶんだけ料金を下げてほしい」と頼む式場が出てくるのは、自然な流れです。取りこぼしが増えるのは式場の都合だからです。
ここは慎重に書きます。財務省、公正取引委員会、中小企業庁、国土交通省が2022年に出した「免税事業者及びその取引先のインボイス制度への対応に関するQ&A」があります。今回の検索で、本文を直接確認できたわけではなく、解説記事を通して知った内容です。解説によると、取引上の立場が強い側が、免税事業者に対して一方的に価格を下げさせると、独占禁止法の優越的地位の濫用や、下請法の買いたたきなどに当たるおそれがあるとされています。公正取引委員会は2023年5月に、インボイス制度の実施に関連した注意事例も公表しているそうです。
式場とカメラマンの関係は、式場のほうが仕事を出す側で、強い立場にあります。そこで「消費税ぶんを引いてほしい」と一方的に言えば、問題になりかねません。値下げの話をするなら、外注先の事情も聞き、価格の根拠を示して、合意の上で決める必要があります。ここは法律の判断になるので、実際にやる前に専門家に確認してください。僕が言えるのは、取りこぼし額が年16.4万円(モデルの数字)という小さな金額のために、取引先との関係や法的リスクを背負うのは、割に合いにくいということです。
簡易課税の式場なら、そもそも影響しない
ここまでの計算は、式場が「原則課税」で消費税を計算している前提です。もし式場が簡易課税を選んでいれば、仕入れにかかった消費税を個別に引かず、売上にかかる消費税に「みなし仕入率」をかけた額を引きます。この場合、外注先が登録しているかどうかは、計算に出てきません。
簡易課税を選べるのは、基準期間(法人なら前々事業年度)の課税売上高が5,000万円以下の事業者です。マネーフォワードなどの解説で確認しました。年に100組以上を扱う式場は、売上が数億円になるので、ほとんどの場合、この条件に当てはまりません。ただ、小規模な会場や、挙式だけを扱う小さな事業者、フォトウェディングの専門店などは当てはまる可能性があります。自社がどちらの方式かは、経理か顧問の税理士に聞けば、すぐ分かります。
分かれ目を整理する
このモデルで、判断が分かれるところを順番に書きます。
- 簡易課税の式場は、何もしなくてよいです。この記事の話は、原則課税の式場だけに関係します。
- 原則課税で、登録のない外注先への支払いが小さい(たとえば年100万円)なら、2026年10月の段階で何かをする理由はありません。70%の期間の取りこぼしは年2.7万円ほどだからです。
- 登録のない先への支払いが年数百万円あるなら、取りこぼしが年10万円を超えてきます。この場合は、新しく外注先を選ぶときに、登録の有無を条件の一つに入れる程度から始めます。
- 既存の外注先に登録を頼むかは、相手の負担を見てから決めます。3割特例を使っても、外注先は年に売上の2.73%を納めることになります。頼むなら、その負担を理解した上で、お願いとして話すことです。
- 値下げの交渉は、法的な確認をしてからにします。一方的にやらないことです。
- 割合が50%に下がる2028年10月までに、外注先ごとの支払額と登録の有無を一覧にしておきます。その時点で、取りこぼしは年27.3万円(モデル)になり、判断の重みが変わります。
僕は、この問題が式場の経営を揺るがすほど大きいとは考えていません。ただ、毎年少しずつ増える固定的なコストで、気づいたときには、外注先の入れ替えも交渉も、時間がかかる状態になっていることがあります。早めに数字を出しておくと、選択肢が残ります。
自分の会場の数字で確かめる手順
最後に、実際の数字でやるときの手順を書きます。
- 会計ソフトから、直近1年の外注費(撮影、司会、ヘアメイク、演奏、装花、映像など)を、支払先ごとに書き出す
- 支払先ごとに、請求書にインボイスの登録番号(Tから始まる13桁)があるかを見る。ない先の支払額を、税込で合計する
- その合計を11で割る。それが「登録のない先に払った消費税相当額」
- 70%の期間なら、その額の30%が、年間の取りこぼし。2028年10月以降は50%、2030年10月以降は70%を掛ける
- 取りこぼしが、外注費全体の何%かを確認する。このモデルでは0.5%強です。1%を超えるなら、入れ替えの優先順位をつける価値があります
- 経過措置を使っているなら、会計ソフトの控除割合が、課税仕入れの完了日で正しく切り替わっているかを確認する
計算に必要なのは、会計ソフトの支払先別の出力と、請求書の登録番号だけです。1時間もかかりません。
まとめ
- 2026年10月1日から、登録のない外注先への支払いで引ける消費税の割合は、80%から70%に下がった(国税庁Q&A 問113-3)。以後、2028年10月に50%、2030年10月に30%、2031年10月から0%
- 割合は支払い日ではなく、課税仕入れの時期で決まる。役務なら完了した日が原則
- 仮の式場(外注費3,000万円、うち登録のない先が600万円)では、取りこぼしは年10.9万円から16.4万円に増える。2031年9月までの累計は約125.5万円
- 税込の支払いに対する取りこぼしの率は、70%で2.73%、50%で4.55%、30%で6.36%。外注先を替えるのは、替えた先の料金の上がり幅がこれより小さいときだけ
- 登録を頼むと、外注先に納税の負担が生まれる。値下げは立場の強い側からの一方的な要求にならないよう、法的な確認をしてから
- 簡易課税の式場は、この計算の対象外。まず自社がどちらの方式かを確かめる
