「内金」「最低保証」「持ち込み料」を二人は聞き返さない。契約前に5つの言葉だけ言い換えると、契約後の「聞いてない」が減る
契約書や見積書に並ぶ「内金」「最低保証」「持ち込み料」。式場の人にとっては、毎日口にする言葉です。二人にとっては、人生で初めて見る言葉です。
そして二人は、その場で聞き返しません。分かったような顔でうなずいて、契約します。分かっていなかったことが表に出るのは、契約の後です。「そんな話は聞いてない」という形で出てきます。
この記事の結論を先に書きます。契約前の説明で、言い換えが要る言葉は5つに絞れます。仮予約、内金、最低保証、持ち込み料、人数確定です。この5つを、式場の言葉のまま渡すのをやめて、二人の生活の言葉に言い換えて渡す。それだけで、契約後の「聞いてない」は減らせると僕は考えています。
先にお断りしておきます。この記事には調査の数字を1つも使っていません。「言い換えるとキャンセルが何%減る」という数字は、僕は持っていません。書くのは、言葉ごとに二人がどこでつまずくか、どう言い換えるか、どの順で渡すか、という仕組みの話です。式場ごとに規約の中身は違うので、自分の会場の規約に置き換えて読んでください。
二人が聞き返さない理由
そもそも、なぜ聞き返さないのか。ここを押さえておくと、対策が「丁寧に説明する」では足りない理由が見えます。
理由は3つあります。
1つ目は、聞き返すと自分の無知が目立つからです。見学の場で、担当者は慣れた口調で話しています。隣には恋人がいます。「内金って何ですか」と聞くのは、思ったより勇気が要ります。
2つ目は、聞き返す先の言葉も分からないからです。「最低保証」と言われて、何が分からないのかを言葉にするのも難しい。分からない部分が言語化できないとき、人は質問ではなく、うなずきを選びます。
3つ目は、結婚式が初めての買い物だからです。住宅や車なら、家族や友人から事前に話を聞いている人が多い。結婚式は、ほとんどの人が一度しか通りません。親も先輩も、自分の時の記憶しかありません。式場ごとに用語も微妙に違うので、先輩の話もそのまま使えません。
つまり、説明を増やしても、聞き返しが増えるとは限りません。必要なのは、聞き返さなくても分かる形で渡すことです。
言い換えの作り方。3つのルール
5つの言葉に入る前に、言い換えの作り方を決めておきます。やみくもに平易にすると、今度は正確さが落ちて、規約との食い違いが出ます。
ルール1。まず「その言葉が、二人のお金や時間をどう動かすか」を一文で書く。言葉の定義ではなく、動きを書きます。「内金とは、契約時に先に預けるお金です」ではなく、「内金は、契約した日に払う最初のお金です。そのあと、残りを式の前に払います」。いつ、いくら動くかが見えれば、二人は自分の財布に置き換えられます。
ルール2。やめるとき、減らすときの扱いを必ず同じ文に入れる。二人が不安なのは、払うことではなく、戻らないことです。「これは戻ります」「これは戻りません」を、言葉の説明と同じ息で言います。
ルール3。数字は、二人の見積もりの数字で言う。一般論の例えは使いません。「たとえば300万円の場合」ではなく、いま二人が見ている見積書の数字を指さして言います。
この3つで、5つの言葉を見ていきます。
仮予約
仮予約は、日取りを一時的に押さえておく運用です。式場側の言葉は「仮予約」「仮押さえ」「日にち保留」とまちまちで、期限も会場ごとに違います。
つまずく点は2つあります。
1つは、仮予約は契約ではないのに、二人には「ほぼ決まり」に聞こえることです。反対に、「仮だからキャンセルしても何もない」と思い込む二人もいます。実際には、期限を過ぎれば枠が自動的に解放される会場が多いはずです。ここは会場の運用次第なので、自分の会場の規約で確かめてください。
もう1つは、期限が過ぎたあとの扱いが曖昧に伝わることです。「期限は1週間です」と言われても、二人が覚えているのは「1週間」で、「何の期限か」ではありません。
言い換えの例はこうなります。
「この日は、来週の土曜まで、お二人のためにほかの方の予約を止めます。その間は費用も契約もありません。土曜を過ぎると、ほかの方が入れる状態に戻ります。」
ここで「費用がかからない」と言い切れるのは、自分の会場の規約がそうなっているときだけです。仮予約に手付金を取る会場なら、その扱いを同じ文に入れます。ルール2のとおり、戻るか戻らないかを同じ息で言う。これが仮予約の言い換えの中心です。
内金
内金は、契約時に払う最初のお金です。会場によって「申込金」「予約金」「手付金」と呼び名が変わります。ここが1つ目の落とし穴です。呼び名が違うと、二人が別の会場の説明と混ぜてしまいます。
さらに厄介なのは、内金の性格が会場ごとに違うことです。最終的な総額に充てられる前払いなのか、キャンセル時に一部が戻らない預かり金なのか。この違いを、二人は説明されないまま契約書に署名します。
言い換えの例です。
「内金は、契約した日に払うお金です。30万円としましょう。これは最終の総額の中に含まれていて、式の前の支払いのときに、その分は引かれます。お二人が途中でやめる場合、このうちいくらが戻るかは、契約書の第〇条にあります。この場で読み上げます。」
「30万円としましょう」は、見積書の数字を使うという意味です。ここでは例として書いています。実際には二人の契約書の数字で言います。
内金で大事なのは、「戻るか戻らないか」を契約日に口頭で確認することです。契約書に書いてあることと、二人が理解していることは、別の話です。書いてあれば説明した、にはなりません。
最低保証
最低保証は、披露宴の人数が減っても、決めた人数分の料理や飲み物の代金は請求する、という取り決めです。「最低保証人数」「最低人数」と呼ばれることもあります。
二人がつまずく点は、「人数が減ったら料理代も減る」と思っていることです。多くの買い物は、使った分だけ払います。最低保証は、その感覚と逆を行きます。
言い換えの例はこうなります。
「披露宴に来る人が何人になっても、50人分のお料理のお代金までは、お支払いいただきます。たとえば当日に45人になっても、50人分です。逆に55人になれば、55人分になります。」
この例の「50人」「45人」「55人」も、二人の見積書の人数に置き換えて言います。
もう1つ、二人が気づきにくいのが、最低保証が「決めた日」に効くことです。招待客の人数が確定するのは、式の何日前か。最低保証の人数は、いつの時点で動かせなくなるのか。ここまで言い換えて初めて、二人は自分のゲストリストの作り方を変えられます。
最低保証は、損益の面でも論点のある運用です(別の記事で、人数を50人から40人に下げたときの損益を仮の式場で計算しています)。ここで扱うのは、損益ではなく、二人にどう伝えるかです。
持ち込み料
持ち込み料は、衣装、カメラマン、装花、引出物などを、式場の提携先以外から持ち込むときに取る料金です。
つまずく点は、名前から意味が取れないことです。「持ち込み料」と聞いた二人の頭には、「物を持ち込むだけで、なぜお金が要るのか」という疑問が浮かびます。ここで説明が足りないと、疑問は不信に変わります。
多くの式場が持ち込み料を取る背景には、式場の収益構造があります。衣装、写真、装花といった項目は、式場の粗利の一部を支えています。持ち込みが増えれば、その項目の売上が立ちません。持ち込み料は、その穴を一部埋めるための料金、という位置づけです。
ただ、この背景を二人に話しても、あまり響きません。二人が知りたいのは、式場の事情ではなく、自分の財布にどう効くかだからです。
言い換えの例です。
「衣装を外でお借りになる場合、会場で1着につき〇万円がかかります。外のショップでの料金と、この〇万円を足した額で、会場のドレスと比べてみてください。比べやすいように、会場のドレスの料金表をお渡しします。」
ポイントは、持ち込みを止めるのではなく、比べる材料を渡すことです。二人が自分で比べて選んだ結果なら、その後の「聞いてない」は出にくくなります。
人数確定
人数確定は、披露宴の最終的な人数を式場に伝える期限のことです。「最終人数」「確定人数」とも言います。式の何日前かは、会場ごとに違います。
二人がつまずく点は、「確定」の重さです。確定の日までは人数を動かせるが、確定後は動かせない。この当たり前に聞こえる構造を、二人は自分の準備の日程に結びつけて考えていません。
実際に起きるのは、こういう流れです。招待状の返信を待っているうちに、確定の日が来る。返信がまだ来ていないゲストを、二人は「たぶん来る」で数える。確定した後で欠席の連絡が入る。最低保証があれば、減った分の料理代は戻ってきません。
言い換えの例です。
「人数は、式の14日前に決めていただきます。それ以降は、減らしても増やしても、お料理の数は動かせません。招待状の返信の締め切りは、そこから逆算して、式の5週間前くらいに設定するのが目安です。」
14日前と5週間前は、ここでは例として書いています。会場の運用に合わせて置き換えてください。大事なのは、確定の日を二人の準備のカレンダーに落として渡すことです。確定日だけを伝えても、二人は逆算できません。
5つの言葉を、どの順で渡すか
5つとも、契約当日に一度に説明する必要はありません。むしろ、一度に渡すと、二人は何も覚えられなくなります。渡す時期を分けるほうが現実的です。
見学のとき。仮予約を渡します。この時点の二人にとって必要なのは、日取りを押さえるかどうか、という判断だけです。
契約の直前。内金と最低保証を渡します。この2つは、お金の動きと直結していて、契約書に署名する前に理解してもらう必要があります。
契約の直後。持ち込み料と人数確定を渡します。持ち込み料は、衣装や写真の打ち合わせが始まる前に、人数確定は、招待状を作り始める前に、それぞれ知っておけばよい言葉です。
この順の考え方は、「二人がその言葉を使って判断する、直前に渡す」です。早すぎる説明は忘れられ、遅すぎる説明は「聞いてない」になります。
言い換えを、紙1枚にしておく
説明を担当者の記憶と話術に任せると、担当者によって内容がぶれます。5つの言い換えは、紙1枚にしておくのが堅いです。
紙の作り方は、次のとおりです。
- 5つの言葉を、それぞれ2〜3行で書く。1行目は「いつ、いくら動くか」、2行目は「戻るか、戻らないか」、3行目に二人の数字を書き込む欄を置く
- 担当者が、見積書の数字をその場で書き込んで渡す。印刷済みの例の数字は使わない
- 紙の下に、「分からない言葉があれば、ここに丸をつけてください」という欄を置く
最後の欄が、聞き返せない二人の代わりになります。口で聞くのは難しくても、紙に丸をつけるのはできます。丸がついた言葉を、次の打ち合わせの最初に説明する。これが、聞き返しを仕組みにする方法です。
言い換えで失敗しやすいこと
最後に、気をつけたい失敗を3つ書きます。
1つ目は、正確さを落とすことです。平易な言葉にすると、「だいたいこういうことです」で終わりがちです。内金のように、戻る・戻らないが絡む言葉で「だいたい」を使うと、後で規約と食い違います。言い換えのあとに、必ず「契約書の第〇条」と、根拠の場所を添えます。
2つ目は、言い換えを営業トークに使うことです。「最低保証があるので安心です」のような言い方は、言い換えではなく、評価の押しつけです。言い換えは、事実を二人の生活の言葉に移すだけにします。
3つ目は、言い換えたことで、二人に確認を求めないことです。紙を渡して終わり、にしない。「いまの説明で、どこか引っかかったところはありますか」と、一度だけ聞きます。聞き返せない二人は、この問いにも「大丈夫です」と答えるかもしれません。それでも、聞いたという事実と、紙の丸の欄が、次の打ち合わせへの橋になります。
まとめ
- 二人が聞き返さないのは、無知が目立つのが嫌だから、何が分からないかを言葉にできないから、結婚式が初めての買い物だから、の3つが重なるため
- 説明を増やすより、聞き返さなくても分かる形で渡す。言い換えが要る言葉は、仮予約、内金、最低保証、持ち込み料、人数確定の5つ
- 言い換えは、言葉の定義ではなく「いつ、いくら動くか」を書く。戻る・戻らないを同じ息で言い、数字は二人の見積書のものを使う
- 渡す時期は分ける。見学で仮予約、契約直前で内金と最低保証、契約直後で持ち込み料と人数確定
- 言い換えは紙1枚にして、担当者の話術に頼らない。「分からない言葉に丸をつける欄」が、聞き返せない二人の代わりになる
- 失敗しやすいのは、正確さを落とすこと、営業トークにすること、確認を求めないこと
