来館・成約

式場の成約特典の期限は、持ち帰った二人が戻る日数で決める

見学当日の成約特典を「当日限り」にするか、数日の猶予を付けるか。式場の経営者が決めるとき、材料にしがちなのは「他の式場がどうしているか」と「その場で決めてもらえる件数」の2つです。

僕は、期限を決める材料は別にあると考えています。持ち帰った二人が、見学から何日目に戻ってくるか。この日数が分かれば、特典の期限は勘ではなく数字で置けます。

この記事では、期限の長さで何が変わるのかを、来館100組を仮置きした計算で確かめます。そのうえで、戻り日数を自社の記録から出す手順と、当日限りが向く条件・向かない条件を整理します。

先に断っておくこと:数字はすべて想定です

この記事の数字には、出典がありません。当日限りの特典の効果を、式場の実績として公表した調査を僕は見つけられませんでした。検索しても出てくるのは、結婚情報サイトの来館特典や、式場ごとの成約特典の中身(割引、ドレスの無料など)の案内ばかりで、「期限を何日にすると契約がどう動くか」を測ったものは見当たりませんでした。

だから、以下の計算は「仮に〜とすると」で進めます。目的は、この数字が正しいと言うことではありません。期限の長さを動かすと、どの項目が動くのかという構造を見せることです。自社の数字に置き換えれば、そのまま使えます。

期限で動くのは契約数より「特典を渡す相手」

特典の期限を短くすると、当日に決める組は増えます。ここまでは多くの人が想像するとおりです。ただ、見落とされやすいことが2つあります。

1つ目は、当日に決めた組の中に「特典がなくても決めていた組」が混ざっていることです。見学の最後に「ここにします」と言った二人は、特典が付いたから決めたのか、もともと決めていたのか、式場側からは見分けられません。期限を短くしても、この組には特典の原価がそのまま乗ります。

2つ目は、持ち帰る組の扱いです。当日限りの特典は、持ち帰った二人にとっては「もう使えない」ものになります。後日に戻ってきて契約しても、特典は付きません。戻ってくる組は減るかもしれませんし、戻ってきて特典が無いことに不満を持つかもしれません。

つまり期限の長さは、契約数を直接動かすというより、次の2つの割合を動かします。

  • 当日に決める組のうち、特典がなくても決めていた組の割合
  • 持ち帰った組のうち、後日に戻ってくる組の割合

この2つがどう動くかで、特典にかけたお金が増えた契約に変わったのか、もともと決まっていた契約に配っただけなのかが決まります。

来館100組で比べるモデル計算

仮に、次の前提を置きます。すべて想定です。

  • 来館は100組
  • 特典がまったく無い場合、当日に10組が決め、持ち帰った90組のうち14組が後日に戻って契約する。合計24組
  • 特典の原価は、契約1組あたり10万円
  • 契約1組あたりの粗利は、特典の原価を引く前で150万円

この状態から、期限を4通りに置いて、当日契約と後日契約の組数を想定します。

期限 当日に契約 後日に契約 合計 特典なしからの増分
当日限り 20組 5組 25組 +1組
7日間 15組 11組 26組 +2組
14日間 13組 14組 27組 +3組
期限なし 12組 15組 27組 +3組

当日限りにすると当日契約は10組から20組に倍増します。数字だけ見ると大成功に見えます。ただし後日に戻る組が、特典の無い状態の14組から5組に減る、という想定を置いています。持ち帰った二人にとって、特典が消えた式場は「もう割引は無い式場」に変わるからです。

次に、特典の原価を合計して、増えた1組あたりにいくらかかっているかを出します。計算は次のとおりです(契約した組すべてに特典を渡す前提)。

期限 特典の原価合計 増えた契約1組あたりの特典費
当日限り 250万円 250万円
7日間 260万円 130万円
14日間 270万円 90万円
期限なし 270万円 90万円

当日限りは、増えた契約が1組しかないのに、25組すべてに特典の原価がかかります。増えた1組の粗利150万円に対して、特典費は250万円です。7日間は増えた2組の粗利300万円に対して特典費260万円で、ほとんど残りません。14日間は増えた3組の粗利450万円に対して270万円で、180万円が残ります。

ここで大事なのは、この表が示す結論の強さです。置いた数字を変えれば、順位はいくらでも入れ替わります。仮に、特典の原価が3万円なら、当日限りでも増えた1組あたり75万円で収まります。つまり、「期限は長いほうがいい」とは言えません。言えるのは次のことです。

  • 特典の原価が重いほど、「特典がなくても決めた組」に渡す無駄が痛くなる
  • 持ち帰った組の戻り方が期限で大きく変わるなら、期限を短くしても契約は増えない

戻り日数は自社の記録から出せる

では、自社の持ち帰った組は何日目に戻ってくるのか。これは、すでにある記録で出せます。

用意するのは、過去1年分の契約について、次の2つの日付です。

  • 見学した日(初回来館日)
  • 契約した日

この差を数えて、日数ごとに契約が何組あったかを並べます。区切りは「当日」「翌日〜3日」「4〜7日」「8〜14日」「15日以降」くらいで十分です。

見るのは次の3点です。

  • 当日の割合:当日契約が契約全体の何割か。これが高いほど、当日限りの影響を受ける組が多い
  • 7日以内の割合:1週間以内に戻った組が全体の何割か。ここが厚いなら、7日間の猶予で拾える
  • 15日以降の割合:2週間を超えて戻る組が多いなら、特典の期限と契約の動きが噛み合っていない可能性がある。特典とは別の理由(親への説明、他の式場の見学)で決めている

注意したいのは、複数回の来館を経て契約した組の扱いです。初回来館日から数えるのか、特典を提示した来館日から数えるのかで、数字が変わります。特典の期限は「特典を提示した日」から数えるものなので、特典を提示した来館日を起点にします。記録が分かれていなければ、初回来館日から数えて、複数回来た組は注釈を付けておきます。

この集計は、1回で終わらせず、月1回は見直します。季節で戻り方が変わるからです。仮に、秋の土日は他の式場も見に行くので戻りが遅く、平日は早い、ということがあり得ます。これも想定ですが、自社の記録なら確かめられます。

当日限りが向く条件、向かない条件

期限の長さは、次の条件で分かれます。記録を取る前でも、いくつかの条件は判断できます。

当日限りが向きやすい条件

  • 特典の原価が軽い(ギフトや小さな割引で、粗利への影響が小さい)
  • 当日に決める組が全体の大半で、持ち帰った組がほとんど戻ってこない
  • 枠に限りがあり、本当にその日に押さえないと日程が埋まる(空きの実態があるとき)

当日限りが向きにくい条件

  • 特典の原価が重い(挙式料の大幅な割引、ドレスの無料など)
  • 持ち帰った組の多くが、1〜2週間のうちに戻ってくる
  • 二人だけでなく親やパートナーの同意が必要で、その場で決められない組が多い

「空きの実態があるとき」だけは、条件が別です。他の式場でも同じ日取りで押さえに来る組がいて、本当に埋まるのであれば、期限は式場の都合ではなく事実になります。このときは、特典の期限ではなく、日程の仮押さえの期限として説明できます。特典と日程の期限を混ぜると、「特典のために急かされた」と受け取られます。分けて伝えるのが大切です。

期限の置き方:特典と日程を別の話にする

期限を決めたら、次は伝え方です。ここで、見学の最後に「本日中にご契約いただければ」と切り出すと、二人は式場に急かされたと感じます。これは、持ち帰る組の戻りを遠ざけます。

僕が、やり方として整理するなら、次の3つです。

  1. 見学の最初に特典の存在と期限を伝える。 最後に初めて言うのではなく、案内を始める前に一言で済ませます。「今日ご覧になった方には、〇日までにご契約の方に付く特典があります」くらいです。期限を後出しにしないだけで、押し付けの印象は薄まります
  2. 見積書に特典と期限を書く。 口頭だけだと、持ち帰ったあとに「いつまでだったか」が曖昧になります。紙に書いてあれば、二人で話し合うときの材料になります
  3. 期限の理由を、式場の都合として言わない。 「社内の決まりで」という説明は、二人にとって意味がありません。期限の理由を言えるのは、日程の仮押さえなど、実際に動く事実があるときだけです。事実がなければ、理由は言わず、期限だけを書きます

期限が切れたあとの対応も、先に決めます。

  • 戻ってきた二人に、延長を個別の判断で出すのか、出さないのか
  • 延長を出すなら、一度だけ・1回7日まで、のようにルールにする

個別に延長を出し続けると、期限が意味を持たなくなります。さらに困るのは、延長を出した二人と出さなかった二人で、あとから不公平が表に出ることです。延長するかしないかを担当者の裁量にせず、ルールとして書いておけば、説明も揃います。

期限の数字は、結局いくつにするのか

僕なら、まず「7日間」か「14日間」から始めます。理由は2つあります。

  • 当日限りは、効果を測る前に、持ち帰った組の戻りを失うリスクが大きい
  • 期限なしは、特典が常態化して、「いつでも付く特典」になる

そのうえで、前述の集計から、戻り日数の分布を見ます。7日以内に戻る組が多ければ7日、8〜14日にも厚みがあれば14日にします。ここまで集計して、初めて「当日限り」を試す価値があるか判断できます。

もう1つ、期限を変えたときに見るべき数字を決めておきます。契約数だけを見ると、当日契約が増えて成功に見えます。見るのは次の4つです。

  • 当日契約の組数
  • 期限内に後日戻って契約した組数
  • 来館100組あたりの合計契約数
  • 契約1組あたりの特典費

この4つで、期限の変更が増えた契約を生んだのか、特典を前倒しで配っただけなのかが分かります。変更の前後で、少なくとも2か月は同じ指標を取ります。1か月だけだと、季節や日取りの偏りで判断を誤ります。

特典が効いたかを、あとから確かめる方法

もう1つ、記録として残したいのが、契約した二人に聞く一問です。契約の手続きが終わったあとで、「今回、決めた一番の理由は何でしたか」と選択式で聞きます。選択肢に「特典があったから」を1つ入れておけば、特典が決め手だった組の割合が、おおまかに分かります。

これはあくまで本人の自己申告です。特典が決め手だったと答えた二人は、特典がなくても決めていたかもしれません。逆に、決め手を別の理由と答えた二人も、特典で背中を押されたのかもしれません。それでも、期限を変えた前後でこの割合がどう動くかを見れば、特典の役割が大きくなったのか小さくなったのかは分かります。

まとめ

  • 成約特典の期限は、当日に決める件数ではなく、持ち帰った二人が戻ってくる日数で決める
  • 期限を短くすると当日契約は増えやすいが、特典がなくても決めていた組にも原価が乗り、持ち帰った組の戻りも減りうる
  • 来館100組を仮置きした計算では、当日限りは増えた契約1組あたりの特典費が最も重くなった。数字は想定で、特典の原価が軽ければ順位は変わる
  • 戻り日数は、過去1年の契約について、特典を提示した日から契約日までの差を数えれば出せる
  • 当日限りが向くのは、特典の原価が軽く、日程の空きに実態があるとき。原価が重いときや、持ち帰る組が多いときは向かない
  • 期限は見学の最初に伝え、見積書に書き、延長はルールにする。特典の期限と日程の期限は別の話として分ける
  • 変更の前後で、当日契約・後日契約・来館100組あたりの契約数・契約1組あたりの特典費を2か月は見る