挙式の日に入籍したい二人に、式場が契約時に確認する3つのこと
「挙式をする日に、婚姻届も出したいんです」。契約の打ち合わせで、二人からこう言われることがあります。記念日をひとつにまとめたい、という気持ちは自然です。
式場がここで「いいですね」とだけ返すと、あとで困ることがあります。挙式の日が土日祝なら、役所の窓口は閉まっています。婚姻届は出せますが、その場で受け付けられるわけではありません。
結論から書きます。この相談を受けたら、式場は契約の時点で3つのことを確認します。提出する日と時間帯、届書を役所で事前に確認してもらったか、当日だれが持っていくか。この3つを決めておけば、二人の一番大事な日に起きる行き違いはほとんど防げます。
この記事で数字を使うのは最後の計算だけで、すべて僕が置いた仮のものです。役所の運用は自治体ごとに少しずつ違うので、ここでは横浜市、広島市、東京都中央区の公開ページに書かれていることを土台にしています。
土日祝に出した婚姻届は、その場では受理されない
婚姻届は、役所の窓口が開いていない時間でも預かってもらえます。広島市は、各区役所で休日や時間外でも戸籍の届出を受け付けていると案内しています。
ただし、預かってもらうことと、受け付けて完了することは別です。横浜市のページには、窓口の開いている時間の外では、受付後すぐに内容を確認できないため「預かり扱い」になる、と書かれています。職員が内容を見るのは、次の開庁日です。
不備がなければ、提出した日にさかのぼって受理されます。横浜市は、戸籍に記録される届出日は提出した日で、その届出日が婚姻の成立日になると説明しています。
つまり、挙式の日の夜に出した婚姻届に不備がなければ、二人はその日に入籍したことになります。二人が望む形は、仕組みとしては実現できます。
問題は、不備があった場合です。広島市も中央区も、不備があれば後日あらためて窓口に来てもらうことがある、と案内しています。このとき成立日がどう扱われるかは、不備の中身と自治体で変わります。ここは式場が断定できる範囲を超えます。提出先の役所に聞くしかありません。
もうひとつ見ておくことがあります。文京区は、混雑が見込まれる日には、受理していいかの判断まで数日かかることがある、としています。ゾロ目の日や大安の土日は、まさに二人が入籍を重ねたがる日です。人気の日ほど、確認に時間がかかる可能性があります。
3つ確認するのは、役所に聞く前に式場が整理できるから
式場の人は、婚姻の手続きの専門家ではありません。役所の運用を式場が説明しようとすると、間違えたときに責任が残ります。だから式場の仕事は、手続きを教えることではなく、二人が確認すべきことを漏らさず並べることです。
確認は3つです。
1. 提出する日と時間帯
まず、二人が「その日に入籍した」と言いたい日が、挙式の日で合っているかを聞きます。挙式の日と提出の日を別にする人もいます。
次に、その日が役所の開庁日かを見ます。平日の昼間に挙式するなら、挙式の前に窓口で出して終わらせることもできます。土日祝や夜なら、預かり扱いになります。
二人に伝えるのは、「当日の夜に出せば、不備がなければ当日付けになる。ただし受理の確認は次の開庁日になる」という順番です。この順番を知らないまま当日を迎えると、二人は「出したのにまだ入籍になっていない」と不安になります。
2. 届書を、役所で事前に確認してもらったか
横浜市は、なるべく提出日より前の開庁時間内に、届書に不備がないかの確認を受けるよう勧めています。中央区は、時間外に出す場合は区役所での事前相談をすすめ、日中につながる電話番号を届書に書くように案内しています。
ここは二人にとっても、式場にとっても一番効く確認です。事前に見てもらった届書なら、預かり扱いで次の開庁日に見られても、不備で呼び出される可能性が下がります。
式場から二人に聞くのは、次の3点だけにします。
- 届書は、すでに役所の窓口で見てもらったか
- 証人の欄は埋まっているか(横浜市は、国内の届出で証人が2人必要だと案内しています)
- 日中につながる電話番号を書いたか
式場が届書の中身を点検する必要はありません。「窓口で見てもらいましたか」と聞くだけで十分です。
3. 当日だれが持っていくか
三つ目は、運び役です。挙式の日の二人は、朝からヘアメイクと着付けで動いています。夜に役所へ行く余裕はあまりありません。親族か友人が代わりに持っていくなら、その人の名前と、提出する時間帯を決めておきます。
提出先も確認しておきます。横浜市は、二人のどちらかの本籍地、または所在地(今住んでいる場所)の区役所のどちらでも出せると案内しています。会場の近くの役所でも出せる場合があるので、運び役が行きやすい場所を選べます。ただし、自治体によって扱いが違うことがあるので、これも事前に聞いてもらいます。
僕の考えははっきりしています。式場が婚姻届を預かって、代わりに出しに行くことは、勧めません。紛失や、提出の遅れ、不備の連絡が式場に入ることがあるからです。式場は「持っていく人を決めてください」と二人に頼む側に立ったほうがいいです。
挙式の演出で婚姻届に署名する場合
人前式の演出として、婚姻届や結婚証明書に二人が署名する式があります。ゲストの前で署名する場面は、写真にも残りやすく、人気があります。
ここに落とし穴があります。演出で書いた婚姻届を、そのまま役所に出す二人がいることです。人前で緊張しながら書くと、書き損じや押印の間違いが出やすくなります。訂正の方法は決まっていて、二重線と訂正印が要ります。
式場の提案としては、次の分け方が収まりがいいです。
- 演出で署名するのは、結婚証明書(式場や専門業者が用意した記念の用紙)にする
- 役所に出す届書は、事前に書いて、窓口で確認を受けたものを別に用意する
- どうしても演出の届書を出したいなら、役所が用紙の使い方を認めるか、事前に聞いておく
届書の書式や使い方は、法務省の様式に決まっています。装飾のある記念用紙を役所に出す場合は、受け付けてもらえるかが自治体の判断になります。ここは「聞いてみてください」と二人に頼むのが、式場の線です。
仮の数字で、確認の手間を計算する
3つの確認は、手間が少ない割に、効果が見えにくいです。そこで、仮の数字で釣り合う条件を計算します。数字はすべて僕が置いた想定で、実際の式場のものではありません。
仮の前提は次のとおりです。
- 年間の挙式が300組
- そのうち10%の二人が「挙式の日に入籍したい」と言う(30組)
- 確認にかかる時間は1組20分(契約時のヒアリング5分と、挙式前週の連絡15分)
- 担当者の時間単価は2,000円
30組に20分ずつかけると、10時間です。時間単価2,000円なら、年間2万円ほどの手間です。1組あたりでは約670円にあたります。
一方で、確認をしなかった場合に起きることを考えます。不備や行き違いで二人が「入籍の日がずれた」と感じたら、口コミに書かれたり、紹介が減ったりするかもしれません。ここは数字にできません。そこで逆から計算します。
1組から得る粗利を仮に100万円とします。確認の手間の年間2万円は、粗利の2%にあたります。つまり、この確認で年間に失う紹介や成約が、1組の2%、言い換えれば50年に1組分を防げれば、元は取れます。
もちろん、この計算は想定です。ただ、手間のほうは桁が小さく、判断を左右しません。迷う理由は、手間ではなく、式場が役所の手続きに踏み込みすぎないかという線引きにあります。
契約書や案内に入れる一文
確認は口頭で終わらせると、担当が替わったときに消えます。契約時のヒアリングシートに、次の3行を足しておくと残ります。
- 入籍日を挙式の日にする希望があるか(はい・いいえ)
- 「はい」の場合、提出する日時と、持っていく人の名前
- 届書を役所で事前に確認してもらったか(済・未)
「はい」と答えた二人には、挙式の2週間前に、同じ質問をもう一度送ります。届書を確認してもらったか、運び役は決まったか。ここで「まだです」と返ってきたら、まだ間に合います。直前の1週間では、役所が閉まっている日もあり、間に合いません。
式場が伝える文面は、短いものでいいです。
- 土日祝や夜に出した婚姻届は、役所では預かり扱いになります
- 不備がなければ、提出した日付で受理されます(提出先の役所の案内です)
- 不備があった場合の扱いは、提出先の役所にお聞きください
役所の運用を式場の名前で断定しないことが、この文面のコツです。
日の選び方は別の話
最後に、日の選び方との関係を整理します。二人が入籍を重ねたい日は、ゾロ目や記念日など、特別な日が多いです。その日が平日なら、挙式を土日に寄せつつ、入籍だけ平日にすることもできます。この判断は、式場の予約枠の話と重なりますが、婚姻届の確認とは別のものです。ここで確認した3つは、日が決まったあとに効く話です。
まとめ
- 挙式の日に入籍したい二人は、仕組みの上ではその願いを叶えられる。土日祝や夜の届出は預かり扱いで、不備がなければ提出した日付で受理される(横浜市の案内)
- 不備があると、後日窓口に来てもらうことがある(広島市、中央区の案内)。成立日の扱いは自治体と不備の内容で変わるので、式場は断定しない
- 式場が契約時に確認するのは3つ。提出する日と時間帯、届書を役所の窓口で事前に確認してもらったか、当日だれが持っていくか
- 式場が届書を預かって代わりに出すことは勧めない。紛失や遅れの責任が式場に残る
- 演出で署名するのは結婚証明書にして、役所に出す届書は事前に確認を受けた別のものを用意する
- 仮の計算では、年間300組のうち30組に20分ずつで、年間約2万円の手間。粗利100万円の2%で、判断を左右しない
- ヒアリングシートに3行を足し、挙式の2週間前にもう一度同じ質問を送る
