持ち帰った二人の意見が割れたとき、式場が先に確かめること
見学のあと「いったん持ち帰ります」と言った二人が、そのまま連絡をくれなくなることがあります。式場側は「迷っているのだろう」と考えて、比較用の資料や特典の案内を送りがちです。
ただ、持ち帰った二人は、迷っているとは限りません。意見が割れていることがあります。迷っている二人は「どれがいいか分からない」状態で、割れている二人は「二人それぞれに、もう答えがある」状態です。この二つは、渡すものが違います。
この記事では、意見が割れた二人に対して、式場が先に確かめることを整理します。結論は、比較表を足す前に、何が割れているのかを聞き分けるということです。割れ方は大きく4つに分けられます。
なお、この記事に出てくる数字は、調査の結果ではありません。考え方を見せるために僕が置いた仮の数字です。自社の式場に当てはめるときは、自社の数字に置き換えてください。
迷っている二人と、割れている二人は違います
見学後の二人は、だいたい次のどちらかの状態にあります。
- 迷っている:式場の良し悪しを判断する材料が足りない。比較先がまだ多く、決め手が見つかっていない
- 割れている:二人のうち一方、または両方が、すでに好みや結論を持っている。ただし二人の結論が合っていない
迷っている二人には、材料を足せば進みます。見積もりの内訳、試食の感想、先輩カップルの声などです。
一方、割れている二人に材料を足しても、進まないことが多いです。理由は単純で、足した材料が「どちらの側の主張を強めるか」を、二人とも読んでしまうからです。写真の多い資料はおしゃれを重視する側の味方になり、見積もりの内訳は金額を気にする側の味方になります。式場が良かれと思って送った資料が、二人の言い合いの材料になることもあります。
だから、先にやるのは材料を送ることではなく、割れ方を知ることです。
割れ方は4つに分けて聞き取れます
式場の現場で聞く二人の意見の食い違いは、僕の整理では次の4つに収まります。実際の接客では混ざることもありますが、まず主なものを一つ決めると、次の一手が選べます。
1. 基準の割れ
一方は「雰囲気や写真映え」を見ていて、もう一方は「料理や居心地」を見ている、というように、何を良し悪しの基準にするかが違うタイプです。
「どちらの会場も良かったのに、決め手で揉めた」と聞こえたら、このタイプを疑います。式場への不満ではなく、二人の価値観の違いが表に出ているだけです。
2. 予算の割れ
総額の上限が二人でずれているタイプです。片方は親からの援助を見込んでいて、もう片方は自分たちの貯金だけで考えている、といった場面です。
見積もりを見た瞬間の反応に出ます。金額を見て黙った人と、すぐに「大丈夫」と言った人が並んでいたら、このタイプかもしれません。
3. 日取りの割れ
挙式の時期や曜日で食い違うタイプです。仕事の繁忙期、親族の都合、縁起や季節の好み、結婚記念日にしたい日など、理由はいろいろあります。
このタイプは、式場の良し悪しとは関係なく、「その日が取れるか」が決め手になります。人気日の仮押さえ期限が近いときは、特に急ぎます。
4. 決める人の割れ
誰が決めるのかが、二人の間で曖昧なタイプです。本人たちは一致していても、親や親族の意向が強く、二人だけでは決められないこともここに入ります。
「親にも見てもらってから」という言葉が出たら、このタイプの入口です。見学に来ない決裁者がいる、という状況に近いです。
聞き分けるのは、質問を1つ増やすだけです
聞き分けのために、長いヒアリングは要りません。見学の最後か、翌日の連絡の中に、次の質問を一つ置きます。
「今日見たなかで、お二人それぞれが一番良いと思った点は何でしたか?」
この質問には、二人それぞれが答える余地があります。答えが同じなら、割れは小さいと分かります。答えが違うなら、そこが基準の割れの入口です。さらに、片方が答えに詰まったなら、その人はまだ決める側に立っていないかもしれません。
質問の仕方でひとつだけ注意があります。「どちらが決めますか」とは聞かないことです。二人の力関係を式場が確かめる形になり、聞かれた側が構えます。「それぞれ」という言葉で、二人に同じ重さで話してもらいます。
割れ方ごとに、渡すものが変わります
聞き分けができたら、渡すものを替えます。比較表や特典の案内を一律に送るのをやめる、ということです。
| 割れ方 | 渡すもの | 渡さないもの |
|---|---|---|
| 基準 | 二人それぞれの「良かった点」を並べたメモ。両方を満たす過ごし方の例 | 片方の基準だけを強める資料 |
| 予算 | 総額が変わる項目の一覧と、変えても満足度が落ちにくい項目の提案 | 値引きの案内だけの連絡 |
| 日取り | 候補日ごとの空き状況と、仮押さえの期限、期限が来たときの扱い | 「人気日なので早めに」だけの催促 |
| 決める人 | 親や親族に見てもらうための見学枠、持ち帰って説明できる一枚の資料 | 二人だけに結論を迫る連絡 |
どの行にも共通するのは、二人のどちらかの味方にならないことです。式場が味方につくと、その場は決まっても、あとから「あの人に押し切られた」という感情が残ります。契約後の打合せがぎくしゃくする原因になります。
仮の数字で、聞き分けの価値を見てみる
ここからは、仮の数字で考えます。調査の結果ではなく、考え方の確認用です。
- 月の見学組数:60組
- 見学した月の成約率:30%(18組)
- 持ち帰りになった組:30組
- そのうち、意見が割れている組:半数の15組と仮定
- 割れている組の最終的な成約率:割れ方を聞かずに一律の資料を送ると10%、割れ方を聞き分けて渡すものを替えると20%と仮定
- 客単価:350万円、粗利率:3割と仮定
計算します。
- 一律の資料を送る場合:15組 × 10% = 1.5組
- 聞き分けた場合:15組 × 20% = 3.0組
- 差:1.5組
- 売上の差:1.5組 × 350万円 = 525万円
- 粗利の差:525万円 × 3割 = 157.5万円
月に1.5組という差は、見学60組に対して成約率が2.5ポイント上がったことになります(1.5 ÷ 60)。広告費を足さなくても、すでに来ている二人への連絡の中身を変えるだけで出る差です。
もちろん、この数字は仮定です。20%と10%の差は、実際にはもっと小さいかもしれません。大切なのは、数字そのものよりも、持ち帰りの組を「迷っている」と「割れている」に分けて、成約率を別々に見ることです。自社で見学後の連絡を記録しているなら、割れ方のメモを一言残すだけで、3か月後には自社の数字で比べられます。
連絡の最初の一文を変えます
持ち帰りのあとの連絡は、最初の一文で二人の読み方が決まります。
避けたい書き出しは次のようなものです。
- 「その後、ご検討は進んでいますか」
- 「ご不明な点があればお知らせください」
- 「お見積もりの有効期限が近づいています」
どれも、決めるのは二人、動くのも二人、という前提の文です。割れている二人にとっては、「まだ決まっていないこと」を突かれる連絡になります。
おすすめの書き出しは、聞き取った内容を式場が覚えていることを示す文です。
- 「見学の最後に、お二人それぞれが一番良いと思われた点を伺いました。ご一緒に整理したメモをお送りします」
- 「日程の候補を2つお聞きしていました。それぞれの空き状況をまとめました」
ここでも、どちらの意見が正しいかは書きません。二人が話し合う場に、材料を置くだけです。
話し合いの場を、式場が作ることもできます
割れ方が分かったら、二人の話し合いそのものを助けることもできます。たとえば次のような形です。
- 基準の割れなら、二人それぞれの「良かった点」を一枚に並べて、「両方が取れる部分」と「どちらかを選ぶ部分」に印をつけたメモを送る
- 予算の割れなら、総額が動く項目に印をつけた一枚を送る。「ここを変えると総額がいくら動くか」を示すだけにして、どうするかは書かない
- 日取りの割れなら、候補日ごとに空き状況・仮押さえの期限・延長の可否を並べる
- 決める人の割れなら、親や親族に見てもらうための見学枠の案内と、持ち帰って説明するための一枚を作る
これらは、特別な営業トークではありません。見学で二人が話したことを、整理して返しているだけです。その分、プランナーの記憶に頼らず、見学のメモに「割れ方」の欄を作っておくと、担当が変わっても同じ連絡が出せます。
やってはいけないこと
割れた二人への連絡で、避けたいことが3つあります。
- 片方に向けて連絡する。連絡先が一人分しかなくても、文面は二人宛てにする
- 値引きで割れを埋めようとする。基準・日取り・決める人の割れは、金額では埋まりません。予算の割れでさえ、値引きで埋めると、契約後の追加費用の話で再び揉めます
- 期限で追い込む。仮押さえの期限は事実として伝えますが、「今日中に」と急がせると、割れている二人はかえって話し合いを止めます
特に3つ目は、人気日の仮押さえ期限と重なると起きやすいです。期限は「いつまでに決めるか」ではなく「期限が来たらどうなるか」を先に伝えます。延長できるのか、いったん手放すのか、次の候補日はどうなるのかを並べると、二人は話し合いを続けやすくなります。
見学のメモに、1行だけ足します
仕組みとして続けるために必要なのは、見学のメモの項目を一つ足すことだけです。
- 二人それぞれが「一番良い」と言った点
- 割れ方の仮説(基準/予算/日取り/決める人/割れなし)
- 次回の連絡に入れる一文
この3行があれば、担当が変わっても、同じ質の連絡が出せます。3か月たったら、割れ方ごとの成約・失注を数えます。どのタイプの割れで落ちることが多いかが分かれば、見学の動線やフェアの資料を直す根拠になります。
まとめ
- 持ち帰った二人は「迷っている」のか「割れている」のか、で渡すものが変わる
- 割れ方は、基準・予算・日取り・決める人の4つに分けて考える
- 聞き分けは、「お二人それぞれが一番良いと思った点は何か」の1問で始められる
- 渡すものは、どちらの味方にもならない整理のメモにする。値引きや期限で割れは埋まらない
- 仮の数字では、割れた15組の成約率が10%から20%になるだけで、月に1.5組、粗利で約158万円の差になる
- 見学のメモに「割れ方」の欄を作り、3か月後に自社の数字で比べる
