乾杯と主賓挨拶を頼むときは、人選より先に持ち時間を決める。仮の披露宴では挨拶3人が各3分延びると9分、料理の出しが崩れる
披露宴の打ち合わせで、二人が長く悩む項目があります。乾杯の発声を誰に頼むか、主賓の挨拶を誰にお願いするか、です。上司なのか、恩師なのか、親族の最年長なのか。ここで1時間近く迷う二人は、珍しくないと思います。
ただ、僕がこの項目で見ているのは、人選そのものではありません。頼んだ相手に「何分で」と伝えたかどうかです。人選は二人の事情で決まりますが、持ち時間は式場が聞き方を用意しておけば、ほぼ全組で揃えられます。
先に結論を書きます。乾杯と主賓挨拶は、人選を決めたあとではなく、人選と同時に持ち時間を決めて、依頼のときに一緒に伝える形にしておくと、進行が崩れにくいです。仮の披露宴で足し算すると、挨拶3人が各3分延びただけで9分、料理の出しとケーキ入刀の時刻が後ろにずれます。人件費の増え方は小さいのですが、崩れるのは別のところです。
ここで使う数字は、すべて僕が置いた仮の前提です。挨拶が平均で何分延びるか、といった公開データは確かめられませんでした。だから「業界ではこうです」とは書かず、自分の会場の進行表に置き換えられる計算の型として読んでください。
仮の披露宴の前提
披露宴の枠は150分、ゲストは60人、スタッフは12人とします。進行表の上で、挨拶に関わる部分は次のとおりです。
- 開宴から二人の入場、主賓挨拶、乾杯までを、合わせて20分で組む
- 主賓挨拶は予定3分。乾杯の発声は予定2分
- 歓談の途中に、友人代表のスピーチを予定3分で1回入れる
- 料理は、乾杯の直後に前菜を出し、歓談の時間に合わせてスープ、魚、肉と進める
ここで大事なのは、料理の出しは「前の皿が終わった時間」ではなく「乾杯が終わった時間」を起点に組まれているという点です。乾杯が遅れれば、前菜が遅れ、スープが遅れ、肉の皿が遅れます。厨房は全員の皿が出るまで次を待てないので、挨拶の延びが一番下流の肉料理まで運ばれていきます。
3人が各3分延びると何が起きるか
主賓、乾杯、友人代表の3人が、予定より3分ずつ長く話したとします。合計で9分です。150分の枠の中で9分は6%にあたります。小さく見えますが、中身を分けると影響が見えてきます。
乾杯までの2人(主賓と乾杯の発声)が延びた6分は、全部の皿の出しを6分後ろにずらします。シャンパンや食前の飲み物が、手に持ったまま温くなる時間でもあります。友人代表の3分は、歓談の途中に入るので、その時間は皿を出すかどうかの判断を厨房とサービスが迷う時間になります。
次の計算は、人件費だけを取り出したものです。スタッフ12人の時給を1,500円と仮定します。延びた9分の間、全員が手待ちになったとすると、12人×1,500円×9分÷60分で、2,700円です。
年に120組を受けて、そのうち3割の披露宴で挨拶が9分延びるとします。36組×2,700円で、年に約9.7万円です。会場の経営から見ると、この額は誤差に近いです。
では、何が損なのか。人件費ではなく、食事の質と、そのあとの空気です。料理の温度が落ちる、ケーキ入刀とお色直しの時刻が後ろにずれて、お開きまでの余裕がなくなる。ゲストの口コミに載るのは「スピーチが長かった」ではなく、「料理が冷めていた」「お開きが慌ただしかった」という書き方になりがちです。挨拶の延びは、書かれ方では料理と進行の不満に化けます。この構造が、持ち時間を事前に決める理由です。
延びる理由を3つに分ける
挨拶が延びるのは、話す人が悪いからではありません。理由は大きく3つあります。
1つ目は、時間を聞いていない場合です。「ご挨拶をお願いします」とだけ頼まれて、何分を想定されているのか知らない。上司や恩師は、自分の中の「ちょうどいい長さ」で話します。それは5分かもしれないし、8分かもしれません。
2つ目は、台本が無い場合です。話す内容を決めずに壇上に上がると、思いついた順に話し、終わり方を探しながら延びます。
3つ目は、場の空気で足してしまう場合です。会場がウケていると、予定外の話を足したくなります。これは悪いことではないのですが、進行表の側から見ると、止める手段がありません。
3つのうち、式場が先回りして手を打てるのは、1つ目と2つ目です。3つ目は、2つの手を打ったうえで、残った分を余白として進行表に持っておく、というやり方が現実的です。
依頼先を決める3つの条件
ここからが、二人が悩む人選の話です。持ち時間と一緒に決める前提で、判断の分かれ目を3つに整理します。
1つ目は、二人の両方を知っているかどうかです。新郎の上司が新婦のことをまったく知らない場合、話の中身が新郎の話だけになりがちで、新婦側のゲストが置いていかれます。逆に、両方を知っている人は、短い時間でも二人にまたがる話ができます。
2つ目は、ゲストの前で話し慣れているかどうかです。話し慣れている人は、持ち時間を告げれば、その中に収められます。話し慣れていない人は、収める自信がなくて長くなるか、緊張して短くなりすぎます。後者の場合は、原稿を事前に書いてもらう段取りが必要です。
3つ目は、その役を断る権利を相手に渡せるかどうかです。上司に頼むとき、断りにくい空気で頼むと、相手は不本意なまま引き受けて、準備も浅くなります。持ち時間と役割を明確にして「3分でお願いしたいのですが、難しければ別の人に頼みます」と選択肢を残せる関係かどうか。残せないなら、その人は乾杯の発声のような短い役に回し、長い挨拶は別の人に頼むほうが安全です。
この3つのうち、2つ以上が当てはまる相手を主賓挨拶に置く、というのが僕の見方です。当てはまるのが1つ以下なら、乾杯の発声のような短い役に置きます。乾杯の発声は、台詞がほぼ決まっていて、長くなりにくいからです。
頼むタイミングと、伝える3点セット
依頼の時期は、招待状を出す前までに、できれば決めたほうがいいです。招待状の返事を受け取る時期になると、ゲストのスケジュールが固まり、挨拶の準備に使える日が減ります。挙式の3か月前に依頼できれば、原稿を書く時間も取れます。
依頼するときに、二人から相手へ伝えることは、3点に絞れます。
- 役割:乾杯の発声なのか、主賓挨拶なのか。名前だけでなく、役の名前で伝える
- 持ち時間:「3分くらい」ではなく「3分以内」。目安として文字数も添える。ゆっくり話して1分あたり300字前後が目安なので、3分なら900字前後、と書いてあれば、原稿を書く人は自分で調整できる
- 話してほしい内容:二人との関係、二人の人柄が伝わる出来事を1つ、締めに乾杯やお祝いの言葉。この3つのうち、出来事は1つに絞ってもらう。複数入れると延びる
文字数の目安として書いた300字は、人が落ち着いて話すときの速度として一般に言われる範囲です。僕が確かめた一次資料があるわけではないので、式場のスタッフが実際に何度か聞いてきた感覚に合わせて、会場ごとに直してください。
式場が打ち合わせで渡せる紙
二人が上の3点を毎回自分で整理するのは負担が大きいです。式場側で、依頼メモのテンプレートを1枚用意しておくと、全組で揃います。
内容は、次の6行で足ります。
- 役割の名前と、進行表の中での位置(開宴後の何番目か)
- 持ち時間と、目安の文字数
- 話してほしい内容の例(関係、出来事を1つ、締めの言葉)
- 当日の立ち位置と、マイクの有無
- 控室への到着時刻
- 原稿を事前に共有してくれる場合の送り先と期限
このメモは、二人が相手に渡すものであって、式場の都合を押しつけるものではありません。「進行表の都合で」と書くのではなく、「ゲストの皆さんが一番おいしい温度で料理を楽しめるように」という理由を書いておけば、依頼を受けた側も構えずに済みます。
原稿を事前に共有する欄は任意にしておくのが安全です。強制すると、もともと緊張している相手が余計に追い込まれます。共有があった場合に限り、式場のプランナーが目を通して、時間の見立てを返すという形にします。1人あたり5分もかからない作業ですが、延びる理由の2つ目(台本が無い)を、事前に潰せます。
頼める人がいない二人のとき
主賓を呼ぶ関係が無い二人、職場に頼める上司がいない二人もいます。そのときは、主賓挨拶を置かない進行も十分に成り立ちます。
挨拶を減らした分は、歓談と写真撮影の時間に戻せます。150分の枠のうち、挨拶に使う6分を歓談に戻すと、料理の出しも詰まらず、ゲストが席を回る余裕も増えます。「主賓挨拶がないと格好がつかない」という空気に、式場が先に乗らないほうが、二人の選択肢が広がります。
乾杯の発声だけは、会場側のスタッフが代わりに務められる形にしておくと、頼める人がいない二人も困りません。新郎新婦の友人や兄弟姉妹に頼む形でも、司会者が声をかける形でも、どちらも成り立つ、と最初の打ち合わせで伝えておくのがいいです。
当日、延びたときの余白の持ち方
事前に手を打っても、3つ目の理由(場の空気で足してしまう)は残ります。そこで、進行表の側に余白を持つ設計にします。
具体的には、乾杯の直後の前菜を、冷たい料理にしておく方法があります。温度が落ちても品質に響きにくいので、挨拶が数分延びても許容されます。温かい料理は、友人代表のスピーチのあとに回します。
もう1つは、進行表に「巻く場所」と「巻かない場所」を決めておくことです。ケーキ入刀とお色直しの時刻は動かしたくないので、動かせるのは歓談の長さです。歓談を3分削っても、ゲストにとっては気づきにくい時間です。この「動かせる場所」をスタッフ全員が共有していれば、現場の判断が揃います。
計算を自分の会場に当てはめる
最後に、自分の会場に当てはめるための手順を書いておきます。
- 直近の披露宴の進行表と実績時刻を30組分ほど並べて、乾杯が予定より何分ずれたかを数える
- ずれが5分を超えた組が何割かを出す。これが、先の計算の「3割」にあたる数字です
- その組の口コミやアンケートで、料理と進行についての記述があるかを読む
- 依頼メモを渡した組と渡していない組で、ずれの平均を並べる
4番まで進められれば、メモを作る手間が見合うかを自分の数字で判断できます。メモを作る作業そのものは、半日で終わります。年に120組を受ける会場なら、延びが1組でも減れば、手間は十分に回収できる計算になるはずです。ただ、回収の大きさは、上の1番と2番で自分の会場の数字を出してからでないと分かりません。
まとめ
- 乾杯と主賓挨拶を頼むときは、人選と同時に持ち時間を決めて、依頼のときに伝える
- 仮の披露宴で、挨拶3人が各3分延びると9分。人件費は1組2,700円、年約9.7万円で小さい。ただ料理の温度とお開きの余裕が崩れ、口コミでは料理や進行の不満として書かれやすい
- 挨拶が延びる理由は、時間を聞いていない、台本が無い、場の空気で足す、の3つ。式場が先回りできるのは前の2つ
- 主賓挨拶に置く人は、二人の両方を知っている、話し慣れている、断る選択肢を残せる、のうち2つ以上が当てはまる相手
- 依頼で伝えるのは、役割、持ち時間(目安の文字数つき)、話してほしい内容の3点。式場が1枚のメモにして渡せる
- 頼める人がいない二人には、挨拶を置かない進行も成り立つ。進行表には、冷たい前菜と動かせる歓談の長さで、余白を持たせておく
