同性カップルの挙式を受けると決めたら、変えるのは設備より書類と言葉。仮の式場で初期15万円、5年に1組増えれば元が取れる
同性カップルの挙式を受けると決めた式場が最初に直すのは、チャペルでも更衣室でもありません。申込書の「新郎」「新婦」の欄と、スタッフが口にする言葉です。
僕は、この準備を「設備投資」だと思って構えると、判断を間違えると考えています。仮の式場で試算すると、初期費用は15万円前後です。5年に1組増えれば回収できます。一方で、準備せずに「うちは断りません」とだけ言うと、受けた1組目の現場で書類と台本の直しが一斉に起きます。直す手間が1組にまとめて乗るので、二人にとっても現場にとっても、いちばん重い形になります。
この記事では、受け入れると決めたあとに何を、どの順番で、いくらで変えるのかを整理します。法律上の婚姻の扱いは、裁判や国会で動いている話です。ここでは触れず、式場が挙式をどう受けるかという運用だけを扱います。
最初に確認する数字
当事者の割合から見ます。電通ダイバーシティ・ラボの「LGBTQ+調査2023」では、LGBTQ+に当たる人が9.7%でした。2020年調査は8.9%だったので、3年で0.8ポイント上がっています。ただしこの数字は、性的指向や性自認が少数派に当たる人の割合です。そのまま「結婚式を挙げたい同性カップルの割合」にはなりません。パートナーがいるか、挙式を望むか、どの地域に住んでいるかで、絞られていきます。
式場側の受け入れ状況は、もっと見えにくい数字です。Business Insider Japanの記事によると、ゼクシィが渋谷区と組んで作った「LGBTQフレンドリーウエディングMAP」には、2024年2月の発表時点で11施設が載っています。渋谷区内の式場とフォトスタジオは約35軒なので、区内の約3割です。ゼクシィの統括編集長は、LGBTQのカップルが安心して使える会場の情報が足りないと話しています。
パートナーシップ制度の数字もあります。渋谷区と認定NPO法人虹色ダイバーシティの調査では、制度を設けた自治体が全国で328、証明を受けた組が5,171組でした(2023年)。制度に登録した組は、挙式を考えるときに「受けてもらえる式場があるか」を調べるはずです。調べても情報が少ないので、受け入れを決めて、そのことを公開した式場には、探している人が集まりやすい形になっています。
ここまでの数字から言えるのは、需要は小さいが、供給の情報はもっと少ない、という点だけです。年に何組来るかは、商圏によってまったく違います。以降は、数字が足りない部分を仮の前提で置いて計算します。
仮の式場の前提
次の前提で計算します。すべて仮置きで、実在の式場のデータではありません。
- 年間の問い合わせが1,200件、そのうち来館するのが半分、来館した二人の成約率が4割(年間の成約は240組)
- 1組あたりの粗利は80万円
- 同性カップルの問い合わせは、受け入れを公開した場合に年6件(問い合わせ全体の0.5%)から年24件(2%)の幅で動く
- 準備にかかる人件費は、時給換算で1時間あたり2,500円(研修)と3,000円(書類・台本の改修)
問い合わせの0.5%から2%という幅は、根拠のある推計ではありません。同性カップルの挙式需要を直接測った調査は、探した範囲では見つかりませんでした。この幅で足りるかどうかを、費用側から逆算して確かめます。
初期費用を分けて見る
初期費用は、研修と書類の改修の2つです。
研修は、接客に関わるスタッフ20人が2時間ずつ受ける想定です。20人×2時間×2,500円で、5万円になります。外部の講師を呼ぶなら別に費用がかかりますが、ここでは社内で資料を用意して行う前提にしています。
書類の改修は、16時間分の作業を3,000円で見て4.8万円です。直す対象は次の5つです。
- 見学の申込フォームと来館アンケート
- 契約書、見積書、請求書の宛名と呼称
- 打合せシートと当日の進行表
- 司会台本と式次第
- 公式サイトの挙式プランの説明文
合計で9.8万円です。ここに、受けると決めてから最初の1年に起きる細かい直し(問い合わせの想定問答、会計システムの出力調整など)を5万円と見ておきます。合わせて約15万円です。2年目以降は、年1回の見直し6時間(1.8万円)で回ります。
回収の線は単純に出ます。1組の粗利が80万円なので、初期15万円は0.19組で戻ります。約5年に1組です。3年で均した年間の費用は、初期15万円の3分の1に見直し1.8万円を足して年約6.8万円。粗利80万円の0.085組分です。
問い合わせが年6件のとき、来館が半分の3件、成約が4割で、期待値は1.2組です。回収線の0.19組の6倍を超えます。年24件なら4.8組です。一方、問い合わせが年1件に届かない商圏だと、回収には時間がかかります。それでも、失うのは15万円の準備費で、粗利80万円が1組決まれば全部戻ります。
書類の直し方
書類で変えるのは、文字の欄よりも考え方のほうです。
申込書の欄
「新郎様」「新婦様」と印刷された欄を、「お二人のお名前(1人目)」「お二人のお名前(2人目)」に変えます。どちらを先に書くかで揉めることはほとんどないと思いますが、欄の見出しだけは中立にしておきます。性別を聞く欄は、挙式の運用に使うのか、使わないのかを決めます。ヘアメイクの対応やドレス・タキシードの案内に必要なら、「ご希望の装い」を聞く形にします。
契約書と見積書
宛名と呼称です。契約書の「甲」「乙」の置き方、見積書の宛名の並び、請求書の名義が、二人の希望どおりに作れるかを確認します。式場の会計システムが「新郎」「新婦」で項目を持っている場合、システム側を直すのは大変です。その場合は、書類を出力するときだけ文言を差し替える運用で足ります。
司会台本と式次第
台本は、いちばん直しどころが多い書類です。「新郎新婦の入場です」「花嫁のお父様」といった定型が、台本のあちこちにあります。直す前に、二人と一度すり合わせます。入場の順番、誓いの言葉の文面、指輪交換の言い回し、ブーケトスや父親との入場といった儀式を残すか、変えるか。決めるのは二人です。式場が先回りして「こうしましょう」と決めてしまうと、善意でも押し付けになります。
台本の雛形を2、3種類用意しておくと、打合せが早く終わります。ただ、雛形から選んでもらう形にすると「選ばされた」感じが残ります。「雛形を土台に、変えたいところを教えてください」と聞くほうが、いいと考えています。
言葉の準備は、禁止リストより聞き方
書類は直せば終わりますが、言葉は人が言うものなので、準備しきれません。ここは研修の2時間が効く部分です。
研修の中身は、次の3つに絞ります。
- 二人の関係を、スタッフ同士の会話や他の担当者への引き継ぎで、本人の了承なく話さない(アウティングの防止)
- 呼び方を決めつけない。「ご主人」「奥様」ではなく、お名前で呼ぶ。二人が使っている呼び方があれば、それに合わせる
- 家族への説明の状況を、最初の打合せで聞く。親族が二人の関係を知っているのか、当日どこまで伝わっているのかで、席次や司会の言い回しが変わる
3つ目が、現場ではいちばん効きます。同性カップルの挙式では、家族や職場の人に関係を伝えている範囲が、二人ごとにまったく違うからです。全員に伝えている二人もいれば、友人と一部の家族だけの二人もいます。ここを聞かずに台本を作ると、会場で「え、そうなの」という空気が起きる可能性があります。
聞くときは、「ご家族にはどのようにお伝えになっていますか」より、「当日、司会の紹介で触れてほしいこと、触れてほしくないことはありますか」のほうが答えやすいと思います。前者は事情を話してもらう質問で、後者は式場が何をするかを決める質問だからです。
設備は、聞いてから決める
更衣室と控室は、先に改装しません。新郎側・新婦側で部屋を分けている式場が多いと思いますが、二人が同じ部屋を使いたいのか、別々がいいのかは二人によって違います。部屋数に余裕があれば、希望を聞いて割り振るだけです。余裕がなければ、時間帯をずらして同じ部屋を使います。
ヘアメイクと衣装も同じです。スーツやタキシードを二人とも着たい、ドレスを二人とも着たい、片方がドレスで片方がスーツ、といろいろあります。衣装室の在庫が足りないなら、提携先から借りる形で対応できます。在庫を先に増やすと、使われないまま眠ります。
お手洗いの案内は、小さいですが見落としやすい点です。多目的トイレの場所を、案内図で見えるようにしておくだけで足ります。
公開のしかた
受け入れると決めたら、公開するかどうかも決めます。公開しないと、探している二人には見つかりません。前に見たとおり、情報が少ない領域なので、公開の効果は大きいはずです。
公開は、次の順で段階をつけるのが現実的です。
- 公式サイトの挙式プランのページに、「どなたでも挙式いただけます」と一文入れる
- 問い合わせフォームの、お二人のお名前の欄が性別で分かれていないことを確かめる
- 準備ができてから、外部のMAPや特集への掲載を検討する
いきなり3から入ると、受ける準備ができていないうちに問い合わせが来ます。1と2は費用がほとんどかかりません。仮の式場では、1が0.5時間、2が1時間です。
公開するときに、実績の写真や事例は載せません。二人が同意していない写真を載せるのは当然避けるべきですし、同意があっても、親族に関係を伝えていない二人もいます。載せるなら、二人が書いた文章と写真の使用範囲を、書面で確認してからにします。
受けない判断もある
ここまで書いたことは、受けると決めた式場向けの話です。受けない判断もありえます。たとえば、宗教的な理由で挙式の形式が決まっている会場や、提携先の神社・教会が対応していない会場です。その場合は、「受けられない」とだけ答えるのではなく、受けられる近隣の会場を紹介できるかどうかが、二人の印象を分けます。
神戸新聞の2023年6月の報道では、同性間の挙式を断る神社が多い一方、神社本庁は受け入れの判断を各神社に委ねる、と伝えられています。式場が提携している挙式先の方針は、思ったより確認されていません。先に確認しておくだけでも、問い合わせが来たときに慌てずに済みます。
準備が風化する前に
費用の側から見ると、回収の線は5年に1組です。年6件の問い合わせが出る商圏なら、まず問題なく超えると思います。
ただ、数字だけで続けられるかどうかは別の話です。受け入れを公開して1組目を迎えるまでに、問い合わせが何年か来ないことは十分ありえます。その間に、研修を受けたスタッフが辞めて、台本の雛形が誰にも使われなくなる、という形で準備が風化します。年に1回、6時間の見直しを計画に入れておくのは、そのためです。
もう1つ、数字に出ない効果があります。呼び方を決めつけない、関係を本人の了承なく話さない、という研修の中身は、同性カップルに限った話ではありません。再婚の二人、事実婚の二人、親との関係が複雑な二人にも、そのまま効きます。受ける準備が、接客全体を丁寧にする形になるわけです。ただしこれは、数字で測っていない僕の見立てです。
まとめ
- 同性カップルの挙式を受けると決めたとき、最初に変えるのは設備ではなく、申込書、契約書、司会台本、スタッフの言葉づかい
- 電通ダイバーシティ・ラボの調査(2023年)でLGBTQ+当事者層は9.7%。ゼクシィのMAPには渋谷区内の式場約35軒のうち11施設が載っていて、受け入れを公開した式場の情報はまだ少ない
- 仮の式場(年240組成約、粗利80万円)では、初期費用が約15万円、2年目以降は年2万円弱。5年に1組増えれば回収できる
- 台本は、式場が先回りして決めず、雛形を土台に二人が変えたいところを聞く。家族に伝えている範囲は、最初の打合せで必ず確認する
- 更衣室・衣装・設備は、先に増やさず、希望を聞いてから割り振る
- 公開は、公式サイトの一文、フォームの確認、外部掲載の順で段階をつける。事例の写真は、二人の書面の同意があるものだけ
- 数字はすべて仮の前提で、問い合わせ件数は商圏によって変わる
