新郎新婦のリアル

親からの直接連絡は、仮の式場で年120組のうち36組に出る。窓口を二人に一本化するより、親用の連絡口を契約時に決めたほうが安くつく

打合せの翌日、会場の電話が鳴る。「新婦の母ですが、先日の席次の件で」。プランナーは一瞬、手を止めます。この件は二人から何も聞いていない。二人はそう決めたのか、まだ親に言っていないのか、親が先走っているのか。電話口では判断がつきません。

結婚式の準備で、式場の窓口は新郎新婦の二人です。契約も二人としていますし、個人情報の扱いからも、そうするのが自然です。ただ現場には、親から直接連絡が来る場面が必ずあります。その連絡をどう扱うかは、式場ごとに決まっていないことが多いと僕は見ています。

この記事では、親からの直接連絡を「二人以外はお断り」で締めるか、「親用の連絡口を決めて認める」かを、仮の式場で計算して比べます。結論を先に書くと、親用の連絡口を契約時に決めておくほうが、仮の式場では年に約15万円安くなります。ただし、親から連絡が来る組が年に12組を下回る会場では、一本化のほうが安くなります。

先に断っておくと、この記事に調査や統計の数字は出てきません。親からの連絡が何割の組で起きるか、1回の往復に何分かかるかは、僕が置いた仮の値です。自分の会場の数字に置き換えて読んでください。

親から連絡が来る場面は、だいたい4つに分かれる

親が式場に直接連絡してくる理由を、現場の流れで分けると、次の4つになります。

1つ目は、お金の確認です。費用を出す親が、見積もりの内訳や支払いの時期を直接聞きたいと言う場合。二人が伝えきれていない、あるいは二人の説明では不安だという状況です。

2つ目は、自分たちの席・役割の確認です。親族の席次、親の挨拶の順番、謝辞の有無、控室の場所。当日の動きに親自身が関わる部分は、親にとって一番気になる部分でもあります。

3つ目は、当日の変更や要望の伝達です。「やっぱり祖母の席をもう少し出口の近くに」「叔父がお酒を飲めないのでドリンクを替えてほしい」。二人を通すと一日遅れるので、直接連絡したほうが早いと親は考えます。

4つ目は、不満や不安の吐き出しです。二人が決めたことに納得していない、あるいは二人が忙しくて相談に乗ってもらえない。式場に聞いてもらえれば少し楽になる、という種類の連絡です。

この4つは、式場にとっての意味がかなり違います。1つ目と2つ目は、事実の確認なので、答えを決めれば処理できます。3つ目は、二人の意向と食い違うリスクがあります。4つ目は、答えを出す連絡ではなく、受け止める連絡です。「窓口は二人だけ」と一律に決めると、この4つを区別しないまま全部を断ることになります。

二人に一本化すると、何が起きるか

親からの連絡をすべて断って二人に戻す運用を、仮に「一本化」と呼びます。

一本化が最も力を発揮するのは、3つ目の場面です。二人の知らないところで要望が入ると、プランナーが二人の意向と違う変更を受けてしまう危険があります。窓口が二人だけなら、決定の責任も二人に残ります。この点で一本化は、トラブルの種を減らすのに有効です。

ただし、一本化には手間が残ります。親に断った内容は、二人に伝え直さなければなりません。二人は仕事をしていて、平日の昼間に連絡がつかないことも多いので、確認の往復が長引きます。親にしてみれば「式場に断られた」という印象が残り、4つ目の不満の連絡が増える方向にも働きます。

ここで仮の式場に数字を置いて、手間を見積もります。

  • 年間の挙式数:120組
  • 親から式場へ、準備期間中に1回以上の直接連絡がある組の割合:30%(36組)
  • 1組あたりの追加の往復:親から連絡、二人に確認、二人から返答、親に回答の4回。1回15分として、合計60分
  • プランナーの人件費(社会保険などを含めた1時間あたり):2,500円

この前提だと、親から連絡がある36組で、年に36時間、人件費で9万円が使われます。

次に、食い違いの修正費です。親の要望が二人に伝わらないまま進み、直前に「聞いていなかった」となる場面が、連絡のあった組の2割で起きるとします。7.2組です。1回の修正に、席の組み直し、印刷物の刷り直し、スタッフへの再周知で3万円かかるとします。7.2組で約21.6万円です。

合計すると、一本化のコストは、往復の人件費9万円と修正費21.6万円で、年に約30.6万円になります。

親用の連絡口を決めると、何が変わるか

もう1つの運用は、契約時に「親用の連絡口」を二人と一緒に決めておくやり方です。細かい仕組みは後で書きます。ここでは費用の見積もりを先に出します。

契約時に、親用の連絡口を決める説明の時間を15分取ります。どの組に親の連絡が来るかは契約時には分からないので、全120組に説明します。人件費は1組あたり625円で、120組で7.5万円です。

連絡が来たあとの手間は、二人へ共有メモで伝える1回の往復で済むとします。1組15分、36組で9時間、人件費は2.25万円です。

食い違いの修正は、二人が共有メモで親の要望を見られるので、連絡のあった組の5%に減るとします。1.8組で、修正費は5.4万円です。

合計すると、親用の連絡口の運用コストは、説明7.5万円、運用2.25万円、修正5.4万円で、年に約15.2万円です。

一本化が30.6万円、親用の連絡口が15.2万円。差は約15万円になります。

分かれ目は、親から連絡が来る組が年に12組あるかどうか

親用の連絡口には、全組への説明という固定費があります。連絡が来る組が少なければ、この固定費が負担になります。損益分岐を出しておきます。

連絡が来る組1つあたりで比べると、一本化は往復の人件費2,500円と、修正費の期待値6,000円(食い違い2割×3万円)で、8,500円です。親用の連絡口は、運用の人件費625円と、修正費の期待値1,500円(5%×3万円)で、2,125円。連絡が来る組が1つ増えるごとに、6,375円ずつ差が開きます。固定費の7.5万円(全120組への説明)を回収できるのは、7.5万円÷6,375円で約11.8組。年120組の約1割です。

つまり、準備期間中に親から直接連絡が来る組が年に12組以上あるなら、親用の連絡口のほうが安くなります。12組に届かないなら、一本化のままで構いません。仮の式場の36組は、この線を3倍上回っています。

この計算には解約や評判の悪化が入っていません。親の不満が解約につながる確率は、手元に調査がないので、数字にしませんでした。ただ、親の機嫌が二人の気持ちに影響することは、現場の感覚として否定する人は少ないと思います。1組の粗利を仮に45万円とすると、損益の差額15万円は、0.3組分です。年に1組でも、親の不満を理由に縮小や解約が思い当たる会場は、数字に入っていない分だけ、親用の連絡口に有利に働きます。

親用の連絡口で決めておく3つの取り決め

連絡口を作るとき、決めておくことは多くありません。僕が最低限と考えるのは次の3つです。

1つ目は、親がしてよい連絡の範囲です。契約時に二人の同意を取り、「親は次の連絡に限って式場に直接連絡してよい」と書面かメモに残します。範囲は、親自身の席・役割・控室・当日の動き、親族への案内(ドリンクの変更など)、費用を親が出す場合の支払い時期と金額の確認、の3種類が現実的です。メニューや衣装、演出など、二人が決める部分は範囲に含めません。

2つ目は、連絡があったら二人に必ず共有する仕組みです。電話は記録を残し、その日のうちに二人へメッセージで共有します。親が頼んだ内容が、二人の知らないところで通ることはなくなります。共有メモは、LINEのトークでもメールでも、会場が普段使っている連絡手段で構いません。大事なのは、共有を人の記憶に任せないことです。

3つ目は、範囲を超えた連絡への返し方の言い回しです。範囲外の要望が親から来たとき、プランナーが「それはお受けできません」と断ると、親には拒絶に聞こえます。「承りました。ご本人たちと確認してから、折り返しますね」と返せば、断らずに二人へ戻せます。この言い回しを、全員が同じように使えるように、一文だけ決めておきます。

この3つは、特別な道具も費用も要りません。契約時の説明に15分足すだけで運用できます。

親用の連絡口が合わない会場もある

ここまでの計算は、年120組で、親から連絡がある組が3割という仮の式場です。条件が違えば、答えも変わります。

親が費用を出す組が少なく、親の連絡も年に数件という会場では、一本化のままで問題ありません。連絡口を決める説明に15分を使うほうが、連絡そのものより手間になります。この場合は、連絡が来たときの返し方(先ほどの3つ目)だけ、スタッフ間で揃えておけば足ります。

反対に、親の関与が大きい地域や、会場の客層で親の同席が多い場合は、連絡口を作る効果が大きくなります。親が打合せに同席する組が半数を超える会場なら、親を最初から関係者として扱うほうが、運用が自然です。

また、プランナーが少ない会場では、共有メモの運用が負担になります。毎回その日のうちに二人へ連絡する約束は、繁忙期に守りにくいからです。守れない約束を契約時にすると、かえって不信を生みます。守れるかどうかを、運用を決める前に確かめてください。

一本化を選ぶとき、守りたいことは何か

「窓口は二人だけ」という運用を、僕は間違いだとは考えていません。守りたいのは、二人が自分たちで決めたという事実です。親が口を出しすぎて二人が疲れる、という場面を避けたい会場もあると思います。そういう会場は、一本化に理由があります。

ただ、一本化を選ぶなら、親からの連絡を断ったあとの手当てが要ります。断られた親は、式場に言えなくなった不満を、二人に向けます。二人は、親と式場の間に挟まれます。この負担を減らす手当ては、結局のところ、親が安心できる情報を二人に持たせることです。たとえば、親向けの1枚の案内(当日の流れ、親の席と控室、費用の支払い時期)を渡すだけでも、親から式場への問い合わせは減ります。

一本化と親用の連絡口は、どちらかを選ぶ二択というより、親の不安をどこで受けるかの違いです。二人に受けてもらうのか、式場が受けるのか。僕は、式場のほうが受け皿として安くつくと考えています。二人が受けると、準備の途中で二人の気持ちが摩耗するからです。

まとめ

  • 親からの直接連絡は、お金の確認、自分たちの席と役割、当日の変更、不満の吐き出しの4つに分かれ、式場にとっての意味がそれぞれ違う
  • 仮の式場(年120組、親から連絡がある組が3割)では、窓口を二人に一本化すると年約30.6万円、親用の連絡口を決めると年約15.2万円で、差は約15万円
  • 判断の分かれ目は、親から連絡が来る組が年に12組(年120組の約1割)を超えるかどうか。解約や縮小のリスクは、この計算に入っていない
  • 連絡口で決めておくのは、親がしてよい連絡の範囲、二人への共有の仕組み、範囲外の連絡への返し方の3つ
  • 親の連絡が年に数件の会場や、毎回その日のうちの共有を守れない会場は、一本化のままでよい
  • 数字はすべて仮置き。自分の会場の件数と往復の時間に置き換えて判断する