式場サイトの挙式実例は、写真の許諾を契約書の1行で済ませない
式場のホームページを開いた二人が、最初に見るのは何でしょうか。料金表より先に、挙式実例の写真を眺めている二人は多いと思っています。僕が見聞きする範囲の感覚で、業界の統計ではありません。ただ、会場の雰囲気は文章では伝わらないので、実際に挙げた人の写真に目が行くのは自然なことです。
その実例写真を、どういう許諾で載せているか。契約書に「写真等を広報に使うことがあります」と1行入れて、それで済ませている会場は少なくないはずです。結論から書くと、この1行だけの運用は、実例が増えにくく、載せた後にもめやすい、両方の弱みを持っています。許諾は「載せる場所」「写っている人」「期間」の3つに分けて取るほうが、集客に使える実例の数が増えます。
この記事では、なぜ1行では足りないのかを整理したうえで、許諾の取り方を3つの型に分け、仮の数字で実例のストックがどれだけ変わるかを確かめます。最後に、撤回の依頼が来たときの段取りも書きます。
先に断っておく数字の扱い
この記事の数字は、成約組数も許諾が取れる割合も、すべて僕が置いた仮のものです。業界の平均ではありません。実例の掲載許諾の取得率について、調べた範囲で信頼できる調査は見つけられませんでした。だから出典のある数字としては書かず、「仮にこうだとすると」の計算にしています。自分の会場の数字に置き換えて使ってください。
法律の話も一点だけ触れます。肖像権という名前の条文は日本の法律にありませんが、最高裁は1969年の判決(京都府学連事件)で、承諾なく容貌や姿態を撮影されない自由は私生活上の自由として保護される、という考え方を示しています。式場の実例写真に当てはめると、写っている人の同意なく広く使うことには、リスクがあるということです。個別の契約文言は、必ず弁護士に確認してください。この記事は法律相談ではありません。
挙式実例は、見学前の二人の「比べる材料」になる
新規の集客の流れで考えると、実例写真が効くのは「見つけてもらう」の後ろ、「候補に入る」の段階です。二人は複数の会場の公式サイトを並べて、雰囲気が好みに合うかを見ています。このとき、実例が5件しかない会場と、50件ある会場では、見られる量がまるで違います。
実例が多いと、二人は自分たちに近い人数や季節、年代の実例を探せます。「自分たちと同じくらいの人数でやった人がいる」と分かることは、見学の予約を押すひと押しになります。実例が少ないと、写真映えする特別な日の1件だけが並び、二人は自分たちの式を想像できません。
つまり、実例を何件載せられるかは、許諾をどう取るかでほぼ決まります。写真は毎週の挙式で大量に撮れているのに、載せられる写真が少ない。この差が生まれる場所が、許諾の取り方です。
契約書の1行では足りない3つの理由
1. 契約時の二人は、読んでいない
契約の日は、見積もり、日程、キャンセル規定と、決めることが山のように並びます。写真の使い道の1行を、二人が一つひとつ理解して同意する場面ではありません。後で「そんなところに使われると思わなかった」と言われたとき、書面があっても、気持ちの上ではこちらが不利です。
2. 「広報」の一語に、使い道が全部入ってしまう
「広報」と書いてあれば、公式サイトも、Instagramも、広告も、外部の媒体への提供も入ると読めます。でも二人の感覚は違います。自分のウェディング写真が、会場の公式サイトに載るのはよい。けれど有料のSNS広告として知らない人のタイムラインに流れるのは別、という二人は十分いるはずです。1語に全部を詰めると、二人が許していない使い方まで含んでしまいます。
3. 写っているのは二人だけではない
実例写真には、ゲストが写ります。親族、友人、子ども、当日働いたスタッフや外部のカメラマン、ヘアメイクもいます。契約書の許諾は、契約した二人のものです。ゲストの顔がはっきり写った写真を、二人の許諾だけで広く使えるのか。ここは線を引いて運用しておかないと、いちばんもめやすいところです。
許諾を3つの層に分ける
1行をやめて、次の3つを別々に決めます。
層1:どこに載せるか
載せる場所を、使い方の重さで分けます。
- 公式サイトの実例ページ(見学前の二人が見る場所)
- 会場の公式SNS(InstagramなどのフィードやStories)
- 有料の広告(SNS広告、検索連動の画像など)
- 外部の媒体への提供(情報誌、ポータル、取材)
同意の重さは、下に行くほど重くなります。公式サイトとSNSは1つの許諾にまとめてもよいですが、有料広告と外部提供は別の項目にします。二人が選べる形にしておくと、「広告はやめてほしい」と言われても、サイトとSNSの許諾は残ります。全部を拒否されて実例ごと失うより、はるかによい結果です。
層2:誰が写っているか
写っている人を、3つに分けて考えます。
- 二人だけが主役で、顔が分かる写真
- ゲストが小さく写り込んでいる写真(後ろ姿、遠景)
- ゲストの顔がはっきり分かる写真(特に子ども)
二人の許諾で載せられるのは、基本的に1つ目と、2つ目までです。3つ目は、ゲスト本人の同意が取れない限り、顔が分からないように加工するか、使わないという線を先に決めておきます。実例写真として魅力があるのはゲストの笑顔が写った写真ですが、その使い方は、会場として約束する範囲から外しておくほうが安全です。
層3:いつまで載せるか
期間を決めずに「ずっと」載せるのが、いちばん揉めます。二人の事情は変わります。離婚、引っ越し、職場の変化、SNSで顔を出したくなくなった、など。載せ続ける期間を、たとえば「挙式から3年」「更新時に確認」のように決めておくと、二人の側も安心して許諾できます。
もう一つ、撤回の窓口を許諾書に書いておきます。「掲載をやめたいときは、この連絡先に伝えれば、〇日以内に外します」と決めておくだけで、許諾の心理的なハードルが下がります。やめられると分かっている許諾のほうが、取りやすいからです。
許諾を取るタイミングは3つの型
層を決めたら、いつ取るかを決めます。型は3つあります。
型A:契約時に層1〜3の同意書を取る
契約書とは別の1枚にします。チェックボックスで、公式サイトだけ、SNSまで、広告まで、のように選んでもらいます。契約の日に取るので取得率は高く、手間も少ないです。弱みは、二人が実際の写真を見る前に決めることです。
型B:挙式後に、写真を見せて個別に取る
挙式後、納品する写真のなかから「この写真を載せたい」と見せて、1件ずつ許諾をもらいます。二人は載る写真を見て決められるので、納得感が高いです。弱みは、手間と、挙式後は連絡がつきにくくなることです。
型C:撮影・アルバムの特典と交換にする
たとえば「実例掲載に同意いただくと、フォトデータの追加カットを差し上げます」といった形です。取得率は上がりますが、特典の費用がかかるうえ、二人が特典目当てで同意して後悔する危険があります。型Cは、層を軽く(公式サイトだけ)に限る運用が向いています。
仮の数字で、実例のストックを比べる
仮に、年間の挙式を120組とします。そして、型ごとの許諾が取れる割合を、次のように置きます。繰り返しますが、これは僕が置いた仮の数字で、調査の結果ではありません。
- 型A:9割(契約の日に、同意書とセットで出す)
- 型B:4割(挙式後に連絡して見せる。返事が来ない二人が多い)
- 型C:6割(特典があるので返事は増えるが、断る二人も残る)
年間で載せられる実例の組数を計算します。
- 型A:120組 × 0.9 = 108組
- 型B:120組 × 0.4 = 48組
- 型C:120組 × 0.6 = 72組
実例のストックは、型Aが年に108組、型Bが48組です。倍以上の開きが出ます。ただし、型Aの108組が、そのまま使える実例の数になるとは限りません。許諾が取れても、写真の出来や、二人の雰囲気が会場の見せたい像と合うかどうかで、載せる写真は絞られます。数字は、載せられる候補の母数と読んでください。
次に、かかる手間も仮置きします。型Bで、挙式後に全組へ連絡して写真を選んでもらう作業が、1組あたり15分かかるとします。
- 型B:120組 × 15分 = 1,800分 = 30時間
年間30時間は、プランナーの接客の合間に押し込む量としては重めです。型Aは、契約の面談のなかで同意書を出すだけなので、追加の時間は1組あたり数分に収まります。
型Cは、追加カットの原価を、仮に1組2,000円とします。
- 型C:72組 × 2,000円 = 144,000円
この144,000円で、72組の実例のストックが買えると考えるか、特典なしでも型Aで108組取れるのに、と考えるかで、型Cを選ぶかどうかが変わります。ここは会場の考え方次第ですが、僕は、型Aを土台にして、足りない種類の実例(たとえば少人数、冬の挙式、家族だけの式)だけ型Bで個別に頼む形が、手間と数のバランスがよいと考えています。
型Aを土台にするときの、同意書のつくり方
型Aで失敗しないために、同意書のつくり方に3つの決まりを置きます。
1. 選択肢は3つまでにする
チェックボックスが10個並ぶと、二人は読まずに全部にチェックするか、全部外します。「公式サイトとSNS」「広告・外部媒体にも」「載せない」の3つ程度にします。載せないを選んでも、契約や特典に何の不利益もないことを、1文書いておきます。
2. 顔が分かる写真は別に聞く
「ご二人のお顔が分かる写真を使ってよいか」と、「お顔が分からない写真(後ろ姿・手元・会場の様子)のみ使ってよいか」を分けます。顔を出したくない二人でも、手元や会場の写真ならよい、というケースは多いはずです。ここを分けておくと、「載せない」を選ぶ二人が減ります。実際にどの程度減るかは、僕は数字を持っていません。自分の会場で、同意書の選択率を数えてみてください。
3. ゲストの扱いを書く
ゲストの顔がはっきり写る写真は、二人の許諾の範囲に入らない、という会場の運用を書いておきます。たとえば「ゲストの顔がはっきり分かる写真は、ご本人の同意がある場合を除き掲載しません」。二人に約束する文面にすると、ゲストの写り方を気にする二人の安心にもなります。
載せた後に、撤回の依頼が来たとき
許諾を取っていても、載せた後に「やっぱり外してほしい」と連絡が来ることはあります。このときに決めておくことは3つです。
- 受付の窓口を1つにする(プランナーの個人LINEに来たものを、誰かが見落とさない形にする)
- 外す期限を決める(たとえば受付から7営業日以内。これは例で、会場の体制に合わせて決めます)
- 外す場所のリストを持つ(公式サイト、SNSの投稿、保存してあるStories、広告の素材)
特に、SNSに投稿した画像と、広告で使った素材は、外し忘れが起きやすい場所です。実例写真を載せるたびに、どの写真を、どこに使ったかを一覧に残しておきます。表計算ソフトの1枚で足ります。列は「写真の名前」「挙式日」「許諾の層」「載せた場所」「期限」の5つです。
外した後は、依頼してくれた二人に「〇日に外しました」と一言返します。この一言があるかないかで、その二人が口コミで会場をどう書くかが変わるからです。
この運用を始める順番
いきなり全部を変えると、現場が回りません。順番はこうです。
- 今の契約書の写真に関する文言を読み、使い道が「広報」の一語になっていないか確かめる
- 載せている実例写真を数えて、許諾の記録が残っているものが何件あるか調べる
- 記録のない実例は、顔の出ているものから優先して、載せ続けるかどうかを判断する
- 同意書のひな形(選択肢3つ)を1枚つくり、弁護士に文言を確認してもらう
- 新しく契約する二人から、同意書を使い始める
3番は、地味ですが大事です。すでに載っている写真の許諾が曖昧なら、新しい運用に切り替えるのと同じタイミングで見直します。記録が残っていない写真を外すと実例の数は一時的に減ります。それでも、記録のない写真を載せ続ける危険よりは小さいと、僕は考えています。
実例を見る二人は、写真の裏側も見ている
もう一つ、集客の面から書きます。実例ページを見る二人は、写真の美しさだけを見ているわけではありません。そこに載っている二人は、どんな人たちか。自分たちと似ているか。そして、この会場は、載せた二人をちゃんと扱っているか、ということも、無意識に見ています。
許諾を丁寧に取っている会場は、実例ページの添え書きに、それがにじみます。「ご二人の許可をいただき掲載しています」の一文が入っているだけで、読み手の見る目は変わります。この一文は、費用のかからない、地味な信頼の置き方です。
まとめ
- 挙式実例は、見学前の二人が会場を比べる材料。載せられる数は、許諾の取り方でほぼ決まる
- 契約書の「広報に使う」の1行は、二人が理解していない可能性が高く、使い道の範囲も広すぎる
- 許諾は「どこに載せるか」「誰が写っているか」「いつまで載せるか」の3層に分ける
- 取るタイミングは、契約時(型A)、挙式後(型B)、特典と交換(型C)の3つ。仮の計算では、年間120組で型Aは108組、型Bは48組の差が出た
- 型Aを土台にし、足りない種類の実例だけ型Bで頼むのが、手間と数のバランスがよい
- ゲストの顔がはっきり写る写真は、二人の許諾の範囲に入れない線を、先に決めておく
- 撤回の窓口・期限・外す場所のリストを決め、載せた写真の一覧を残す
- 実例の許諾は、集めるための手続きではなく、見学前の二人に見せる会場の姿勢の一部になる
