公式サイトに空き日程カレンダーを載せるか。満席日を希望する二人が4割なら、仮の式場では公開すると見学が年3.6件減る
「公式サイトに、挙式日の空きカレンダーを載せたほうがいいですか」。ウェブ担当の方から、よく聞かれる質問です。二人は日取りから会場を探すことが多いので、空きが見えれば予約が増える。そう考えるのは自然です。
ただ、僕の結論は「会場によって答えが逆になる」です。年300件の見学予約がある仮の式場で、満席の日を希望する二人が全体の4割いる場合、空きカレンダーを公開すると見学予約は年3.6件減ります。損益分岐は、満席日を希望する二人が3割弱のところにあります。
増えるか減るかを分けるのは、運用の手間ではありません。満席日を希望した二人を、今は問い合わせへの返信で別の日に案内して、見学まで連れてこられているかどうかです。この記事では、その見方を前提つきの計算で確かめます。
この記事の数字は、すべて僕が置いた仮のものです。統計や調査の数字は使っていません。自分の会場の数字に置き換えながら読んでください。
空きカレンダーは、二人の何を変えるのか
まず、公開する前と後で、二人の動きがどう変わるかを整理します。
公開していない会場では、日取りを先に決めた二人は、問い合わせフォームや電話で「この日は空いていますか」と聞きます。返信が来て、空いていれば見学の予約へ進みます。満席なら、「その日は埋まっていますが、前後の日ならご案内できます」と返す。ここで別の日に気持ちが動く二人が、一定数います。
公開すると、この流れが変わります。
- 空いている日を探している二人は、問い合わせの手間と返信待ちがなくなる。見学の予約まで進みやすくなる
- 満席の日を探している二人は、サイトを見た時点で「ここは取れない」と分かる。問い合わせをする前に、画面を閉じる
1は、見学予約が増える動きです。2は、減る動きです。公開の損得は、この2つの差し引きで決まります。
2が起きるのは、二人が冷たいからではありません。満席だと分かっている会場に、わざわざ聞く理由がないだけです。ところが現場では、この「聞かれていれば救えていた二人」が、数えられていません。問い合わせが来なければ、来なかったことも記録に残らないからです。
ほかの記事でも書きましたが、日取りを先に決めた二人は、候補の会場の中で空いているのが2〜3か所だけ、ということがよくあります。その2〜3か所に入れるかどうかは、日付が合うか、で決まります。カレンダーはその判定を、問い合わせの前に済ませてしまう道具です。
前提:年300件の見学予約、成約率30%、粗利140万円
仮の式場を決めます。ほかの記事で使っている置き方と、そろえました。
- 年間の挙式は120組、粗利は1組140万円
- 公式サイト経由の見学予約が年300件。見学から契約に進む率は30%(年90組)
- 見学1件あたりの粗利は、140万円×30%=42万円
- 見学予約のうち、日取りを先に決めている二人が3割。年90件
- カレンダーの運用費は、予約システムと連動させて年12万円(月1万円)
粗利が42万円と分かれば、運用費の12万円を回収するのに必要な見学の純増は、12÷42=0.29件です。年に1件も増えなくて済みます。運用費は、この判断のほとんど障害になりません。
見るべきなのは、日取りを先に決めている年90件の中身です。この90件を、次の2つに分けます。
- 空いている日を探している二人(割合 1−f)
- 満席の日を探している二人(割合 f)
f は「満席日を希望する割合」で、この記事の主役の変数です。人気日の土日祝に希望が集中する会場ほど、f は大きくなります。
そのうえで、公開したときの変化に、2つの数字を置きます。
- d:空いている日を探す二人のうち、返信待ちの離脱が減って、新たに見学予約まで進む割合。仮に10%とする
- s:満席日を探していた二人のうち、今は問い合わせへの返信で別の日を提案して、見学まで来てもらえている割合。仮に25%とする
見学予約の純増は、次の式です。
純増(件)= 90 × (1−f) × d − 90 × f × s
前半が増える分、後半が失う分です。
基準ケース:f が40%だと、公開は損になる
f=40%、d=10%、s=25% を代入します。
- 増える分:90×0.6×0.10=5.4件
- 失う分:90×0.4×0.25=9.0件
- 純増:5.4−9.0=−3.6件
見学1件が42万円なので、−3.6件は年151万円の粗利の減少です。運用費12万円を足すと、年163万円の損になります。
数字に違和感があるかもしれません。公開すれば予約が増えるはずだ、と。実際、空いている日を探している二人だけを見れば、増えています。でも、満席の日を探していた二人は、そもそも数が多く、しかも今は4人に1人を見学へつなげられている。この失う分のほうが大きい、という計算です。
fとsで、結果はここまで動く
f と s を動かして、年の損益(万円)を表にします。運用費12万円は引いてあります。d は10%で固定です。
| 満席日を希望する割合 f | s=10%(案内が弱い) | s=25% | s=40%(案内が強い) |
|---|---|---|---|
| 20% | +215 | +101 | −12 |
| 30% | +139 | −31 | −201 |
| 40% | +64 | −163 | −390 |
| 50% | −12 | −296 | −579 |
| 60% | −88 | −428 | −768 |
読み取れることは3つあります。
1つ目。公開が得になるのは、左上です。満席日を希望する二人が少ない会場、または満席日を希望した二人を別の日で来館につなげる力が弱い会場です。
2つ目。右下は大きく損です。人気日に希望が集中していて、しかも返信で別の日に案内するのが上手な会場が、カレンダーを載せると、その強みを自分で手放すことになります。
3つ目。損益分岐の f は、s によって動きます。運用費まで含めて分岐を出すと、s=10%で f≒48%、s=25%で f≒28%、s=40%で f≒19%です。案内が上手な会場ほど、公開しないほうがいい範囲が広くなります。
言い換えると、「接客が上手い会場ほど、先にカレンダーを見せないほうが得」という構造です。
dが小さいと、公開はもっと厳しい
d は「返信待ちで離脱していた二人が、見学予約まで進む割合」です。10%と置きましたが、これも会場によって違います。
返信がすでに速い会場は、d が小さくなります。逆に、返信が翌営業日の会場は、d が大きくなる。f=40%、s=25% のまま、d を動かします。
| d | 純増(件) |
|---|---|
| 5% | −6.3 |
| 10% | −3.6 |
| 15% | −0.9 |
| 20% | +1.8 |
d が20%まで大きくないと、f=40% の会場は純増になりません。つまり、返信待ちで二人の2割が消えている会場なら、カレンダーの公開は効きます。ただ、その場合は、カレンダーより先に返信の速さを直したほうが、効果は大きいはずです。
返信が遅いこと自体は、カレンダーを載せなくても直せます。しかも直したあとは、満席日を希望した二人にも、同じ速さで別の日を提案できる。カレンダーは返信の遅さを隠す道具にもなりますが、遅さを直す道具ではありません。
公開しないまま、中間をつくる方法
「公開か、非公開か」の二択ではありません。見せ方の間に、いくつかの形があります。
空いている日だけを出す
満席の日は何も表示せず、空きのある日にだけ印をつける形です。満席が目に見えないので、「満席だと分かって離れる」動きが弱まります。
仮に、この形だと d が7割(空き日の情報が少し粗いため)、s が半分(満席日が直接見えないので、問い合わせが残る)になるとして計算します。
- f=30%:増える分4.4件、失う分3.4件。純増+1.0件。運用費を引いて年31万円のプラス
- f=40%:増える分3.8件、失う分4.5件。純増−0.7件。年42万円のマイナス
- f=50%:増える分3.1件、失う分5.6件。純増−2.5件。年116万円のマイナス
完全公開より傷は浅いものの、f が4割を超えると、やはり損です。この数字は、半分と7割という僕の想定に強く依存します。自分の会場で試して測るまでは、方向だけ見てください。
週や月の単位で「残り件数」を出す
「11月は土日があと3日空いています」のように、日付ではなく件数で出す形です。満席の日を特定されないので、問い合わせへの導線は残ります。同時に、「残りわずか」という情報が二人の判断を早めることもあります。
ただし、件数の表示は、本当の数字を出す前提です。実際より少なく見せるのは、誤認させる表示になります。空き状況は、事実を事実のまま出す。それが前提です。
フォームの手前に「第3希望まで」の欄を置く
カレンダーを出さない代わりに、問い合わせフォームで、第3希望までの日を聞く形です。満席の日が第1希望でも、第2、第3希望が空いていれば、そのまま見学の話に進めます。これは完全に運用の話で、費用はほぼかかりません。
自分の会場の f と s を、どう測るか
ここまでの計算は、f と s が分かれば、自分の会場でそのまま使えます。測り方を書きます。
f(満席日を希望する割合)は、問い合わせ履歴で出せます。過去3か月の「日取り先決め」の問い合わせについて、希望日が問い合わせの時点で満席だったか、空いていたかを数えます。件数は多くなくていいので、50件でも傾向は出ます。
s(満席日を希望した二人を、見学まで連れてこられている割合)は、同じ履歴の中の、希望日が満席だった問い合わせだけを取り出し、そのうち何件が見学の予約に進んだかを数えます。履歴が残っていなければ、今日から1か月、メモを取れば分かります。
d(返信待ちの離脱)は、日取り先決めの問い合わせで、返信から24時間以内に見学予約に進んだ割合と、それ以降の割合を比べます。返信が遅れた問い合わせの予約率が、速い問い合わせの予約率よりどれだけ低いか。その差が、d の上限の目安です。
この3つが分かれば、先ほどの式に代入するだけで、公開の損得が出ます。
公開すると決めるなら、先に外しておきたいもの
公開が得になる会場でも、いくつか注意があります。
- 仮押さえの日を、空きとして表示しない。表示がずれると、「空いていたはずなのに」という二人が出る。連動させるなら、仮押さえのステータスも連動させる
- 更新が遅れたカレンダーは、ないほうがいい。昨日売れた日が空きに見えていると、クレームの火種になる。更新の担当と時間を決めておく
- 人気日の取り扱いを決める。人気日の先約を取る二人向けに、「年間の人気日は個別にご案内します」と別枠で書く手もある
特に2は、運用費の12万円では足りなくなる原因です。連動ではなく手作業で更新する場合、月4時間として、時給2,000円で年9.6万円。連動費より少なく見えますが、更新が遅れたときの信用の損は、この数字に入っていません。
判断の分かれ目を、3つの問いにする
最後に、結論を3つの問いにまとめます。
- 問い合わせの中で、希望日が満席だったものは何割か(f)
- その二人を、返信で別の日に案内して、見学まで連れてこられているのは何割か(s)
- 返信が遅いせいで、空いている日を探していた二人が消えていないか(d)
f が低く、s が低く、d が高い会場は、公開が効きます。反対に、f が高く、s が高く、d が低い会場は、公開すると失います。多くの会場は、その中間のどこかにいるはずです。中間にいるなら、空いている日だけを出す形や、第3希望までを聞く形のほうが、傷が浅い。
どちらの場合も、カレンダーを載せるかどうかの前に、自分の会場の f と s を一度数えること。数えないまま載せても、載せないままにしても、損得は分からないままです。
まとめ
- 空きカレンダーの公開は、空いている日を探す二人の見学を増やし、満席日を探す二人の問い合わせを減らす。損得は、その差し引きで決まる
- 仮の式場(年300件の見学予約、成約率30%、粗利140万円)では、満席日を希望する二人が4割だと、完全公開で見学が年3.6件減り、年163万円の損になる
- 損益分岐は、満席日を希望する割合が、別の日の案内の強さによって約19%〜48%の間で動く。案内が上手な会場ほど、公開しないほうがいい範囲が広い
- 運用費は障害にならない。年12万円は、見学0.29件で回収できる
- 返信待ちの離脱が大きい会場は、カレンダーより先に返信の速さを直すと、効果が大きい
- 空いている日だけを出す形、残り件数を出す形、第3希望まで聞く形は、完全公開より傷が浅い
- 判断の材料は、満席日を希望した問い合わせの割合と、そのうち見学まで来た割合。履歴50件で数えられる
