約款の「いかなる場合も当社は責任を負いません」は、消費者契約法8条で無効になる。直すと決めるのは「上限額」と「例外の一文」
結婚式場の約款や利用規約に、こんな一文はないでしょうか。「当社は、いかなる理由があっても、お客様に生じた損害について一切の責任を負いません」。
結論から書きます。この書き方は、消費者契約法8条の無効の対象です。無効になるだけなら、書いてあっても裁判で使えないというだけの話です。困るのは、そのまま使い続けると、二人に「責任はない」と案内した前提で現場が動いてしまうことです。
この記事では、免責の条項がどこまで書けて、どこから書けないのかを、式場でありそうな4つの条項例で読みます。そのあとで、賠償の上限額をいくらにするかを、仮の式場で計算します。
先に断っておくと、僕は弁護士ではありません。ここに書くのは、公開されている解説で確かめられる範囲の整理です。実際の約款を直すときは、条文の現行版(e-Gov法令検索)と、顧問の弁護士の確認を通してください。
消費者契約法8条が止めているもの
消費者契約法は、事業者と消費者の契約に使う法律です。式場と新郎新婦の契約は、この法律の対象になります。8条は、事業者が自分の賠償責任を契約書の文言で消してしまうことを止める条文です。
公開されている解説によると、8条1項は、おおよそ次の4つの条項を無効にします。
| 条項の中身 | 無効になる範囲 |
|---|---|
| 債務不履行(約束したサービスができなかった)の賠償責任を、全部なくす | 全部無効 |
| 債務不履行の賠償責任を、一部だけなくす | 故意または重大な過失があるときに限り無効 |
| 債務の履行に際しての不法行為(スタッフの不注意で二人に損害を与えた、など)の賠償責任を、全部なくす | 全部無効 |
| 同じ不法行為の賠償責任を、一部だけなくす | 故意または重大な過失があるときに限り無効 |
ここで読み落としやすいのが、全部と一部の差です。
「全部なくす」書き方は、事業者に軽い過失しかなかった場合でも無効です。一方で「一部なくす」書き方、たとえば賠償額に上限を置く書き方は、事業者に故意や重大な過失がある場合に限って無効になります。裏返すと、軽い過失の場合まで含めて上限を置くことは、8条だけで見れば無効にならない、ということです。
ただし、これで安全になるわけではありません。一部免除の条項が8条に触れなくても、免除の程度によっては、消費者の利益を一方的に害する条項として10条で無効になる場合がある、という注意が解説にも付いています。上限を置けば何でも通る、ではないです。
もうひとつ、解説には、賠償責任の有無や限度を事業者が決める権限を持つ、という書き方も対象に入る、という説明が出てきます。「当社が判断した範囲で賠償します」という書き方がこれに近いです。この部分は法改正が重なっている領域なので、条文の現行版で確かめてください。
式場の約款にありそうな4つの条項例
ここからは、式場の約款で見かけそうな書き方を4つ並べます。実在の式場の約款ではなく、僕が説明のために作った例です。
例1 理由を問わず一切責任を負わない
「当社は、いかなる理由があっても、お客様に生じた損害について一切の責任を負いません。」
いちばんわかりやすい形です。債務不履行の責任も、不法行為の責任も、全部なくしています。8条1項1号と3号の両方に当たります。
公開されている解説にも、これとほぼ同じ趣旨の条項が、8条に反するものとして挙げられています。軽い過失の場合も含めて全部消しているので、「うちは軽い過失しか想定していない」という言い訳も通りません。
例2 賠償は受領済みの料金を上限とする
「当社の賠償責任は、お客様から受領済みの料金の額を限度とします。」
賠償額に上限を置く書き方で、一部免除に当たります。この文言のままだと、事業者に故意や重大な過失があった場合にも上限が効いてしまうので、その部分が8条1項2号と4号で無効になります。
解説では、検討例として次の書き方が挙がっています。「事業者の損害賠償責任は○○円を限度とする。ただし、事業者に故意または重過失がある場合にはこの限りでない」。つまり、例2に「ただし、当社に故意または重大な過失があるときは、この限りではありません」と一文を足すと、8条の関門は通ります。
足す一文の効き目は大きいです。一文あるかないかで、条項全体の扱いが変わります。約款を直すとき、最初にやる作業はこれだと思います。
例3 責任の有無は当社が判断する
「当社が責任を負うべきと判断した場合に限り、賠償に応じます。」
責任の有無を事業者が決める形です。先ほど触れたとおり、この書き方も無効の対象として説明されています。式場の側からすると、現場の判断の余地を残したくて入れる一文ですが、契約書の文言にすると、二人の賠償請求を事業者の判断だけで止められる形になります。
現場の裁量は、約款ではなく社内の対応ルールの側に置くほうが筋が通ります。約款には「賠償の要否は事実関係を確認して決める」くらいの書き方に留め、判断の基準は社内の手順書に書く、という分け方です。
例4 持ち込み品の破損や紛失は責任を負わない
「お客様が持ち込まれた品物の破損・紛失について、当社は責任を負いません。」
式場では、ウェルカムボードやペーパーアイテム、衣装の小物が、前日から会場に置かれます。その保管中の破損に、スタッフの不注意が絡むことはあります。不注意があった場合も含めて「責任を負わない」と書くと、全部免除になるので、8条に触れます。
書き換えるなら、責任を消すのではなく、範囲を決める書き方になります。「持ち込み品は、お預かりの時点で確認表に記録します。記録した品物の破損・紛失について、当社に過失があるときは、○○円を限度に賠償します(故意または重大な過失があるときを除く)」。記録を取るひと手間が、上限の根拠にもなります。
上限額はいくらにするか 仮の式場で計算する
例2と例4で出てきた「上限」を、いくらにするか。ここは法律の話ではなく、式場の経営の話です。判断の材料として、前提を置いて計算します。数字は全部、僕が置いた仮の数字です。
前提は次のとおりです。
- 年120組が挙式する
- 賠償の請求を受ける軽微な事故が、年に3件ある
- 3件の請求額は、写真データの消失が40万円、料理の提供ミスが60万円、持ち込み品の破損が30万円(合計130万円)
- 故意や重大な過失による大きな事故は、この計算に含めない(上限が効かないため)
上限を置かない場合と、置く場合で、年間の賠償額を並べます。
| 上限額(1件あたり) | 年間の賠償額 | 上限なしとの差 |
|---|---|---|
| なし | 130万円 | - |
| 100万円 | 130万円 | 0円 |
| 40万円 | 110万円 | 20万円減る |
| 20万円 | 60万円 | 70万円減る |
上限を100万円にしても、この3件には1円も効きません。請求額が全部100万円より小さいからです。上限が経営の数字を動かすのは、上限が普段の請求額より低いときだけです。
一方で、上限を20万円まで下げると、年70万円が浮く計算になりますが、写真データの消失で40万円の請求が来て、20万円しか払わない運用になります。二人から見ると、挙式の記録が戻らないのに、賠償は半分です。この差が、10条で「消費者の利益を一方的に害する」と見られるかどうかの争点になりえます。ここは数字で答えが出る話ではなく、弁護士に聞く場所です。
僕が見るのは、次の順番です。
- 過去3年の賠償・返金・お詫びの実績を、1件ずつ並べる
- 上限を置くと実績のうち何件が削れるかを数える(削れる件数がゼロなら、上限は看板でしかない)
- 削れる件のうち、二人への説明に自信を持てる件だけを残す
上限が効く件が1件もないなら、上限を置く意味は薄いです。その場合は、約款を直す優先度が下がります。先に直すのは、例1のような全部免除の文言です。
直す作業の手順
約款の直しは、次の5つの作業に分けると進めやすいです。
1. 文言を検索する。 約款のPDFやデータで、次の語を検索します。「一切」「いかなる」「責任を負わない」「責任を負いません」「当社が判断」。ヒットした条項を一覧にします。
2. 全部免除と一部免除に分ける。 ヒットした条項を、責任を全部なくしているものと、一部(上限など)にしているものに分けます。全部のほうは、書き換えが必要です。
3. 一部免除に例外の一文を足す。 上限を置いている条項には、故意または重大な過失があるときは、この限りではない、と足します。
4. 責任を決める権限の書き方を外す。 事業者が判断する、という書き方を、事実関係を確認して決める、に置き換えます。判断の基準は社内の手順書に移します。
5. 保険の範囲を確かめる。 施設賠償責任保険や生産物賠償責任保険に入っている場合、どの事故がどこまで保険でカバーされるかを、損害保険の代理店に確かめます。約款の上限額が、保険の支払い範囲より低いと、保険が使えるのに自社の持ち出しで済ませる形になります。逆に高すぎると、保険のない部分を自社で背負います。上限額を決めるときの、数字の足がかりになります。
契約の場面で気をつけること
約款を直しても、契約の場面で見せ方が悪いと、二人は読みません。重要事項の説明のとき、免責や賠償の上限の条項は、読み合わせの対象に入れておくほうがいいです。
読み合わせの回数は、全部の条項ではなく、キャンセル料と賠償の2項目に絞る形が、現実的だと思います。契約の席で長く読み合わせをすると、二人は疲れて、肝心の条項が頭に残りません。
なお、契約から日が経ってから「約款にこう書いてあった」と言い出す場面は、トラブルになってからです。トラブルになってから、無効になりうる文言を根拠に断ると、式場の側が不利になります。書いてあることと、守れることを、揃えておくのが基本です。
解除を認めない条項は別の問題
8条のすぐ後ろに、8条の2があります。公開されている解説によると、この条文は2016年の法改正で新設され、2017年6月3日に施行されました。事業者の債務不履行などがあっても消費者の解除権を放棄させる条項を、無効にするものです。
式場の約款でいうと、「理由の如何を問わず、契約の解除には応じません」のような文言が近いです。これは賠償責任の話ではなく、解除の話なので、例1〜4とは別の棚に置いて点検します。キャンセル料の上限は別の条文(9条)の領域で、内金とキャンセル料の記事で触れた論点です。この記事では、免責の話に絞ります。
まとめ
- 「いかなる場合も一切責任を負わない」は、債務不履行と不法行為の責任を全部なくす書き方で、消費者契約法8条で無効の対象になる
- 賠償の上限を置く一部免除は、故意または重大な過失の場合に限って無効になる。「ただし、当社に故意または重大な過失があるときはこの限りではない」の一文を足すと、8条の関門は通る
- 一部免除が8条を通っても、10条で無効とされる場合がある。上限を低くしすぎると、二人への説明が苦しくなる
- 責任の有無を事業者が決める書き方は、無効の対象として説明されている。現場の裁量は約款ではなく社内の手順書に置く
- 上限額は、過去3年の賠償実績を1件ずつ並べ、上限で削れる件数を数えて決める。削れる件がなければ、上限は看板でしかない
- 最初に直すのは、「一切」「いかなる」「責任を負わない」で検索して出てくる、全部免除の文言
