遠方の来館者への交通費補助は、来館を増やせるときだけ効く
「遠方から来る二人には、交通費を少し持ちますよ」と言えば、来館は増えるし、成約にもつながるはずだ。そう考えて、補助を出している式場は少なくないと思います。
結論から書きます。交通費の補助は、補助がなければ来なかった二人が来てくれたときにだけ、はっきり元が取れます。補助がなくても来た二人に払った分は、そのまま持ち出しです。仮に1組1万円の補助を、遠方の見学100組に払うと、100万円が出ていきます。粗利を120万円と置けば、成約が1組増えれば足りる計算ですが、その1組が「補助のおかげで増えた」のかどうかは、帳簿を見ても分かりません。
この記事の数字は、出典のある統計ではありません。補助額も、成約率も、粗利も、会場ごとに違うからです。僕が置いた前提を先に並べて、自社の数字に置き換えれば答えが出る形で書きます。
前提を先に置きます
次の前提は、すべて仮置きです。実在の会場の実績ではありません。
- 遠方(日帰りが難しい距離)から来る二人の見学は、補助なしで月に10組、年に120組
- 遠方の二人の成約率は、補助なしで20%(年24組)
- 1組あたりの粗利は120万円
- 補助は、来館のときに1組1万円を渡す。上限や条件は付けない
粗利120万円は、このメディアの計算でこれまで使ってきた置き方に近い数字です。自社の粗利に置き換えてください。
補助は、来る人全員に払うお金です
まず、補助の費用を出します。年に120組が来て、全員に1万円を渡すなら、年に120万円です。ここまでは単純です。
問題は、この120万円が誰に払われるかです。大きく分けて、2種類の二人がいます。
- 補助がなくても来た二人:もともと来館を決めていた。補助は、もらえるお金が増えただけで、行動は変わっていない
- 補助があったから来た二人:交通費が気になって迷っていたが、補助の案内を見て予約を入れた
式場にとって意味があるのは、後者だけです。前者に払った分は、成約率が上がらない限り、何も生みません。
元を取る条件は、2つに分かれます
仮置きの前提で、補助がうまくいく形を2つに分けて計算します。
条件1:新しく来る二人が増える場合
補助を出したら、遠方の見学が年120組から年156組に増えたとします。増えた36組は「補助があったから来た二人」です。この層は、もともと迷っていた分、成約率は低めに置くのが現実的で、仮に10%とします。
- 増えた成約:36組×10%=3.6組
- 増えた粗利:3.6組×120万円=432万円
- 補助の費用:156組×1万円=156万円
- 差し引き:+276万円
この形なら、補助は十分に元が取れます。ポイントは、成約率が10%と低くても、粗利が大きいので、新しく来る人が増えれば取り返せることです。
条件2:来る人は増えず、成約率が上がる場合
次に、来館数は変わらず年120組のままで、補助で成約率が上がるかを見ます。補助をもらった二人は、「大事にされている」と感じて、気持ちが上向くかもしれません。ただし、これを確かめる材料は、僕の手元にはありません。上がるかどうかを前提にせず、元を取るのに必要な上昇幅を計算します。
- 補助の費用:120組×1万円=120万円
- 粗利1組あたり120万円なので、成約が1組増えれば元が取れる
- 年120組での1組は、成約率でいうと約0.8ポイント
つまり、成約率が20%から20.8%に上がれば、損益はゼロです。0.8ポイントなら小さな数字に見えますが、見学が年120組だと、成約が24組から25組に増えるかどうか、という話です。偶然でも1組はぶれます。補助の効果なのか、たまたまなのかは、1年やっても見分けにくいです。
補助の額を変えると、必要な上昇幅は比例して動く
同じ前提で、補助の額を変えたときに、来館数が変わらない場合の損益分岐を並べます。成約率の上昇幅は、年120組あたりで、必要な成約の増加数を出しています。
| 補助額 | 年の費用 | 元を取る成約の増加 | 成約率の上昇幅 |
|---|---|---|---|
| 5,000円 | 60万円 | 0.5組 | 約0.4ポイント |
| 1万円 | 120万円 | 1組 | 約0.8ポイント |
| 2万円 | 240万円 | 2組 | 約1.7ポイント |
額が倍になれば、必要な上昇幅も倍です。2万円にすると、成約率で1.7ポイント、つまり年に2組の増加が要ります。補助の額を決めるとき、「1万円は安い」と感じても、見るべきなのは1組あたりの金額ではなく、年間でいくらの成約を足せば取り返せるかです。
払うタイミングを変えると、費用が変わる
補助の払い方は、来館時に渡す以外にもあります。
- 成約のあとに返す:契約した二人にだけ、交通費相当を値引きや返金の形で返す
- 来館時に渡す:見学に来た二人全員に、その場で渡す
- 条件を付けて渡す:片道の距離や、予約のときの申告を条件にする
成約後に返す形なら、費用は成約した24組分の24万円で済みます。来館時に渡す形の120万円と比べると、5分の1です。ただし、この形は「来館を増やす力」が弱くなります。迷っている二人にとって、成約しなければもらえないお金は、見学に来る理由になりにくいからです。
つまり、どちらを選ぶかは、次の問いで決まります。自社の課題は、来館が足りないことなのか、来館した人の成約率なのか。
- 来館そのものが足りないなら、来館時に渡す形(条件1の側)
- 来館は足りているが、遠方の二人が決めきれないなら、成約後に返す形、または補助をやめて他の手を打つ
補助の対象は、距離で線を引くと揉めにくい
補助を出すと決めたら、次に「誰に出すか」で迷います。全員に出すと費用が膨らみ、申告制にすると「あの人には出して、この人には出さなかった」という不満が出ます。
揉めにくいのは、距離か所要時間で機械的に線を引く形です。たとえば「会場まで片道2時間以上かかる住所」のように、予約フォームの郵便番号で自動的に決まる線にします。担当者の判断が入らないので、説明が一言で済みます。
線の引き方で費用も変わります。仮に、遠方120組のうち、片道2時間以上が半分の60組だとします。
- 対象を片道2時間以上に絞る:60組×1万円=60万円
- 対象を遠方の全員にする:120組×1万円=120万円
絞ると費用は半分で、しかも、交通費が重い二人に厚く届きます。交通費が数千円で済む二人にとって、1万円は「もらえたらうれしい」程度で、来館の理由にはなりにくいからです。
補助の前に、来館の回数を減らす手もあります
遠方の二人にとって重いのは、交通費だけではありません。移動に半日、泊まりなら1日。この時間のほうが重いこともあります。補助を出す前に、次の手で「1回の来館で済む形」にできないかを見る価値があります。
- 見学・試食・見積もりの説明を、1日で終えられる枠にまとめる
- 初回の相談はオンラインで先に済ませ、来館は2回目から
- 近隣の宿泊施設と提携して、前泊の割引を案内する
これらは、補助のように「額が増えるほど費用が増える」形ではありません。枠をまとめる手間と、宿泊施設との調整が最初にかかるだけで、組数が増えても費用は比例しません。
ただし、1日にまとめる枠は、担当者の時間を長く使います。見学の所要時間を延ばす損は、繁忙日に満枠になるかどうかで決まります。補助とどちらが安いかは、自社の繁忙日の数で変わります。
補助を出す前に、自社で数えること
補助を始める前に、今の予約表で数えられることがあります。
- 遠方の見学は、今、年に何組か。これが、補助の費用の母数になる
- 遠方の二人の成約率は、近隣の二人と比べてどうか。遠方のほうが高いなら、補助がなくても来る層が決めている可能性が高く、補助の効きは小さい
- 予約のときに「遠方のため迷っている」と言われた記録があるか。電話やDMのやりとりに、交通費や移動の話が出ているなら、補助で動く層がいる目安になる
- 予約フォームに「お住まいの地域」を聞いているか。聞いていなければ、補助の対象を決められず、効果も数えられない
特に4は、補助をやる・やらないにかかわらず、先に整えておく価値があります。遠方の二人がどれだけいるのか分からないまま、補助の損益は語れません。
補助をやめる判断も、数字で決められる
補助を出してみて、1年たったとき。見るのは次の3つです。
- 遠方の見学は、補助の前と比べて何組増えたか
- 増えた分の成約率は、どれくらいか
- 補助の総額を、増えた成約の粗利で割ったら、何倍か
増えた見学が数組にとどまり、補助の総額が増えた成約の粗利を上回るなら、やめどきです。逆に、遠方からの見学が明らかに増え、その分の成約が出ているなら、額を少し上げる余地もあります。
補助を出すかどうかを、善意や慣習で決めてしまうと、始めたあとにやめにくくなります。「去年まで出していたのに」という二人の反応が気になるからです。最初から「年の総額の上限」と「見直す時期」を決めておくと、やめるときも説明がつきます。
まとめ
- 交通費の補助は、補助がなくても来た二人にも払うお金です。効くのは、補助があったから来た二人の分だけ
- 仮に遠方の見学が年120組、粗利が120万円なら、1組1万円の補助は年120万円。来館数が変わらない場合、成約率が約0.8ポイント上がって初めて元が取れます
- 補助の額が倍になれば、必要な成約率の上昇幅も倍になります。見るべきは1組あたりの金額ではなく、年間の総額
- 来館数が足りない会場は来館時に渡す形、成約率が課題なら成約後に返す形、と使い分ける
- 始める前に、遠方の見学数・遠方の成約率・予約フォームの地域欄を確かめる。効果を数えられない補助は、やめどきも決められません
