式場見学は披露宴会場から見せるか|順路で決まる二人の記憶
式場見学の順路は、披露宴会場から見せるのが当たり前になっています。ただ、見せる順番は、二人が最後に何を覚えて帰るかを決めます。そして「覚えて帰ったもの」が、持ち帰って相談するときの材料になります。
僕の考えを先に書きます。順路は、会場の自慢したい順ではなく、二人の質問に近い順で組むほうがいいと思っています。そのうえで、見積もり説明の直前に、二人がいちばん良い反応を見せた場所へ戻る。この「戻り」を一つ入れるだけで、見学の終わり方が変わります。この記事では、順路の型を3つに分け、どんな二人にどの型が合うかの分かれ目と、見学90分の時間配分を仮の数字で確かめます。数字はすべて前提を置いた計算で、特定の式場の実績ではありません。
なぜ順路が成約に関わるのか
見学は、二人が複数の式場を回るなかの1回です。二人は複数の式場を回るのが普通で、帰宅後、記憶を頼りに式場を比べます。このとき、見学中のすべてを同じ濃さで覚えている人はいません。
心理学には「ピーク・エンドの法則」があります。ダニエル・カーネマンらの研究(1990年代の、不快な医療検査の体験を後から評価させた実験など)で知られる考え方で、人は体験全体を、いちばん感情が動いた瞬間(ピーク)と、終わりの瞬間(エンド)で振り返りやすい、というものです。結婚式場の見学に当てはめて言うと、こうなります。
- 感情が最も動いた場所が、思い出す中心になる
- 最後の10〜15分の印象が、全体の評価の色を決めやすい
僕はこれを、見学の設計に使えると考えています。ただし、結婚式場の見学でこの法則がどれくらい効くかを測った調査を、僕は確認できていません。ここは、考え方として借りているだけです。効き方は、会場ごとに自分の来館データで確かめる前提で読んでください。
順路の3つの型
見学の順路は、大きく3つの型に分けられます。
型1:会場先行型
受付のあと、すぐ披露宴会場とチャペルを見せる型です。いちばん多い形だと思います。
- 良い点:会場の魅力を最初に出せる。写真映えする場所を、二人の集中力が高いうちに見てもらえる
- 弱い点:ピークが序盤に来てしまう。その後の試食・見積もり説明が長いと、最後の印象は「金額の話」で終わりやすい
型2:試食先行型
先に席に座って料理を食べてもらい、そのあとで会場を回る型です。
- 良い点:落ち着いて話ができる。二人の好みや質問を、食事の間に聞き出せる
- 弱い点:会場を見る前に満腹と眠気が来る日がある。会場の見学が駆け足になる
型3:質問先行型
最初の10分は、会場を見せずに二人の話を聞きます。何を気にしているか(人数、親の意向、日取り、予算の目安)を聞いてから、それに近い場所の順に案内する型です。
- 良い点:二人の関心に沿った順路になる。ピークを、二人が実際に気にしていた場所に置ける
- 弱い点:聞き方を間違えると、事情聴取のように感じさせる。冒頭の予算の聞き方は別の記事に書いたので、ここでは「聞く内容は関心事であって、予算ではない」とだけ書いておきます
3つの型に、優劣はありません。二人の状況で向き不向きが変わります。
どの型が合うかの分かれ目
分かれ目は、僕は次の3つで見ています。
1. 二人が事前に何を決めているか
日取りや人数がもう決まっている二人は、「その条件に会場が合うか」を確かめに来ています。この場合は型3が合います。聞くことが少なく、答えがすぐ出るからです。
逆に、何も決まっていない二人は、見学そのものが情報収集です。型1か型2で、会場の雰囲気を先に見せたほうが、二人の好みが見えてきます。
2. 同行者がいるか
親が同行する見学では、親が見たいのは会場の広さや動線、料理の量であることが多いです。この場合は型1か型2のほうが、親の関心に早く応えられます。同行者の聞き取りについては、予約時に「誰と来るか」を聞く記事で書いているので、そちらも参考にしてください。
3. 見学の時間と曜日
土曜の昼に3組が重なるような繁忙日は、会場の移動に待ち時間が出ます。順路を二人の関心に合わせて変えると、他組と動線がぶつかります。繁忙日は型1に固定して、平日は型3で組む、という使い分けも現実的です。
見学90分の時間配分を仮の数字で見る
仮に、見学の所要時間が90分だとします。内訳を次のように置きます。この配分は、僕が置いた前提で、実績ではありません。
- 会場・チャペルの案内:20分
- 試食:25分
- 衣装・写真など:10分
- 見積もり説明:30分
- 移動・待ち時間:5分
合計90分で、割合はそれぞれ約22%、28%、11%、33%、6%です。注目してほしいのは、見積もり説明が最も長い33%を占め、しかも終盤にあることです。
型1で組むと、会場のピークは見学の最初の20分に来て、そこから見積もり説明が始まるまでに、試食と衣装で35分挟まります。最後の30分は金額の話です。二人にとっての最後の印象は、会場の感動ではなく見積書になります。
ここで、見積もり説明の前に5分の「戻り」を入れる場合を考えます。試食の後、見積もり説明の前に、二人が最も良い反応をした場所へもう一度案内します。時間は、他を削って捻出します。たとえば、衣装・写真を10分から8分に、移動・待ち時間を5分から3分に縮めれば、5分は作れます。
この「戻り」で何をするかは、シンプルです。
- 二人が足を止めた場所に戻る(チャペルの入口、窓際の席など)
- 「さっきここで、お二人は○○とおっしゃっていましたね」と、二人の言葉で一言返す
- 見積もり説明は、そこから席に移って始める
見積書を見せる前に、二人が気に入った場所の記憶を、もう一度新しくしておくわけです。
型ごとの1日の流れ(仮の例)
同じ90分でも、型で並びが変わります。分は前の配分に合わせた仮の置き方です。
- 型1(会場先行):会場20分 → 試食25分 → 衣装・写真8分 → 戻り5分 → 見積もり30分 → 移動3分
- 型2(試食先行):試食25分 → 会場20分 → 衣装・写真8分 → 戻り5分 → 見積もり30分 → 移動3分
- 型3(質問先行):聞き取り10分 → 関心の高い場所から案内(会場・試食・衣装を合わせて45分)→ 戻り5分 → 見積もり30分
型3は聞き取りに10分使うぶん、案内の合計が短くなります。全部を見せることより、二人が気にしている場所を厚く見せるほうに寄せる型です。「全部見せないと損では」と心配する現場もあると思います。ただ、二人が見積もりを検討する材料になるのは、見た場所の数ではなく、自分たちの条件に合うと感じた場所です。
順路で起きやすい失敗
順路を工夫しても、次のような場面は崩れやすいです。
二人の反応が薄いときに、戻る場所がない
反応が薄い二人に、無理にピークを探しても空回りします。この場合は、「戻り」の場所を、会場の中でも二人が最も長く立ち止まった場所に決めます。何も見つからなければ、戻りは入れず、見積もり説明の前に「ここまでで気になったところはありますか」と一つだけ聞いて、そこから説明を始めます。聞くことで、二人自身にピークを選んでもらえます。
戻りを「演出」にしすぎない
戻りは、二人の言葉を一言返すだけで足ります。音楽をかける、照明を変えるといった演出まで足すと、押しつけに感じる二人もいます。二人が「ここ、よかったですよね」と自分から口にしたら、それが戻りの合図です。こちらから感想を決めつけず、二人が言ったことをそのまま返す。この距離感を守るほうが、見積もり説明に入ったときの二人の構えが柔らかくなります。
案内役と見積もり説明の担当が違う
案内する人と見積もりを説明する人が違うと、「足を止めた場所」の情報が途切れます。見学シートの1行メモは、この引き継ぎのためでもあります。引き継ぎが難しい式場は、案内した人が最後の説明まで担当するほうが、順路の工夫が活きます。
順路を変えるときの注意
順路を変える提案は、現場の負担が増えます。やる前に決めておくことがあります。
ピークを見つける役割を決める
二人がどこで反応したかは、案内した人が見ています。ただ、それを覚えておいて「戻り」に使うには、メモが要ります。見学シートの余白に「足を止めた場所」を1行書く欄を足すくらいで足りると思います。大がかりな仕組みにはしないほうが続きます。
戻りの時間を、見積もりの時間から借りない
見積もり説明を短くして「戻り」の時間を作ると、二人が金額を理解する時間が足りなくなり、持ち帰ったあとの不安が増えます。時間は、試食の長さや移動の待ち時間から借りるほうが安全です。
試す期間を決める
順路の変更は、効果が出るまで数か月かかります。成約率は見学数が少ないと、月ごとのぶれが大きいからです。たとえば月の見学が30組、成約率が30%なら、成約は9組前後です。ここで1組増えただけで成約率は3ポイント動きます。順路を変えた月に成約が増えても、順路のせいとは限りません。見学の最後に「一番印象に残った場所はどこでしたか」と聞く、といった定性の確認を並べて見るほうが、判断を誤りにくいです。
順路を決める手順
最後に、手順にまとめます。
- 直近の見学の順路を、時間つきで書き出す。ピークになった場所と、見積もり説明の開始時刻を確認する
- 見学シートに「足を止めた場所」の欄を足す
- 見積もり説明の前に、5分の「戻り」を入れる。時間は試食か移動から借りる
- 繁忙日は型1、平日は型3というように、日ごとの型を決める
- 3か月、成約率と一緒に「印象に残った場所」の回答を見る
まとめ
- 見学の順路は、会場の自慢順でなく、二人の関心に近い順で組むと、ピークを二人の気にしている場所に置ける
- 順路の型は、会場先行・試食先行・質問先行の3つ。優劣はなく、二人の事前の決定度、同行者、曜日で選ぶ
- 見積もり説明の前に5分の「戻り」を入れると、見積書が最後の印象になるのを避けられる。時間は試食や移動から借りる
- ピーク・エンドの法則は、式場見学での効き方を僕は確認できていない。考え方として借り、効果は自社の来館データで確かめる
- 成約率は見学数が少ないとぶれる。順路の変更の評価は、成約率だけでなく「印象に残った場所」の回答と並べて見る
