見学の所要時間を90分から120分に延ばすと、繁忙の土日に断る件数が増える。仮の式場では、成約率が1〜4ポイント上がらないと元が取れない
「見学はじっくり時間をかけたほうが成約する」という話は、現場でよく聞きます。90分で終わる見学を120分にして、料理の試食も、契約の話も、ゆっくりやる。たしかに、お客様の満足は上がりそうです。
ただ、時間は1日に24時間しかありません。見学を30分延ばせば、土日に受けられる組数は減ります。減った分の組は、別の日に回るか、他の式場に行きます。その損と、成約率が上がる得を並べて見た人は、意外に少ないと思います。
結論から書きます。仮に、担当3人で、繁忙の土日が年30日、その日の見学の希望が1日12組あるとします。見学を90分から120分にすると、1日の受け入れは12組から9組に減ります。断る組の半分が別の日に回っても、成約が年13.5組減る計算で、粗利140万円なら年1,890万円です。これを取り返すには、成約率が3.8ポイント上がる必要があります。一方、希望が1日10組なら、必要な上昇幅は1.2ポイントまで下がります。分かれ目は、時間の長さではなく、予約が満枠になる日が年に何日あるかです。
この記事の数字は、出典のある統計ではありません。見学の所要時間も、担当の人数も、需要の出方も、会場ごとに違うからです。僕が置いた前提を先に並べて、自社の数字に替えれば答えが出る形で書きます。
前提を先に置きます
次の前提は、すべて仮置きです。実在の会場の実績ではありません。
- 年間の見学は400組、成約率は30%(成約は年120組)
- 1組あたりの粗利は140万円
- 見学の担当は3人。土日の営業は1日8時間
- 1組の見学のあとに、片付けと記録で15分かかる
- 繁忙の土日は年30日。この30日だけ、見学の希望が1日の受け入れ数を超えうる
粗利140万円は、このメディアの計算でこれまで使ってきた置き方に揃えています。
30分延ばすと、1日の受け入れは3組減る
まず、1日に何組受けられるかを出します。
- 90分の見学なら、片付けを入れて1組105分。8時間(480分)で4組が上限です
- 120分の見学なら、1組135分。8時間で3組が上限です(3.55組を切り捨て)
担当は3人なので、1日の受け入れは、90分なら12組、120分なら9組です。30分の延長で、受け入れが4分の1減ります。
切り捨てがここで効いています。480分を135分で割ると3.55組ですが、0.55組ぶんの見学は入れられません。時間を延ばすと、端数の損がまとめて出ます。現場の予約表で見ると、夕方の最後の枠が丸ごと消える形になります。
満枠にならない日は、損が出ない
ここが大事なところです。見学の希望が1日9組以下なら、120分にしても、断る組は出ません。
年間400組の見学を、土日の104日(週2日×52週)に均すと、1日あたり3.8組です。受け入れの上限が9組でも、12組でも、ほとんどの日は余っています。損が出るのは、希望が特定の日に集まる繁忙の土日だけです。
どの日が繁忙かは、会場の事情で決まります。大安の日、連休、フェアの強化月間。僕が置いた「年30日」は、そういう日が月に2〜3日あるくらいの感覚です。自社の予約表で、過去1年に「希望があったのに断った」日を数えてください。その日数が、この計算の入口です。
断った組の行き先で、損は変わる
満枠の日に断った組は、どうなるでしょうか。行き先は3つです。
- 別の日に見学に来る
- 他の式場の見学を先に済ませて、そのまま決める
- 検討をやめる
別の日に来てくれた組は、成約の機会を失っていません。他の式場で決まった組は失います。ここは測れない数字なので、「別の日に回る割合」を0%、50%、80%の3通りで置きます。
希望が1日12組の繁忙日が年30日あると、120分化で断る数は1日3組、年90組です。これに回る割合をかけて、成約率30%と粗利140万円を掛けます。
- 回る割合0%:失う見学が90組。成約27組、粗利で年3,780万円
- 回る割合50%:失う見学が45組。成約13.5組、粗利で年1,890万円
- 回る割合80%:失う見学が18組。成約5.4組、粗利で年756万円
現場の感覚では、別の日に回る割合は半分を切ると思います。繁忙日に断られたお客様は、その週末のうちに他の式場を見に行くからです。ただ、これは僕の推測で、数字の根拠はありません。自社で「断った組のその後」を、予約の再申込みで追えるなら追ってください。
成約率はどれだけ上がれば元が取れるか
では、120分の見学は、成約率をどれだけ上げれば損を取り返せるのでしょうか。
見学が減ったあとの組数で、年120組の成約を維持するための成約率を逆算します。回る割合が50%のとき、見学は400組から355組に減ります。120組を355組で割ると33.8%で、いまの30%から3.8ポイントの上昇です。
表にすると、次のようになります。
- 希望が1日12組、回る割合50%:必要な上昇は3.8ポイント
- 希望が1日12組、回る割合80%:必要な上昇は1.4ポイント
- 希望が1日11組、回る割合50%:必要な上昇は2.4ポイント
- 希望が1日10組、回る割合50%:必要な上昇は1.2ポイント
- 希望が1日10組、回る割合80%:必要な上昇は0.5ポイント
- 希望が1日9組以下:必要な上昇は0ポイント
希望の組数が1つ増えるごとに、必要な上昇幅は、ほぼ倍になります。見学の時間を延ばす判断は、成約率が上がるかどうかより先に、満枠の日がどれだけあるかで決まる、ということです。
成約率の上昇は、本当に起きるのか
必要な上昇幅は出ましたが、30分延ばして成約率が3.8ポイント上がるかどうかは、僕には分かりません。上がるという調査も、上がらないという調査も、見つけられていません。
考えられる経路は、2つあります。
1つ目は、説明の時間が増えて、不安が減ることです。見積りの内訳や、キャンセル料の規定を、急がずに伝えられます。2つ目は、お客様が疲れて、決めきれずに帰ることです。見学の後半は、集中力が落ちます。30分の延長が、プラスにもマイナスにも働きえます。
だから、延ばす前に試すのが安全です。繁忙日を避けて、平日や閑散日だけ120分にします。そのうえで、120分の組と90分の組の成約率を、同じ期間で比べます。ただし、閑散日に来る組は、もともと検討が進んでいる傾向があるかもしれず、単純に比べると差が出すぎます。比べる数は、最低でも各50組は欲しいところです。年400組の見学なら、半年以上かかります。
延ばさずに、中身を詰める手もある
時間を延ばさない選択肢もあります。90分のまま、中身を入れ替える方法です。
- 見積りの説明を、見学の前半に回す。後半は疲れて、金額の話が頭に入らない
- 試食の時間を短くして、契約の話に余裕を持たせる
- 会場の案内は、事前に動画で見てもらう。当日は質問に答える時間にする
どれも、1組あたりの時間を増やさないので、受け入れ数が減りません。繁忙日の損が大きい会場ほど、こちらを先に試す価値があります。
逆に、満枠になる日が年に数日しかない会場は、120分でも大した損が出ません。そういう会場は、時間を延ばして、お客様の反応を見る実験ができます。同じ「時間の延長」でも、会場によって答えが逆になります。
担当の人数で、端数の損は変わる
端数の損は、担当の人数が少ないほど大きく見えます。担当が1人の会場で、90分なら1日4組、120分なら3組です。1人あたりの差は1組で、3人なら3組になります。人数が多いほど、差の絶対数が増えます。
逆に言うと、担当を1人増やせば、120分に延ばした分の受け入れ減は取り戻せます。担当3人の120分は9組で、4人にすれば12組です。90分の3人と同じ受け入れ数になります。
ここで比べるのは、4人目の人件費です。仮に、土日だけ出る見学担当の1日の人件費が1.5万円とします。繁忙日が年30日なら、年45万円です。先ほど出した損失は、回る割合50%で年630万円から1,890万円でした。それに比べると、かなり小さい数字です。繁忙日だけ応援の担当を入れて、時間を延ばす。損の出方から考えると、いちばん筋の通った組み合わせだと思います。ただし、応援に入る人が、見学の経験を積んだ人でないと、成約率が下がります。人件費を足せば済む話ではありません。
予約の取り方でも、受け入れは増える
受け入れ数は、予約枠の置き方でも変わります。たとえば、10時、13時、16時のように、枠の開始時刻を決め打ちにしている会場です。120分の見学を、13時開始と16時開始で受けると、重なる時間が出ます。
担当ごとに枠をずらして置けば、端数の損が減ります。10時、11時半、13時、14時半のように、135分に近い間隔でずらすと、8時間のなかに3組入れて、まだ余りが出ます。予約表の作り方を変えるだけで、延長の損を少し取り戻せることがあります。
ただし、お客様の希望時間は昼前後に集中します。ずらした枠が夕方に寄ると、そこは埋まりません。予約表の工夫で効くのは、希望が分散している日です。
自社の数字で計算する手順
自社の数字に替えるときは、次の順で進めます。
- 過去1年の予約表から、見学の希望があったのに断った日と件数を数える
- 見学1組の実際の所要時間に、片付けの時間を足して、1日の受け入れ上限を出す
- 延長後の上限を、同じ式で出す。端数は切り捨てる
- 延長後に断る件数を、繁忙日ごとに足し上げる
- 断った組の何割が別の日に来たか、再申込みの記録から推測する
- 失う見学の数から、必要な成約率の上昇幅を出す
ステップ5は、記録が無い会場がほとんどだと思います。その場合は、50%を置いて、80%と0%でも計算し、幅で見てください。幅の全体で「上がる見込みがあるか」を考えると、判断を誤りにくくなります。
まとめ
- 見学を90分から120分に延ばすと、担当1人あたりの1日の受け入れは4組から3組に減る(片付け15分、営業8時間の仮置き)
- 損が出るのは、見学の希望が受け入れ数を超える繁忙日だけ。満枠にならない日は、延ばしても損は出ない
- 仮の式場(担当3人、繁忙日が年30日、希望が1日12組、回る割合50%)では、成約率が3.8ポイント上がらないと元が取れない。希望が1日10組なら1.2ポイント
- 30分の延長で成約率が上がるかどうかは、僕の調べた範囲では確かめられていない。閑散日で試して比べるのが安全
- 時間を延ばす前に、説明の順番や動画の事前配布で、90分のまま中身を詰める手がある
