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見積もりを1案から松竹梅の3案にすると、仮の式場では「梅」を選ぶ人が松の人より多い時点で赤字になる。年1億円の粗利で見ると、動くのは300万円前後

初回の見積もりを、1案ではなく松竹梅の3案で出す。価格の見せ方の定番として、式場でもよく話に出ます。「真ん中が選ばれやすいから、上を置けば単価が上がる」と言われることも多いです。

先に結論を言います。3案にしたからといって、客単価が上がるとは限りません。仮の式場で計算すると、粗利が増えるかどうかは、松を選ぶ人の割合が梅を選ぶ人の割合とほぼ同じか、それより多いかで決まります。梅を選ぶ人のほうが多くなった時点で、成約率が上がらない限り、1案で出していたときより粗利は減ります。

この記事の数字は、すべて僕が置いた仮の前提です。松竹梅の選ばれ方を調べた公開データは、探しても見つかりませんでした。なので、業界の傾向として言い切ることはしません。前提を置いて計算するとどう動くかと、自分の会場の数字で確かめる手順までを書きます。

前提を先に置く

計算に使う仮の式場は、こうです。

  • 年間の来館(初回見積もりを出す組)は300組
  • 現在は1案だけで見積もりを出していて、成約率は40%。年120組が契約する
  • 契約した組の平均総額は300万円。粗利率は30%なので、1組あたりの粗利は90万円
  • 年間の粗利は、120組 × 90万円 = 1億800万円

この式場が、同じ内容を松竹梅の3案に作り替えるとします。

案 総額 粗利率 1組あたりの粗利
松 360万円 33% 118.8万円
竹 300万円 30% 90.0万円
梅 250万円 25% 62.5万円

竹は、いまの1案と同じ中身です。松は演出や料理を厚くした案、梅は削った案で、上に行くほど粗利率が高く、下に行くほど低いと置きました。これは、上位プランには装花や衣装のように原価の読みやすい項目が入り、下位プランは人数あたりの固定の費用を薄く割ることになる、という構造を単純にしたものです。実際の式場では、案の作り方によって粗利率の並びは変わります。ここは自社の数字に置き換える最初の場所です。

もう1つ、大事な前提があります。この計算では、成約率は40%のまま動かないと置いています。3案にしても、見積もりを見て契約する組の数は同じ、という前提です。この前提は後で外して、成約率が何ポイント動けば釣り合うかを別に出します。

選ばれ方を5通りに置いて、粗利を並べる

3案の中から、契約した120組がどの案を選ぶか。ここは本当に分からないので、5通りの割合を置いて計算しました。

松・竹・梅の割合 平均総額 1組の粗利 年間の粗利 1案との差
1案(竹だけ) 300万円 90.0万円 10,800万円 基準
30%・50%・20% 308万円 93.1万円 11,177万円 +377万円
20%・50%・30% 297万円 87.5万円 10,501万円 ▲299万円
10%・50%・40% 286万円 81.9万円 9,826万円 ▲974万円
10%・40%・50% 281万円 79.1万円 9,496万円 ▲1,304万円

見てほしいのは、真ん中の竹が5割のままでも、松と梅の割合しだいで、年間の粗利が377万円増える場合から974万円減る場合まで動くことです。

「真ん中が選ばれやすい」という話は、竹の割合を支えてくれます。けれど、粗利を動かすのは竹ではなく、松と梅の差です。竹はどのパターンでも5割前後で、1案のときと同じ90万円なので、増減に効きません。

分かれ目は、松の割合と梅の割合の比べっこ

式を整理すると、もっと単純に言えます。松の割合を p、梅の割合を q とします。

平均総額は、300万円 + 60万円 × p − 50万円 × q。松は竹より60万円高く、梅は竹より50万円安いからです。

粗利で見ると、1組あたりは 90万円 + 28.8万円 × p − 27.5万円 × q になります。松は竹より粗利が28.8万円多く、梅は27.5万円少ない。ほぼ同じ幅です。

つまり、この前提の式場では、松を選ぶ人の割合が梅を選ぶ人の割合を下回った時点で、1組あたりの粗利は1案のときより減ります。 目安は、松1に対して梅が1.05まで。梅が松の1割増しを超えて選ばれるようになると、成約率が動かない限り赤字です。

この「松と梅が同じ幅だけ動く」関係は、僕が置いた価格差と粗利率から出てきたものです。梅を思い切り削って粗利を残す作りにすれば、梅が増えても痛みは小さくなります。逆に、松が竹とほとんど変わらない中身なら、松を選ぶ理由が薄くなります。割合の予想より先に、この価格差の置き方で、分かれ目の位置が決まります。

梅を置くと、元は竹だった人が下がる

ここで、モデルが見落としているものがあります。1案のとき竹を選んでいた人が、3案になって梅に移る、という動きです。

1案のときは、300万円の見積もりを見て「高い」と思っても、選択肢はその1つしかありません。契約するか、他の式場に行くかです。3案にすると、「それなら250万円の案で」という3つ目の道ができます。これは、他の式場に行きそうだった人を引き止める効果にもなりますし、300万円で契約するはずだった人が50万円下げる効果にもなります。

2つの効果は、同じ梅の割合に混ざって見えます。割合だけを見ても、どちらなのかは分かりません。

これを分けて考えるために、梅を選んだ組を2種類に分けます。

  • 引き止められた組:1案のままなら契約しなかった。梅があったから契約した
  • 下がった組:1案のままでも契約した。梅があったから50万円下がった

引き止められた組は、成約率を上げます。下がった組は、粗利を減らします。梅の価値は、この比率で決まります。

仮に梅を選んだ組が全部「下がった組」なら、梅が増えた分だけ粗利は削れます。逆に、梅を選んだ組が全部「引き止められた組」なら、梅は純粋な上積みで、成約率が上がっていきます。実際は、その間のどこかです。

成約率がどれだけ上がれば元が取れるか

前提を外して、成約率を動かします。1案のときの年間粗利10,800万円と同じになる成約率を、選ばれ方ごとに出しました。

松・竹・梅の割合 1組の粗利 元が取れる成約率 40%からの差
30%・50%・20% 93.1万円 38.6% ▲1.4ポイント
20%・50%・30% 87.5万円 41.1% +1.1ポイント
10%・50%・40% 81.9万円 44.0% +4.0ポイント
10%・40%・50% 79.1万円 45.5% +5.5ポイント

300組の来館で、成約率が1ポイント上がると、3組増えます。梅が3割の組み合わせなら、3案にして成約が3.3組増えれば釣り合う。梅が4割なら12組、5割なら16.5組です。

ここで、1つ考えてほしいことがあります。成約率が4ポイント、5ポイント上がる見積もりの出し方は、価格を並べ替えるだけで本当に実現するのか。僕は、梅が4割を超える状況で、成約率の上がり方がそこまで届くと言い切る材料を持っていません。3つの案の存在が、検討を前に進める効果はあるはずです。でも、その大きさは、式場ごとの接客の型や客層で違うはずで、僕はそれを調べた数字を持っていません。

逆に、松が3割を取れる設計なら、成約率が少し下がっても、粗利は1案のときを上回ります。上を厚く、手の届く価格で作ることが、3案化の損益を支えるのは、この計算で見える通りです。

作る手間も、損益に入れておく

3案には、手間がかかります。仮に、こう置きます。

  • 3案の作り替えに、初期で20時間。時間単価3,000円で、6万円
  • 来館ごとに、見積もりを3案出す手間が、1案のときより20分増える。300組で100時間。30万円
  • 年間で36万円

36万円は、1組あたりの粗利87.5万円の0.41組分です。成約率に直すと0.14ポイント。先ほどの比較に足しても、結論は変わりません。手間は、判断を左右する大きさではない、というのが計算の答えです。

ただ、現場の負担は金額に出ません。3案を作ると、打合せで説明する量が増えます。説明が長くなって、判断が遅れる。比べる軸が増えて、二人が持ち帰って考える時間が伸びる。こういう動きは、成約率を下げる方向に効きます。計算の外にある、と覚えておいてください。

自分の会場の数字で確かめる手順

公開データがないので、確かめるのは自分の会場の見積もり実績になります。

手順1:直近1年の契約組の総額を並べる。 契約した全組の見積もり総額(契約時)を、高い順に並べます。100組あれば、上位2割と下位2割を切り出します。

手順2:上位2割の平均と、下位2割の平均を出す。 その差が、いまの客層での「松と梅の価格差」の目安です。1案のまま、すでに松のように高い案を選んでいる組、梅のように抑えている組がいることになります。差が小さければ、3案にしても移る先がありません。

手順3:オプション追加の履歴を見る。 契約後に見積もりが増えた組と、減った組の数を数えます。増えているなら、もともと松に行く素地があります。減っているなら、梅の素地です。

手順4:粗利率を案ごとに出す。 松・竹・梅の案を実際に作る前に、同じ内容で原価を割ってみます。粗利率が松より梅のほうが高くなる作りだと、この記事の計算とは逆になります。そのときは、梅が選ばれるほど粗利が増えます。

手順5:試す期間と指標を先に決める。 3案を出す期間は、少なくとも3か月は欲しいです。来館が月25組なら、3か月で75組。この数だと、成約率の変化は誤差に埋もれます。見るのは成約率ではなく、「契約した組の平均総額」と「松と梅の割合」に絞るほうが、早く判断できます。

3案にするときの作り方

計算から見えた、作り方の注意を3つ書きます。

1つ目:梅を「竹の劣化版」にしない。 梅は、竹から削った案に見えると、二人は竹を選ぶか梅を選ぶかで迷います。迷うこと自体が、検討を長引かせます。梅は「この内容で完結している」と見える作りにするほうが、選ばれたときの満足も高い。ただし、粗利の幅は梅で決まります。ここを作り込むほど、分かれ目は梅に寄ります。

2つ目:松は「ありえない高さ」にしない。 竹が300万円のとき、松が500万円だと、誰も選びません。選ばれない松は、竹を安く見せるだけの役を果たして、粗利には効きません。この計算で置いた360万円は、竹の1.2倍です。選ばれる可能性がある幅は、自社の上位2割の総額が目安になります。

3つ目:竹の中身を変えない。 1案のときの案を竹にする。中身を変えると、成約率の変化が3案のせいなのか、中身のせいなのか分からなくなります。

まとめ

  • 初回見積もりを松竹梅の3案にしても、客単価が上がるとは限らない。仮の式場(来館300組、成約率40%、竹300万円)では、年間の粗利が377万円増える場合から974万円減る場合まで動いた
  • 分かれ目は、竹の割合ではなく、松と梅の割合の比べっこ。この前提では、梅が松の1.05倍を超えて選ばれると、成約率が動かない限り1案より粗利が減る
  • 梅を選んだ人には、引き止められた組と、元は竹で下がった組が混ざる。割合だけでは、梅の価値は分からない
  • 梅が3割なら成約が3.3組、4割なら12組、5割なら16.5組増えて、ようやく釣り合う。松が3割取れる設計なら、成約率が少し下がっても粗利は守られる
  • 3案を作る手間は、仮の置き方で年36万円。成約率に直すと0.14ポイントで、判断を左右する大きさではない
  • 確かめるには、直近1年の契約総額の上位2割と下位2割の差、契約後の増減、案ごとの粗利率を先に数える。試す期間は3か月以上、見る指標は成約率より平均総額と松・梅の割合