契約後の2回目の試食を無料にすると、仮の式場では年72万円かかる。有料にすると18万円で済み、無料に戻す理由は料理のアップグレードが9割の組に刺さるときだけ
契約が決まったあとの試食会は、多くの式場で「1回は無料」になっているはずです。では2回目はどうしているでしょうか。「お二人が納得するまで何度でも」と答える式場もあれば、「2回目は有料です」と決めている式場もあります。決めていないまま、その場の担当者の判断で無料にしている式場もかなりあるように見えます。
結論から書きます。仮に、年120組の式場で、2回目の試食を希望する組が25%、1回の試食に会場がかける費用が2.4万円だとします。2回目を無料にし続けると、年72万円の持ち出しです。2回目を2名で1.2万円の有料にして、希望する組が半分に減るなら、持ち出しは年18万円。差の54万円を無料のほうで取り返すには、増えた試食の組が、粗利8万円の料理アップグレードを45%の確率で選ぶ必要があります。粗利4万円なら90%で、現実的ではありません。
この記事の数字は、出典のある統計ではありません。試食の原価も、希望する組の割合も、アップグレードの採用率も、会場によってまったく違います。僕が置いた前提を先に並べて、自分の会場の数字に替えれば答えが出るように書きます。
前提を先に置きます
計算に使う前提は、次のとおりです。すべて仮置きで、実在の会場の実績ではありません。
- 年間の挙式は120組。1組あたりの粗利は平均140万円
- 契約後の試食会は、1回目を全員に無料で出している。2名分の料理を出す
- 試食1回あたりの会場の費用は2.4万円。内訳は、料理の原価が1名7,000円で2名分の1.4万円、シェフとサービスの手間が1万円
- 2回目を「ぜひやりたい」と言う組が、全体の25%(30組)
- 料理のアップグレード(コースの格上げ、食材の追加、デザートの変更など)の粗利は、1組あたり4万円、8万円、12万円の3通りで見る
1回目の試食は全員に出すので、年に120回、288万円かかります。これは固定のコストで、今回の話では動かしません。動かすのは、2回目の扱いだけです。
2回目に何が起きているのか
2回目を希望する二人は、だいたい2つに分かれるはずです。
- 迷っている組:1回目で食べたコースに決めきれず、別のコースも食べて比べたい
- 家族に食べてもらいたい組:親や祖父母を連れて、料理の確認をしたい。人数が2名では済まず、4名、6名になることがある
どちらの場合も、会場が負担するのは料理の原価と、厨房とサービスの手間です。後者の「家族を連れてくる」ケースでは、2名分で見積もった2.4万円に収まりません。この記事の計算は2名分で置いています。人数が増える会場では、費用はこの数字より重くなる、という向きで読んでください。
無料のままにしたとき
2回目を希望する30組に、1回2.4万円をかけます。
- 30組 × 2.4万円 = 72万円
年72万円の持ち出しです。これは、1組の粗利140万円の会場の、年間粗利の中で見ると小さい額です。年120組なら総粗利は1億6,800万円なので、72万円は0.4%ほどです。だから、この額だけを見て「やめよう」とはなりにくい。そこが、無料のまま続いてしまう理由だと思います。
ただ、0.4%の中身は、利益を生まない出費です。2回目の試食を無料にしたからといって、契約はもう済んでいます。契約を取るための費用ではなく、契約後の満足を上げるための費用になります。
有料にしたとき
2回目を、2名で1.2万円にします。原価の1.4万円を下回る設定なので、赤字を少し減らす程度の価格です。希望する組は、無料のときより減るはずです。ここでは半分の15組に減ると置きます。
- 費用:15組 × 2.4万円 = 36万円
- 収入:15組 × 1.2万円 = 18万円
- 持ち出し:36万円 − 18万円 = 18万円
無料のときの72万円と比べて、54万円減ります。
価格と、希望が残る割合を変えて、持ち出しがいくらになるかも見ておきます。
- 価格0.6万円で、希望が4割に減る(12組):持ち出し21.6万円
- 価格1.2万円で、希望が5割(15組):18万円
- 価格1.2万円で、希望が7割(21組):25.2万円
- 価格1.8万円で、希望が5割(15組):9万円
- 価格2.4万円(原価どおり):どの割合でも0円
最後の行が大事です。原価どおりの2.4万円にすれば、希望する組の数が何割に減っても、持ち出しはゼロになります。ただし、2.4万円は2名の追加試食としては高く見えます。ここは二人の気持ちを見ながら決めるところで、1.8万円あたりまでなら受け入れられやすいのでは、というのが僕の見立てです。この見立ては検証していません。
無料を続ける理由があるとしたら
無料のほうが得になる道は、1つしかありません。増えた試食が、料理のアップグレードにつながる場合です。
有料にして15組が試食をやめた分、無料のほうは15組多く試食をしています。その15組が、アップグレードを選んでくれれば、無料の持ち出し54万円(72万円−18万円)を取り返せます。必要な採用率は、次の式で出ます。
- 必要な採用率 = 54万円 ÷(15組 × アップグレードの粗利)
アップグレードの粗利ごとに計算すると、次のとおりです。
- 粗利4万円:54 ÷ 60 = 90%
- 粗利8万円:54 ÷ 120 = 45%
- 粗利12万円:54 ÷ 180 = 30%
粗利が4万円のアップグレードしかない会場では、増えた15組のうち13〜14組が格上げを選ばないと元が取れません。粗利が12万円あっても、3割の組が選ぶ必要があります。
ここで考えてほしいのは、自分の会場の「2回目の試食をした組のアップグレード採用率」を、過去の記録から数えられるかどうかです。1回目だけで済ませた組と、2回目まで食べた組で、最終的な料理の単価がいくら違うか。この差が1組8万円を超えているなら、無料のまま続ける理由があります。超えていないなら、有料にして構いません。
なお、2回目を希望する組が25%という置き方も、動かして見ておく価値があります。希望が10%(12組)の会場なら、無料の持ち出しは年28.8万円まで下がり、有料にして得られる差も小さくなります。逆に40%(48組)の会場なら、無料の持ち出しは年115.2万円です。希望率が高い会場ほど、2回目の扱いを決めておく意味が大きくなります。
回数を決める代わりに、条件を決める手もあります
有料か無料かの二択にしなくても、条件で分ける方法があります。
- メニューを変えたいと言われたときだけ、2回目を無料にする
- 家族を連れてくる場合は、追加の人数分だけを実費にする
- 挙式の半年前までに済ませる組には無料、直前の組は有料にする
3つ目は、人気の高いシーズンの厨房を空けておく意味もあります。繁忙月に、厨房が試食のために稼働率を下げる、という別のコストが乗るからです。この記事の計算には、そこは入れていません。
条件で分けると、担当者がその場で判断する負担が減ります。「無料にしていいですか」と店長に聞きに行く手間がなくなるからです。運用の面では、価格を決めるより、この「聞きに行かなくてよい状態」を作るほうが大事かもしれません。
計算に入れていないこと
この記事の計算は、ここまでを置いています。入れていないものがあります。
- 試食に満足した二人の口コミや紹介。2回目まで食べて決めた二人が、友人に紹介してくれる確率が上がるなら、無料のほうが得になる余地があります。ただ、これは数字で確かめにくいところです
- 契約後のキャンセルの防止。契約後に不安が出た二人を、試食で落ち着かせられるなら、無料にする価値は出ます。ただ、キャンセルの理由が料理にあるケースがどれだけあるかは、会場ごとに記録を見ないと分かりません
- 有料にしたときの、二人の気持ちの変化。「契約したのに、また払うのか」と感じる二人は一定数いるはずです。この感じ方は、契約時の説明の仕方で変わります。契約の場で「試食は1回無料、2回目から実費です」と先に伝えておけば、あとで言われるより受け止めやすい、というのが僕の見立てです
どれも、数字を置けば動かせます。ただ、置く数字が当てずっぽうになるので、計算は載せませんでした。自分の会場の記録で確かめられるものから、順に入れていくのがよいと思います。
自分の会場の数字に替える手順
最後に、この計算を自分の会場で回す手順を書きます。
- 去年の挙式組数のうち、契約後の試食を2回以上した組を数える。これが「2回目の希望率」になる
- 試食1回あたりの費用を出す。料理の原価(1名分)と、シェフ・サービスの手間(時間と人数)を足す。家族を連れてきた回は、人数を別に数える
- 2回目まで食べた組と、1回で済ませた組の、料理の最終単価を比べる。差が「アップグレードの粗利」の目安になる
- 有料にしたら希望がどれだけ減るかは、分からないので、3割減、5割減、7割減の3通りで計算する
- 必要な採用率を、この記事の式で出す。実際の採用率がそれを超えていれば無料、超えていなければ有料か条件つき
手順3の「差」は、きれいには出ません。試食を2回食べる組は、もともと料理にこだわりが強く、食べなくてもアップグレードを選んでいた可能性があるからです。差の全部が試食のおかげ、とは読まないほうがいいです。差の半分くらいを試食の効果として見積もると、慎重な判断になります。
まとめ
- 仮に年120組、2回目の希望が25%、試食1回の費用が2.4万円なら、2回目を無料にし続けると年72万円かかる
- 2回目を2名1.2万円にして希望が半分に減れば、持ち出しは年18万円。原価どおりの2.4万円なら持ち出しはゼロ
- 無料を続けて元が取れるのは、増えた試食の組がアップグレードを選ぶ率が、粗利8万円で45%、4万円で90%、12万円で30%を超えるとき
- 有料と無料の二択にせず、「メニュー変更のときだけ無料」「家族の人数分は実費」のような条件で分ける方法もある
- 口コミ、キャンセル防止、二人の気持ちは計算に入れていない。自分の会場の記録で確かめられるものから順に足す
