口コミの依頼を「満足した人だけ」に絞ると、仮の式場の平均は4.63から4.84に上がる。ただ、選別を式場が決める難しさがあり、効果は計算より小さくなりうる
結婚式を挙げた二人に、口コミの投稿をお願いする。多くの式場がやっていることです。そこで必ず出てくるのが、「満足していそうな人にだけ送ればいいのでは」という声です。不満を持っていそうな人に送って、星1つがつくのは避けたい。気持ちは分かります。
結論から書きます。年120組の仮の式場で計算すると、全員に依頼したときの平均星は4.63、満足した人だけに絞ったときは4.84で、差は0.2星です。依頼にかかる工数は年1.8万円ほどで、損益だけを見れば、どちらでも払える額です。
ですから、この記事で見るのは損益ではありません。絞ることで何が変わり、何を失うか。そして、依頼をまったくしないと平均がどう偏るか。この2点です。
この記事の数字は、Googleのポリシーの文言以外、すべて僕が置いた仮のものです。満足した人の割合も、投稿してくれる割合も、調査の数字ではありません。自分の会場の数字に置き換えると結論の幅が変わります。「どの前提が平均を動かすのか」を読み取る計算として読んでください。
依頼をしないと、平均は不満のほうへ偏る
まず、何もしない場合を置きます。
卒花嫁は年120組。そのうち、満足した人が85%、ふつうが10%、不満が5%という構成を仮置きします。星は、満足が5、ふつうが3、不満が1です。
自然に投稿してくれる割合も仮置きです。満足した人は3%、ふつうの人は3%、不満の人は15%。不満のある人のほうが投稿しやすい、という感覚は現場で聞くことが多いので、その向きに置きました。ただし、15%も3%も実測ではありません。
この条件で1年に集まる口コミは、満足が3.1件、ふつうが0.4件、不満が0.9件で、合わせて4.3件。平均星は4.0です。
構成は満足85%なのに、口コミの平均は4.0に落ちます。投稿してくれる人の偏りだけで、実態の4.6より0.6ほど厳しい数字になる計算です。
4.3件というのも大事な点です。年に4件では、3年たっても10件ちょっとしか増えません。すでに40件、平均4.2の口コミがある会場が3年何もしなければ、53件、平均4.15です。件数は増えず、平均もほとんど動きません。
全員に依頼すると、件数が7倍弱になる
次に、挙式の後、全員にお願いのメッセージを送る場合です。
投稿してくれる割合を、満足した人は25%、ふつうの人は15%、不満の人は30%と置きます。依頼があれば、満足した人の背中が押されるので、満足した人の割合が最も上がる想定です。不満の人も、聞いてもらえる場ができた分、自然投稿の15%より上がると置きました。
| 項目 | 依頼なし | 全員に依頼 |
|---|---|---|
| 満足(星5) | 3.1件 | 25.5件 |
| ふつう(星3) | 0.4件 | 1.8件 |
| 不満(星1) | 0.9件 | 1.8件 |
| 年間の件数 | 4.3件 | 29.1件 |
| 平均星 | 4.0 | 4.63 |
件数は約7倍になります。平均星も0.6ほど上がります。不満の人の投稿が1件から2件に増えているのに、平均が上がるのは、満足した人の投稿がそれ以上に増えるからです。
3年続けた場合、すでに40件・平均4.2の会場は、127件・平均4.49になります。依頼なしの53件・4.15と比べると、件数は2.4倍、平均は0.34星の差です。
ここまでは、依頼する価値があるという話です。工数は、1組あたり5分、時給1,800円と置くと、120組で10時間、1.8万円です。粗利140万円の1組の1.3%に当たります。成約が年0.013組増えれば元が取れるので、「依頼するかどうか」は、悩む額ではありません。
満足した人だけに絞ると、平均が0.2星上がる
では、満足した人にだけ送る場合です。満足した人は25%が投稿し、ふつうと不満の人には依頼しません。ふつうと不満の人は、自然投稿の割合(3%と15%)のままです。
年間の件数は26.8件、平均星は4.84です。全員に依頼する場合の29.1件・4.63と比べると、件数は2.3件少なく、平均は0.2星高くなります。3年後は、120件・平均4.63です。
0.2星が目に見える差かというと、僕は微妙だと思っています。Googleマップの星は小数第1位まで出るので、4.5と4.7の違いは、検索結果の一覧で見分けられます。ただ、読み手がこの差で来館を決めるかどうかは、僕の手元に数字がありません。ですから、ここは損益に直さず、「差は0.2星」とだけ書いておきます。
ここからが本題です。この0.2星に、リスクが2つ付いてきます。
絞る運用のリスク1:誰が満足したかを、式場の側で決めている
「満足した人だけに送る」ためには、誰が満足したかを、式場が判断しなければなりません。
判断の材料は、当日の様子や、アンケートの点数などです。ここに2つの問題があります。
1つは、判断が外れることです。当日にこにこしていた二人が、帰ってから不満を持つことがあります。逆に、口数が少なかった二人が、大満足していることもあります。仮に判断の精度が8割だとすると、不満の人の2割にも依頼が届き、満足した人の2割には依頼が届きません。絞った効果は、計算より小さくなります。
もう1つは、やっていることの説明がつきにくいことです。「あなたには依頼しません」と選んでいる事実は、会場の中で共有されます。スタッフが「この二人は送らない」と決めているのを、新しく入った人が見たときに、納得できる説明が要ります。
Googleのポリシーについては、僕が確認できたのは次の範囲です。口コミラボ(2022年9月15日付)の記事をネッ担が転載したもので、Googleの「マップユーザーの投稿コンテンツに関するポリシー」の「虚偽のエンゲージメント」に、料金の割引や商品・サービスの無償提供などと引き換えに、否定的なクチコミの修正または削除を依頼する行為が加わった、とあります。記事は、それまでも、インセンティブと引き換えに口コミを促す行為は禁止されていたと説明しています。
つまり、確認できたのは「見返りと引き換えにしてはいけない」という点です。満足した人だけに送ること自体が禁止されているのかは、僕が確認した範囲では書かれていませんでした。ポリシー本文を直接確認していないので、禁止されていると言い切ることも、問題ないと言い切ることもできません。判断の前に、Googleビジネスプロフィールの公式ポリシーを、会場で一度読んでおくのが安全です。
絞る運用のリスク2:星が高すぎる口コミは、読み手が割り引く
もう1つのリスクは、仕組みの話です。
口コミを読む二人は、星の平均だけを見ているわけではありません。件数、直近の投稿の日付、書き方の具体性を見ています。4.84という平均は、満足した人だけが書いた口コミの山に見えることがあります。
全員に依頼した場合の4.63は、星1つ、星3つが混ざった山です。僕は、このほうが読み手にとって「本当の声に見える」と考えています。これは仮説で、数字では確かめていません。
仮説を支える手がかりは、一つあります。口コミの数が少ないうちは、星1つが1件入るだけで平均が大きく動きます。件数が20件のとき、星1つ1件で平均は0.19星下がります。50件なら0.08星、120件なら0.03星です。件数が増えるほど、1件の星1つが平均に与える影響は小さくなります。
だから、星1つを避けるために依頼を絞るより、件数を増やすほうが、平均は安定します。絞って26.8件を集めるより、全員に依頼して29.1件を集めたほうが、件数は多く、星1つを1件もらったときの傷も浅いからです。
前提を動かすと、結論はどう変わるか
仮置きした前提のうち、結論を動かすものを2つ確かめます。
満足した人の投稿率。 全員に依頼する場合、満足した人の投稿率が10%なら、年13.8件・平均4.22。25%なら29.1件・4.63。40%なら44.4件・4.76です。投稿率が上がるほど、件数が増え、平均も上がります。依頼の文面や送る時期で、この率は動きます。絞るかどうかより、この率を上げるほうが、平均にも件数にも効きます。
満足した人の割合。 構成を満足85%・ふつう10%・不満5%から、満足75%・ふつう15%・不満10%にすると、全員に依頼したときの平均は4.31、満足のみに絞ると4.67で、差は0.36星に開きます。満足65%・ふつう20%・不満15%なら、全員が3.99、絞ると4.47で、差は0.48星です。
この結果は、読み方を変えます。満足した人の割合が低い会場ほど、絞ったときの上がり幅が大きくなります。つまり、絞りたい気持ちが強い会場は、実際に絞る効果が大きい会場です。ただ、そのときに全員に依頼すると平均が3.99になるのは、その会場の実態が口コミに出ているだけです。絞って4.47にしても、実態は変わりません。
仮に満足した人の割合が低いなら、先に直すのは、口コミの運用より、当日の体験です。この順番を間違えると、口コミの見た目だけを整えることになります。
依頼するときに、会場で決めておくこと
絞るか全員にするかの前に、依頼の中身で決めることがあります。
見返りを付けない。 先に挙げたポリシーの話の延長です。投稿に対する割引やプレゼントは、依頼の文面に入れない運用が安全です。「ご感想をお聞かせください」と頼み、投稿するかどうかは二人に任せます。
依頼の時期を決める。 挙式の直後は気持ちが高い時期ですが、写真や動画が届く前です。仕上がりを見てから書きたいという人もいます。僕は、写真・動画が届いたあとに1回だけ送る形が、投稿の質を保ちやすいと考えています。ただ、これも数字の裏づけがないので、会場で2パターンを試して、投稿率を比べるのが確実です。
不満が分かった人には、口コミより先に連絡する。 アンケートで低い点をつけた二人には、投稿の依頼ではなく、連絡をします。口コミの依頼とは別の話で、これは絞りではありません。対応した結果、二人が自分で書きたくなれば、それは依頼とは関係なく生まれた口コミです。
返信の方針を決めておく。 依頼で口コミが増えれば、返信も増えます。星1つの口コミへの返信は、読み手が見ています。返信の担当と、書く速さを先に決めておきます。
効果を確かめる方法
依頼を始めたら、3つの数字を残します。
- 月ごとの投稿件数と、投稿率(依頼した組数に対する投稿数)
- 星の分布(星5が何件、星1が何件か)
- 来館予約の入口で「口コミを見た」と答えた割合(アンケートか聞き取り)
3つ目は、取るのが難しい数字です。口コミがきっかけで来館を決めたかどうかは、二人の自己申告でしか分かりません。それでも、年に数十件でも記録が残ると、半年後に「依頼を始める前と後で、何が変わったか」を並べられます。
星の平均だけを毎月見ていると、1件の星1つで動くので、判断を誤ります。件数が50件に届くまでは、平均ではなく、分布を見るほうが確かです。
まとめ
- 依頼をしないと、自然投稿は不満の人に偏る。仮の式場では年4.3件で、平均は4.0(実態より低く出る)
- 全員に依頼すると、年29.1件・平均4.63。工数は年1.8万円で、損益の悩みどころではない
- 満足した人だけに絞ると、平均は4.84で、全員に依頼した場合より0.2星高い。ただし件数は2.3件少ない
- 絞る運用には、誰が満足したかを式場が決める難しさがある。判断が外れると効果は計算より小さい
- 確認できたのは、見返りと引き換えの依頼がGoogleのポリシーで問題になる点まで。選別そのものが禁止かは、ポリシー本文を直接読むまで言えない
- 件数が増えるほど、星1つの傷は浅くなる。20件で0.19星、120件で0.03星
- 満足した人の割合が低い会場は、絞る効果が大きい。ただ、先に直すのは口コミの運用より、当日の体験
