契約後の初回打合せの前にヒアリングシートを送ると、仮の式場で運用は年6万円。打合せが短くなる分は誤差で、元が取れるかを決めるのは解約が年0.06組減るかどうか
契約が決まった二人には、1〜2週間のうちに初回の打合せが入ります。この打合せを、白紙の状態で始めている式場は少なくないと思います。プランナーが「ご希望はありますか」と聞き、二人が「うーん、まだ具体的には」と答え、90分のほとんどが聞き取りで終わる、という流れです。
その前に、10項目ほどのヒアリングシートを送っておく。やることは単純です。ただ、これは「打合せが短くなるから得」という話ではないと僕は考えています。この記事では、仮の式場の数字で運用費と時間の節約を並べ、差し引きがほぼゼロになることを先に確かめます。そのうえで、本当に元が取れるかを分けるのは何か、を整理します。
先に断っておくと、この記事に出典はありません。数字はすべて、僕が置いた仮の前提です。式場の実績ではなく、自分の会場に当てはめるための計算の型として読んでください。
仮の式場の前提
まず、計算に使う前提を置きます。
- 年間の契約は120組。契約から初回の打合せまでは、1〜2週間
- 初回の打合せは、いまは90分
- プランナーの1時間あたりの人件費は2,500円(給与に社会保険料などを乗せた想定。会場ごとに置き換えてください)
- 契約後の解約は、年に4組(3.3%)
- 1組の粗利は140万円。解約すると、その組の残りの粗利が消えると見ます
ヒアリングシートは10項目で、Webフォームか紙で答えてもらう想定です。回答率は70%、回答した組は初回の打合せが30分短くなる、と置きます。この「30分」と「70%」は、あとで動かします。
運用にかかる費用
費用は3つに分けられます。
1つ目は、シートを作る初期費用です。項目を決め、フォームを作り、送付の文面を整えるのに8時間かかるとすると、2万円です(8時間×2,500円)。最初の年だけの費用です。
2つ目は、送って回収を確かめる手間です。契約のたびに送り、数日後に返ってきたかを見ます。1組あたり5分とすると、年120組で10時間、2万5千円です。
3つ目は、返ってきた答えを打合せの前に読む手間です。1組あたり10分。回答は70%の84組なので、14時間、3万5千円です。
運用費は、毎年かかる分が6万円(2.5万円+3.5万円)、初年度は初期費用を足して8万円です。
節約できる時間
一方、戻ってくる分です。回答のあった84組で、打合せが30分短くなるなら、42時間。人件費にして10万5千円です。
差し引きを出します。
- 初年度:10.5万円−(2.5万円+3.5万円+2万円)=2.5万円
- 2年目以降:10.5万円−6万円=4.5万円
年に数万円です。1組の粗利が140万円の事業で、この金額は誤差です。時間の節約だけで、この取り組みを決めるべきではないと思います。
回答率とどう動くか
回答率を動かすと、こうなります。打合せの短縮は30分のまま、ほかは前提のままです。
- 回答率30%:節約4.5万円、運用費4万円。初年度の差し引きは−1.5万円、2年目は0.5万円
- 回答率50%:節約7.5万円、運用費5万円。初年度は0.5万円、2年目は2.5万円
- 回答率70%:節約10.5万円、運用費6万円。初年度は2.5万円、2年目は4.5万円
- 回答率90%:節約13.5万円、運用費7万円。初年度は4.5万円、2年目は6.5万円
どの回答率でも、差し引きは年に最大でも7万円弱です。時間の節約が打合せ1回あたり15分に減ると、70%の回答率でも、2年目は−0.75万円になります。節約が短縮した時間の長さに左右されることも分かります。
打合せを短くしない使い方
ここで、使い方を一つ変えてみます。打合せは短くせず、90分のまま、聞き取りに使っていた時間を中身に回します。
この場合、時間の節約はゼロです。運用費だけが残り、初年度は8万円(初期費用2万円+運用費6万円)かかります。これを回収する基準は、解約の側にあります。
1組の粗利を140万円と置くと、8万円は0.057組分です。契約後の解約が、年に4組から3.94組に減れば、初年度の費用は取り返せます。2年目以降なら6万円で、0.043組です。
年4組の解約が、ヒアリングシートの有無で0.06組変わるかどうか。120組に対して0.05%です。1組減る年が20年のうち1回あれば、おつりが出ます。
ただし、これは解約が減ると仮定したうえでの計算です。減る保証はありません。僕が言えるのは、効果のハードルがかなり低いということまでです。
解約につながる食い違いを拾う
では、シートで拾いたいものは何か。契約後の解約の理由を、僕は大きく3つに分けて考えています。
- 費用の見通しが違った。見積もりを見て、二人が思っていた総額と離れていた
- 家族の関わり方が違った。契約の時点では見えていなかった親や親族の意向が、あとで出てきた
- 二人の間で、温度が違った。片方が乗り気で、もう片方は様子見だった
どれも、契約の場では出てこなかった話です。接客の場では、見学の流れで盛り上がり、決めた勢いのまま契約になります。契約後に冷静になった二人が、はじめて「あれ」と思う。その最初の点検の場が、初回の打合せです。
白紙の90分でも、プランナーは聞けば拾えます。ただ、その場で口に出しにくい話があります。家族の意向や、予算の上限、片方の温度の話は、相手が目の前にいると言いにくい。紙やフォームなら書ける、という人はいるはずです。
シートに入れる10項目
僕が入れるなら、次の10項目です。どれも選択か、一言で書ける形にします。長い自由記述は、回答率を下げます。
- 招待したい人数の見込み(男性側・女性側それぞれ、幅で)
- 予算の上限(見積もりより上か下か、選択式で)
- 結婚式で譲れないこと(3つまで)
- やりたくないこと(3つまで)
- 両家のうち、費用や内容に意見を言いそうな方(親・祖父母・親族。いなければ「いない」)
- 打合せに同席する人(二人だけか、親も来るか)
- 平日と土日の、都合のつく時間帯
- 連絡の手段(電話、メール、LINEのどれが楽か)
- 苦手な食材やアレルギー(二人と、わかっている範囲のゲスト)
- 契約後にいちばん不安なこと(自由記述で一言)
最後の10番が、解約の兆しを拾うための項目です。「不安なし」と書く人が大半だと思います。そこに「親にまだ金額を言えていない」と書いてあれば、打合せの冒頭で最初に聞くことが決まります。
回答が来ない組を見る
運用の中で、もう一つ使えるものがあります。回答が来ない組です。
30%の組は回答しない、という前提で考えます。回答しない理由は忙しさかもしれません。ただ、契約後の1〜2週間で10項目に答えられない理由が、二人のどちらかの温度の低さにあることもあります。回答のない組には、打合せの前に一度、担当者が一言だけ連絡を入れる。「シートは見ていただけましたか」というだけで十分です。
この連絡は、1組あたり3分、36組で約1.8時間、4,500円です。解約の兆しを見つける手段としては、安い部類だと思います。回答の遅れを、解約の予兆として扱うかは、運用してみて、自分の会場の数字で見るしかありません。
続けるか止めるかの目安
ここまでを、式場で判断するときの目安に直します。
- 打合せを30分短くできる運用なら、費用は時間の節約でほぼ相殺される。続ける理由は解約側に置く
- 打合せを短くしない運用なら、費用は年6万円(初年度8万円)。解約が年0.06組減れば元が取れる
- 回答率が50%を切るなら、項目を減らす。10項目を5項目にすると、1組の読み込み時間も減る
- 初年度の終わりに、契約後の解約の件数と理由を見直す。理由がシートの項目にない場合は、項目を足す
とくに4つ目が大事です。ヒアリングシートは作って終わりではなく、解約の理由が分かるたびに更新していくものです。1年たてば、その会場の「解約の前兆」がたまってきます。シートの10項目は、そのたまった前兆の目次になります。
送るタイミング
送る日は、契約の当日か、翌営業日が自然だと思います。契約から日がたつほど、二人の気持ちは「決めた」から「準備」に切り替わり、シートは宿題の色が濃くなります。契約当日の帰りに、打合せの日程の確認メールと一緒に送れば、日程調整の連絡を1通減らせます。
もう一つは、送る手段です。紙で渡すと、書く場が家になり、二人で相談しながら書けます。Webフォームなら、スマホで通勤の途中に答えられます。どちらが回答率を上げるかは、会場の客層によります。最初の半年は、半分ずつ試して回答率を比べるのが、いちばん確かだと思います。
気をつけたいこと
シートを送ると、二人に宿題を出すことになります。契約したばかりの二人にとって、これは負担です。次のことを守ると、嫌がられにくくなります。
- 「答えなくても打合せはできます」と、文面に書く
- 所要時間を、3分と明記する
- 打合せの前日までに戻ってくれば十分、と期限をゆるくする
- 答えた内容は、打合せで二度聞かない。聞き直すなら、シートの意味がなくなる
4つ目は、運用で崩れやすいところです。シートに書いてあることを、プランナーが打合せの冒頭でもう一度聞いてしまう。二人は「書いたのに」と感じます。読み込みの10分は、この二度聞きを防ぐためにあります。
まとめ
- 契約後の初回打合せの前にヒアリングシートを送る運用費は、年120組の仮の式場で年6万円(初年度は8万円)
- 打合せが30分短くなる分は、回答率70%で年10.5万円。差し引きは年に数万円で、誤差の範囲
- 時間の節約だけで決めない。打合せを短くしない運用なら、解約が年に0.06組減れば元が取れる
- シートで拾うのは、費用の見通し、家族の意向、二人の温度の食い違い。契約の場では出なかった話
- 回答がない組は、解約の予兆として一言だけ連絡を入れる
- 回答率が50%を切るなら項目を減らし、1年たったら解約の理由に合わせて項目を直す
