人気日の仮押さえを2週間から1週間に縮めると、仮の式場では年3組が動く。ただし仮押さえ組の成約率が3ポイント下がれば消える
人気日の仮押さえは、期限を短くしたほうがいいのか、長いほうがいいのか。この問いには、調査の数字では答えが出ません。式場ごとに、同じ日を希望する別の組がどれくらい来るか、仮押さえをした組がどれくらい決めてくれるかが違うからです。
ただ、答えの出し方は決まっています。期限を縮めて得られるものと、失うものを、同じ単位の「成約の組数」で並べるだけです。この記事では、実在のデータではなく、前提を置いた仮の式場で、その計算をやってみます。結論を先に言うと、期限を一律に縮めるのは、得より損になりやすいと考えています。効くのは、競合の希望が入った時だけ期限を短くする、という運用です。
仮押さえは、1つの日を一組のために止めておく仕組み
仮押さえは、契約の前に、二人が希望する挙式日を一定期間だけ確保しておく仕組みです。呼び方や期限は式場によって違います。数日のところもあれば、2週間前後のところもある。この記事で扱う期限の数字は、すべて計算のために置いた仮の値で、業界の標準ではありません。
仮押さえの目的は、二人が家族と相談したり、他の式場を見たりする時間を作ることです。決めきれずに帰る人が多い業界なので、持ち帰りの時間を式場が用意すること自体は、親切な設計だと思います。
ただ、この親切には費用がかかります。確保している間、その日は他の組に出せません。人気日は、年間に何枠もない。しかも土曜の大安のような日は、同じ日を狙う組が複数いる。1組が仮押さえをしている2週間のあいだに、同じ日を希望する別の組が来ると、式場は断るか、「第2希望として待ってもらう」かのどちらかになります。
待ってもらった組が残ってくれればいいのですが、結婚式の検討は、見学を重ねる時期に比較が進みます。断られた組、待たされた組の一部は、別の式場で決めてしまう。これが、仮押さえの期限が長いことの費用です。
仮の式場を置く
計算の前提を、先にすべて書きます。数字は、実際の式場のものではありません。
- 人気日の仮押さえが、年に100件入る
- 仮押さえの期限は14日
- 仮押さえをした組のうち、期限内に契約する割合は35%
- 人気日を希望する別の組が、平均して60日に1組の割合で来る(この間隔でランダムに来ると考える)
- 仮押さえ中に断られる、または待たされた別の組のうち、他の式場に行ってしまう割合は70%
- その別の組が、もし日を押さえられていたら契約する割合は45%
この前提のうち、いちばん動かしにくいのは、60日に1組という間隔です。人気日の需要がどれくらい集中しているかを表す数字で、閑散期の平日や、需要の薄い日取りなら、もっと間隔は長くなります。自分の式場で使うときは、まずここを実際の問い合わせ記録で置き換えます。
期限14日のとき、競合に当たる仮押さえは年20.8件
別の組が60日に1組の割合で来るなら、14日の仮押さえ期間中に、同じ日を希望する組が来る確率は、1から「来ない確率」を引いて求められます。計算すると20.8%です。
年100件の仮押さえのうち、期間中に競合の希望が入るのは20.8件。その別の組のうち70%が他の式場に行くので、取り逃がしは14.6組。さらにその別の組が契約する割合は45%なので、失う成約は6.6組、という計算になります。
つまり、この仮の式場では、期限を14日にしていることの費用が、年に6.6組分あります。
期限を7日にすると、費用は3.5組に半減する
同じ計算を7日で行うと、競合に当たる確率は11.0%になります。年100件のうち11.0件、取り逃がしは7.7組、失う成約は3.5組です。
14日から7日に縮めると、失う成約が6.6組から3.5組に減る。差し引きで年3.1組、取り逃がしを減らせる計算になります。1組の粗利を仮に100万円とするなら、年310万円です。
3日まで縮めると、競合に当たる確率は4.9%、失う成約は1.5組になります。ただ、3日では二人が家族に相談する時間が取れないので、次に出てくる「損」のほうが大きくなる、と僕は見ています。
| 仮押さえ期限 | 競合に当たる確率 | 年間の件数 | 失う成約 |
|---|---|---|---|
| 14日 | 20.8% | 20.8件 | 6.6組 |
| 7日 | 11.0% | 11.0件 | 3.5組 |
| 3日 | 4.9% | 4.9件 | 1.5組 |
ここまでの計算は、期限を縮めたときの「得」だけを見ています。もう半分の、「損」が残っています。
縮めた側の損は、仮押さえ組の成約率が落ちること
期限を縮めると、仮押さえをした二人が、決める前に期限が来る確率は上がります。家族に会うのが次の週末になる人。もう1か所見学の予約がある人。7日では間に合わなくなる人が出てきます。
ここで、仮押さえ組の期限内の成約率が、35%から何%に落ちるかが分岐点になります。年100件の仮押さえで、成約率が1ポイント落ちれば、成約は1組減ります。得の3.1組と釣り合うのは、約3.1ポイントです。
つまり、7日に縮めても成約率が32%より下に落ちなければ、縮めたほうが得です。逆に、成約率が30%まで落ちれば、失う分は5組で、得の3.1組を上回って、縮めない方が良かった、という結果になります。
| 7日にしたときの仮押さえ組の成約率 | 失う成約 | 差し引き |
|---|---|---|
| 34% | 1組 | +2.1組 |
| 32% | 3組 | +0.1組 |
| 30% | 5組 | -1.9組 |
| 25% | 10組 | -6.9組 |
この表の読み方は、一つだけです。期限を縮める価値は、競合の希望の入りやすさで決まるのではなく、仮押さえ組の成約率がどれだけ崩れるかで決まる、ということです。そして、この崩れ方は、計算では出てきません。自社の過去の仮押さえで、何日目に契約が決まっているかを見る必要があります。
契約が決まる日の分布を見る
自社の記録で確かめるときは、仮押さえをした日から契約した日までの日数を数えます。仮押さえ期限が14日なら、契約した組のうち、何割が7日目までに決めているか。この割合が、期限を7日にしたときに残る契約の目安です。
たとえば、契約した組の8割が7日目までに決めているなら、7日に縮めたときに失う成約は、全体の2割程度。残りの8割は変わらない。この場合は、仮押さえ組の成約率が35%から約28%に落ちる計算になり、先ほどの分岐点を下回ります。縮めないほうが、得ということになります。
逆に、契約した組の95%が3日目までに決めているなら、期限が14日でも7日でも、決める人の行動はほとんど変わりません。縮めても失うものは少なく、競合に当たる確率だけが下がる。この場合は縮めるべきです。
わかりにくいのは、期限ぎりぎりで決めた人です。期限が近いから決めた人なのか、考えて決めた人なのかは、記録の日付だけでは区別できません。ここは、担当者の感覚が最も当たる部分だと思います。
一律に縮めない運用:競合が入ったときだけ短くする
ここまでの計算は、期限を一律に決める前提でした。実際には、一律ではないやり方があります。
通常の仮押さえ期限は14日のままにしておく。同じ日を希望する別の組が来たら、その時点で、最初に仮押さえをした組へ「別の方から同じ日のお問い合わせが入りました。48時間以内にご判断をお願いします」と伝える。期限は、競合が入った時点から2日にする、というやり方です。
この運用のよいところは、競合が来ない80%近くの仮押さえには、今までと同じ時間を渡せることです。競合が来た20.8件だけが、短い期限の対象になる。仮押さえ組への影響は、その20.8件に限られます。
仮の式場で、その20.8件の仮押さえ組の成約率が、35%から25%まで10ポイント落ちたとして計算します。落ちる分は、20.8件×10ポイント=約2.1組。一方、競合の組を受けられるようになる分は6.6組(14日の場合の失う成約と同じ)。差し引き4.5組の増加です。一律に7日にしたときの3.1組より、大きくなります。
| 仮押さえ組の成約率(競合が入った組のみ) | 失う成約 | 得る成約 | 差し引き |
|---|---|---|---|
| 35%(変わらない) | 0組 | 6.6組 | +6.6組 |
| 30% | 1.0組 | 6.6組 | +5.5組 |
| 25% | 2.1組 | 6.6組 | +4.5組 |
| 20% | 3.1組 | 6.6組 | +3.4組 |
この表は、一律に縮める場合より、はるかに下振れに強い。成約率が20%まで落ちても、差し引きはプラスです。
ただし、この表には注意があります。得る成約6.6組は、「競合の組が日を押さえられたら、45%が契約する」という前提をそのまま使っています。競合の組を受けるといっても、最初の仮押さえ組が48時間で決まらなかった場合に、はじめて日が空きます。実際に受けられるのは、最初の組が決めなかった分だけで、最初の組が35%から25%の確率で契約するなら、残りの65%から75%の場合にだけ競合の組が受けられる、という計算の補正が必要です。
その補正をかけると、得る成約は6.6組の約7割で、4.6組前後になります。そこから失う成約2.1組を引くと、差し引き2.5組。一律に7日にするより小さくなります。
つまり、競合が入ったときだけ短くする運用は、一律に縮めるより必ず大きく勝つとまでは言えません。この記事の計算では、「下振れに強い」ところまでは言えますが、大きく勝つかどうかは、自社の数字で決まります。
実務で決めておくこと
この運用を入れるなら、仮押さえの期限の数字を決める前に、次の4つを決めておきます。
競合の定義
同じ日を希望する別の組とは、同じ日の仮予約の申し込みなのか、問い合わせ時の「その日は空いていますか」という確認も含むのか。確認だけの人まで含めると、短縮の通知が増えすぎて、仮押さえ組に不信感が出ます。僕は、来館の予約か、書面での仮押さえの依頼があった時点を基準にするのが妥当だと考えています。
通知の言い方
「別の方が入りそうなので、早く決めてください」という言い方は、二人にとっては急かされたとしか聞こえません。事実を短く伝えて、二人が選べる形にします。たとえば「同じ日を見たいというお問い合わせが入りました。通常は14日お待ちできますが、今回は2日後までにご判断をお願いします。難しい場合は、第2希望の日に移すこともできます」というように、期限と代わりの選択肢を同時に伝える。
期限だけを伝えると、煽りに近い形になります。この業界の事故リストにある「期限で追うCTA」と同じ構造になるので、代わりの選択肢を必ずセットにしたほうがいいです。
競合の組の扱い
競合が入ったことで、最初の仮押さえ組へ期限を短くした場合、競合の組は「第2順位の待ち」になります。待っている間、競合の組にも日の状況を正直に伝えます。「前の方の返事が2日後に出ます。それまで他の日の候補もご案内しておきましょうか」というように。待たせっぱなしにしないことが、取り逃がしを減らす鍵です。
期限を延ばす例外
家族の海外在住や、親の入院のように、期限内に決められない事情が明らかな場合は、延ばすと決めておく。例外を担当者の裁量にまかせると、ばらつきが出る。例外の条件を3つ程度に絞って、書いておくだけで、運用はかなり安定します。
この計算が当てはまらない式場
この記事の計算は、人気日が埋まりやすい式場を前提にしています。
- 人気日でも競合が来るのが年に数回の式場なら、期限を縮めても得る成約はほぼない。長い期限のままで構いません
- 逆に、土曜の大安に毎月複数の問い合わせが重なる式場なら、60日に1組という前提がそもそも甘い。間隔が20日なら、14日で競合に当たる確率は50%を超えます。この場合、期限は短くするほうが得られる分は大きい
実際に計算し直すときは、60日という間隔を、自社の人気日の問い合わせの記録に置き換えます。1年分の記録があれば、同じ日を希望する問い合わせが、平均して何日に1回あるかが数えられます。
まとめ
- 仮押さえの期限は、短ければ競合を受けられる分だけ成約が増える。仮の式場(競合は60日に1組、仮押さえ100件)では、14日から7日で年3.1組が動く
- 縮めた側の損は、仮押さえ組の成約率が下がること。この仮の式場では、約3.1ポイント下がると得が消える
- 期限を決める材料は、仮押さえから契約までの日数の分布。7日目までに決まる割合が高いなら、縮めても失うものは少ない
- 一律に縮めるより、競合が入ったときだけ短くする運用が下振れに強い。ただし、競合の組を受けられる分は、最初の組が決めなかった場合に限られる
- 短縮を伝えるときは、期限だけでなく代わりの選択肢をセットにする。期限だけでは煽りになる
- 自社の人気日の問い合わせ間隔と、仮押さえから契約までの日数。この2つを数えるところから始める
