プランナー個人のSNS発信を認めると、仮の式場で運用は年9万円。元が取れるかは、個人アカウント経由の成約が年0.06組あるかどうか
式場の公式アカウントとは別に、プランナーが自分の名前でSNSを始めたいと言ってきたとき、社長や支配人はどう答えるでしょうか。「勤務時間にやるのか」「何か問題が起きたらどうするのか」と、止める方向に傾く会場が多いと思います。一方で、許したものの放ったらかしで、いつの間にか誰も更新していない会場もあります。
この記事では、許すかどうかを「得か損か」の二択で考えるのをやめて、費用と元が取れる線を先に数字にします。そのうえで、数字に出てこない重いリスク、つまり退職したときのアカウントと、写真の扱いをどう決めておくかを整理します。
先に断っておくと、この記事に出典はありません。数字はすべて僕が置いた仮の前提です。実績ではなく、自分の会場の数字に置き換えるための計算の型として読んでください。
仮の式場の前提
計算に使う前提を置きます。
- 年間の契約は120組、1組の粗利は140万円
- 個人アカウントを持つのはプランナー1人。投稿は週2回、1本あたり準備と投稿で20分
- プランナーの1時間あたりの人件費は2,500円(給与に社会保険料などを乗せた想定。会場ごとに置き換えてください)
- 個人アカウントを見て来館した二人の成約率は30%と置く(会場全体の成約率とは別に、あとで動かします)
運用費は年9万円弱
週2回、1本20分なので、週に40分。年52週で計算すると約35時間です。人件費に直すと、35時間 × 2,500円で約8万7,000円になります。
1人分だと年9万円弱。これを3人が始めると、年26万円ほどです。式場の年間の粗利は120組 × 140万円で1億6,800万円なので、全体から見れば小さな額です。ただ、この費用は「やると決めた時間」であって、実際には業務の合間に削られる時間でもあります。婚礼の土日に余裕がない会場では、この35時間が接客品質の側から出ていく可能性は頭に置いておいてください。
元が取れる線は年0.06組
次に、元が取れる線です。粗利が140万円なので、運用費の8万7,000円を回収するのに必要な成約は、8万7,000円 ÷ 140万円で約0.06組。16年に1組あればいい計算です。
来館の数に直すと、成約率30%なら、8万7,000円 ÷ (140万円 × 0.3)で約0.2組の来館。つまり、個人アカウントを見て来館した人が年に1組いれば、運用費は回収できます。
この線は、ずいぶん低いと感じるはずです。ここで言いたいのは「だからやるべきだ」ではなく、費用の側は判断を左右しないということです。年に1組の来館で足りるなら、許すかどうかを決めるのは費用ではありません。
仮に個人アカウント経由の来館が年1組、成約までいけば粗利140万円で、差し引きは約131万円のプラスです。年2組の成約なら約271万円、年4組なら約551万円。逆に、まったく来館につながらなければ、マイナス約8万7,000円で終わります。下振れは小さく、上振れは大きい。数字の形としてはそうなります。
数字に出てこない3つの重さ
費用が軽いなら、止める理由は別のところにあります。会場が実際に困るのは、次の3つです。
退職したときのアカウント
個人名のアカウントは、退職したプランナーと一緒に出ていきます。フォロワーのなかには、式場に興味を持った二人も含まれています。退職後にそのアカウントが別の式場の紹介を始めたら、会場が積み上げた関心がそのまま持っていかれることになります。
ここで先に決めておくべきなのは、名前の付け方です。「〇〇(会場名)プランナー 田中」のように会場名を入れるか、完全に個人名にするか。会場名を入れるなら、退職時に名称を変える、もしくはアカウントを会場に移す、という約束とセットでないと、トラブルの種になります。逆に、完全に個人名にするなら、会場の投稿とは見えない代わりに、中身で会場名を出さない運用が前提になります。
写真と新郎新婦の扱い
もう一つが写真です。披露宴の写真、前撮りの写真、二人の顔や名前が入った打合せの様子。会場の公式アカウントなら、契約時に写真の掲載許諾を取ったものだけを使うという運用が通っている会場が多いと思います。個人アカウントは、その運用の外で動きやすい。
そこで、個人アカウントで使ってよい写真の範囲を、はっきり決めておきます。たとえば、会場の備品や料理、装花など、人が写っていないものに限る。二人の写真は、公式アカウントで掲載されたものを引用する形でだけ使う。こう決めておけば、許諾を取っていない二人の顔が出る事故は防げます。
発信内容のぶれ
三つ目が、内容のぶれです。「この会場の契約は決めやすい」と受け取れる投稿や、他の式場を引き合いに出す投稿は、個人の意見のつもりでも、会場の立場として読まれます。景品表示法に触れるような「業界最安」といった言い方も、個人アカウントだから許されるわけではありません。
だから、禁止する言葉を細かく並べるより、投稿前に上長が見る条件を決めておくほうが続きます。最初の1か月は全投稿を見る、2か月目以降は料金・割引・他社に触れる投稿だけ見る、といった形です。
許す条件を3行で決める
ここまでを、運用ルールとして3行に落とします。紙1枚で足りる量です。
- アカウント名に会場名を入れるかどうかと、退職時にどうするかを、始める前に書面で決める
- 使ってよい写真は、人が写っていないものと、公式アカウントで掲載済みのものだけ
- 料金・割引・他社に触れる投稿は、上長が見てから出す
この3行が決まっていれば、許すこと自体のリスクはかなり下がります。逆に、3行が決まらないうちに「いいよ」と言ってしまうのが、いちばん危ないやり方です。
退職で失う額を仮に置く
アカウントの扱いを書面で決める意味を、数字で確かめておきます。仮に、個人アカウント経由の来館が年6組、成約率30%だったとします。成約は年1.8組、粗利にして約252万円です。
このアカウントが退職とともに他社の紹介に変わると、会場は翌年から約252万円の入口を失う可能性があります。運用費の8万7,000円と比べると、30倍近い額です。費用は軽いのに、守る価値は重い。名前の付け方と退職時の約束に時間を使う価値は、ここにあります。
ここで置いた6組は、僕の仮の数字です。ただ、年1組で元が取れる線からすると、6組は線の6倍にすぎません。自分の会場で、担当者個人を見て来館する二人が年に何組いそうかを、受付の記録から数えてみてください。数が見えないうちは、アカウントを許すかどうかより、数える仕組みを先に入れたほうがいいです。
公式アカウントとの役割分担
もう一つ決めておくと運用が楽になるのが、公式アカウントとの役割分担です。公式は、会場の写真・空き日程・フェアの案内など、正確さが求められる情報を出す場所。個人は、打合せで二人がよく迷う点、見学前に知っておくと楽な準備、1日の流れの裏側といった、担当者の目線で話せる内容を出す場所、と分けます。
同じ内容を両方に出すと、フォローする人にとっての価値が薄れます。公式に載った情報を、個人が一言添えて紹介する形なら、手間も小さく、料金などの数字を間違えるリスクも抑えられます。
誰に始めてもらうか
もう一つ、現場で効いてくるのが「誰が始めるか」です。個人アカウントは、続けられる人にしか意味がありません。フォロワーが増える前の最初の3か月は、ほとんど反応がない。ここで止まる人が多いはずです。
始める人の条件は、僕なら次の2つを見ます。1つ目は、すでに私的なSNSを日常的に使っていること。2つ目は、担当の二人から「プランナーさんの人柄が決め手でした」といった声が出ていること。人柄が決め手になっているプランナーは、見学前の二人にとっても、事前に知れることの価値が大きい人です。
反対に、会場が「若手に広報をやらせたい」と思って、本人の意思と関係なく指名するやり方は、続かないことが多いと思います。許すというのは、会場が頼むことではなく、本人が言い出したときに受け止める仕組みを作ることです。
効果の見方:個人アカウント経由を数える
許したあとに困るのが、効いているかどうかが分からないことです。分からないまま放置すると、続ける理由も止める理由も作れません。
最低限、見学の予約フォームか来館時のアンケートに「どこで知りましたか」の選択肢を1つ足します。「担当者のSNS」を独立した選択肢にしておくだけで、年に何組いたかが数えられます。さきほどの線は年1組の来館でした。半年たって0組なら、続け方を見直す。1組以上いれば、他のプランナーにも広げる材料になります。
もう一つ、数えておきたいのが「契約後の二人の反応」です。契約した二人に、プランナーのアカウントを見ていたかを聞く。見ていた二人が多いなら、契約の決め手を作っているのは会場名ではなく担当者個人だった、ということです。その場合、次に動かすのは広告ではなく、担当者の人数と定着の側になります。
会場ごとに前提を置き換える
今回の前提は、年120組、粗利140万円、運用は週2投稿でした。会場の規模が小さいほど、粗利1組の重みが大きいので、元が取れる線はさらに低くなります。逆に、プランナーの担当組数がぎりぎりで、投稿の20分が成約後のフォローの時間を削る会場では、運用費の人件費単価を上げて計算し直してください。
次の3つを自分の会場の数字に置き換えると、判断の材料が揃います。
- 1組の粗利(運用費を割る分母になります)
- 個人アカウント経由の来館の成約率(会場全体の成約率より高いか低いかは、始めてみないと分かりません)
- 週に割ける時間(20分を30分にすると、運用費は年13万円になり、線は0.09組に動きます)
まとめ
- プランナー個人のSNS発信は、仮の式場(年120組・粗利140万円)で運用費が年9万円弱。1人の週2投稿・1本20分で見た計算です
- 元が取れる線は、個人経由の成約が年0.06組、来館なら年1組。費用の側は、許すかどうかの判断を左右しません
- 本当に重いのは、退職時のアカウント、写真の扱い、発信内容のぶれの3つ。始める前に、名前・写真の範囲・上長確認の条件を3行で決めておく
- 始める人は、本人が言い出し、担当の二人から人柄を評価されている人から
- 効果は「どこで知りましたか」に「担当者のSNS」を足して数える。半年で0組なら続け方を見直す
- 許すかどうかは費用の問題ではなく、決めておくルールが書面にあるかどうかの問題です
