挙式後のフォトアルバムを式場で売ると、1組の粗利はいくら残るか
挙式のあとに二人が買う商品の中で、フォトアルバムは式場の手を離れやすい部類です。撮影を受け持つカメラマンの会社が「当日の写真をアルバムにしませんか」と案内し、注文も代金も制作も、その会社の中で完結する。式場は場所を貸しているだけで、何も受け取らないか、受け取っても少額の紹介料です。
僕は、この形を「悪い」とは思っていません。ただ、式場として一度は数えておいたほうがいい、と考えています。アルバムを式場自身の商品にして売ると、1組あたりの粗利がいくら残るのか。逆に、手間やリスクで何が削られるのか。数えずに「うちは紹介でいい」と決めているなら、それは判断ではなく慣習です。
この記事の数字は、すべて僕が置いた仮のものです。実際の統計や調査ではありません。自分の式場の数字に置き換えて使うための計算として読んでください。結論を先に言うと、自社販売は「購入率が2割を超えるか」と「校正と再制作を誰が持つか」の2点で決まります。
紹介と自社販売で、お金の流れがどう違うか
まず、二つの形を並べます。
紹介の形では、二人はアルバムの注文先と直接やりとりをします。式場は二人にアルバムの案内を渡し、注文が入った場合に、売価の一定割合を紹介料として受け取る。受け取らない契約もあります。
自社販売の形では、式場が二人に売ります。写真データは撮影担当から預かり、アルバムの制作は制作会社に委託する。二人の注文を受けるのも、代金を受け取るのも、仕上がりを確かめて渡すのも式場です。制作会社には原価を払う。
どちらの形でも、二人から見える商品は同じアルバムかもしれません。違うのは、式場の手元に何が残るかと、何を式場が引き受けるかです。
仮の前提を置く
計算の前提を置きます。
- 年間の挙式は100組
- アルバムの売価は1冊8万円
- 自社販売では、制作会社への委託原価が4万8,000円(売価の6割)
- 紹介の形では、売価の15%、つまり1冊あたり1万2,000円を紹介料として受け取る
- 自社販売では、注文の受付、写真の選定の確認、校正のやりとり、納品の連絡で、1件あたり1.5時間かかる。時給を2,000円と置くと、1件あたりの人件費は3,000円
- 購入率は、挙式した組のうち実際にアルバムを買う組の割合。まず2割、3割、4割で比べる
この前提だと、自社販売の1冊あたりの粗利は、8万円から原価4万8,000円と人件費3,000円を引いた2万9,000円です。紹介の1冊あたりは1万2,000円。1冊あたりの差は1万7,000円になります。
購入率ごとの年間の粗利
年100組で、購入率を変えて並べます。
| 購入率 | 購入組数 | 自社販売の粗利 | 紹介料 | 差 |
|---|---|---|---|---|
| 20% | 20組 | 58万円 | 24万円 | 34万円 |
| 30% | 30組 | 87万円 | 36万円 | 51万円 |
| 40% | 40組 | 116万円 | 48万円 | 68万円 |
差は34万円から68万円。年間の売上が数億円ある式場にとっては、大きな数字ではありません。ここで「この程度なら手間をかけるほどではない」と判断するのも、一つの結論です。
ただ、この表にはまだ入れていないものがあります。見本と、やり直しです。
表に入っていない二つの費用
見本のアルバム
アルバムは、見せないと売れません。商品を二人に見せるために、見本を式場に置く必要があります。仮に、サイズ違いを含めて2冊を用意し、1冊3万円とすると、年6万円。これは自社販売だけにかかります。
紹介の形では、見本は紹介先が持ってくるか、パンフレットで足ります。自社販売では、見本の数と置き場所が式場の仕事になります。
校正と再制作
アルバムは、仕上がったものを二人が見て初めて、間違いに気づくことがあります。名前の漢字、順番、写真の入れ違い。自社販売で、校正の確認を式場が受け持っていれば、再制作の原価は式場が持つことになります。
仮に、再制作が5%の注文で起きるとします。再制作の原価は4万8,000円。購入が30組なら、1.5冊分で7万2,000円です。20組なら4万8,000円、40組なら9万6,000円。
見本と再制作を引くと、差はこう変わります。
| 購入率 | 差(上の表) | 見本の費用 | 再制作の費用 | 残る差 |
|---|---|---|---|---|
| 20% | 34万円 | 6万円 | 4.8万円 | 約23万円 |
| 30% | 51万円 | 6万円 | 7.2万円 | 約38万円 |
| 40% | 68万円 | 6万円 | 9.6万円 | 約52万円 |
残る差は、年間で23万円から52万円。人ひとりを週に数時間あてて得る金額としては、悪くありません。まあまあ、といったところです。ただ、「ぜひやるべきだ」と言えるほどの大きさでもない。
損益分岐になる購入組数
見本の年6万円は、購入の組数に関係なくかかる固定費です。1冊あたりの差1万7,000円で割ると、約3.5冊。年に4冊売れれば、見本の分は取り戻せます。
つまり、見本の費用を理由に自社販売をやめるのは、ほぼ当たりません。年100組の式場なら、購入率が4%あれば足ります。
本当に効くのは、購入率が自社販売にしたことで上がるか、下がるかです。ここは、計算では出せません。
購入率は、自社販売にすると上がるのか
紹介の形では、アルバムの案内は撮影担当の会社が出します。担当のカメラマンが、当日の写真を一番よく知っています。二人にとっても、「当日の写真を撮った人」からの案内だから受け取りやすい、という面があります。
自社販売では、案内を出すのは式場のプランナーです。打ち合わせで二人と何度も顔を合わせているから、案内の機会は増えます。挙式の1週間後に送る写真ギャラリーのメールに、アルバムの案内を載せる。結婚式の記念日の連絡に載せる。式場が二人と持っている連絡のきっかけを、そのまま使えます。
たとえば、紹介の形の購入率が2割で、自社販売にして3割に上がるなら、差は51万円です。上がらずに2割のままなら、表のとおり34万円で、見本と再制作を引くと約23万円です。
僕は、購入率が上がると決めつけられないと考えています。上がるのは、プランナーが案内の機会を作ったときだけです。案内の機会を作らない自社販売は、紹介の形と購入率が変わらず、手間だけが増えます。
価格を上げると、購入率が下がる分を取り返せるか
自社販売では、売価を式場が決められます。たとえば、8万円を10万円にする。同じ原価4万8,000円と人件費3,000円なら、1冊あたりの粗利は4万9,000円です。購入率が30%から22%に下がったとしても、
- 8万円・30組:87万円
- 10万円・22組:107.8万円
となり、価格を上げたほうが年間の粗利は多くなります。これは、購入率が8ポイント下がるまで、値上げのほうが得だという意味です。
ただし、この計算の「22%に下がる」は、僕が置いた仮の数字です。実際は、二人が価格を見て「ほかの会社と比べよう」と考えれば、もっと落ちるかもしれません。紹介の形のように、撮影の会社が割引を出せる環境なら、価格差はすぐに見えてしまう。値上げをするなら、購入率の変化を月ごとに数えてから、判断を固めるべきです。
自社販売で式場が引き受けるもの
数字に出てこない、引き受けるものがあります。
一つは、写真データの管理です。アルバムの制作会社に渡す写真は、撮影担当から預かる必要がある。データの受け渡しの方法、保管の期間、二人の写真を第三者に渡すことへの同意。契約書に書いていなければ、先に決めておきます。
もう一つは、品質への責任です。アルバムの仕上がりが悪かったとき、二人が連絡するのは式場です。制作会社の責任でも、式場の名前で売った以上、式場が窓口になる。紹介の形なら、苦情の窓口は紹介先です。
最後に、売る人の確保です。アルバムを売るのは、プランナーです。打ち合わせや当日の対応で忙しい人が、さらに案内の仕事を引き受ける。1件1.5時間と置いたこの時間が、本当に1.5時間で収まるかは、数えてみないと分かりません。
自社販売を試すなら、小さく始める
僕が勧めるのは、全面の切り替えではなく、小さな試験です。
- 3か月間、挙式の1週間後に送る連絡に、アルバムの案内を加える
- 注文は、これまでどおり紹介先で受ける
- 3か月後、案内を送る前の購入率と、案内を載せた後の購入率を比べる
- 購入率が上がっていたら、自社販売に切り替える試験に進む
これなら、見本も在庫も要りません。案内を載せるだけで、紹介料が増えるか確かめられます。購入率が変わらなかったなら、自社販売にしても手間が増えるだけだと分かる。
自社販売が合わない式場
自社販売が合わない式場もあります。
- 年間の挙式が少なく、見本を置く意味が小さい式場
- 撮影を、一つの会社に長く任せていて、アルバムまで含めて信頼関係ができている式場
- プランナーの数が少なく、案内と校正の時間を確保できない式場
この場合は、紹介料の交渉に時間を使うほうが、手間に見合います。紹介料を売価の15%から20%に上げるだけで、1冊あたり4,000円。30組なら12万円です。自社販売の差ほど大きくはなくても、手間はほとんど増えません。
まとめ
- 紹介の形と自社販売の差は、仮の前提(売価8万円、原価4万8,000円、年100組)で、購入率20%なら年34万円、40%なら年68万円
- 見本の年6万円と再制作の5%を引いても、残る差は購入率20%で約23万円、40%で約52万円。大きくはないが、悪くない
- 見本の費用は固定で、約4冊売れれば取り戻せる。見本を理由に見送るのは当たらない
- 本当に効くのは、自社販売にしたことで購入率が上がるか。案内の機会を作らなければ、手間だけが増える
- 値上げは、購入率が仮に8ポイント下がるまでは、粗利の面で得になる。ただし購入率の落ち方は実測が要る
- 全面切り替えの前に、3か月だけ、挙式後の連絡に案内を載せて、紹介先の注文のまま購入率が上がるかを見る
- 合わない式場では、紹介料の率を上げる交渉のほうが、手間に見合う
- この記事に出てくる数字は、すべて僕が置いた仮のもので、実在の調査や統計ではない
