愛犬と挙式したい二人を受けると、仮の式場では年20万円の手間で粗利が250万円前後。損益を分けるのは費用ではなく、犬のために空ける枠が他で売れるかどうか
「うちの子と一緒に挙式できますか」と聞かれて、「ペットはご遠慮いただいています」と答えている式場は少なくないと思います。衛生面も、他のゲストへの配慮も、理由はわかります。
ただ、断る前に一度だけ数えておきたいことがあります。断ることで失っている成約が、受けるための費用より重いかどうかです。
結論を先に書きます。年300組が来館する仮の式場で計算すると、愛犬同伴の挙式を受ける費用は、年20万円ほどです。受けることで増える成約は年1.8〜2.7組で、粗利にすると250万〜380万円になります。費用だけを見れば、受けない理由はほとんど残りません。
ところが、この計算には落とし穴が1つあります。犬と挙式する日の枠が、本当は別の二人に売れていたかもしれない、という点です。人気日の枠を犬に使ってしまうと、損益は逆転します。この記事は、その分かれ目を数字で出します。
なお、ここで使う数字は、ほぼすべて僕が置いた仮の前提です。愛犬と挙式したい二人の割合について、僕が確かめられた公開データはありませんでした。だから「業界ではこうです」とは書きません。自分の会場の数字に置き換えて使ってもらうための型として読んでください。
前提を先に置きます
仮の式場の前提は次のとおりです。
- 年間の来館は300組、成約率は40%、つまり年120組が契約します
- 1組あたりの粗利は140万円です
- 来館した二人のうち3%、年9組が「愛犬と一緒に挙式したい」と希望します(想定です。実際の割合は、来館時のヒアリングで数えられます)
- 受けた場合、その9組の成約率は通常と同じ40%とします。受けない場合は、10%または20%まで下がるとします。犬を連れていけない式場でも、犬の同伴を決め手にしない二人は契約するからです
最後の前提が、この計算でいちばん効きます。「ペット不可」でも成約する二人はいるので、受けた分がまるごと純増になるわけではありません。受けない場合の成約率を10%と20%の2通りに置いて、幅で見ます。
増える成約はいくつか
希望する二人が年9組いて、受けた場合の成約率が40%なら、契約は3.6組です。
受けない場合の成約率が10%なら、契約は0.9組です。差は2.7組、粗利に直すと378万円になります。
受けない場合の成約率が20%なら、契約は1.8組です。差は1.8組、粗利は252万円です。
つまり、受けることで増える粗利は、250万〜380万円のレンジになります。この幅の中身は「犬が決め手だった二人が、どれだけいるか」です。犬が決め手でなかった二人は、受けても受けなくても契約するので、数字には出てきません。
受けるための費用は年20万円
次に費用です。これも仮の置き方です。
- 初期の備品(ケージ、足拭き、床の養生シート、ウェルカム用の小物など)が15万円。3年で使い切る前提にして、年5万円
- ペットが関わる賠償に備える保険の上乗せが、年6万円
- 犬1頭ごとのシッター付添が3万円、挙式後の消毒・清掃が1.5万円。1組あたり4.5万円で、年3.6組なら16.2万円
- 一方、ドッグ用の衣装やリングドッグの手配などを有料のオプションにして、1組2万円の粗利が取れるとします。3.6組で7.2万円
合計すると、5万円+6万円+16.2万円から7.2万円を引いて、年20万円です。
増える成約が0.14組、つまり粗利140万円の1組の7分の1もあれば、費用は元が取れます。これだけを見ると、受けない理由は見当たりません。
ここで話を終えると、「ペットOKにしましょう」という単純な記事になります。でも、現場で止まる理由は費用ではありません。次の2つです。
1つ目の落とし穴:枠を犬に使うと、他の二人が入らない
犬が参列する挙式は、他の挙式と同じ条件では組みにくいのが普通です。挙式のあとにチャペルを消毒したい、犬が嫌がる音や人の多さを避けたい、という理由で、「その日の最後の枠だけ」「平日だけ」といった条件をつけることになります。
この条件をつけた枠が、もともと別の二人に売れていたのなら、犬の挙式はその二人を押しのけたことになります。
枠が売れていた確率をpとして、年3.6組の犬の挙式のたびに、粗利140万円の組が押し出される場合を計算します。
- p=0(閑散期や平日の、どうせ空いていた枠に入れる):機会損失は0円
- p=20%:3.6組×0.2×140万円=約101万円
- p=50%:3.6組×0.5×140万円=252万円
増える粗利が378万円(受けない場合の成約率が10%)なら、損益が分かれるのはpが71%のときです。増える粗利が252万円(受けない場合が20%)なら、pが46%で費用ごと食いつぶされます。
整理します。
| 増える粗利 | 費用差引後 | p=0 | p=20% | p=50% |
|---|---|---|---|---|
| 378万円(受けない成約率10%) | 358万円 | 358万円 | 約257万円 | 約106万円 |
| 252万円(受けない成約率20%) | 232万円 | 232万円 | 約131万円 | 約−20万円 |
(費用20万円を差し引いた後の数字です。次の項目で述べる他組の離脱分はまだ引いていません)
読み取れることは1つだけです。犬を受けるかどうかより、「どの枠で受けるか」のほうが、損益を大きく動かします。
2つ目の落とし穴:前後の組が嫌がる
犬が来た日の前後に、同じ会場を使う別の二人がいます。アレルギーのあるゲストがいる組、動物が苦手な親族がいる組もあります。ペット可であることを知った二人が、見学の段階で「それなら別の会場にします」と離れることもあります。
これも仮の前提で、影響を見積もります。犬の挙式の前後に1組ずつ、つまり犬1回あたり2組が関わるとして、そのうち1%が離れた場合と3%が離れた場合を比べます。
- 1%の場合:3.6組×2組×1%×140万円=約10万円
- 3%の場合:3.6組×2組×3%×140万円=約30万円
大きな金額ではありません。ただ、これは「前後の二人が実際に離れる」という起きにくい出来事の、確率を置いた計算です。数字の大小より、「ペット可」と表に出す場合の説明の仕方で、この確率は大きく変わると僕は考えています。たとえば、犬を受ける日と枠を最初から決めて、予約の時点で見学の二人にも伝えておくと、前後の組が当日に初めて知る事態は避けられます。
3つの運用で、損益がどう変わるか
ここまでの数字を、実際に取れる運用の形に当てはめます。いずれも、費用20万円と、前後の組の離脱1%(約10万円)を引いた後です。増える粗利は、受けない成約率が20%の安全側(252万円)で見ます。
運用A:閑散期の平日だけ受ける
枠が売れる確率がほぼ0の日に限る運用です。損益は、252万円−20万円−10万円で、約222万円です。
利点は、機会損失が出ないことです。弱点は、挙式日を選べない二人が離れることです。犬を連れて挙式したい二人の多くは、平日でも構わないと言うかもしれません。ただ、これは実際に聞いてみないとわかりません。先に、見学時のヒアリングで「平日なら可能か」を数えておくと、この運用の前提が確かめられます。
運用B:土日の最終枠だけ受ける
土日の最終枠を犬のために使う運用です。最終枠が売れる確率pが20%なら、約101万円の機会損失が出て、損益は約121万円です。pが50%なら、損益は−30万円になります。
最終枠が売れ残ることが多い式場、たとえば冬の夕方枠が埋まりにくい式場なら、この運用は成立します。逆に、人気日は最終枠まで埋まる式場なら、赤字になります。
運用C:犬の同伴は撮影だけに限る
挙式の中には入れず、ガーデンでの写真撮影や入場前の記念撮影だけ犬が参加できる、という形です。
この場合、挙式の枠を占有しないので、機会損失はほぼ0になります。一方で、犬が決め手だった二人のうち「挙式にも参列してほしい」と考える二人は離れます。受けない場合の成約率20%と同じ水準まで、増える成約は縮むと見ておくのが安全です。
つまり運用Cは、枠の損失をなくす代わりに、増える粗利を減らす選び方です。減らす幅は、ヒアリングで「撮影だけで足りる二人」の割合を数えるまで、僕には読めません。
決める前に数える3つの数字
実際に式場で決めるとき、数えるべきものは3つに絞れます。
- 来館した二人のうち、愛犬との挙式を希望した組の数。 ヒアリングシートに1行足すだけで数えられます。僕の置いた3%は、この数字が自社でいくつなのかが出るまで、ただの仮置きです
- 希望した二人が、実際に契約したかどうか。 断っている現状の成約率が、10%なのか20%なのか、あるいは0%なのかを見ます。断っているのに契約している二人がいるなら、犬は決め手ではなかったということです
- 犬のために空ける枠の、過去の販売実績。 運用Bなら、土日の最終枠が過去1年で何割埋まったかを数えます。この数字がpです
この3つが揃えば、先ほどの表の、どのマスに自分の式場が入るのかがわかります。
数えられないものも、残ります
最後に、この計算が扱えない部分を書いておきます。
- 犬の鳴き声や粗相でゲストに迷惑がかかったときの、口コミへの影響は計算に入っていません。1件の星1つの口コミが成約を何組分消すかは、式場の件数と平均点で決まるので、別の記事で扱った方法で自分の数字を出す必要があります
- アレルギーのあるゲストへの案内は、運用に含めて考えるべきです。犬が入る会場の、空調と清掃の条件を文章にしておくと、あとで説明が楽になります
- 法的な位置づけや保険の条件は、式場ごとに、契約している保険会社に確認してください。僕が置いた年6万円は、あくまで仮の数字です
まとめ
- 愛犬同伴の挙式を受ける費用は、仮の式場(年300組が来館)で年20万円ほど。増える成約が0.14組あれば元が取れる
- 増える粗利は、受けない場合の成約率が10%なら378万円、20%なら252万円。犬が決め手でない二人は、受けても受けなくても契約するので、数字に出ない
- 損益を分けるのは費用ではなく、犬のために空ける枠が他で売れるか。枠が売れる確率が46〜71%を超えると、受けるほうが損になる
- 閑散期の平日だけ受ける運用なら、機会損失は出ない。人気日の最終枠を使うなら、先に最終枠の販売実績を数える
- 決める前に数えるのは3つ。愛犬との挙式を希望した組の数、その組の現状の成約率、空ける枠の過去の販売実績
- 愛犬との挙式を受けるかどうかは、犬が好きかどうかではなく、空ける枠の値段で決まる
