人気日に10%を上乗せすると、仮の式場では年2,040万円。離脱が2割を超えても、断っていた組が埋めれば赤字にならない
土曜の大安、春と秋の昼。こういう日は、値段が同じでも埋まります。それなら、値段を上げても埋まるのではないか。人気日の料金に上乗せをする案は、会場の会議で一度は出る話だと思います。
反対側の意見もよく聞きます。上乗せをすると、見積もりを並べて比べる二人が離れる。離れた分の粗利は、1組140万円という大きさで消える。だから、手を付けないほうがいい。
どちらも間違っていません。ただ、どちらの言い分が勝つかは、感覚では決まりません。決めるのは、離れる二人の割合と、離れて空いた枠が次に誰で埋まるか、の2つです。
結論から書きます。年120組のうち60組が人気日に挙げる仮の式場で、総額340万円の10%にあたる34万円を上乗せすると、誰も離れなければ年2,040万円の増収です。離れてもよい割合は、空いた枠が埋まらないなら約2割。空いた枠の半分を、これまで断っていた組が埋めるなら約4割です。つまり、上乗せの損得を分けるのは、料金の上げ幅よりも、人気日をどれだけ断っているかです。
この記事に出てくる数字は、すべて僕が置いた仮のものです。統計や調査の数字は使っていません。自分の会場の数字に置き換えて読んでください。
前提:年120組、人気日60組、粗利140万円
仮の式場を決めます。ほかの記事で使っている置き方と、そろえました。
- 年間の挙式は120組
- 総額は1組340万円、粗利は1組140万円
- そのうち60組が、人気日(土日祝の大安や、春と秋の好日)に挙げる
- 人気日の枠は、いまは年間を通して満席に近い
- 上乗せは、見積もりの総額に対する割合で置く。5%なら17万円、10%なら34万円、15%なら51万円
上乗せ分は、原価がかからない前提にします。同じ料理、同じ会場、同じ人数で、日付が違うだけで払う額が上がるからです。実際には、人気日は人件費の割増や外部業者の繁忙期料金が重なることもあります。その場合は、上乗せの粗利を少し割り引いて読んでください。
誰も離れなければ、増収は年1,020万円から3,060万円
いちばん単純な計算から始めます。60組が全員そのまま契約したとします。
| 上乗せ | 1組あたり | 年60組で |
|---|---|---|
| 5%(17万円) | 17万円 | 1,020万円 |
| 10%(34万円) | 34万円 | 2,040万円 |
| 15%(51万円) | 51万円 | 3,060万円 |
これは粗利140万円の組に換算すると、5%で7.3組分、10%で14.6組分、15%で21.9組分にあたります。年120組の会場が、成約を15組増やすことの難しさを考えると、料金の見直しだけでこの額が動くのは、大きな話です。
ただ、この表は、誰も離れないという前提でできています。現実には、見積もりを3会場で並べた二人のうち、何割かが離れます。ここから先が本題です。
離れた組と、そのあとの枠
上乗せの対象になった二人の行き先は、3つに分かれます。
- そのまま契約する。上乗せ分を払う
- 同じ会場の、人気日でない日に移る。上乗せなしで契約する
- 別の会場に行く。この会場の粗利は、その組の分がゼロになる
1と2は、会場にとって悪くありません。1は増収です。2は、上乗せ分は入りませんが、粗利140万円は守られます。閑散日に空きが多い会場なら、むしろ空き枠が埋まります。年間の挙式枠の半分以上が空いている、という見方(別の記事で数えたものです)を使うなら、2は損のない動きです。
損が出るのは、3だけです。そして3の損も、そこで終わらない場合があります。
空いた人気日は、誰かが埋めるのか
3の組が離れると、人気日の枠が1つ空きます。この枠を、誰かが埋めるのか、空いたままなのかで、損の大きさが変わります。
人気日が年中満席に近い会場では、日取りが合わなくて断った組が、どこかにいるはずです。「その日は埋まっています」と伝えた件数が、年に何件あるのか。これを数えている会場は、あまり多くないと思います。この数字が、上乗せの損得を決めます。
ここで、空いた枠が埋まる割合を f と置きます。
- f が0:空いた人気日は、そのまま空く。離れた組の粗利140万円が、丸ごと消える
- f が0.5:離れた組の半分は、断っていた組が代わりに入る。入る組は、上乗せ後の料金で契約する
- f が1:離れた組の分は、すべて埋まる
埋めた組は、上乗せ後の料金を払います。つまり、離れた組を、上乗せ分だけ高い組が置き換える形になります。
離れてよい割合は、f で2倍変わる
離れてよい割合を、式で求めます。上乗せ額を P、粗利を M(140万円)、残る組の割合を 1−x、離れる組の割合を x とします。増収と減収が同じになる x が、損益分岐です。
残る組は P を足します。離れる組は M を失い、f の割合で、M+P の組に置き換わります。この合計がゼロになる x は、次のとおりです。
x = P ÷((M+P)×(1−f))
仮の式場に当てはめた結果が、次の表です。
| 上乗せ | 空いた枠が埋まらない(f=0) | 半分埋まる(f=0.5) |
|---|---|---|
| 5%(17万円) | 10.8% | 21.7% |
| 10%(34万円) | 19.5% | 39.1% |
| 15%(51万円) | 26.7% | 53.4% |
10%の上乗せで、見積もりを見た人のうち2割が離れても、空いた枠が埋まらなければ、ほぼ収支は同じです。空いた枠の半分が、断っていた組で埋まるなら、4割近くが離れても足ります。
上げ幅を5%に抑えると、許される離脱は一気に小さくなります。f=0では1割程度です。上乗せ額は小さくても、離脱の許容も小さい。この比例が、見落とされやすい点です。
逆に15%まで上げると、許される離脱は広がりますが、上乗せを見た二人の離脱そのものも大きくなると思います。離脱の割合は、上げ幅とは独立ではありません。表の数字は、離脱が起きる割合を教えてくれるのではなく、起きてもよい上限を教えてくれるだけです。
離脱が実際に1割、2割のとき、手元にいくら残るか
離脱の割合を決めて、60組の年間の損益を出します。移る組(2)は、ここでは考えず、残る組と離れる組だけで置きます。
上乗せ10%(34万円)の場合です。
| 離れる割合 | f=0 | f=0.5 |
|---|---|---|
| 5%(3組) | 1,518万円 | 1,779万円 |
| 10%(6組) | 996万円 | 1,518万円 |
| 20%(12組) | −48万円 | 996万円 |
上乗せ5%(17万円)の場合です。
| 離れる割合 | f=0 | f=0.5 |
|---|---|---|
| 5%(3組) | 549万円 | 784万円 |
| 10%(6組) | 78万円 | 549万円 |
| 20%(12組) | −864万円 | 78万円 |
同じ「20%が離れる」でも、10%の上乗せで f=0.5なら年996万円の増収、5%の上乗せで f=0なら年864万円の減収です。上げ幅の大きいほうが、離脱に強い。これは直感に反しますが、残った組が払う額が大きいほど、離れた組の穴を埋めやすい、という単純な理由です。
移る組がいると、さらに有利になる
ここまでは、残る組と離れる組の2通りで計算しました。実際は、同じ会場の人気日でない日に移る組が出ます。
仮に、60組の対象のうち、7割が残り、2割が人気日でない日に移り、1割が別の会場に行くとします。移る組は、粗利140万円を守ります。ただし、空いた人気日の枠が、f の割合で、上乗せ後の組に置き換わります。
| 上乗せ | f=0 | f=0.5 |
|---|---|---|
| 5%(17万円) | −126万円 | 1,287万円 |
| 10%(34万円) | 588万円 | 2,154万円 |
5%の上乗せで f=0のときだけ、わずかな減収です。それ以外は、増収になります。f=0.5のときは、10%の上乗せで年2,154万円。粗利140万円の組に換算すると、約15組分です。
この計算の置き方には、弱い点があります。移る組が人気日でない日に動くとき、そこに別の組が入る予定だった場合は、その組が押し出されます。閑散日が本当に空いているかどうかを、先に数えておく必要があります。
数えるものは3つ
上乗せを始める前に、自分の会場で数える数字が3つあります。
1つ目は、人気日を断った件数です。見学や問い合わせで「その日は埋まっています」と伝えた件数を、直近1年分、予約システムか担当者のメモから拾います。この件数が、年に10組を超えていれば、f は0より大きいと考えてよい。ほとんど無ければ、f は0に近いと見ます。
2つ目は、人気日の枠の埋まり方です。満席に近いと思っていても、実際には、枠が埋まるのが挙式の3か月前、というぎりぎりの日もあります。早く埋まる日だけに上乗せをかける、という手もあります。
3つ目は、人気日でない日の空きです。移る組を受け止める余裕が、どれだけあるか。閑散日に枠がたくさん余っているなら、上乗せは、閑散日への誘導にもなります。
上乗せを、見積もりでどう見せるか
見せ方で、離脱の割合は動きます。
日付ごとの料金表を、最初から並べる会場があります。人気日、準人気日、平日というように、日付の段を3つほど置く形です。二人は、料金表を見て、日取りの候補を自分で動かします。この場合、上乗せは、最初から前提として伝わります。
もう1つは、見積もりを出す段階で、人気日の分を「日付料金」として別の行に出す形です。二人は、総額が上がったことに気づきますが、理由は日付だと分かります。
どちらが離脱しにくいかは、僕には分かりません。会場ごとに、二人の層も違います。確かなのは、上乗せの額を決める前に、見せ方の違いで離脱の割合がどれだけ動くかを、一度試す価値がある、ということです。半年ほどの運用で、日付料金を表で出した期間と、別の行に出した期間を並べれば、少なくとも方向は見えます。
やらないほうがよい会場
数字の上で有利でも、上乗せをやらないほうがよい会場があります。
- 人気日の枠が、思ったほど埋まっていない会場。f が0に近く、離脱の許容も小さい
- 周辺に、同じ価格帯で人気日の枠が空いている会場が多い商圏。離れた組が、すぐ近くに行く
- 人気日の枠を、紹介や契約後の変更で動かす余地として残している会場
最後の項目は、運用の話です。人気日の枠を、変更や追加の余裕として少し空けている会場は、満席に近くても、断った件数が少ない場合があります。その場合、上乗せの根拠が弱くなります。
まとめ
- 年120組のうち60組が人気日に挙げる仮の式場で、総額340万円の10%(34万円)を上乗せすると、誰も離れなければ年2,040万円の増収
- 離れてよい割合の上限は、式 x=P÷((M+P)×(1−f))で出る。10%の上乗せなら、空いた枠が埋まらないとき19.5%、半分埋まるとき39.1%
- 上げ幅が小さいと、離脱の許容も小さい。5%の上乗せでは、空いた枠が埋まらない場合、10.8%の離脱で収支が同じになる
- 損得を分けるのは、料金の上げ幅より、人気日を断っていた件数。断っていた組が空いた枠を埋めるなら、離脱の許容は倍近く広がる
- 人気日でない日に移る組は、粗利を守る。閑散日に空きがあるかどうかを、先に数える
- 始める前に数えるのは3つ。人気日を断った件数、人気日の枠の埋まり方、閑散日の空き
