フェアの試食を有料にして戻るのは、仮の式場で年164万円。来館が6組、全体の1%減ると、その分は消える
フェアの試食を有料にしたら、原価の持ち出しは減ります。ただ、減る額は思っているほど大きくありません。年600組が来館する仮の式場で、試食を1組3,000円にした場合に戻るのは、年164万円です。そして来館が6組、全体の1%ぶん減ると、その164万円は消えます。
この記事の計算は、すべて僕が置いた仮の前提から出したものです。実在の式場の実績ではありません。自分の会場の数字に置き換えて使えるように、前提と手順を全部書きます。先に結論を書くと、有料化の判断は「いくら取るか」ではなく「来館がどれだけ減るか」で決まります。
試食は無料が普通で、有料でもふたりで3,000円
まず相場から確認します。
みんなのウェディングニュースの解説記事によると、ブライダルフェアの試食会は無料のところがほとんどで、約9割の花嫁が試食は無料だったと答えた調査も紹介されています。有料の場合は、フルコース試食でふたりで3,000円程度が一般的、通常1万2,000円から2万円ほどの料理が数千円で食べられる、という書き方です。成約後の試食会は有料のことが多い、とも書かれています。
調査の中身までは確かめられていないので、「約9割が無料」という数字は、この記事の紹介を通じた伝聞として扱います。ただ、相場の向きははっきりしています。契約前の試食は無料が標準で、有料にしている会場は少数派です。
もう1つ、ゼクシィ結婚トレンド調査2024の全国推計では、フェアに行った人の91.3%が試食に参加し、81.1%が試食を「役に立った」と答えています。参加者のうち役に立ったと答えた割合は、81.1÷91.3で約89%です。フェアの中身のなかでも、試食は参加率も評価も高い部類に入ります。
この2つを並べると、有料化の難しさが見えます。試食はほとんどの二人が体験し、判断材料にもしている。そこに値段をつけると、いちばん多くの人に触る部分を変えることになります。
前提を置く
仮の式場を置きます。
- 年間の来館は600組
- 来館した組のうち、成約するのは20%(年120組)
- 1成約あたりの粗利は140万円
- 来館した組の91.3%が試食をする。600組×91.3%で、年548組
- 試食の原価は1組2名で5,000円(1人2,500円)
- 有料にする場合の料金は、ふたりで3,000円
来館600組、成約率20%、粗利140万円は、他の記事でも使っている仮の値です。成約率20%は調査の数字ではなく、計算を回すために置いた値です。会場によっては1割のことも3割のこともあるので、後半で10%の場合も並べます。
91.3%はゼクシィの調査の数字ですが、これはフェアに行った人全体の参加率で、あなたの会場の試食実施率とは別物です。自分の会場では、来館のうち実際に試食を出した割合に置き換えてください。
無料のままだと、年274万円かかっている
今の無料の試食に、どれくらいかかっているかを出します。
548組×5,000円で、年274万円です。1成約あたりに直すと、120組で割って約2.3万円。粗利140万円に対して1.6%です。
この数字をどう見るかで、有料化の意味が変わります。年274万円は、ゼロではありません。ただ、粗利140万円の成約が2組弱ぶんです。会場の売上全体からすれば小さな費用で、これを削ることが経営を左右するかというと、僕は疑わしいと思っています。
3,000円にすると、戻るのは年164万円
全員が3,000円を払う前提で、そのまま計算します。
548組×3,000円で、年164万円です。原価274万円のうち、6割が戻ります。持ち出しは年110万円まで減ります。
ここで、1つ目の見方をします。164万円は、粗利140万円の成約でいうと、1.17組ぶんです。有料化で得られるのは、年に1成約ちょっと。逆にいえば、有料化によって成約が1組余計に落ちたら、それだけで帳消しになります。
では、何組の来館が減ると、164万円が消えるのでしょうか。
来館が何組減ると、損になるか
料金をつけると、来館をやめる二人が出るかもしれません。ここで計算に使う考え方は単純です。
来館が1組減ると、その二人が成約する確率ぶんの粗利が消えます。一方で、来なかった二人の分は、試食の原価5,000円と料金3,000円が動かなくなります。
成約率が平均と同じ20%の層が抜けるなら、来館1組あたりの期待粗利は、20%×140万円で28万円です。そこから、減った組が試食をするはずだった原価5,000円(試食率91.3%を掛けて約4,600円)を引いた、約27.5万円が失われます。さらに、その組が払うはずだった料金も入らなくなります。
この式で、有料化の損益がゼロになる、減った来館組数を出します。
| 抜ける層の成約率 | 損益が逆転する来館の減少 | 年600組に対する割合 |
|---|---|---|
| 20%(平均と同じ) | 5.9組 | 約1.0% |
| 10% | 11.9組 | 約2.0% |
| 5% | 24.1組 | 約4.0% |
いちばん上の行を読むと、料金を払うくらいなら行かない、という二人が平均的な成約率をもつ場合、来館が年6組減るだけで有料化は損になります。年600組の1%です。
これをどう見るかは、会場ごとの感触に頼るしかありません。ただ、僕は1%という幅の小ささが重要だと思っています。料金をつけたときの来館への影響を、1%以内に収められると言い切れる会場は少ないはずです。予約画面の離脱、口コミサイトの掲載ページでの見え方、他の式場が無料であることなどが、すべて来館の入口に響くからです。
下の行のほうは、希望の持てる読み方です。料金を嫌がって抜ける層が、もともと成約率の低い層、つまり試食だけが目的の層なら、抜けても失う粗利は小さくなります。成約率が5%の層なら、24組、4%まで抜けても元は取れます。
ただし、どちらの層が抜けるのかは、有料化してみるまで分かりません。ここが、有料化の最大の不確実さです。
料金を変えると、境目はこう動く
料金を1,000円、2,000円、3,000円、5,000円に変えて、同じ計算をします。抜ける層の成約率は、20%と10%の2通りで並べます。
| 料金 | 来館が減らない場合の増益 | 損益が逆転する減少(成約率20%) | 同(成約率10%) |
|---|---|---|---|
| 1,000円 | 約55万円 | 2.0組(0.3%) | 4.0組(0.7%) |
| 2,000円 | 約110万円 | 4.0組(0.7%) | 8.0組(1.3%) |
| 3,000円 | 約164万円 | 5.9組(1.0%) | 11.9組(2.0%) |
| 5,000円 | 約274万円 | 9.8組(1.6%) | 19.6組(3.3%) |
料金を上げると増益は大きくなりますが、境目はゆるやかにしか動きません。3,000円から5,000円に引き上げると、増益は110万円増えるのに、許される来館の減少は4組分しか広がりません。料金の分だけ来館への影響も大きくなるはずなので、実際には、高くするほど損になる側へ近づくと考えるほうが自然です。
1,000円という安い料金は、増益が55万円で、来館の0.3%、2組が減ると消えます。この水準の有料化は、割に合わないことが多いと思います。料金をつけるなら、「効果が出る水準」と「来館が離れる水準」の間の細い道を通ることになります。
契約者に料金を充当すると、さらに細くなる
有料の試食には、もう1つの形があります。契約した二人には、試食の料金を契約金に充当する、という形です。この場合、契約した二人から得られる料金は実質ゼロになります。
成約率20%なら、548組のうち2割が充当になるので、得られる料金は164万円の8割、131万円です。損益が逆転する来館の減少は4.7組(0.8%)まで下がります。
充当は、二人にとって「試食が実質無料になる場合がある」という見え方になるので、来館への影響を和らげる効果があるかもしれません。ただ、会場側の増益はその分削られます。どちらが良いかは、来館の減少がどちらの形でどれだけ変わるかに掛かっていて、これも計算では決まりません。
当日欠席が減る効果は、24万円くらい
有料化には、お金が戻る以外の効果もあります。予約して来なかった二人の分の食材ロスです。
ゼクシィ結婚トレンド調査2024(全国推計)では、フェアを予約したのに行かなかったことがある人が、予約した人の約22%いました。ただこれは「どこかのフェアに行かなかった」という人ごとの数字で、特定の会場の当日欠席率ではありません。
そこで、ここでは当日欠席率を仮に10%と置きます。来館600組なら、予約は約667組で、欠席は67組。準備した試食の原価5,000円が無駄になるとすると、年33万円です。料金を前払いにして欠席が3%に下がるなら、欠席は19組、ロスは9万円。差は年24万円です。
24万円は、164万円の15%です。無視できないですが、この効果だけで有料化を決めるには小さすぎます。欠席の食材ロスが気になるなら、有料化ではなく、前日のリマインドや予約変更の導線を整えるほうが、来館への影響が小さい方法です。
有料化より先に動かせるもの
ここまでの計算から、有料化の前に試せる手が見えてきます。
1つ目は、原価の見直しです。試食の原価を5,000円から3,500円に下げると、548組×1,500円で年82万円が減ります。来館に触れずに、有料化の半分の効果が出ます。コースの品数、皿の大きさ、当日の仕込み方など、料理の側で動かせる余地がないかを先に見ます。ただし、料理は二人が「役に立った」と答える中心にある部分です。削りすぎて、試食の評価を落とすなら、元も子もありません。
2つ目は、試食を出す相手を絞ることです。たとえば、初回の来館では試食を出さず、2回目の来館、あるいは見積もりを出した後の二人にだけ出すとします。来館の4割に試食を出す形にすると、試食は年240組、原価は120万円まで下がります。無料のままで、持ち出しが274万円から154万円ぶん減ります。
ただし、この案は、初回の試食を楽しみにして来る二人を取りこぼす可能性があります。ゼクシィの調査で試食の参加率が91.3%と高いのは、今の会場の多くが初回から試食を出しているからでもあります。出さなくなったときの来館への影響は、有料化と同じく、事前には分かりません。
3つ目は、来館の予約時に二人の状況を聞いておくことです。みんなのウェディングの記事にも、日程や人数が未定で試食だけが目的の場合は、サービスを受けられないことがある、という注意が出ています。ここは会場の運用で、有料にするより前に、無料の条件を整える手があります。
有料化が合う会場と、合わない会場
ここまでを、会場の状況別に整理します。
合うのは、次のような会場です。
- 土日の枠が埋まっていて、予約を断っている。来館が料金で数組減っても、空いた枠を待っている二人が使うので、実質の減少がゼロに近い
- 試食の費用が、食材原価よりも、厨房やサービスの人手、準備の時間に出ている。人手の足りなさが成約の機会を削っているなら、料金で来館数を絞る意味がある
- 来館の中に、試食だけが目的の二人がはっきり多い。成約率の低い層から抜けるなら、抜けた損は小さい
合わないのは、次のような会場です。
- 平日や閑散日が空いていて、来館の1組が貴重。1%の減少でも、上の計算どおり、有料化の効果は消える
- 試食が成約の決め手になっている。ゼクシィの調査で、試食は81.1%の二人が役に立ったと答えており、その評価が会場の強みなら、料金は強みを狭める
- 他の式場が無料で、予約の比較画面で料金の差が見える
この3つずつの違いは、結局、「来館の1組を失う痛みが、いくらか」に行き着きます。枠が溢れているなら、その痛みは小さい。枠が余っているなら、大きい。
試してみるなら、小さく、期間を区切って
有料化を試すなら、全面的に切り替えるのではなく、一部の枠で、期間を区切って試すほうが安全です。
たとえば、人気の土日の午後だけを3,000円にして、平日や午前の枠は無料のままにします。そうすれば、料金をつけた枠と、つけない枠で、予約の入り方と成約率を比べられます。2か月ほど続けて、来館の減り方が2%を超えるなら、境目の表から見て、元に戻したほうが良い可能性が高くなります。
計測するのは3つです。料金をつけた枠の予約数、その枠の来館後の成約率、そして枠を問わない全体の来館数。全体の来館数が動いていないのに、料金をつけた枠だけが減っているなら、予約が他の枠に移っただけです。損は出ていません。
ここで注意したいのは、成約率の測り方です。有料の枠で成約率が上がったように見えても、それは試食目的の二人が来なくなって、分母が小さくなっただけかもしれません。見るべきは成約率ではなく、成約した組数です。来館が減って成約率が上がっても、成約が減っていれば、損をしています。
まとめ
- 契約前のフェアの試食は無料がほとんどで、有料でもふたりで3,000円程度が一般的(みんなのウェディングニュース)。試食はフェア参加者の91.3%が体験し、81.1%が役に立ったと答えている(ゼクシィ結婚トレンド調査2024)
- 来館600組、成約率20%、粗利140万円、原価5,000円の仮の式場では、無料の試食に年274万円かかっている。ただし粗利140万円の成約2組弱のぶん
- 3,000円にして戻るのは年164万円。粗利140万円の成約1.17組ぶん
- 平均的な成約率の二人が料金で抜けるなら、来館が6組(1%)減った時点で損になる。抜けるのが成約率10%の層なら12組、5%の層なら24組まで許される
- 料金を上げても、許される来館の減少は広がりにくい。1,000円は割に合わないことが多い
- 当日欠席が減る効果は、仮の置き方で年24万円ほど。単独では有料化の理由にならない
- 有料化の前に、原価の見直し(1,500円下げると年82万円)や、試食を出す相手の絞り込みがある
- 有料化が合うのは、枠が溢れている会場。枠が余っている会場では、来館の1組の重さが勝つ
