オンライン相談の人件費は年36万円で、損得は誤差です。決まるのは「来館率×来館後の成約率」が元の12%を超えるかどうか。来る人の半分が元から来館する人なら、積が6%を切ると赤字になる
オンラインで相談できる枠を作るかどうか。検討している会場は多いと思います。導入の話になると、まず出てくるのは「担当者の時間がもったいない」「通信環境の準備が面倒」といった、運用の手間の話です。
僕は、この手間の議論は的が外れていると思っています。金額にすると小さいからです。仮の式場で計算すると、オンライン相談にかかる人件費は年に36万円ほどで、粗利140万円の成約が1組出れば取り返せます。
本当に見るべきなのは別の数字です。オンライン相談を選ぶ二人は、オンラインがなければ来館していたのか、していなかったのか。前者なら、オンラインは来館の代わりになるだけで、成約は増えません。むしろ減ることがあります。後者なら、オンラインは来館の追加になります。
結論を先に書きます。見るのは「来館率×来館後の成約率」の積です。この仮の式場では、元の積が12%です。オンラインを選ぶ人の半分が元から来館する人なら、オンライン経由の積が6%を切った時点で赤字になります。
この記事は、公表された調査の数字に頼っていません。数字はすべて僕が置いた仮のものです。前提は本文に書くので、自分の会場の数字に置き換えて読んでください。
前提:月80件の問い合わせ、2割がオンライン相談
仮の式場を決めます。
- 月の新規問い合わせは80組
- そのうち2割の16組が、オンライン相談の枠を選ぶ(仮)
- 従来の導線では、問い合わせた二人の40%が来館し、来館した二人の30%が成約する(どちらも仮)
- 1組の粗利は140万円
- オンライン相談は1件30分で、前後の準備と記録を足して1件45分(仮)
- 担当者の人件費は、社会保険などを含めて1時間2,500円(仮)
つまり、問い合わせから成約までの通り抜け率は、0.40×0.30で12%です。16組の二人が従来の導線に乗れば、成約は月に1.92組になります。
この12%を、この記事では「元の積」と呼びます。来館率と成約率を別々に見ず、かけ合わせた一つの数字で見るのが、後の比較で効いてきます。
人件費は年36万円、1組で取り返せる
最初に、見えている費用を片づけます。
オンライン相談は月16件、1件45分です。月に12時間、時給2,500円で月3万円、年に36万円です。
粗利140万円の成約が1組出れば、この費用は取り返せます。年36万円を140万円で割ると0.26組なので、年に1組未満の追加成約で足ります。
ここで「オンラインは手間がかかるからやめる」と判断するのは、数字の大きさを取り違えています。人件費はこの記事の中で一番小さい数字です。
通信機器の準備や、予約枠を作る作業のような初期費用を足しても、桁は変わりません。仮に初期費用が20万円かかるとしても、年36万円と合わせて56万円です。粗利140万円の0.4組分にしかなりません。
本当の費用は、来館の取りこぼし
では、オンライン相談で損をするのはどこか。
二人が会場を知るときの道は、大きく2つです。
- 来館する(現地で見る、話す、試食する)
- 来館せずに離れる
オンライン相談が、この2つの間に新しい道を作ります。「オンラインで話して、そのまま来館しない」という道です。
元から来館するはずだった二人が、オンラインで話して満足してしまい、来館せずに終わる。この動きが増えると、来館が減ります。式場の成約は、来館のあとに多く決まる仕組みなので、来館が減れば成約も減ります。
逆に、遠方に住んでいる、仕事が忙しい、まだ候補を絞っている段階で現地に行く気が起きない、という二人もいます。この二人は、オンラインがなければ来館していません。来館しない二人がオンラインを経由して来館に進むなら、これは純粋な追加です。
だから、オンラインを選ぶ16組のうち、元から来館していた人の割合が重要になります。この割合をsと置きます。
来館率×成約率の積で比べる
オンラインを選んだ16組について、オンライン経由の来館率をp、来館後の成約率をc2と置きます。オンラインを選んだ二人が、最終的に成約に進む割合はp×c2です。
元から来館するはずの二人(割合s)は、オンラインがなければ12%で成約していました。元から来館しない二人(割合1-s)は、オンラインがなければ成約は0です。
月あたりの成約の差は、次の式で出ます。
16組×(p×c2 − s×0.12)
これを年にして、粗利140万円をかければ、金額の差になります。
結論は式の中にあります。p×c2が、s×0.12を上回れば黒字、下回れば赤字です。 人件費はこの式に出てきません。年36万円は、黒字赤字の判定を左右するほど大きくないからです。
表で見る:sと積の組み合わせ
sを25%、50%、75%、100%に、p×c2を6%、9%、12%、15%に動かして、年間の成約の差を出します。単位は組です。
| 元から来館する人の割合s | 積6% | 積9% | 積12% | 積15% |
|---|---|---|---|---|
| 25% | +5.8 | +11.5 | +17.3 | +23.0 |
| 50% | 0.0 | +5.8 | +11.5 | +17.3 |
| 75% | −5.8 | 0.0 | +5.8 | +11.5 |
| 100% | −11.5 | −5.8 | 0.0 | +5.8 |
粗利140万円をかけると、+5.8組は年に約806万円、+11.5組は約1,613万円、−11.5組は約1,613万円の減収です。
この表から読めることが3つあります。
1つ目。sが25%、つまりオンラインを選ぶ人の4人に3人が、元から来館しない人なら、積が6%まで落ちても年に5.8組の追加になります。このとき、オンラインは来館の追加です。
2つ目。sが50%なら、積が6%のところで損得がちょうどゼロになります。ここが境目です。元から来館する人が半分いる会場では、オンライン経由の積が元の12%の半分を切ったら、導入しないほうが良かったことになります。
3つ目。sが100%、つまりオンラインを選ぶ人が全員元から来館する人なら、積が元と同じ12%でも差はゼロです。人件費の分だけ赤字になります。積が15%に上がって、はじめて年に5.8組増えます。オンラインが来館の代わりにしかなっていないなら、成約の質を上げない限り、意味がありません。
sは測れる
sは、実際に測れる数字です。
オンライン相談の予約を受けるときに、二人に1つだけ質問を足します。
「今回のご相談がなければ、来館のご予約はお考えでしたか」
答えの選択肢は、「予約するつもりだった」「予約するつもりはなかった」「まだ決めていなかった」の3つで十分です。「まだ決めていなかった」は、半分ずつと数えます。
もう少し手間をかけるなら、オンライン相談の予約者を、従来の来館予約者と同じ属性で比べる方法もあります。居住地が会場から何km離れているか、問い合わせの時点で挙式の何か月前か。遠くに住んでいて、挙式まで時間のある二人ほど、sは小さくなるはずです。
測り始めて3か月も経てば、30組ほどのデータが集まります。粗い数字ですが、sが25%なのか75%なのかは見分けがつきます。この2つでは判断が真逆になるので、粗くても十分に役に立ちます。
積を上げる設計と、下げる設計
sが決まったら、次は積です。オンライン経由のp(来館に進む割合)とc2(来館後の成約率)は、相談の終わり方で変わります。
積を下げる終わり方はこうです。
- 質問に答えて終わる。次の行動が決まらない
- 料金や空き日の情報をすべて出してしまい、来館しなくても足りる状態にする
- 来館の案内を、最後に一言添えるだけにする
積を上げる終わり方はこうです。
- 相談の最後に、来館の日程を二人と一緒に決める。二人に日程の連絡を預けて終わらせない
- オンラインでは出せないものを、あらかじめ決めておく。試食、実際の会場の空気、当日の導線の確認など
- 来館のときに、オンラインで聞いた希望を引き継ぐ。同じ質問を現地でもう一度聞かない
オンラインを来館の代わりにせず、来館の前段にするというのが、僕の考え方です。オンラインで話すことは、来館の価値を下げるためではなく、来館のときの時間を濃くするために使います。
こう設計すると、pは上がります。さらに、オンラインで希望を聞いている分、来館のときの提案が当たりやすくなり、c2も上がります。
判断の分かれ目
導入を決める前に確かめることを、順番に並べます。
- 会場から遠い地域の二人(県外、片道1時間半以上など)が、問い合わせの何割いるか。多い会場ほどsは小さくなり、オンラインは追加に近づく
- いま、問い合わせから来館に進まない二人が、どんな理由で止まっているか。「遠い」「休みが合わない」が多いなら、オンラインが効く。「料金が合わない」が多いなら、オンラインでは解決しない
- 来館の日程を、相談の中で決められる運用にできるか。できないなら、積は下がる
- 3か月の試行で、sと積を測る。測らないまま続けると、黒字か赤字か分からないまま人件費を払い続ける
ここまで確かめて、sが半分以下で、積が元の半分以上を保てる見込みがあるなら、始めて損はありません。人件費が小さいので、試行のコストも小さいです。
逆に、問い合わせの大半が近隣の二人で、止まる理由が料金にあるなら、オンラインの優先度は下がります。先に直すのは見積もりの見せ方や、来館のハードルのほうです。
まとめ
- オンライン相談の人件費は、仮の式場で年36万円。粗利140万円の成約1組未満で取り返せるので、損得の主役ではありません
- 本当の費用は、元から来館するはずだった二人が来館せずに離れること
- 比べる数字は「来館率×来館後の成約率」の積。仮の式場の元の積は12%
- オンラインを選ぶ人の半分が元から来館する人なら、積が6%を切ると赤字になる。全員が元から来館する人なら、積が12%のままでは差がゼロで、人件費の分だけ赤字になる
- 元から来館する人の割合は、予約時の質問1つで測れる。3か月で、判断が分かれる程度の精度が出る
- 相談の終わりに来館の日程を決める設計が、積を下げない
- 数字はすべて仮の前提です。自分の会場の問い合わせ数、来館率、成約率に置き換えて読んでください
