見学の最後に次回の予約まで取ると、仮の式場では年36万円。成約が0.26組増えれば元が取れる。ただし2回目が土日の満枠に入ると、すぐ赤字になる
見学が終わって、二人が出口に向かう。このとき多くの式場は「ご検討ください。お見積もりはメールでお送りします」と言って送り出します。次に会う約束は、ありません。
別のやり方もあります。見学の最後に「次は試食と、見積もりの見直しをしませんか。来週の平日の夜なら、この2日が空いています」と、次の来館日まで押さえてしまう運用です。
結論を先に書きます。年300組が来館する仮の式場で計算すると、この運用にかかる手間は年36万円ほどです。成約が年に0.26組増えれば元が取れます。成約率に直すと、0.09ポイントです。ここまでは軽い話です。
ただし、損益を決めるのは手間ではありません。押さえた2回目の来館が、土日の満枠の新規見学を押し出していないかどうかです。そこを外すと、同じ運用が年に数百万円の赤字になります。順に計算していきます。
この記事の数字は、二人が会場を何軒回るかの1つを除いて、すべて僕が置いた仮のものです。年に何組来るか、次回予約が何割取れるか、押し出しが何割起きるか。どれも調査の数字ではありません。自分の会場の数字に置き換えて使ってください。
二人は平均2.6軒を回る。次の約束がない会場は、比べる棚に戻される
ゼクシィ(リクルート)の記事に載る「ゼクシィ結婚トレンド調査2024」によると、ブライダルフェアに参加したカップルが訪れた会場は平均2.6軒です。僕の確認できた範囲では、回答者数までは記事に書かれていません。1軒で決める二人も、5軒6軒と回る二人も混ざった平均です。
この数字から言えることは1つです。二人は見学のあと、会場を並べて比べる時間に入ります。そのとき、手元に残っているのは見積もりの紙と、写真と、見学で受けた印象です。次に会う約束がある会場と、ない会場とでは、比べるときの位置が変わります。
約束がない会場は、二人が自分から動かないかぎり、連絡が止まります。二人は他の会場の見学の予定が詰まっているので、動くのは後回しになります。そして連絡が止まったまま、他の会場で決まる。これが「見学のあと音沙汰がなくなる」の正体の1つだと、僕は考えています。
次回の予約は、この棚の位置を変える手です。ただし、これは仕組みの説明であって、効果の大きさを示す数字ではありません。何組増えるかは、自分の会場で数えないと分かりません。ここでは増える組数を「仮に」で置いて、損益の形だけを出します。
運用を決める。次回に何をするかを1つ決めて、日を押さえる
運用の中身を、先に決めておきます。「また来てください」では、次回の予約は取れません。二人が次に何をするのかが決まっていないからです。
次回の理由は、1回につき1つに絞ります。たとえば次のようなものです。
- 見学でその場に出せなかった本番の見積もりを、人数を決めて作り直す
- 気になった料理の試食を、日を改めて受ける
- 同席できなかった親を連れて、もう一度見学する
- 衣装や装花など、見学では見切れなかった部分を見る
そして、日の候補を2つか3つ、その場で出します。「いつでも空いています」ではなく「来週の火曜と木曜の夜」と言います。選択肢が絞られているほうが、二人は決めやすいからです。ここは僕の経験則で、数字の裏づけはありません。
年36万円の中身。説明に6万円、2回目の接客に30万円
仮の式場を置きます。年300組が来館し、成約率は30%で、成約は90組。粗利は1組140万円です。人件費は1時間あたり2,500円とします。
手間は2つに分けて数えます。
1つ目は、見学の最後の説明です。次回の理由を伝えて日を押さえるのに、1組5分かかるとします。300組で25時間、人件費は6.25万円です。
2つ目は、押さえた2回目の来館の接客です。次回予約が取れる割合を40%と仮に置くと、300組のうち120組が2回目に来ます。1回の接客を60分とすると、120時間、人件費は30万円です。
合わせて年36.25万円。これが運用の手間です。
ここで1つ、割り切りがあります。120組の2回目の接客を、全部「新しく増えた手間」として数えています。実際には、運用をしなくても2回目に来る二人は一定数いるので、増える手間はもう少し小さいはずです。そのぶん、ここの36万円は多めに見ています。
元が取れる線は、成約が年0.26組。成約率の0.09ポイント
粗利140万円で、手間の36.25万円を割ります。0.26組です。年300組の来館に対する成約率では、0.09ポイントに当たります。
つまり、運用のおかげで成約が年に1組増えれば、手間の約4倍の粗利が戻ります。2組なら約8倍です。手間だけを見れば、割のいい運用です。
次回予約が取れた二人の成約率は、取れなかった二人より高く出るはずです。しかしその差を、そのまま運用の効果と読んではいけません。次回の約束に応じるのは、もともと気持ちが前向きな二人だからです。運用がなくても決めていた二人が、次回予約のほうに多く入っているだけかもしれません。効果は「次回予約組の成約率」ではなく、「全体の成約が何組増えたか」で見ます。
本当に決める線は、2回目を土日の満枠に入れていないか
ここからが、この記事でいちばん書きたい部分です。
2回目の来館を、土日の見学枠に入れたとします。その時間が満枠で、新しく見学を希望した二人を断ることになったら、どうなるでしょうか。
断られた二人のうち、40%は後日あらためて来てくれるとします。戻らないのは60%です。新規見学の成約率を30%とすると、押し出された1組あたりの損失は、0.6×0.3×140万円で25.2万円です。
2回目の来館が1件、満枠の土日に入るたびに、25万円が消える計算です。一方、運用の手間は2回目1件あたり約0.3万円(36万円÷120組)です。手間と押し出しは、桁が違います。
そこで、成約の増え方と、2回目が満枠に入る割合の組み合わせで、年間の損益を出します。単位は万円です。
| 運用で増える成約 | 満枠に入る割合 0% | 10% | 25% | 50% |
|---|---|---|---|---|
| 年0.5組(粗利70万円) | +34 | -269 | -722 | -1,478 |
| 年1組(粗利140万円) | +104 | -199 | -652 | -1,408 |
| 年2組(粗利280万円) | +244 | -59 | -512 | -1,268 |
| 年3組(粗利420万円) | +384 | +81 | -372 | -1,128 |
| 年6組(粗利840万円) | +804 | +501 | +48 | -708 |
見方を説明します。たとえば左の列、満枠に入る割合が0%なら、増える成約が年0.5組でも黒字です。2回目の来館を、空いている平日の夜に集められるなら、運用はほぼ負けません。
ところが、2回目の1割が土日の満枠に入るだけで、年1組増える程度の効果は消えます。損益がプラスになる線は、増える成約が年1組なら満枠に入る割合が3.4%まで、年3組でも12.7%までです。年6組増えても、26.6%を超えたら赤字です。
手間は小さく、押し出しは大きい。だから、運用の良し悪しを決めるのは「次回予約が取れるか」ではなく「次回の枠をどこに置くか」です。
次回の枠は、新規の見学と別の棚に置く
押し出しを避ける方法は、考え方としては単純です。2回目の来館は、新規の見学と別の枠として持ちます。
具体的には、次のような分け方があります。
- 2回目の枠は、平日の夜や、定休日の前後など、新規の見学が埋まりにくい時間に置く
- 土日に2回目を入れるなら、満枠になりにくい午前の遅い時間や夕方の枠だけにする
- 2回目の来館は、1回目と同じ担当者がすると決めて、担当者の空きから日を出す
3つ目は、日の候補を出す側の都合も絞れる、という意味もあります。ただし担当者を固定すると、その担当者に2回目が集中して、新規の見学を受ける余力が減ります。ここは会場の人数で変わるので、僕は一律には言えません。
もう1つ、見ておきたいのが「二人の都合」です。二人が土日にしか動けないのなら、平日の夜を勧めても次回予約は取れません。次回予約が40%取れるという仮定は、枠の置き場所が二人の都合に合っていてはじめて成り立ちます。枠を平日の夜に寄せるほど、取れる割合は下がるかもしれません。割合が下がれば、2回目の接客が減り、手間も減りますが、増える成約も減ります。この釣り合いも、仮の数字で決めずに、自分の会場の数で確かめる部分です。
効果は数字で測れない。だから、先に決める
増える成約を測れるかを、確かめておきます。
運用の前後で成約率が30%から33%に上がったかを、統計的に確かめるには、1つの条件あたり約3,760組の来館が要ります。「運用あり」と「運用なし」の2つを比べるので、合計で約7,500組です。年300組の式場では、25年かかる計算です。
差が5ポイントと大きくても、1条件あたり約1,380組が要ります。年300組なら、9年かかります。
つまり、この運用が効いたかどうかは、1年や2年の成約率では確かめられません。「やってみて、数字で判断する」はできない種類の施策です。
測れないなら、どうするか。損益の形を、先に見ておくのが現実的です。
- 手間は年36万円で小さい。成約が年0.26組増えれば戻る
- 押し出しは、満枠の土日に2回目が入るたびに25万円。ここを避けられるなら、増える成約が年0.5組でも負けない
- 避けられないなら、運用はやらないほうが堅い
効果の大きさを当てにせず、押し出しだけを管理する。それなら、測れない効果に賭けずに済みます。
やらないほうがいい会場
運用をしないほうがいい条件も、書いておきます。
- 土日の見学枠が慢性的に満枠で、2回目を平日に寄せる余地がない会場。押し出しの25万円が、手間の36万円を一瞬で超えます
- 来館が年300組を大きく切る小さな会場。2回目の接客の手間は小さいですが、そもそも断る新規が少ないので、押し出しも小さく、効果も見えません。やっても大きな害はありませんが、やる理由も薄いです
- 担当者が1人で、見学と契約後の打合せを兼ねている会場。2回目の接客が契約後の打合せの時間を食います。この場合は、手間の人件費ではなく、打合せの遅れのほうが重くなります
逆に、平日の夜や定休日の前後に、空いている枠が多い会場なら、運用は試しやすい部類です。
まとめ
- 見学の最後に次回の来館日まで押さえる運用の手間は、年300組の仮の式場で年36万円。成約が年0.26組(成約率の0.09ポイント)増えれば元が取れる
- 二人は平均2.6軒を回る(ゼクシィ結婚トレンド調査2024)。次の約束がない会場は、比べる棚で位置が下がりやすい。ただし、これは仕組みの説明で、効果の大きさの数字ではない
- 次回の理由を1つに絞り、日の候補を2つか3つ出す。「また来てください」では取れない
- 損益を決めるのは手間ではなく、2回目が土日の満枠に入るかどうか。入るたびに25万円が消え、増える成約が年1組なら3.4%の割合で赤字になる
- 2回目の枠は、新規の見学と別の棚に置く。平日の夜や定休日の前後に寄せる
- 効果は、年300組の式場では25年かけても統計では確かめられない。測れない効果に賭けず、押し出しだけを管理する
- 土日が慢性的に満枠で、平日に寄せる余地がない会場は、やらないほうが堅い
