式場は来館を増やすか成約率を上げるか|先に手を打つ条件
「来館数を増やすのが先か、成約率を上げるのが先か」。式場の集客の会議で、毎月のように出てくる議論です。広告費を足せば来館は増えますし、接客を直せば成約率は上がります。どちらも正しそうに聞こえるので、声の大きい人の案が通りやすい。僕はそう見ています。
この記事では、数字を仮に置いたモデルで両方を比べます。先に結論を書きます。来館数と成約率は掛け算なので、同じ割合だけ動かせば結果は同じです。違いが出るのは、増えた来館の質と、見学の枠の空き具合、それから施策の手間と費用です。この3つを見れば、どちらから手を付けるかは経営者が判断できます。
なお、ここで使う数字はすべて説明のための仮の値で、特定の会場の実績ではありません。自分の会場の数字に置き換えて読んでください。
仮の式場を1つ置く
モデルに使う前提は次のとおりです。
- 月の来館は40組
- 来館から成約までの成約率は30%(月12組)
- 1組あたりの粗利は100万円
この式場の月の粗利は、12組×100万円で1,200万円です。ここから、2つの施策を試します。
- 施策A:広告や媒体への出稿を増やして、来館を1割増やす(月4組増)
- 施策B:見学の流れや見積もりの出し方を直して、成約率を3ポイント上げる(30%→33%)
素直に計算すると、Aは来館が44組になって、成約率30%のままなら13.2組。Bは来館40組のまま成約率33%で13.2組。どちらも月1.2組増えて、粗利は120万円の増加です。掛け算なので、1割増と3ポイント増(元の1割)は同じ結果になります。
ここで「どちらでも同じ」と終わらせると、現場の判断には使えません。この計算には2つの嘘が入っているからです。
嘘その1:増えた来館は、平均と同じ成約率ではない
施策Aの計算では、増えた4組も成約率30%で決まる前提でした。現実には、広告を足して集めた来館は、もともと来ていた二人より成約率が低くなりがちです。理由は仕組みとして説明できます。
もともと来ている二人は、その式場を指名して調べたり、口コミや公式サイトを見て納得したりして予約した人が多い。広告で追加した来館は、まだ式場を絞れていない段階で、条件で選んだ二人が混じります。平均より成約率が低いと考えるのが自然です。
どれくらい低いかは会場ごとに違い、一般論の数字は書けません。そこで、増えた来館の成約率を3パターンに振って計算します。
- 増えた4組の成約率が30%(平均と同じ):1.2組増、粗利120万円増
- 同じく20%:0.8組増、粗利80万円増
- 同じく15%:0.6組増、粗利60万円増
増やした来館の成約率が20%なら、施策Aの効果はBの3分の2になります。15%なら半分です。来館を増やす施策の効果は、増えた分の成約率で決まる。ここが最初の分かれ目です。
自分の会場で確かめる方法は、集客経路別の成約率を見ることです。たとえば広告経由の来館と、公式サイトや紹介経由の来館で、成約率にどれだけ差があるか。経路別に出していないなら、経路別に出すのが最初の仕事です。差が小さければAの計算は平均に近づきますし、差が大きければAは割り引いて考える必要があります。
嘘その2:施策Bの3ポイントは、無料では手に入らない
施策Bの計算も同じです。成約率が3ポイント上がる前提ですが、そう簡単に上がるわけではありません。見学の導線を変える、見積もりの出し方を変える、追客の連絡を整える。どれも担当者の時間と、現場を動かす労力がかかります。
さらにBには、効果が出るまでに時間がかかる、という性質があります。月の来館が40組だと、成約率が3ポイント動いたかどうかは数か月たっても見分けにくい。40組で3ポイントは、1.2組の差です。たまたま決まった月と決まらなかった月のぶれのほうが大きく、直した効果なのか偶然なのかが分かりません。
Aは、出稿を増やした翌月に来館数が増えたかどうかがすぐ見えます。Bは結果が見えるのが遅い。そのため、見えやすいAに予算が寄りやすい、という偏りが起きます。見えやすいほうが正しいわけではありません。
費用で比べる:1組増やすのにいくらかかるか
次に、費用を入れます。広告で来館を1組増やすのに、仮に3万円かかるとします。これも仮の値です。
- 増えた来館の成約率が30%なら、成約1組を増やす費用は3万円÷0.3で10万円
- 成約率20%なら15万円
- 成約率15%なら20万円
成約1組の粗利は100万円ですから、いずれも粗利に比べれば安い。広告費の側だけ見ると、Aはどのケースでも採算が合います。だから「広告は効く」という話になりやすいのですが、ここで比べるべき相手は、もう一方の施策Bです。
Bの費用は、現場の時間です。たとえば見学の流れの見直しに、担当者が月に数日使うとします。その人件費を月10万円と置くと、Bで月1.2組増えるなら、1組あたりの費用は10万円÷1.2で約8万円。Aの成約率が20%のときの15万円より安くなります。
ここで大事なのは、AとBのどちらが安いかではありません。増えた来館の成約率が低いほど、Aは割高になり、Bとの差が縮むという関係です。AもBも採算は合うので、本当の問いは「どちらを先にやるか」であって「どちらをやるか」ではありません。
見学の枠に空きがあるか
3つめの分かれ目は、枠です。式場の見学は、週末の枠に集中しがちです。土日の見学枠がすでに埋まっている式場で来館を増やすと、増えた二人は平日に回るか、数週間先の枠に回ります。
枠が埋まっているときにAをやると、起きることは2つあります。
- 来た二人が他の式場を先に見て、決めてしまう(待たせるほど成約率は下がる)
- 週末の接客が混み、ふだん来ている二人への接客の質まで下がる
つまり、枠が埋まっている式場でのAは、増えた分の成約率が下がるだけでなく、もとの成約率まで押し下げる可能性があります。この場合はBが先です。見学の1組あたりの時間と流れを整えて、同じ枠で決まる割合を上げるほうが、枠を増やさずに結果を増やせます。
逆に、平日の見学枠が空いている式場では、Aの条件がよくなります。空いている枠に二人を入れるだけなので、接客の質が落ちません。来館数を増やす施策は、空き枠の多い曜日に絞って出稿を寄せるという手が使えます。
判断の表
ここまでの3つの分かれ目を、1枚にまとめます。
| 条件 | 先に手を打つ側 | 理由 |
|---|---|---|
| 土日の枠がほぼ埋まっている | 成約率(B) | 来館を増やしても受けきれず、もとの接客まで落ちる |
| 平日の枠が空いている | 来館数(A) | 空き枠に入れるだけで、接客の質が落ちない |
| 広告経由の成約率が、平均の半分以下 | 成約率(B) | 増えた来館の価値が低く、Aの効果が割り引かれる |
| 広告経由と平均の成約率が近い | 来館数(A) | 増えた分もほぼ平均どおりに決まる |
| 月の来館が30組を切る | 来館数(A) | 少数で成約率を動かしても、効果が見分けられない |
最後の行は補足が要ります。月の来館が少ないと、成約率の1〜2ポイントの差は、組数にすると1組未満です。この規模でBの効果を測ろうとすると、ぶれに埋もれて「効いたか分からない」まま終わります。まず来館を増やして、判定できる規模にする。そのうえでBを測る。順番を分けるのが現実的です。ただし、来館が少なくても、見学の流れで明らかに詰まっている点(たとえば見積もりが翌日以降にしか出せない)があるなら、数字を待たずに直したほうがいい場合もあります。
並べて動かすときの注意
AとBを同じ月に同時にやると、どちらが効いたのか分からなくなります。広告を増やした月は来館の質が変わり、成約率の比較が成り立たない。接客を直した月に広告も増やすと、成約率が下がっても「広告で薄まったから」なのか「接客の変更が悪かったから」なのか決められません。
対策は単純で、1か月に動かす変数は1つにすることです。成約率の改善(B)を試すなら、その月は出稿を前月と同じに保つ。来館数の施策(A)を試すなら、接客の流れは変えない。効果の判定には、集客経路別の成約率を使います。
また、成約率の計算には「何で割るか」という落とし穴があります。分母を来館数にするのか、初回来館のうち契約まで進んだ組にするのか、問い合わせ数にするのかで、同じ式場の成約率が大きく違って見えます。前の月と同じ分母で比べる、これだけは守ってください。
経営者が先に決めておくこと
最後に、会議の前に決めておくと議論が速くなる点を3つ書きます。
- 自分の会場の「増えた来館の成約率」を、経路別に出しておく。最低でも、広告経由とそれ以外の2つに分ける
- 土日と平日の見学枠の空きを、直近3か月で出しておく。埋まっている枠と空いている枠が分かれば、Aをやる曜日が決まる
- Bにかかる担当者の時間を、月何日と決めておく。決めずに始めると、日々の業務に追われて止まる
どれも新しい調査が要るわけではなく、すでに持っているデータの組み替えで出せます。
来館数と成約率を同じ土俵に乗せて比べると、会議の問いが変わります。「どちらが大事か」ではなく、「今月の枠と今月の経路別の数字で、どちらを先にやるか」。後者なら、数字を見れば答えが出ます。
まとめ
- 来館数と成約率は掛け算なので、同じ割合だけ動かせば結果は同じ。仮のモデルでは、来館1割増も成約率3ポイント増も粗利120万円増
- 違いを生む分かれ目は3つ。増えた来館の成約率、見学枠の空き、施策にかかる手間と見えやすさ
- 広告で増やした来館は、平均より成約率が低くなりがち。増えた分の成約率が20%なら効果は3分の2、15%なら半分になる
- 土日の枠が埋まっているなら成約率が先、平日の枠が空いているなら来館数が先
- 月の来館が少ないうちは、成約率の変化は偶然のぶれに埋もれる。まず来館を増やして、判定できる規模にしてから測る
- 1か月に動かす変数は1つにして、集客経路別の成約率で判定する
