式場が他会場に決めた二人に聞くのは、理由より比べた順番
見学に来てくれた二人から、数日後に連絡が届く。「検討した結果、他の会場に決めました。ありがとうございました」。式場の現場では、月に何度も目にする文面だと思います。
このとき多くの式場が、返信で「差し支えなければ、決め手になった理由を教えていただけますか」と聞きます。気持ちは分かります。次に活かしたい。でも僕は、この聞き方では使える答えがほとんど返ってこないと考えています。返ってくるのは「価格が合いました」「雰囲気が好みでした」「家から近かったので」。どれも間違いではありませんが、翌月の接客や見積もりの出し方を変える材料にはなりません。
結論から書きます。他会場に決めた二人に聞くのは、理由ではなく「比べた順番」と「決まった時点」です。何番目に見たのか、どの時点でほぼ決まったのか、最後に残ったのはどんな会場だったのか。この3つなら、答える側も負担が軽く、集めた答えが式場の動き方に直結します。
この記事に出てくる数字は、すべて僕が置いた仮のものです。業界の平均や実績ではありません。自分の会場の記録に置き換えて読んでください。
「理由」を聞くと、角の立たない答えが返ってくる
断る側の気持ちから考えます。
二人は、担当してくれたプランナーに時間を使ってもらい、試食もして、見積もりももらっています。そのうえで他の会場に決めた。断るときに、もっとも気を使うのは「あなたの会場の何が悪かったか」を言わなくて済む答えを選ぶことです。
「価格」は、その点でとても便利な答えです。誰も傷つきません。「予算の都合で」と言えば、会場の側にも直しようがない話になるからです。「雰囲気が合わなくて」も同じです。好みの問題にしてしまえば、相手に落ち度はありません。
もうひとつ、二人自身が理由をうまく言葉にできていない、という事情もあります。会場を決めるとき、人は複数の要素を頭の中で混ぜて、「なんとなくここ」という感覚に落とします。その後で「なぜここにしたのか」と聞かれると、後から説明しやすい理由を探して答えます。これは嘘ではなくて、決めた後に理由を組み立てるのは、人の判断としてごく普通の動きです。
つまり、理由を聞く質問は、答える側にとって「角が立たず、説明しやすい答え」を選ばせる質問になっています。式場側は、「価格が理由で失注した」という記録を積み上げて、「うちは高いのか」と考え始める。ところが実際には、見積もりを出す順番や、見学の途中で迷いが生まれた場面に原因があった、というズレが起きます。
代わりに聞く3つのこと
理由の代わりに、事実を聞きます。事実は、答える側が角を立てずに答えられます。式場側にとっても、事実のほうが集計できます。
1. 何会場を見て、うちは何番目だったか
最初に聞くのは、見た会場の数と、自社を見た順番です。
「何会場くらい見学されましたか。うちは何番目でしたか」。答えるのは数字だけで済みます。ここから、自社が「最初に見られる会場」なのか「最後に見られる会場」なのかが分かります。
見学の順番は、接客の組み立てを変えます。仮に、失注した二人の多くが「うちを1番目に見て、その後に何会場か回った」と答えるなら、うちは比較の入口に使われています。その場合は、見学の最後に「この後ほかの会場を見るときに、ここは確かめてください」と二人の比較の物差しを渡す接客が効く可能性があります。逆に、うちを最後に見た二人が失注しているなら、すでに別の会場に気持ちが傾いた状態で来ていることになります。同じ接客をしても、もう遅いのかもしれません。
見学順は、成約した二人にも同じ質問で聞けます。失注した二人だけを見ても、順番の偏りが失注に固有の傾向なのかどうかは分かりません。成約者アンケートに同じ設問を入れておくと、比べることができます。
2. 気持ちがほぼ決まったのは、いつか
2つ目は、決まった時点です。聞き方は選択式にします。
- うちの見学の最中には、もう他の会場に傾いていた
- うちの見学のあと、見積もりを見比べたときに決まった
- 見積もりのあと、家族や友人に相談して決まった
- ほかの会場を見学して、その場で決まった
答える側は、どれかを選ぶだけです。理由を言語化する必要がなく、会場の悪口にもなりません。
この質問の答えは、式場がどの場面を直すべきかを示します。「見学の最中に傾いていた」が多いなら、改善する場所は見学の動線や接客です。「見積もりを見比べたときに決まった」が多いなら、見積もりの出し方、つまり総額の見せ方や、含まれるものの説明です。「家族に相談して決まった」が多いなら、二人が持ち帰って説明するときの資料や、親御さんに向けた説明の場の持ち方が論点になります。
理由を聞いても、この区別はできません。「価格が合いました」は、見学の最中に傾いた二人も、見積もりを見比べた二人も、同じ言葉で答えるからです。
3. 最後に残ったのは、どんな会場だったか
3つ目は、最後まで迷った相手の特徴です。会場名は聞きません。聞くのは種類です。
- 同じ地域の式場(ホテル・ゲストハウス・専門式場)
- 少し離れた地域の式場
- 会場挙式以外の選択肢(レストラン、写真だけ、挙式しない)
会場名を聞くと、答えづらくなりますし、式場の側も他社を意識した動きに寄りがちです。種類だけなら、答える負担は小さく、集計にも使えます。
仮に「ホテルと比べて迷った」二人が多いなら、うちの見積もりは、ホテルの総額と並べられています。そのとき総額の見せ方がどう見えるか、含まれているものをどう伝えているかが論点になります。「挙式しない」と迷った二人が多いなら、そもそも式を挙げる意味の伝え方、つまり見学前の情報発信や見学の冒頭のところに話が戻ります。
聞くタイミングと、聞き方の文面
聞く内容が決まっても、聞き方を間違えると返信がもらえません。
返信は、断りの連絡が来た当日に出す
断りの連絡に返信を出すタイミングは、できるだけ早く。連絡をもらった当日、遅くとも翌日です。時間が空くと、二人の中では「もう終わった話」になり、返信する気持ちが薄れます。逆に当日なら、決めた経緯がまだ新しい状態です。
引き止めない。値引きを出さない
断りの連絡への返信で最もやってはいけないのは、引き止めです。「もし価格面であれば、もう一度ご提案します」と書くと、二人は「やはり価格を気にしていると思われている」と感じ、返信しにくくなります。それだけでなく、質問そのものが営業に見えて、事実を教えてもらえなくなります。
返信は、感謝を一文、質問を一つ、で十分です。
文面の例
ご連絡をありがとうございます。ご決断を尊重いたします。 今後の参考に、一つだけ教えていただけると助かります。ご見学の中で、当会場は何番目にご覧になりましたか。お答えは数字だけで大丈夫です。
最初の返信では、質問を一つに絞ります。3つ全部を一度に聞くと、アンケートに見えて返信が止まります。返信があったら、そこから2つ目の質問を続けて聞く、という順番が安全です。返信がなければ、そこで終わりです。追いません。
回答は数字や記号で返せる形にする
LINEで連絡しているなら、「1、2、3」のどれかで答えてもらえる形にすると、返信率が上がりやすいと考えられます。ここは僕の見立てで、検証した数字はありません。ただ、自由記述の質問より、選択肢を選ぶだけの質問のほうが、答える側の手間が小さいのは確かです。
集めた答えは、半年分をまとめて読む
1件ずつの答えは、どれも偶然かもしれません。まとめて読むときの感覚を、仮の数字で確かめます。
仮に、ある会場の月の見学が60組、成約が18組だとします。失注は42組です。そのうち、「他会場に決めた」という連絡が自分から届く二人が3割、約13組だとします。その二人のうち、聞いた質問に3割が返信してくれるとすると、月に約4組の答えが集まります。
月4組では、傾向は読めません。でも半年続けると約24組になります。24組の答えが「見学順」「決まった時点」「最後に残った会場の種類」の3つで揃っていれば、傾向を読むには足ります。
読み方はシンプルです。3つの設問のそれぞれで、どの選択肢に偏っているかだけを見ます。
- 見学順は「1番目」「2番目」「3番目以降」のどれに多いか
- 決まった時点は4つの選択肢のどれに多いか
- 最後に残った会場は、ホテル・ゲストハウス・専門式場・会場挙式以外のどれに多いか
偏りが半分を超える設問があれば、そこが改善の候補です。偏りが見えなければ、失注の原因は一つの場面に集まっていない、という結果になります。それも一つの答えです。接客や見積もりのどこかを大きく変えるより、見学前の情報の出し方のように、もっと手前を見る合図になります。
気をつけたいこと
回答した二人は、全体の縮図ではない
返信をくれるのは、会場に好意的だった二人に偏る可能性があります。失礼な断り方をした二人や、そもそも連絡をくれない二人の答えは、集まりません。半年分の集計は「連絡をくれた失注者」の傾向で、全体の失注の傾向とは限らない。この前提を、集計表に書いておいてください。
そのうえで、連絡をくれない二人の分は、予約や見学の記録から補います。たとえば、見学から契約までの日数、見積もりを出した日と最後に連絡があった日の差などです。これらは二人に聞かなくても、式場の側にある記録で分かります。
担当者の評価に使わない
この集計を担当者別に分けて、成績の比較に使うのは避けたほうがいいです。担当者が「見学の最中に傾いていた」の回答を減らそうとすると、記録の仕方が不自然になります。集計は会場全体で見る。個人別に分けたくなったら、その前に、見学順や見積もりの出し方のような仕組み側を疑うほうが、現場は動きやすくなります。
毎回同じ設問で聞く
質問を月ごとに変えると、積み上げができません。設問は3つに固定し、選択肢の言葉も変えない。変えたいときは、変えた月を記録しておき、前の集計と分けて読みます。
成約した二人にも、同じことを聞く
最後に、失注した二人の答えだけを見ていると、見落とすことがあります。
見学順が「3番目以降」の失注が多くても、それが失注に固有の傾向とは限りません。成約した二人も、同じくらい「3番目以降」で来ているかもしれません。その場合は、見学順は失注の原因ではなく、ただの来館者の分布です。
成約者アンケートに、同じ3つの設問を入れておくと、両方を並べて読めます。契約時の書類や、契約後の最初の打ち合わせで「契約までに何会場見ましたか。うちは何番目でしたか」を聞くだけです。成約者は答えやすく、回答率も高くなります。
失注者と成約者で、答えの分布が違うところが、分かれ目です。たとえば、決まった時点が「見積もりを見比べたとき」の割合が、失注者のほうだけ大きく高いなら、見積もりの出し方に何かあります。分布が同じなら、そこは分かれ目ではありません。改善の優先順位を決めるとき、この比較があるだけで判断の根拠が変わります。
まとめ
- 「理由」を聞くと、「価格」「雰囲気」のような角の立たない答えが返ってきて、次の動きに使えない
- 代わりに聞くのは事実の3つ。見学の順番、気持ちが決まった時点、最後に残った会場の種類
- 返信は断りの連絡をもらった当日に出す。引き止めと値引きの提案は書かない。質問は最初の返信では1つに絞る
- 選択式にして、数字や記号で答えられる形にする
- 月4組の回答でも、半年で24組になる。3つの設問のどれに偏るかだけを見る(数字は仮の例)
- 回答者は好意的だった二人に偏る。集計表に書いておき、記録から補う
- 担当者別の成績には使わず、会場全体の仕組みを見る
- 成約者にも同じ3問を聞き、失注者との分布の違いを分かれ目として読む
失注の理由は、二人の中でもはっきりしていません。だから式場が聞くのは、理由ではなく、二人が思い出せる事実のほうです。
