新郎新婦のリアル

子連れゲストの不安は「静かにできるか」「食べられるか」「授乳とおむつ替えの場所」。備えに年66万円かけても、仮の式場では成約が年0.6組増えれば元が取れる

子連れのゲストを呼ぶ二人は、式場に「子どもは大丈夫ですか」と聞きます。聞かれた式場が「お子さま用のお料理もご用意できます」と答えて終わると、ゼクシィの調査で上位に出ている不安のうち、3つ目以降が手つかずで残ります。

先に結論を言うと、子連れゲストへの備えは、年120組・来館400組の仮の式場なら、年66万円まで使っても、成約が年に0.6組増えれば元が取れます。全体の成約率で言えば0.14ポイントです。ただしこれは僕が置いた仮の前提での計算で、実際の式場の数字ではありません。この記事では、調査で分かっていることと、仮に置いた数字をはっきり分けて書きます。

子連れゲストが不安に感じていること

使うのはゼクシィの記事に載っている調査です。子連れで結婚式に参列した経験のある206人に、不安だったことを聞いたもので、上位に出ていたのは次の内容でした。

  • 子どもが静かにしていられるか、じっとしていられるか
  • 子どもが食べられるものがあるか
  • おむつ替えと授乳の場所やタイミング

同じ記事には、うれしかった配慮の声も載っています。授乳室やおむつ替えスペースの案内があった、赤ちゃんが遊べるおもちゃがあって安心した、子連れの席をまとめてもらえた、ベビーカーのまま席に着けるよう広めの席にしてもらえた。

この調査から言えるのは、不安の中身と、喜ばれた配慮の種類までです。子連れゲストが全ゲストの何割いるのか、備えがあると新郎新婦の会場選びが変わるのかは、この調査では分かりません。検索でも、招待の割合を示す調査は見つかりませんでした。なので、以降の計算では割合を仮に置きます。

もうひとつ、土台になる数字があります。ゼクシィ結婚トレンド調査では、平均の招待客数が2017年の70.2人から、2023年は49.1人まで減っています。少人数になるほど、一人ひとりのゲストの扱いが目立ちます。子連れの家族が3組いるだけで、50人の披露宴では席の6%前後が「手のかかる席」になります。この6%という割合は、僕の算数です。子連れ3家族で、大人と子どもを合わせて10人前後という仮定を置いています。

不安を3つに分けると、式場の仕事が見える

上位の不安を、式場の側から見た仕事に直します。

静かにしていられるか

この不安は、式場が子どもの機嫌を直せるわけではないので、「静かにしなくても困らない状況」をつくる話になります。出入口に近い席にする。ベビーカーを置ける余白を取る。ぐずったときに、ロビーや控室に出られる動線を確認しておく。ここまでは費用がほとんどかかりません。

費用がかかるのは、子どもを一時的に預かる人手です。ベビーシッターの手配を式場が提携先に頼むと、1組あたりの費用が発生します。後の計算では、これを1組2万円と仮に置きます。

食べられるものがあるか

お子さま用の料理は、多くの式場にすでにあります。ここで見ておくのは、料理の有無よりも、出すタイミングです。ゼクシィの別の記事には、テーブルに着いてすぐお子さまプレートが運ばれてきた、という声がありました。子どもが食事を待つ時間は、ぐずる時間とほぼ重なります。

大人の料理が出る前に子どもの皿を出す。これは原価の問題ではなく、厨房とサービスの段取りの問題です。1皿の原価は、仮に大人のコース料理1.5万円の半分、7,500円と置きます。子ども2人が来る子連れ組なら、1組あたり1.5万円です。この料理代は、新郎新婦に請求する通常の項目なので、式場の持ち出しにはなりません。持ち出しになるのは、出す順番を変えるための人手の調整だけです。

授乳とおむつ替えの場所

三つの中で、最も「あるかないか」で差が出るのがここです。授乳室がある会場は少なくありません。それでも不安として上位に出るのは、あることを知らない人が多いからです。ゼクシィの喜ばれた配慮にも「授乳室やおむつ替えスペースの案内があった」とあり、設備そのものより案内に触れています。

この点は、費用でいえば2つに分かれます。

  • 既存の部屋を授乳やおむつ替えに使えるようにする:備品(カーテン、椅子、おむつ用の台、ゴミ箱)が中心で、数万円で済む
  • 専用の部屋をつくる:工事費がかかり、数百万円単位になることもある。ここでは扱わない

後の計算には、前者だけを入れます。

仮の式場で、備えの費用を計算する

ここからは、すべて僕が置いた仮の前提です。実在の式場の数字ではありません。

項目 仮の値
年間の挙式組数 120組
年間の来館組数 400組
成約率 30%(120÷400)
1組あたりの粗利 120万円
子連れゲストが来る組の割合 30%(年36組)
子連れ組のうち、シッターを使う割合 半分(年18組)
シッターの費用(式場が持つ場合) 1組2万円
初年度の備品(授乳・おむつ替え・遊び道具) 30万円

年間の費用は、シッターが18組×2万円で36万円、備品が初年度だけ30万円で、初年度は合計66万円です。2年目は備品の買い替えを除けば、シッターの36万円だけが残ります。

この66万円が元を取るには、粗利120万円の組が何組増えればよいか。66÷120で0.55組です。年間の来館が400組なので、全体の成約率に直すと0.55÷400で約0.14ポイント。30%が30.14%になる計算です。

2年目以降の36万円なら、36÷120で0.3組、成約率で0.075ポイントです。

この数字が小さいのは、粗利が1組120万円と大きいからです。子連れへの備えのように、1組あたりの費用が小さい施策は、1組の成約が増えるだけで回収できます。

効く範囲を、子連れ層だけに絞って見る

全体の成約率で0.14ポイントといっても、実務で見分けるのは無理です。来館400組なら、0.14ポイントは0.55組にすぎません。成約率の月ごとのぶれは、ふつうそれより大きいはずです。備えが効いたかどうかを全体の成約率で確かめるのは、現実的ではありません。

そこで、見る範囲を絞ります。来館のうち子連れ層が3割とすると、年120組です。この120組に限った成約率が、備えの前後でどう動くか。回収に必要な0.55組を、120組で割ると0.46ポイントです。子連れ層の成約率が30%から30.5%に上がれば、元が取れます。

これでもまだ、ぶれの範囲に埋もれます。120組の成約率の標準的なぶれは、30%前後なら±4ポイントほどあります(√(0.3×0.7÷120)=約4.2ポイントという、二項分布の計算です)。0.46ポイントの変化は、そのぶれの10分の1です。

つまり、結果の数字では効いたかどうかが分かりません。備えの費用が小さいから、この施策は「数字で確かめてから投資する」には向きません。やるかどうかは、不安の中身と費用の大きさを見て決めることになります。

子連れ層が失注するとき、何が起きているか

ここから先は、データではなく構造の話です。

二人が会場を比べているとき、子連れの親族を呼ぶ予定があれば、見学の場で必ず子どもの話になります。そのときの式場の答え方は、3パターンに分かれます。

  1. 「お子さまプレートがあります」だけ答える
  2. 授乳とおむつ替えの場所を、その場で案内する
  3. 席の位置、料理を出す順番、預かりの有無まで、一度に説明する

1は、聞かれたことだけに答えています。2と3は、聞かれていない不安まで先回りしています。ゼクシィの調査で不安の上位が3つ並んでいる以上、1の答え方だと、残りの2つの不安は二人が帰宅してから自分で調べることになります。

二人が帰宅後に調べるとき、他の会場が3まで説明していたら、そこで差がつきます。説明の差は、備品にかける数万円とは別の、話し方の問題です。費用はゼロです。

これは僕の推測で、調査では確かめていません。見学の場面で子連れの話題が出る頻度も、答え方で成約が変わるかどうかも、手元にデータはありません。ただ、仕組みとして考えれば、この差を埋める費用は小さく、取りこぼした場合の損は粗利120万円です。

式場が持つ、持たない、の線引き

シッターの費用を式場が持つかどうかは、判断が分かれます。

式場が持つ場合:

  • 見積もりが増えないので、二人の比較で不利にならない
  • 年36万円の持ち出しが続く
  • 利用が増えると、費用が読めなくなる

二人に請求する場合:

  • 式場の持ち出しはゼロ
  • 見積もりの総額が上がり、比較表では不利になる
  • 子連れゲストが多い二人ほど負担が増える

僕は、初めの1年は式場が持つほうを勧めます。利用が実際にどれだけあるかが、まだ分からないからです。仮の式場の計算では、利用が半分の18組で36万円でした。これが全員で36組なら72万円になり、回収に必要な成約は0.6組から1.2組に増えます。ここまで増えるなら、請求に切り替える理由になります。

切り替える線は、シッターの利用がいくらを超えたら、と先に決めておくことです。仮の式場なら、年72万円(全額で36組)を超える手前の、年50万円あたりが一つの目安です。数字は仮置きなので、実際の式場では自分の粗利と来館数で置き直してください。

子連れが少ない会場の場合

ここまでの計算は、子連れ層が来館の3割という仮定でした。この割合が低ければ、結論は変わります。

子連れ層が1割なら、年12組です。シッターを使うのが半分の6組で、費用は12万円。備品30万円と合わせても42万円で、回収に必要な成約は0.35組です。子連れ層12組の成約率で見ると、0.35÷12で約2.9ポイントの上げ幅が要ります。子連れ層が小さいほど、同じ備品代を回収するのに必要な上げ幅は大きくなります。

備品30万円という固定費は、子連れ層の大きさによって、重さが変わります。子連れ層が少ない会場は、シッターの手配を作らず、備品を最小限にして、見学時の説明だけを整えるほうが堅いです。

注意:この計算に入れていないもの

この記事の計算は、次のものを入れていません。

  • 子連れ席で、ほかのゲストが受ける影響(泣き声が式の進行にどう響くか)
  • 子どもが怪我をしたときの対応や保険
  • シッターの手配先が、式場の外にある場合の契約や責任の分担
  • 子連れ層の来館割合の実測

最後の実測は、式場ごとに確かめられます。来館時のヒアリングシートに、「お子さま連れのゲストはいらっしゃいますか」の項目があれば、半年で自分の会場の割合が分かります。この項目を先に付けるだけで、この記事の仮の3割は、会場の数字に置き換わります。

まとめ

  • 子連れで参列した206人の調査(ゼクシィ)で、不安の上位は「静かにできるか」「子どもが食べられるものがあるか」「おむつ替えと授乳の場所」だった
  • 子連れゲストの割合と、備えが会場選びに効くかは、調査では確かめられていない
  • 年120組・来館400組・粗利120万円の仮の式場で、備えの初年度66万円は、成約0.55組(全体で0.14ポイント)で回収できる
  • ただし成約率のぶれのほうがはるかに大きく、結果の数字では効果を確かめられない。判断は不安の中身と費用の大きさで行う
  • 料理の出す順番、案内、席の位置は費用がかからない。備品とシッターだけが費用になる
  • 子連れ層が小さい会場では、備品の固定費の重さが増す。まず来館時に子連れの有無を聞いて、自分の会場の割合を数える