インスタ投稿者に試食と会場を無償で出す式場は、来館0.1組で元が取れる
Instagramで結婚式の情報を発信している人に、試食と会場見学を無償で提供して、投稿してもらう。式場の側から声をかけるこの施策は、やる前に必ず「効くのか」「炎上しないのか」で止まります。
結論を先に書きます。無償提供のコストは、僕が置いた仮の式場で1回2.5万円ほどです。これは来館が0.05組、つまり20回やって1組来れば回収できる額です。謝礼を3万円つけても、来館0.1組で元が取れます。コストの小さい施策なので、損益で迷う必要はほとんどありません。迷うべきは別の2点です。投稿から来館した二人を数えられるか。広告であることを読み手に分かる形で出せるか。この2つが無いと、小さなコストでも「何も分からないまま続ける」ことになります。
この記事に出典つきの数字はありません。Instagramで発信する人の投稿が来館にどれだけつながるかを、僕は確かめていません。以下の数字はすべて僕が置いた仮の前提です。自分の会場の数字に置き換えて読んでください。
仮の式場の前提
計算の土台を並べます。
- 年間の挙式は120組。1組を成約したときの粗利は150万円と置きます。ほかのコストを引いた後の、この記事用の丸めた値です
- 来館した二人のうち成約する割合は35%と置きます。来館1組あたりの期待粗利は、150万円の35%で52.5万円です
- 提供するのは、平日の昼の試食と会場見学。試食は2名分で、原価は1.2万円と置きます
- 当日の対応は、プランナー1名と調理場の調整で、合計5時間。人件費は1時間2,500円なので、1.25万円です
- 会場は平日の空き日を使うので、会場を押さえる費用は0円と置きます。土日に埋まる日を使うなら、その日の機会費用が別にかかります
- 謝礼は、ケースによって0円、3万円、10万円の3通りで見ます
無償提供の費用は、試食原価の1.2万円と人件費の1.25万円で、合計2.45万円です。謝礼を3万円つけると5.45万円。10万円つけると12.45万円です。
回収に必要な来館数
費用を、来館1組の期待粗利52.5万円で割ります。これが「何組の来館があれば元が取れるか」です。
| ケース | 費用 | 回収に必要な来館 |
|---|---|---|
| 無償提供のみ | 2.45万円 | 0.05組 |
| 謝礼3万円 | 5.45万円 | 0.10組 |
| 謝礼10万円 | 12.45万円 | 0.24組 |
無償提供のみなら、20回やって1組が来館すれば回収できます。謝礼10万円でも、4回やって1組です。数字だけ見れば、どのケースも軽い費用です。成約まで見ると、もっと軽くなります。無償提供のみの2.45万円は、成約1組の粗利150万円の1.6%にしかなりません。
では、なぜ式場はこの施策に慎重になるのか。費用が重いからではありません。効いたかどうかが見えないからです。見えない施策は、費用が小さくても、続ける理由も、やめる理由も作れません。次の節で、見えなくなる仕組みを分けます。
投稿から来館までに、数字が消える場所
投稿を見た二人が来館するまでには、いくつかの段階があります。ここでは、各段階の割合を僕が置いた仮の値で並べます。確かめた数字ではありません。
発信する人のフォロワーが1万人、そのうち結婚式を検討している、かつ会場の通える範囲に住んでいる人が5%と置くと、500人です。投稿を見たうえで、プロフィールや予約ページまで進む人が、この500人のうち2%なら10人。その10人のうち、実際にフェア予約まで進むのが3割なら3人です。
ここで3人という数字が出ました。予約に進んだ人の大半が来館すると置けば、回収ラインの0.05組を大きく上回ります。
仮にフォロワーが3,000人で、地域の検討者が5%、プロフィールまで進むのが0.1%、予約に進むのが3割なら、0.045人になります。これは回収ラインの0.05組を下回ります。同じ施策でも、どちらのフォロワーかで結果が分かれる、という例です。
つまり、結果を分けるのは、フォロワーの数ではなく、地域の検討者がどれだけ含まれているかです。全国に向けて発信している人のフォロワー数万人より、地元の式場選びを中心に発信している人のフォロワー数千人のほうが、会場にとって意味のある人数になることがあります。
この「地域の検討者の割合」は、依頼する前に見ることができます。発信する人の過去の投稿に、地域名がどれだけ出てくるか。コメント欄に地元の言葉で質問している人がいるか。保存数の多い投稿が、地域の式場の紹介かどうか。フォロワー数だけで選ぶと、この割合が見えなくなります。
数えられなければ、続けるか決められない
次に、来館した二人を数える仕組みです。投稿を見て来館した二人は、アンケートに「Instagramで見た」と書かないことがあります。書いたとしても、書かれる名前は式場名の検索や、公式のInstagramアカウントであって、投稿してくれた人の名前ではありません。
数えるための手段は、式場が決められる範囲に限ります。
1つ目は、専用の予約ページを使うことです。投稿のプロフィールリンクやストーリーズのリンクを、その人専用のURLにします。URLの末尾に識別用の文字をつける程度のことで、予約ページを開いた人数が数えられます。専用のページが作れない場合でも、リンクを押した人の数は発信する人から教えてもらえます。
2つ目は、特典の案内に合言葉をつけることです。「投稿を見た方は、フェア予約時に合言葉を入力すると、〇〇のプレゼント」のような形にします。ただし、この特典は、ステマ規制や景品表示法の観点で、条件づけの仕方に注意が必要です。口コミの投稿を条件にした特典については、別の記事で整理しました。来館や予約を条件にした特典は、口コミとは別の話ですが、広告であることの表記は別に必要になります。
3つ目は、来館時のアンケートに、選択肢として発信する人の名前を入れることです。名前を出すのが難しければ、「Instagramで検索して知った」「Instagramの投稿で見た」を分けます。投稿を見た二人は、公式のアカウントを探して来ることが多いので、アンケートの選択肢が粗いと、公式Instagramに吸収されます。
数えられなければ、結局は「雰囲気で続ける」ことになります。専用リンクとアンケートの2つがあれば、最低限は数えられると僕は考えます。
広告であることを出す
次に、表記です。事業者が依頼して、試食や会場を無償で提供して、投稿してもらう場合、その投稿は広告として扱われる可能性があります。2023年10月に始まったステマ規制は、事業者が表示の内容に関与して、それが広告であることが分かりにくい場合を問題にしています。
式場がやるべきことは、条件を決めることです。法律の細かい解釈は僕の専門ではないので、ここでは現場で決める項目に絞ります。個別の判断は、弁護士や消費者庁の公表資料に当たってください。
- 投稿に「PR」「広告」「提供」など、広告と分かる表記を出してもらう。ハッシュタグの末尾や、読み飛ばされる位置ではなく、投稿の冒頭や、画像の中に出す
- 感想の内容を式場が指定しない。良かった点を書いてほしい、悪い点は書かないで、という依頼は、内容への関与にあたります
- 提供した内容を、投稿の中で明らかにしてもらう。試食と見学を無償で受けたことを、一文で書いてもらう
- 修正の依頼は、事実の誤りに限る。料金やプランの内容が間違っているときだけ、正してもらいます。表現の修正を頼み始めると、「感想」ではなく「式場の文章」になります
この4つを、依頼する前の連絡の中に書いておきます。当日や投稿の直前に言い出すと、発信する人も式場も、断りにくい状況になります。
発信する人に伝えておくこと
条件の伝え方で、関係はだいぶ変わります。僕が決めておくなら、次の項目です。
- 投稿の自由度。写真の撮り方や、書く文章は、発信する人に任せます
- 撮影の範囲。ほかの二人のお客さんが映らない日と時間を選びます。装飾や飾りつけの途中の部屋に入る場合は、事前に範囲を決めます
- 二次利用の可否。式場の公式アカウントや広告に、その人の写真を使いたいなら、使う範囲を決めておきます。使えるのは、投稿の画像を引用する形だけなのか、写真データを提供してもらって編集してよいのか
- 投稿の時期と期間。投稿後、いつまで残してもらえるか。1か月で削除されると、検索や保存から入ってくる二人を取り逃がします
- 他社との同時案件。同じ時期に近隣の式場の案件を受けているかどうかは、式場は聞けません。聞けるのは、地域の同じ種類の投稿をしばらく控えてほしい、という期間の相談までです。これも、条件にすると費用が上がります
二次利用の範囲は、特に先に決めたほうがよい点です。式場にとって、第三者が撮った写真は、自社で撮る写真より雰囲気の違う素材になります。ただし、撮影した人の著作権があるので、公式アカウントや広告に流用するには、許諾が必要です。投稿の後に言い出すと、撮影した人は断りにくいか、追加の謝礼を求めるかのどちらかになります。
発信する人の選び方
次に、誰に頼むかです。僕が見る項目は、フォロワー数より下の3つに絞ります。
1つ目は、結婚式の投稿の割合です。結婚式以外の話題が中心の人は、フォロワーも結婚式を検討していない人が大半です。直近の投稿20件のうち、結婚式の会場選びや準備の話が半分以上あるか。
2つ目は、反応の質です。コメント欄で、質問や相談が出ているか。「素敵です」だけが並ぶコメントより、「ここの会場はいくらでしたか」「プランナーさんの対応はどうでしたか」と聞く声が出ている投稿のほうが、検討中の二人が見ています。
3つ目は、過去の案件の扱いです。ほかの会場の案件を受けた投稿が、どんな表記で出ているか。広告の表記がない案件が続いている人は、式場がどれだけ条件を書いても、守られないことがあります。式場の側が、ステマ規制の責任から外れるわけではありません。
フォロワー数は、選ぶ条件にしません。
謝礼を払うかどうか
謝礼は、払うか払わないかで、二人の側から見える関係が変わります。
無償提供のみのとき、発信する人にとっての見返りは、試食と見学の体験そのものです。これは、式場を選ぶ立場の二人が発信しているケースで成り立ちます。今まさに自分の式場を探している人に、無償で体験してもらう形です。
謝礼を払うのは、発信する人の発信そのものが仕事になっているケースです。この場合、無償を求めると、断られるか、手を抜かれます。謝礼が3万円なら、回収ラインは来館0.1組。これも、20回やって2組の来館があれば回収できます。
大事なのは、謝礼の額を「効果が出たら増やす」形にしないことです。成果に連動した謝礼は、広告の内容に関与する圧力になります。固定の額で決め、投稿の内容には口を出さない。この線を守るほうが、規制の面でも、関係の面でも続けやすくなります。
3か月で見る数字
最後に、3か月でやることを決めます。
- 地域の結婚式を中心に発信している人を3人、候補に挙げます。投稿の割合と反応の質で選びます
- 依頼の連絡に、表記、感想への不関与、二次利用、投稿期間を書きます
- 専用の予約ページと、アンケートの選択肢を準備します
- 1人目の投稿から1か月、予約ページの閲覧数、フェア予約数、来館数を数えます
- 3人分の結果を並べて、回収ラインの0.05組を超えた人と、超えなかった人の違いを見ます
超えなかった人に共通するのは、フォロワー数が少ないことではなく、地域の検討者が少ないことだと僕は予想しています。ただしこれは予想で、確かめた事実ではありません。3人分の数字が出たところで、次にどういう人に頼むかが決まります。
まとめ
- 試食と会場を無償で提供する費用は、仮の式場で1回2.45万円。来館0.05組、つまり20回で1組来れば回収できます
- 謝礼3万円をつけても回収ラインは来館0.1組。謝礼10万円で0.24組です
- 結果を分けるのは、フォロワー数ではなく、地域の検討者がどれだけ含まれているかです
- 数える手段は、専用の予約ページ、合言葉、アンケートの選択肢の3つ。数えられないと、続けるかやめるかの判断ができません
- 広告と分かる表記、感想への不関与、事実の誤りに限った修正依頼を、依頼の前に伝えます
- 二次利用の範囲と、投稿を残す期間は、先に決めます。後から言うと、断られるか追加費用になります
- 謝礼は固定額にして、成果に連動させません
