来館・成約

問い合わせの返信は速いほど来館につながる、とは限らない。自社の数字で確かめるには、半年と約400件が要る

問い合わせへの返信は速いほどいい。式場の現場でも、広告やツールの説明でも、よく聞く話です。僕もこの方向が間違っているとは思いません。

ただ、自社の数字で「返信が15分以内の問い合わせは、翌日返信の問い合わせより来館率が10ポイント高い」と言えている式場は多くないはずです。言えないのは、サボっているからではなく、このデータが思ったより取りにくいからです。取りにくい理由は2つあります。件数が足りないことと、速く返した問い合わせは、もともと来館しやすい人だったかもしれないことです。

この記事では、月120件の問い合わせがある仮の式場を置いて、返信速度と来館率の関係をどう測るか、何件あれば差が見えるか、見えたときに粗利がいくら動くかを計算します。数字はすべて僕が置いた前提で、実在の式場や調査の数字ではありません。自社の数字に置き換えて使ってください。

速く返した問い合わせほど来館する、の落とし穴

返信時間と来館の有無を並べて、速く返した群の来館率が高ければ、速さが効いたと読みたくなります。ここに2つの偏りが入ります。

1つ目は、熱量の違いです。式場探しの初期は、問い合わせた直後が一番熱い時期です。熱い人は、フォームに入力した後も画面を見ていて、返信が来ればすぐ読んで、すぐ返します。来館の予約まで進みやすい人です。逆に、情報収集のつもりで資料請求の感覚で送った人は、返信が1日遅れても気にしません。来館率も低い。

2つ目は、こちら側の事情です。平日の昼間に届いた問い合わせは15分以内に返せても、金曜の夜や土日の来館が詰まった時間帯に届いた問い合わせは、翌日の返信になります。時間帯と曜日によって、返信の速さも来館率も変わります。

この2つがあるので、「速く返した群の来館率が高い」は、速さの効果、問い合わせた人の熱量、時間帯の差が混ざった数字です。混ざった数字から、返信を速くしたら来館が増える、とは言い切れません。

言い切れないなら速さを軽く見ていい、という話ではないです。混ざりを分けたうえで、差が残るかどうかを見る。その手順を次に書きます。

記録する項目は5つ

使うデータは、問い合わせ管理のシートか予約管理のツールにあるはずです。足りない項目だけ足します。

  • 問い合わせを受け取った日時
  • 初回の返信をした日時(自動返信は除く。人が内容に答えた最初の返信)
  • 経路(公式サイトのフォーム、ポータルサイト、LINE、電話など)
  • 来館予約が入ったか、来館したか
  • 成約したか

自動返信を除くのが大事です。「お問い合わせありがとうございます」の自動メールが1分で届いていても、新郎新婦が知りたいのは、日程と空き状況と料金の目安に答えが返ってくる時間です。人が返した最初の時間を見ます。

返信時間の区切りは、次の4つくらいが扱いやすいです。

  • 15分以内
  • 1時間以内
  • 当日中
  • 翌日以降

区切りを細かくしすぎると、1つあたりの件数が減って、後で書く件数の壁にぶつかります。最初は「当日中に返した群」と「翌日以降の群」の2つだけでも十分です。

見る数字は、来館率と成約率を分ける

返信の速さが直接効くのは、問い合わせから来館までの段階です。来館した後の成約率は、見学のときの接客と見積もりで決まる部分が大きく、返信の速さはほとんど関わりません。

だから、成約率で比べず、まず来館率(問い合わせ件数に対する来館件数)で比べます。成約まで一気に見ると、来館後の接客の差が混ざって、返信速度の効果が薄まります。来館までで切って見る。そのうえで、来館した組の成約率が速い群と遅い群で違うか、確認のために別に見ます。違わなければ、速さは来館の入口で効いているだけです。

もう1つ、見ておきたい数字があります。返信までの時間の中央値と、24時間を超えた問い合わせの割合です。平均は、深夜や休業日をまたいだ数件の長い待ち時間に引っ張られます。中央値と、24時間超の割合を並べると、現場の実感に近い形になります。

件数の壁。差が10ポイントなら各群で約390件

仮の式場を置きます。

  • 問い合わせは月120件
  • そのうち84件は当日中に返信できている(速い群)
  • 残り36件は翌日以降の返信(遅い群)
  • 来館率は、速い群が55%、遅い群が45%だった

差は10ポイントあります。月間のデータでこの差が見えたとして、本当に差があると言えるでしょうか。

来館率には、偶然のゆらぎがあります。速い群の来館率55%(84件)の幅は、約±10.6ポイントです。遅い群の45%(36件)は約±16.3ポイント。2つの差の10ポイントに対する幅は、約±19.4ポイントです。幅が差の2倍近くあるので、1か月分では、偶然の範囲に収まります。

半年分をためると、速い群が504件、遅い群が216件になります。差の幅は約±7.9ポイントまで縮みます。差10ポイントが、幅を超えて見え始める件数です。

一般的な計算(有意水準5%、検出力80%、来館率50%付近)では、10ポイントの差を確かめるのに、各群で約390件が要ります。この仮の式場で遅い群は月36件なので、約11か月です。

つまり、月120件規模の式場が、返信の速さと来館率の関係を自社の数字で確かめようとすると、半年から1年のデータがほぼ必須です。1か月の数字を見て「速い方がいい」と判断すると、翌月に逆転した数字を見て同じ強さで逆の判断をしかねません。前の記事で書いた成約率の月次のゆらぎと、同じ構造です。

層別して、混ざりをほどく

件数がたまったら、全体で1回比べるだけで終わらせず、混ざりの原因ごとに分けて比べます。

分け方は3つあります。

  • 時間帯別:営業時間内に届いた問い合わせだけで、速い群と遅い群を比べる。こちらの事情による遅れが外れて、熱量の差に近づく
  • 経路別:公式サイトのフォームとポータルサイトを別々に見る。ポータルは複数の式場に同時に送る人が多く、返信の速さが比較の対象になりやすい経路です。フォームは、すでに候補に入っている人が多いはずです
  • 曜日別:土日は来館枠が埋まっていて返信が遅れやすい。平日だけで比べる

分けるほど1つあたりの件数が減るので、全部の軸で分けようとしないことです。最初に分けるなら、営業時間内かどうかの1軸です。ここで差が消えるなら、全体で見えていた差は、時間帯の偏りだったことになります。差が残るなら、速さの効果の候補として、次の施策に使えます。

速さと中身は別の変数

もう1つ、速さだけを見ると取りこぼす変数があります。返信の中身です。

15分で返した返信が「ご連絡ありがとうございます。担当より改めてご連絡します」だけなら、新郎新婦にとっては自動返信とほとんど変わりません。逆に、翌朝の返信でも、希望日の空き状況と料金の目安、来館できる時間帯の候補が入っていれば、そのまま来館予約に進めます。

シートに「初回返信で日程の候補を出したか」の列を1つ足すと、速さと中身を分けて見られます。速い群の中でも、日程の候補を出した返信と出さなかった返信で来館率が違うなら、効いているのは速さより中身かもしれません。そうなら、人を増やして速さを追う前に、テンプレートを直すほうが先です。

差が見えたら、粗利にするといくらか

ここから先も仮の数字です。

  • 問い合わせは月120件
  • 返信が遅い群は30%(36件)
  • 遅い群の来館率を、速い群に近づけて10ポイント上げられたとする
  • 来館後の成約率は30%
  • 1組あたりの粗利は100万円(仮置き)

増える来館は、120件×30%×10ポイントで月3.6組です。成約率30%をかけると、成約は月1.08組、粗利は約108万円になります。年にすると約1,300万円です。

返信の運用を変えるコストは、夜間の自動返信の文面を整えること、LINEやメールの通知を担当者に届く形にすること、休日の当番を決めることです。月108万円に見合うかどうかは、式場ごとに違います。ただ、この計算が示すのは、遅い群が全体の30%を占める式場では、その群の来館率を10ポイント動かす価値が小さくない、ということです。

逆に、遅い群がもともと全体の5%しかない式場は、同じ10ポイントでも月0.6組、粗利18万円にしかなりません。どの式場にも効く打ち手ではなく、遅い群の大きさによって価値が変わる打ち手です。まず測るのは、遅い群が全体の何%かです。これは半年待たなくても、今月のデータで分かります。

今月からできる、軽い測り方

半年待つ前にできることがあります。

  1. 今月の問い合わせを、返信までの時間で並べる。中央値と、24時間超の割合を出す
  2. 24時間超の問い合わせが、時間帯で偏っていないか見る。夜と週末に集中しているなら、運用の穴は人の数ではなく、当番の決め方にあります
  3. 返信が遅れた問い合わせの、遅れた理由を3つか4つに分類して、件数を数える。担当者の不在、来館対応中、内容の確認待ちなどです

3つ目は、効果を測る前に直せます。確認待ちで遅れる問い合わせは、確認が要る項目(日程の空き、料金の目安)をあらかじめテンプレートにしておくだけで減ります。これは来館率の差が証明されていなくても、やって損はない整理です。

それから、返信速度を上げる施策を入れたら、入れた日をシートに書いておきます。前後の半年を比べるときの区切りになります。施策と同時に広告費やキャンペーンも動いていると、どちらが効いたのか分からなくなるので、同じ時期に他の大きな変更を重ねないほうが後で読めます。

まとめ

  • 返信が速い群の来館率が高くても、熱量の高い人が早く連絡してくる偏りと、営業時間内に届いた偏りが混ざっている。速さの効果とは言い切れない
  • 記録は、受信日時・人による初回返信日時・経路・来館・成約の5項目。自動返信は除く
  • 比べるのは、成約率ではなく来館率。返信の速さが直接効くのは、問い合わせから来館までの段階
  • 仮の式場(月120件、速い群55%、遅い群45%)では、1か月のデータだと差の幅が約±19ポイント。10ポイントの差を確かめるには各群で約390件が要り、遅い群が月36件なら約11か月かかる
  • 件数がたまったら、まず営業時間内かどうかで層別する。差が残れば、速さの効果の候補になる
  • 遅い群が全体の30%なら、来館率10ポイント改善で月約108万円の粗利(仮置きの前提)。5%なら月18万円。まず遅い群が全体の何%かを測る
  • 半年待たなくても、中央値、24時間超の割合、遅れた理由の分類は今月のデータで出せる
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