引き出物を全員宅配にすると、仮の式場では事務が年79万円増える。ただ、重いのは送料の年768万円を誰が持つかだ
披露宴が終わって、ゲストが出口に並ぶ。両手に引き出物の紙袋を下げた人が、傘を持ち、上着を持ち、ご祝儀の控えを持って、エレベーターを待っている。新幹線で来た人は、その袋をもう一度、網棚に載せることになる。こういう光景を見て、「引き出物は宅配にしませんか」と二人に提案したくなる式場は多いと思います。
結論から書きます。引き出物を全員宅配にすると、仮の式場では、式場の側の事務が年79万円ほど増えます。ただ、この79万円は大きな問題ではありません。成約が年0.66組減るだけで消える程度の額で、成約率に直すと0.08ポイントです。本当に重いのは送料です。1組あたり3.2万円、年にして768万円。これを二人に請求するのか、式場が持つのか、その線引きで、宅配化の損益はほとんど決まります。
この記事の数字は、すべて僕が置いた仮のものです。調査の数字は1つも使っていません。年に何組を受けるか、招待客は何人か、送料はいくらか。自分の会場の数字に置き換えて使ってください。置き換える場所は、途中で書きます。
仮の式場の前提
まず数字をそろえます。
- 挙式披露宴は年240組
- 招待客は1組あたり50人
- 50人は、夫婦や家族でまとめると32世帯。宅配は世帯ごとに1個送る
- 年間の来場は800組。そのうち240組が契約する(成約率30%)
- 契約1組あたりの粗利は120万円
- 引き出物そのものの代金と、式場がそこから得る粗利は、持ち帰りでも宅配でも同じ。ここでは動かさない
動かすのは、次の4つです。
- 持ち帰りの場合:紙袋が1人150円。当日の袋詰めと受け渡しの準備が、スタッフ3時間ぶんで6,000円
- 宅配の場合:梱包と伝票の外注が1個400円。住所の集計や、届け先の確認などの事務が、スタッフ2時間ぶんで4,000円
- 送料は、1個1,000円とする
- 時給は2,000円で計算する
この前提だと、1組あたりの式場の手間と費用は、次のようになります。
- 持ち帰り:150円×50人+6,000円=13,500円
- 宅配:400円×32世帯+4,000円=16,800円(送料は別)
差は1組あたり3,300円。年240組なら79万2,000円です。これが「事務が年79万円増える」の中身です。
注意してほしいのは、宅配のほうが安くなる項目が、ここに入っていないことです。持ち帰りでは、袋を持って帰る人の人数分だけ、袋のコストが出ていきます。宅配は世帯でまとめるので、1個あたりの外注費は高くても、個数が32に減ります。この差が効いて、事務の増加が3,300円に収まっています。紙袋が1人300円で、袋詰めが5時間かかる式場なら、差はもっと小さいか、逆になるかもしれません。
送料の年768万円
次に、送料です。
1個1,000円で、32世帯なら1組あたり3万2,000円。年240組なら768万円です。事務の79万円と比べると、10倍近くあります。ここを見ずに宅配化を考えると、判断を外します。
送料の持ち方は、3つに分かれます。
- 二人が払う。見積もりに「引き出物宅配料」として載せる
- ゲストが払う。着払いにする。ただ、祝いの席の引き出物を着払いにする式場は、僕は見たことがありません。仮の話としても、選びにくい
- 式場が持つ。契約特典や標準サービスとして、送料を見積もりに入れない
2つめは現実的ではないので、1と3を比べます。
二人が払う場合
見積もりが3.2万円上がります。仮の式場の総額を340万円とすると、約0.9%の増加です。
この0.9%で、見積もりを見た二人の成約率が下がるかどうか。答えは、会場ごとに違うはずですし、僕は数字を持っていません。ただ、判断の目安は出せます。事務の79万円が消える分岐点は、さきほどの計算のとおり、成約が年0.66組減る点です。年間の来場800組に対して、成約率が0.08ポイント下がる点とも言えます。
0.08ポイントは、とても小さい差です。来場が800組の式場で、1組の成約が増えたか減ったかで、すでに0.125ポイント動きます。事務の増加だけを見るなら、二人に送料を請求しても、式場は困りません。
ただ、困るのは別の場所です。見積もりに載る項目が1行増えることです。見積もりの総額が上がること自体より、「聞いていなかった費用が出てきた」と二人が感じる瞬間のほうが、あとあと響きます。送料は、見積もりの段階から項目として載せて、いくらかかるのかを最初に言っておく必要があります。
式場が持つ場合
年768万円です。粗利が120万円なので、この768万円を取り戻すには、年6.4組の成約を上乗せしなければいけません。成約率にすると0.8ポイントです。
これは、「宅配無料」を打ち出すだけで、0.8ポイント成約率が上がるかどうか、という問いです。引き出物の宅配が決め手になって契約する二人が、来場800組のうち6.4組、つまり0.8%いるか。僕の感覚では、かなり高い壁です。引き出物は、会場を選ぶ理由として上位に来る項目ではないと思います。ただ、これも僕が根拠を持っている数字ではないので、自分の会場の契約理由のアンケートがあれば、そこで確かめるのが早いです。
つまり、送料を式場が持つのは、特典としてはかなり重い選択です。持つなら、全員ではなく、条件をつけるのが筋です。
遠方の人だけ宅配にする
全員を宅配にしない手があります。遠方から来るゲストだけを宅配にして、近くの人には持ち帰ってもらう方法です。
遠方の人は、荷物が増えることの負担が大きく、宅配にすると喜ばれやすい。近くの人は、車で来ることが多く、持ち帰りでも困らない。理屈は通ります。この方法で、費用がどう動くかを計算します。世帯の割合で、宅配にする割合を r とします。
| 宅配にする世帯の割合 | 式場の手間と費用(1組) | 送料(1組) | 送料を式場が持つ場合の年間 |
|---|---|---|---|
| 0%(全員持ち帰り) | 13,500円 | 0円 | 0円 |
| 10% | 約18,030円 | 3,200円 | 約77万円 |
| 20% | 約18,560円 | 6,400円 | 約154万円 |
| 30% | 約19,090円 | 9,600円 | 約230万円 |
| 50% | 約20,150円 | 16,000円 | 約384万円 |
| 100%(全員宅配) | 16,800円 | 32,000円 | 約768万円 |
表の10%から50%の行は、持ち帰りの手順(固定6,000円)と宅配の手順(固定4,000円)の両方を回す前提で計算しています。全員宅配の行だけは、持ち帰りの手順がなくなるので、固定が4,000円に戻って16,800円です。
ここに、意外な結論があります。宅配を一部だけにすると、事務の効率がいちばん悪くなります。0%が13,500円、100%が16,800円なのに、10%の時点で18,030円と、どちらの端よりも高い。手順が2本になるからです。
事務だけを見れば、「全員持ち帰り」か「全員宅配」のどちらかに寄せたほうが、手間は小さい。一部だけを宅配にすると、両方の手順を用意しなければいけないので、組の数が多いほど、現場の負担が増えます。
ただ、全員持ち帰りとの差は、10%で1組あたり約4,500円、50%でも約6,600円です。年240組で、108万円から159万円。決め手になる大きさではありません。手順が2本あることで、現場が混乱するほうが、金額より心配です。
数字で決まらない部分
ここまで計算して、僕が感じたことを書きます。引き出物の宅配化は、金額の大きい意思決定ではありません。事務の増加は年79万円で、送料を二人に請求すれば、式場の持ち出しは増えない。この計算が正しければ、「やるか、やらないか」は、損益ではほとんど決まりません。
決まるのは、次の2点です。
1つめは、二人にとっての当日の動線です。引き出物を手渡しする場合、出口の受け渡しに、ゲストが列を作ります。50人が受け取り終わるまで、何分かかるか。仮に1人20秒なら、約17分です。この17分が、披露宴のあとの見送りや、二次会への移動の時間を削っているなら、宅配にする意味があります。逆に、受け渡しが5分で終わる会場なら、宅配にする理由は弱くなります。
2つめは、住所を集める手間が、誰に乗るかです。宅配にすると、二人はゲスト全員の住所を、世帯ごとに確認しなければいけません。招待状の返信で住所を取る式場なら、手間は小さい。取っていない式場だと、二人に新しい作業が1つ増えます。この作業を式場が肩代わりするなら、事務の4,000円が膨らみます。
住所の回収率が下がった場合も、確かめておく価値があります。仮に、住所が分からない世帯が1割あって、その人たちには当日の持ち帰りで渡すとします。32世帯のうち3.2世帯は、持ち帰りの準備が必要です。宅配と持ち帰りの両方を用意することになり、さきほどの二重の事務が発生します。
忘れ物と再送
宅配にしても、持ち帰りの式場にとっても、同じ型の問題があります。引き出物の取り忘れです。
持ち帰りの式場では、2%のゲストが引き出物を受け取らずに帰ったとします。50人なら1人です。式場が預かって、あとで送り直すことになります。送料1,000円と梱包400円で、1回1,400円。年240組で、年33.6万円です。
宅配の式場では、この問題は起きません。当日に渡さないので、取り忘れる袋がそもそもないからです。ただ、宅配には別の再送があります。住所の誤りや、不在による返送です。これは、僕が数字を持っていません。再送が発生する率が、持ち帰りの取り忘れ率と同じくらいなら、金額は打ち消し合います。宅配化を検討する式場では、まず過去の取り忘れの件数を、受付の記録から数えるところから始めるのが堅いと思います。
判断の順番
自分の会場で決めるときは、次の順番で見ます。
- 持ち帰りの手間を数える。袋詰めと受け渡しに、スタッフが何時間かけているか。出口で何分かかっているか
- 宅配の事務を見積もる。外注の単価と、住所確認の事務の時間
- 事務の差を、年間の組数に掛ける。仮の式場では年79万円
- その差が、成約何組ぶんかを出す。粗利で割る。仮の式場では0.66組
- 送料の持ち方を決める。二人が払うなら、見積もりの項目に載せる。式場が持つなら、年の総額を粗利で割って、必要な成約の上乗せ組数を出す
- 持ち帰りの取り忘れの件数を、受付の記録で数える
最初の4つは、社内の数字だけで終わります。ここで事務の増加が成約1組以内なら、宅配化は損益の問題ではなく、運用の問題だと分かります。5つめで、式場が持つと決めたときだけ、送料の総額が効いてきます。そのとき、全員ではなく、遠方のゲストだけに条件をつけるかどうかを考えます。
見積もりの見せ方
最後に、宅配の送料を見積もりにどう載せるかを書きます。
送料が総額に入っていると、二人は「引き出物代が高い」と感じるかもしれません。引き出物の代金と送料を別の行にして、送料は「ゲストの世帯数×1個あたりの送料」と式を見せると、納得しやすくなると思います。世帯数は招待客数から決まるので、人数が変われば送料も変わる。この動き方が見えるほうが、後から増減したときに揉めません。
もう1つは、持ち帰りと宅配の差額を、最初から並べて見せることです。「持ち帰りなら0円、宅配なら3.2万円」と並べれば、二人は自分で選べます。式場が宅配を勧めたいなら、メリットを一緒に書くことになります。ゲストの荷物が減ること、出口で待たなくてよいこと、遠方の人が新幹線で持ち運ばなくてよいこと。ここまで書けば、3.2万円の説明として足ります。
宅配を標準にして、持ち帰りを選ぶ人から値引きをする形にすると、見積もりの印象が変わります。同じ金額でも、「宅配の送料が上乗せされた」ではなく、「持ち帰りにすると3.2万円安くなる」と見えます。ただ、これは見せ方の話で、式場の損益は変わりません。二人が持ち帰りを選ぶ割合が高ければ、送料の売上は減る代わりに、送料の持ち出しも減るので、損益のぶれは小さい。どの見せ方でも、損益の中心は、さきほど計算した79万円と768万円の2つです。
まとめ
- 仮の式場(年240組、招待客50人、32世帯)では、全員宅配にすると、式場の事務が年79万円増える。持ち帰りの1組13,500円に対して、宅配は16,800円
- 79万円は、成約が年0.66組減るだけで消える額。成約率に直すと0.08ポイントで、判断の中心にはならない
- 重いのは送料。1個1,000円なら1組3.2万円、年768万円。二人に請求するなら見積もりの0.9%、式場が持つなら年6.4組の成約上乗せが要る
- 「宅配無料」が決め手で契約する二人が、来場800組のうち6.4組いるかどうかが、式場が持つ場合の分かれ目
- 一部だけ宅配にすると、持ち帰りと宅配の手順が2本になって、事務が二重になる。全員持ち帰りか全員宅配に寄せるほうが、現場の手間は小さい
- 決め手になるのは金額より、出口の受け渡しにかかる時間と、住所を集める手間を誰が持つか
- 先に数えるのは、持ち帰りの取り忘れの件数と、出口で受け渡しにかかる分数
引き出物の宅配は、式場の費用ではなく、送料を誰が持つかの設計で決まります。
