料理の原価が10%上がると、60人の披露宴で1組4.6万円が消える。1人770円を転嫁しても、成約率が0.7ポイント落ちれば値上げのほうが損になる
食材の仕入れ値が上がったとき、婚礼料理の単価を上げるか、据え置くか。この判断は、値上げしたら成約率が落ちそうだという不安で止まりがちです。ただ、不安を数字にすると、答えはかなり絞れます。原価が10%上がった仮の式場では、1組あたり4.6万円が消えます。1人770円を価格に載せれば元に戻りますが、その代わりに成約率が0.7ポイント落ちると、載せなかった場合より年間の粗利が減ります。
この記事は、その0.7ポイントという「落ちてもいい幅」を、原価が上がった幅と披露宴の人数ごとに出すための計算です。
先に断っておくと、原価率や1人あたりの単価、料理以外の粗利は、僕が置いた仮の数字です。実在する数字として使ったのは、ゼクシィの解説記事にある料理と飲み物の費用、サービス料の目安、リクルートブライダル総研の調査にある招待客数と総額だけです。自分の会場の数字に置き換えて使ってください。
実在する数字は、料理と飲み物の単価の目安
ゼクシィの解説記事(ゼクシィトレンド調査2020をもとにしたもの)では、料理と飲み物を合わせたゲスト1人あたりの平均が1万9,300円です。内訳は、料理が1万5,600円、ドリンクが4,100円。飲食代にはサービス料が別に10〜15%ほど加算されることが多い、とも書かれています。
古い調査なので、いまの会場の単価とは違うはずです。ここでは「1人2万円前後」という桁の目安にだけ使います。
招待客数のほうは、ゼクシィ結婚トレンド調査2024で、披露宴の招待客の平均が52.0人です。挙式を含めた総額の平均は343.9万円でした。この総額は調査の対象が年によって変わっているので、前年との比較には使えません(この点は、結婚式の総額が343.9万円から298.6万円に減った、と読んではいけない、という記事に書いたとおりです)。ただ、「総額が300万円台の披露宴で、料理の値上げがどれくらいの割合になるか」を測る物差しとしては使えます。
仮の式場を置く
計算のために、次のような式場を置きます。すべて仮の数字です。
- 年間の成約は120組、見学に来る組は年340組(成約率は約35%)
- 披露宴の人数は60人
- 料理と飲み物の販売単価は、1人2万2,000円
- 料理と飲み物の原価率は35%。原価は1人7,700円、粗利は1人1万4,300円
- 料理以外で、1組が式場に残す粗利は140万円
1組あたりの料理の粗利は、1万4,300円×60人で85.8万円。料理以外の140万円とあわせて、1組の粗利は225.8万円になります。年120組なら、粗利の合計は約2億7,100万円です。
原価が上がると、1組から消える金額
食材の仕入れ値が上がって、料理と飲み物の原価が5%、10%、15%上がったとします。販売単価は据え置きです。
| 原価の上昇 | 原価率 | 1人あたりの減収 | 60人の1組あたり | 年120組 |
|---|---|---|---|---|
| 5% | 36.8% | 385円 | 2.3万円 | 277万円 |
| 10% | 38.5% | 770円 | 4.6万円 | 554万円 |
| 15% | 40.3% | 1,155円 | 6.9万円 | 832万円 |
原価が10%上がっても、原価率は35%から38.5%に動くだけです。見積もりを見る新郎新婦にとっては、変化を感じる額ではありません。ところが式場の側では、年554万円の粗利が静かに消えています。
しかも、この554万円は、成約が1組も減っていない状態での話です。何もしないだけで、年間の粗利の2%が落ちる。件数が5%減ると利益がほぼゼロになる式場(固定費の重い式場の感応度の記事)にとっては、無視できない額です。
値上げで取り戻す条件
原価が上がった分を、そのまま販売単価に上乗せしたとします。10%の上昇なら、1人770円。60人の披露宴で4.6万円で、1組の粗利は元の225.8万円に戻ります。
では、値上げした結果、成約が何組減ったら、値上げしないほうが得だったことになるか。比べる相手は「据え置いて、原価の上昇を飲み込んだ場合」の年間粗利です。
- 据え置きの場合の1組の粗利:225.8万円−4.6万円=221.2万円。年120組で約2億6,544万円
- 値上げした場合の1組の粗利:225.8万円。同じ粗利の合計になる成約数は、2億6,544万円÷225.8万円=約117.5組
つまり、値上げして成約が2.5組減る(120組から117.5組)と、据え置きと同じ粗利になります。見学が340組なら、成約率の落ち幅にして0.72ポイント。35%が34.3%になったら、値上げは引き分けです。
上昇幅と人数ごとに、この「落ちてもいい幅」を並べます。全額を転嫁した場合です。
| 原価の上昇 | 40人 | 60人 | 80人 |
|---|---|---|---|
| 5% | 0.28pt | 0.36pt | 0.43pt |
| 10% | 0.55pt | 0.72pt | 0.85pt |
| 15% | 0.83pt | 1.08pt | 1.28pt |
どのマスも1ポイント前後か、それより小さいです。値上げの余地は、思っているよりずっと薄い。そして人数の少ない披露宴ほど、落ちてもいい幅はさらに狭くなります。少人数婚が中心の会場は、料理の値上げに見合う成約率の余裕が少ないということです。
その0.7ポイントは、数字では見えない
0.72ポイントの成約率低下を、月次の数字で見分けられるか。ここが、この計算のいちばん厄介なところです。
別の記事で、月次の成約率は±11ポイント揺れうるという仮の計算をしました。月に20組ほどしか見学が来ない会場で成約率を測ると、偶然だけでこれくらい動きます。0.7ポイントの変化は、その揺れの中に埋もれます。
年間で見ても、340組を母数にした成約率の標準的なぶれは、約2.6ポイントあります(成約率35%、母数340で計算)。0.72ポイントは、その3分の1以下です。値上げの前後で成約率を比べても、効いたのか効かなかったのか、1年では判定できません。
ここから分かるのは、「値上げして成約率が落ちたかどうかを見て決める」やり方は、料理の単価のように小さな値上げでは成り立たない、ということです。判断は、事後の成約率ではなく、事前の条件で決めておく必要があります。
半額転嫁にすると、落ちてもいい幅はもっと狭い
全額を転嫁せず、半分だけ上げる選択肢もあります。原価10%上昇に対して、1人385円の値上げです。
この場合は、据え置きに対する増分が半分になるので、成約が減って引き分けになる幅も半分になります。
- 原価10%上昇、半額転嫁:成約が1.2組減ると引き分け。成約率にして0.36ポイント
- 原価5%上昇、半額転嫁:0.6組、0.18ポイント
- 原価15%上昇、半額転嫁:1.9組、0.55ポイント
半額なら失うものも半分、という見方もできます。ただ、値上げの効果が小さい分、成約への悪影響がほんの少しでもあれば、すぐ据え置きより損になります。全額転嫁よりも「ほぼ効かないけれど、ほぼ害もない」という中途半端な状態になりやすいです。
僕の見方では、料理の値上げは、やるなら全額か、やらないかのどちらかです。半額だけ上げて、残りの半分は自分で飲み込む設計は、見た目は穏やかでも、計算上は何も解決しません。
値上げが効き始めるのは、契約の10か月後から
もう一つ、見落とされやすい数字があります。値上げが粗利に効くのが、いつからか。
婚礼の料理の価格は、契約したときの見積もりで決まります。値上げできるのは、これから契約する組だけです。すでに契約済みで、これから式を挙げる組には、原価が上がっても追加で請求できません。
契約から挙式まで10か月(仮)の式場で、年120組を月10組ずつ施行しているとします。ある月に値上げを始めたとき、その年に挙式する120組のうち、新しい価格の組は、最初の10か月は1組もいません。11か月目から入ってきます。1年目の施行120組のうち、旧価格のまま式を挙げる組は約100組。原価が10%上がっていれば、1年目に飲み込む額は、100組×4.6万円で約462万円です。
つまり、値上げをするかどうかにかかわらず、原価が上がった最初の1年は、約460万円が確定で消えます。値上げで取り返せるのは、その先の話です。
だから、原価が上がったと気づいた月に、すぐ決めるのが大事です。1か月迷えば、1か月分の契約(10組)が旧価格のまま、10か月先の挙式まで固定されます。10組×4.6万円で46万円。「もう少し様子を見る」は、タダではないということです。
ただし、ここでも成約率の判定は難しい。値上げの効果が見えるまでに時間がかかり、効果が見えたころには、次の原価上昇が来ています。
調整する場所は、単価だけではない
原価が上がったときの手は、単価の値上げだけではありません。主なものは次の3つで、計算の考え方はどれも同じです。
1つ目は、料理の内容を調整して、原価を元に戻すこと。1人770円分の原価を削れば、粗利は元に戻ります。ただしこの場合も、中身が変わったことで成約率や満足度が落ちるリスクは残ります。値上げの0.7ポイントと同じ種類のコストです。値上げと違うのは、新郎新婦には価格ではなく中身で見えること。見積もりの総額は変わらないので、比較される場面では強い。その代わり、実際の料理を見て決める試食の席で、評価が落ちる可能性があります。
2つ目は、人数が増えるプランや、ランクが上のコースに誘導すること。ここでは原価の上昇と関係なく、1人あたりの粗利が大きい商品の構成比を上げます。ただ、これは成約率の話ではなく、客単価と構成比の話なので、この記事の計算には入れていません。
3つ目は、サービス料率を調整すること。飲食代に10〜15%加算されるサービス料は、原価がかからない粗利に近い収入です。料理の単価を770円上げるより、サービス料率を1ポイント上げるほうが、見積もりの見え方が穏やかな場合があります。もっとも、サービス料は「込み」か「別」かで見積もりの総額の見え方が変わるので、同じ会場の中でも他の項目との整合を取る必要があります。
総額に対する割合で見ると、どう映るか
全額転嫁の10%上昇では、60人の披露宴で4.6万円の追加です。ゼクシィ結婚トレンド調査2024の総額343.9万円に対して、1.3%。見積もりの総額が300万円の披露宴でも、1.5%です。
見学に来た新郎新婦が、他の会場の見積もりと並べて比べるとき、1.3%の差は、人数や日取りの違いに紛れます。だから、僕は料理の値上げが成約率に響くとは、あまり思っていません。ただしこれは、僕の見方です。実際の数字は、会場ごとに違います。この記事の計算が言っているのは、響かない可能性が高くても、響いたときの損益分岐が0.7ポイントしかない、ということです。
判断のしかた:事前に決める3つの条件
事後の成約率で判定できない以上、値上げするかどうかは、事前に3つの条件で決めておくのが現実的です。
- 1つ目は、原価の上昇幅が、回収できる範囲に収まっているか。上昇が5%以内なら、年の粗利で飲み込める会場も多いです。15%を超えると、飲み込める余裕はまずありません
- 2つ目は、他の会場との価格差。同じ価格帯の会場が値上げを始めているなら、価格差が開きにくいので、比較の場面で目立ちにくいはずです。逆に、自社だけが値上げすると、見積もりの比較で数字が先に目につきます
- 3つ目は、値上げの対象の絞り方。全プラン一律ではなく、人数の多いプランや、料理のランクが高いコースだけを上げれば、新郎新婦の目に触れる総額の差は、さらに小さくなります
3つとも、「いつ見直すか」を先に決めておくことが前提です。四半期に1回、原価率を見て、上昇が一定を超えたら見積もりを改定する、と決めておけば、1か月迷うごとに46万円が消える状態を避けられます。
まとめ
- 原価率35%の仮の式場で、料理の原価が10%上がると、60人の披露宴で1組4.6万円、年120組で約554万円の粗利が消える
- 全額転嫁(1人770円)の値上げは、成約率が0.72ポイント落ちると、据え置きより損になる。40人では0.55ポイント、80人では0.85ポイントが分岐点
- その幅は、月次や年次の成約率の揺れより小さく、値上げの前後で比べても効果は判定できない
- 半額転嫁は、失う幅も狭いが得る幅も小さく、計算上は中途半端になりやすい
- 契約から挙式まで10か月(仮)の式場では、値上げしても1年目の挙式約100組は旧価格のまま。確定で消える約462万円は、値上げでは防げない
- 事後の成約率で決められない以上、原価の上昇幅・近隣の価格・値上げの対象を事前に決め、見直す時期を四半期ごとに置いておく
