契約当日に初回打合せの日付まで決めておく手間は、仮の式場で年21万円。契約後の解約が年0.4組減れば元が取れる。契約から打合せまでの空白は、日程の確定で埋まる
契約書にサインをした日の夜、二人は何を考えているか。僕が現場で見てきた範囲では、半分くらいは「決めた」という高揚で、残りの半分は「本当にここでよかったのかな」という小さな不安です。そして、契約の翌日から初回の打合せまで、式場からは何も来ない。この空白が、2週間、3週間と続く会場は少なくありません。
先に結論を言います。契約を結んだその日に、初回打合せの日付まで確定させたほうが得です。やることは、契約書の控えを渡す前に、打合せカレンダーを開いて、二人のスマホに予定を入れるところまで終わらせるだけです。ただし、これで契約後の解約がどれだけ減るかを調べた公開データは、探しても見つかりませんでした。なので、この記事の数字は全部仮置きの前提です。仮の式場で、解約が年に何組減れば元が取れるかを計算し、自分の会場で数える手順まで書きます。
契約から初回打合せまでの空白に、何が起きているか
契約後の流れを、ふつうの会場で並べると次のようになります。
- 契約当日:契約書を交わし、内金を受け取る
- 数日後:担当者が替わる会場では、契約後担当への引き継ぎが走る
- 1〜3週間後:契約後担当から「初回のお打合せの日程はいつがよろしいでしょうか」と連絡が来る
- 日程の調整:二人の休みと、会場の打合せ枠を合わせる
- 初回の打合せ
このうち、二人が何も受け取らないのは、2と3の間です。二人にとっては、契約の高揚が冷めていく期間にあたります。
契約の直後に不安が出るのは、特別なことではありません。数百万円の買い物をした直後は、どんな買い手も「もっと見ておけばよかったかも」と考えます。他社のフェアの案内メールは届くし、SNSには他の会場の写真が流れてくる。ここで式場から何も来ないと、二人の頭の中で「自分たちが選んだ会場」の存在感だけが小さくなります。
これは僕の見立てで、数字で確かめたものではありません。ただ、仕組みとしては筋が通っていると思っています。契約後の解約は、不満が積み上がって起きる場合もありますが、「なんとなく不安なまま時間が過ぎた」ことが引き金になる場合もある。後者は、会場が連絡を入れる頻度で変えられます。
日程を決めると、空白は2つ消える
契約当日に初回の日付まで決めると、空白は2つの意味で消えます。
ひとつは、日数としての空白です。連絡待ちの2〜3週間が、「あと何日で打合せ」という予定に変わります。二人のカレンダーに日付が入ると、会場との次の接点が見える状態になります。見えている接点があるだけで、「放置されている」という感覚は薄れます。
もうひとつは、事務としての空白です。契約後担当が日程の調整から入る必要がなくなります。契約後担当への引き継ぎの時点で、初回の日付が決まっている。引き継ぎ書に「初回打合せ:11月3日10時」と書いてある状態です。調整のメールや電話が1往復から2往復分、減ります。
ここで見落としやすいのは、日程を決める相手が、契約の場にいる二人だということです。その場の二人は、スマホを開いて予定を確認できます。後日の連絡では、返信が3日遅れ、再調整で1週間遅れる、ということが普通に起きます。契約の場は、二人の予定を最もよく確認できるタイミングです。
仮のモデル計算:手間と、元が取れる解約の数
数字で見ます。ここから先は全部、僕が置いた仮の前提です。実際の会場の数字ではありません。
前提は次のとおりです。
- 年間の契約が200組
- 契約当日に日付を確定する手間が1組あたり10分(打合せカレンダーを開いて、候補日を出して、二人のスマホに入れる)
- 初回の日までの間に、確認の連絡を1通入れる手間が1組あたり15分
- 手間は時給換算で2,500円
- 契約後に解約になった1組あたりの損失が、解約料を受け取ったあとで50万円(この数字は完全に仮置きで、会場によってまるで違います)
手間の合計は、200組 × 25分 ÷ 60分 × 2,500円で、約20.8万円です。年で21万円ほどです。
これを元が取れる解約の数に直すと、20.8万円 ÷ 50万円で、0.42組です。つまり、日付を確定することで、契約後の解約が年に0.42組減れば、手間の分は回収できます。200組のうち、0.2%にあたります。
解約が年に6組出る会場(3%)を考えると、そのうち0.42組、つまり7%が止まれば足りる計算です。年に1組止まれば、収支は約30万円のプラスになります(1組50万円 × 1 − 手間21万円)。2組止まれば約80万円です。
損失額を変えると、分かれ目は動きます。1組あたりの損失が20万円の会場では、元が取れる解約は1.04組です。同じ手間で、必要な解約の減り方が2.5倍になります。逆に、解約料の取り決めが弱くて損失が100万円の会場なら、0.21組で足ります。
つまり、この施策は「効くかどうか」よりも、「1組の解約でいくら失う会場か」で収支が決まります。解約料が高く、解約後に日取りがすぐ売り直せる会場では、効果があっても金額が小さくなります。人気日で売り直しが難しく、解約料の取りこぼしが多い会場では、同じ効果が大きな金額になります。
日程を先に決めることの副作用
得なことばかりではありません。副作用が3つあります。
1つめは、日程変更が増えることです。契約の場で決めた日は、あとから二人の仕事の都合で動くことがあります。変更の連絡が増えれば、そこで手間が出ます。目安として、決めた日の2割が動くと仮定すると、200組で40件。1件5分の再調整なら、年に約3時間です。時給2,500円なら約8,000円で、全体から見れば小さな額です。ただし、変更の連絡を「担当者に直接電話する」形にしておくと、1件あたりの手間が膨らみます。変更はフォームかLINEで受ける形にしておくほうが安全です。
2つめは、打合せ枠の確保です。契約当日に日付を出すには、その時点で打合せ枠が空いている必要があります。土日の枠が詰まっている会場では、2〜3週間先の枠しか出せず、結局「連絡待ち」と同じ日数になることがあります。この場合は、枠の不足が先に解く問題です。日付を決める運用の前に、平日夜や、契約後担当が動ける曜日の枠を増やす必要があります。
3つめは、二人にとっての圧です。契約したばかりの二人に「次はいつにしますか」と聞くのは、押しつけに聞こえる場合があります。伝え方は、「次の打合せまでに二人で話しておいていただきたいことが2つあります。そのために、先に日だけ押さえておきますね」のように、日付を決める理由を添える形が自然です。理由を言えない運用は、続きません。
日程の決め方を3通りに分ける
契約当日の日程確定には、やり方が3通りあると思っています。
- 日付まで確定する:二人のスマホに予定を入れて帰ってもらう
- 候補を2つ出して、48時間以内に返信をもらう:二人が持ち帰って確認する
- 日程は決めず、連絡を入れる日だけ決める:「3日後にこちらから連絡します」と伝える
僕は1を最初の候補にしますが、会場によっては3が向く場合もあります。
1が向くのは、打合せ枠に余裕があり、二人も契約の場でスマホを見られる会場です。2が向くのは、二人のどちらかがシフト勤務で、その場では予定が確定できないとき。3が向くのは、打合せ枠が不足していて、日付を約束すると守れなくなる会場です。
3は一番弱い形に見えますが、「連絡を入れる日」を約束するだけでも、放置されている感覚は消えます。約束した日に連絡を入れることが条件で、これが守れない会場は、3を選ぶと逆効果になります。
自分の会場で数える手順
この記事の数字は仮置きなので、自分の会場の数字で置き換える手順を書いておきます。必要なのは、過去1年分の契約の記録だけです。
- 契約日と、初回打合せの日を並べて、空白の日数を出す。平均だけでなく、一番長い上位2割の日数も見る
- 契約後に解約になった組を拾い、契約日から解約の連絡までの日数を出す
- 解約の連絡が、初回打合せの前に出た組と、あとに出た組に分ける
- 1組あたりの損失を、解約料を受け取ったあとの金額で出す(売り直せたかどうかも見る)
3で、解約の多くが「初回打合せの前」に集まっていれば、空白が引き金になっている可能性があります。ただし、数組しかないなら、偶然の揺れとの区別はつきません。年に解約が5組以下の会場では、効果を数字で確かめるのは難しいと思っておいたほうがいいです。その場合は、1年続けて、空白の日数が短くなったかだけを見ます。解約の数ではなく、空白の日数を成績にするということです。
判断の分かれ目
整理すると、分かれ目は次のとおりです。
- 契約後の解約が年に数組ある、かつ1組の損失が大きい会場:日程の確定は手間に見合う可能性が高い
- 打合せ枠が土日に詰まっている会場:先に枠を増やす。日付の確定はそのあと
- 解約が年にほとんど出ない会場:空白が長くても、収支への影響は小さい。優先順位は下げてよい
- 担当が替わる会場:引き継ぎ書に初回の日付を書く欄を作る。日付を決めても、引き継ぎで落ちれば意味がない
迷うときは、1か月だけ試す手があります。契約が15組あるなら、そのうち半分で日付を確定し、半分は従来どおりにして、空白の日数と、初回打合せ前の連絡の返信率を見ます。解約の数で比べるには数が足りませんが、返信率なら1か月でも差が見えます。
まとめ
- 契約から初回打合せまでの空白は、二人にとって「放置されている」と感じやすい期間になる
- 契約当日に初回打合せの日付まで決めると、日数の空白と、日程調整の事務の両方が減る
- 年200組の仮の式場で、手間は年21万円。解約が年0.42組減れば元が取れる
- 収支は、効果の大きさより、1組の解約で失う金額で決まる。損失が20万円なら1.04組、100万円なら0.21組が分かれ目
- 副作用は、日程変更の増加、打合せ枠の不足、二人への圧。理由を添えて伝え、変更はフォームかLINEで受ける
- 枠が足りない会場は、日付の確定より先に枠を増やす。確定できないなら「連絡を入れる日」だけ約束する
- 自分の会場では、契約日と初回打合せの日の空白を出し、解約が初回の前に集まっているかを見る。解約が年5組以下なら、成績は空白の日数で測る
