来館・成約

契約後に見積もりが平均16%増える仮の式場で、初回見積もりに「最初から入れる項目」を決める線引き

初回見積もりは、最低限の構成で出すのが普通だと思われています。安く見えるほうが契約してもらいやすい、という理由です。

ただ、最低限で出した見積もりは、契約のあとでほぼ確実に上がります。親族の衣装、ケーキ、映像のように、ほとんどの組が足すものが入っていないからです。契約前の300万円と、契約後の350万円。この差を、新郎新婦がどう受け止めるかが、この記事のテーマです。

先に言っておくと、全国の増額率を示す調査は、僕が探した範囲では見つかっていません。体験談や相談記事はたくさんありますが、割合は出ていません。なので数字は、仮の式場を置いたモデル計算です。項目の金額も追加率も、僕が置いた想定です。自分の会場の数字に置き換えて使ってください。

仮の式場の前提

初回見積もりは300万円。料理、会場費、基本の衣装、最低ランクの装花など、最低限の構成です。

契約後に追加される項目と、追加する組の割合を、次のように置きます。すべて想定です。

項目 追加額 追加する組の割合
親族の衣装・小物 15万円 80%
ケーキ・演出 3万円 70%
映像 25万円 50%
料理のグレードアップ 20万円 40%
人数増(5人) 11万円 50%
装花のグレードアップ 15万円 50%

追加額に割合を掛けて足すと、1組あたりの期待増額は47.6万円です。300万円に対して約16%になります。最終の総額は平均で347.6万円という計算です。

平均だけを見ると、ありそうな数字に見えます。問題は平均の下にある、組ごとのばらつきです。

平均の下にあるばらつき

6項目をそれぞれの割合で追加するとして、10万組をシミュレーションしました。1組ごとに、どの項目を足すかをくじ引きで決めています。

  • 増額が18万円以下の組が、下位10%
  • 中央値は48万円
  • 74万円以上増える組が、上位10%
  • 30万円以上増える組は約8割
  • 60万円以上増える組は約3割

平均は47.6万円でも、74万円増える組がいます。300万円で契約して、374万円の請求書を見る組です。この組にとっての増額は、約25%です。

ここで効いてくるのが、新郎新婦の側の受け取り方です。初回見積もりは、新郎新婦にとっては予算の基準点になります。基準点から2割5分上がったとき、人は項目ごとの内訳より先に「聞いていた話と違う」と感じます。追加した本人が選んだ項目であっても、です。

僕は、ここが契約後の関係を左右すると考えています。増額そのものより、増額が「予告されていたか」のほうが効く、という見立てです。これは検証した数字ではなく、仕組みからの推測です。

最初から入れる項目の線引き

見積もりの項目を、追加する組の割合で3つに分けます。

  • ほぼ全員が足す項目(目安は7割以上)
  • 組によって分かれる項目(3割から7割)
  • 少数だけが足す項目(3割未満)

仮の式場では、親族の衣装・小物(80%)とケーキ・演出(70%)が一番上に入ります。合計18万円です。

この2つを最初から初回見積もりに入れると、初回見積もりは318万円になります。見た目の金額は6%上がります。

残る追加は、映像、料理、人数、装花の4項目です。同じようにシミュレーションすると、次のようになります。

  • 期待増額は33.5万円(318万円に対して約10.5%)
  • 56万円以上増える組が、上位10%
  • 30万円以上増える組は約6割
  • 60万円以上増える組は約1割

最終の期待総額は、およそ351万円です。入れ替える前の347.6万円より少し高いのは、親族衣装やケーキを足さなかったはずの組にも、最初から入れてしまうからです。ここは正直にコストとして見ます。ただし、その分の差は4万円ほどです。

線引きの効果は、期待値よりも、上振れの大きさに出ます。60万円以上増える組が3割から1割に減り、増額が25%に届く組はほとんどいなくなります。

見た目が6%高くなる代償

もちろん、初回の見積もりが300万円から318万円になれば、比較検討の段階で不利になります。ポータルサイトで金額を並べて見られる場合は特にそうです。ここを無視した提案は、現場では通りません。

そこで、元が取れる境目を計算します。年間の成約が100組、契約後のキャンセルが現状3%の式場を置きます。ここでキャンセルが3%と置いたのも想定です。

初回見積もりに最初から入れる構成にして、増額の不信が減り、契約後のキャンセルが3%から1.5%に下がったとします。実際に下がるかどうかは、やってみないと分かりません。ここでは、下がった場合の境目だけを見ます。

  • 現状:100組が成約し、97組が残る
  • 変更後:成約が100組から減り、キャンセルが1.5%だと、残る割合は98.5%

97組と同じだけ残すには、成約が約1.5%減るところまでは耐えられる計算です。100組なら1.5組です。

成約が1.5%減る、というのは、見た目が6%高くなったことの代償としては小さく見えます。逆に言えば、キャンセル率が下がらなければ、この変更は成約が減っただけで終わります。

つまり、この線引きは、キャンセルが減ることを前提にした賭けです。賭けとして成り立つかどうかを、導入前に確かめる方法を次に整理します。

導入前に確かめる3つのこと

1つ目は、自分の会場の追加率です。過去1〜2年の契約について、初回見積もりと最終請求の差を項目ごとに出します。表計算で十分です。見るのは、項目ごとに何組が追加したか。「ほぼ全員が足す項目」が1つもなければ、この線引きは意味がありません。

2つ目は、契約後のキャンセルの理由です。理由の欄に、金額への不満、見積もりと違う、という記述がどれだけあるか。ゼロに近ければ、増額はキャンセルの原因になっていない可能性が高く、賭けの前提が崩れます。

3つ目は、比較検討の場面で金額がどう見られるか。ポータルや公式サイトに「料金の目安」を出している場合、初回見積もりの金額はそこと食い違わないようにします。見積もりの中身を変えるなら、目安の書き方も変える必要があります。

3つとも、新しい施策を打つ前に、手元のデータでできます。

項目を入れる以外の選択肢

線引きの考え方は、見積もりを高く見せないままでも使えます。

たとえば、初回見積もりは最低構成のまま出して、見積書の末尾に「多くの方が追加する項目」と「追加した場合の合計」を載せる方法です。見た目の金額は300万円のまま、見える範囲に318万円や350万円を置きます。契約前に増額の幅が見えているので、契約後の「聞いていない」は起きにくくなります。

この方法の弱点は、見積書が長く複雑になることです。比較検討の場面で、他社の見積書と並べられたとき、末尾の注記まで読んでもらえる保証はありません。最初の金額だけが拾われるなら、最低構成のまま出す方法と変わらなくなります。

どちらを選ぶかは、自分の会場が価格で比較される場面が多いか、説明を聞いてから決める組が多いかで変わります。前者なら注記方式、後者なら項目を入れる方式が合うと考えています。ここは断定できません。

追加率が見えにくい理由

自分の会場の追加率を出そうとすると、意外と出せないことがあります。見積書がPDFや紙で残っているだけで、項目ごとのデータになっていないからです。最終請求の側も、契約後に変更が何度か入ると、どれが初回からの追加でどれが差し替えなのか、追いにくくなります。

出し方は、手作業で十分です。直近の契約から50組ほどを選び、初回見積もりと最終請求を並べて、項目ごとに有無を書いていきます。1組15分としても、半日で終わる量です。50組あれば、追加率が7割のものと5割のものを見分けるくらいはできます。逆に、10組や20組では、割合がぶれすぎて線引きに使えません。

もう1つ、気をつけたいのは、プランナーによる違いです。同じ会場でも、親族の衣装を初回の打合せで必ず確認するプランナーと、後回しにするプランナーがいます。前者の担当では追加率が低く出て、後者では高く出ます。会場全体の平均で線を引くと、前者の担当にとっては、最初から入れる項目が実際より多くなります。

担当ごとの差が大きいときは、見積もりの形を変える前に、確認の順番を揃えるほうが先かもしれません。初回の打合せで必ず聞く項目を決めておけば、追加率のばらつきが小さくなり、線引きも安定します。

説明のタイミング

項目を最初から入れる場合でも、入れない場合でも、新郎新婦への説明のタイミングは同じです。見積書を渡すときに、増額の幅を口頭でも伝えます。

伝え方の例を、僕なりに書いておきます。

「この見積もりは最低限の構成です。ご契約後にみなさん、親族のお衣装やケーキなどを足されます。大体、これくらいの金額になる方が多いです」

言い回しは会場ごとに違ってかまいません。大事なのは、金額の幅を、契約の前に言葉にしておくことです。契約後に、新郎新婦が自分で気づくのと、契約前に聞いていたのとでは、同じ金額でも受け取り方が違うはずです。

ただし、ここで言う「大体これくらい」は、実際のデータにもとづいていなければ意味がありません。根拠のない数字を口にすると、増額が予告より大きかったときに、かえって不信を強くします。先ほどの50組の手作業は、この一言のためでもあります。

線引きの手順

実際に決めるときの手順です。

  1. 過去の契約について、項目ごとの追加率を出す
  2. 追加率が7割以上の項目を候補にする。金額が小さくても、追加率が高いなら入れる意味がある。予告の効果は金額ではなく件数で効くため
  3. 候補を入れた初回見積もりの合計を出し、現状との差を確認する
  4. 成約とキャンセルの現状の数字から、上の計算と同じ形で、耐えられる成約の減少幅を出す
  5. 小さく試す。たとえば、特定の曜日や特定のフェア経由だけ新しい見積もりで出し、半年後に結果を見る

5番目の試験は、短い期間では結論が出ません。契約からキャンセルが確定するまでに数か月かかるためです。ただ、試験をしないまま全面に変えると、悪くなったときに原因が分からなくなります。

まとめ

  • 最低構成の初回見積もりは、契約後に上がるのが普通で、仮の式場では平均16%増える
  • 平均より上振れの大きさが問題。仮の式場では、60万円以上増える組が約3割いる
  • 追加率が7割以上の項目を最初から入れると、上振れは約1割に減り、初回の見た目は6%上がる
  • 見た目の6%増は、契約後のキャンセルが3%から1.5%に下がるなら、成約が約1.5%減るところまで耐えられる
  • キャンセルが減らなければ成約が減っただけになるので、先に追加率とキャンセル理由を手元のデータで確かめる
  • 見た目の金額を上げたくないなら、見積書に増額の幅を載せる方法もある