「今月末までの成約特典」を翌月も出し続けると、景表法の有利誤認になりうる。仮の式場で課徴金の上限は年1,000万円、直す手間は年12時間
ブライダルフェアの告知に「今月末までのご成約で30万円OFF」と書く式場は多いと思います。では、その特典を翌月も、翌々月も、同じ条件で出し続けているとしたら。
結論から書きます。表示した期限の後も同じ条件で売っているなら、景品表示法の有利誤認(第5条第2号)に当たるおそれがあります。課徴金は、違反した期間の対象売上の3%です。年120組が成約し、1組400万円の仮の式場で、特典付きの契約が全体の7割なら、課徴金の目安は1年分で約1,000万円になります。一方で、直す手間は、月1回の表示チェックを2人で30分ずつやって年12時間です。損失の大きさと直す手間が、ここまで釣り合っていません。
先に断っておくと、僕が調べた範囲では、結婚式場に出た措置命令は見つけられていません。ここから先は、他業種の命令を式場の表示に当てはめた整理です。数字のうち、法律の率と命令の内容は出典のあるもので、式場の売上や組数は僕が置いた仮のものです。個別の表示が違反かどうかは事実関係で決まるので、最後は弁護士に確かめてください。
2026年6月のゲオストアの命令
消費者庁は2026年6月11日付で、ゲオストアの「GEOオンラインストア」に措置命令を出しました。報道によると、問題になったのは、スマートフォンやタブレットの買い取りで「買取金額10%UPキャンペーン実施中!」と、期間限定で買い取り価格が上がるように見せた表示です。
表示していた期間は、2025年5月1日から6月8日まで。ところが、その期間が終わった後も、期間内と同じか、それより有利な条件で買い取っていたケースがあったとされています。しかも同年11月にかけて、XやWebサイトでも同様の表示が続いていました。
注目したいのは、キャンペーンの中身ではなく、期間が終わった後の実態を見られている点です。割引そのものは何も悪くありません。「期間限定」と書いた以上、期間が終わったら条件が戻っていなければならない、という構造です。
命令の内容は、違反の周知徹底、再発防止策の実施、今後同様の表示を行わないことでした。ゲオストアは、キャンペーン企画の見直しと、表示の審査・承認を含む管理体制の整備を進めるとしています。
2018年のSPRINGの命令との共通点
古い例も見ておきます。消費者庁は2018年3月2日、英会話教材を売るSPRINGに措置命令を出しました。サイトには「キャンペーン期間中に限り、通常価格2万9800円の商品を1万9800円で販売」と表示していました。実際には、期間に関係なく、初めてサイトを訪れた人には1万9800円以下で売っていたとされています。閲覧履歴から訪問回数を数え、閲覧初日から5日目以降の人にだけ2万9800円を見せる仕組みでした。
2つの命令に共通するのは、「いつもの条件」を「今だけの条件」に見せたことです。ゲオストアは期間が終わった後に、SPRINGは最初から、期限と実態がずれていました。
ここで景表法の3つの型を整理しておきます。消費者庁と公正取引委員会の令和7年度の運用状況(2026年6月25日公表)でも、表示事件は次の3つに分けて数えられています。
- 優良誤認(第5条第1号):品質や内容を実際より良く見せる
- 有利誤認(第5条第2号):価格などの取引条件を実際より有利に見せる
- おとり広告(第5条第3号):実際には用意していないものを示して誘う
フェアの特典の期限表示は、このうち有利誤認の話です。「先着5組」「残り2枠」のような数量の表示は、実際に5組で終えていなければ同じ問題になりますし、用意していない枠を示していればおとり広告の型にも近づきます。
式場の表示に当てはめる
式場の現場でよくある表示を、4つに分けて見てみます。判断の分かれ目は、書いた期限や数量の「後」に、同じ条件で売っているかどうかです。
| 表示 | 期限後の実態 | 有利誤認のおそれ |
|---|---|---|
| 「今月末までの成約で30万円OFF」 | 翌月に条件が戻る | 低い |
| 同上 | 翌月も同じ30万円OFFを出す | 高い |
| 「先着5組様限定の特典」 | 5組で受付を終える | 低い |
| 同上 | 6組目以降にも同じ特典を付ける | 高い |
迷いやすいのは、実態が毎回少しずつ違う場合です。たとえば、今月は「30万円OFF」で、来月は「25万円OFF+前撮り無料」にしている。条件を入れ替えて、見かけ上は毎月違うキャンペーンにしている形です。この場合、判断は「期限後も、お客さんにとって同程度に有利な条件で売っているか」で見ることになります。入れ替えているつもりでも、実質の値引き額がほぼ同じなら、「今月だけ」の言い方は危うくなります。
反対に、問題になりにくい書き方もあります。「毎月、成約特典があります。内容は月ごとに変わります」と書く形です。これは期限を売りにしていません。
もう1つ、見落としやすいのが過去の自分の告知です。公式サイト、フェアの予約ページ、InstagramやXの固定投稿、ポータルサイトの掲載文。期限を過ぎた告知が残っていて、そこに「今月末まで」と書いてある。ゲオストアの件でも、XやWebサイトの表示が11月まで残っていたと報じられています。期限付きの表示は、期限が来た日に消す作業までが1セットです。
仮の式場で課徴金の上限を計算する
法律の率から計算します。課徴金は、違反した期間の対象商品の売上額の3%です。10年以内に再び違反すると4.5%になります。条文では、対象期間は最長3年で、計算した額が150万円に満たないときは課徴金を命じない、という扱いです。2024年10月1日に、確約手続と、故意の有利誤認に対する直罰(100万円以下の罰金)が加わっています。
仮の式場を置きます。
- 年間の成約は120組、1組の売上は400万円。年間売上は4億8,000万円
- そのうち「期限付きの特典」が付いた契約が全体の7割(84組)
- 期限表示が実態とずれた状態が1年続いた
対象売上は 84組 × 400万円 = 3億3,600万円。3%で、課徴金の目安は1,008万円です。ずれが3年続けば、3年分で約3,000万円になります。特典の付く契約が3割なら432万円、すべての契約に付くなら1,440万円です。
ここで1つ、足りないものがあります。課徴金は、たまたま1組だけに特典を付けた程度では、150万円の線を越えません。売上5,000万円分、つまり1組400万円なら12.5組です。月に1組か2組の話なら、課徴金は命じられない計算になります。ただ、措置命令は課徴金と別に出ますし、命令は公表されます。ゲオストアの件のように、周知徹底と再発防止の公表が付いてきます。式場にとっては、口コミと信用の傷のほうが重いかもしれません。
では、特典の期限表示で、どれだけ成約が前倒しされるのか。粗利率を40%と仮置きすると、1組あたりの粗利は160万円です。課徴金1,008万円は、6.3組分の粗利にあたります。つまり、期限を言い続けて6組以上を余分に成約させたとしても、課徴金で全部消えます。実際には、期限を見て早く決めた人の大半は、期限がなくても契約した人でしょう。余分に取れた成約は6組もないはずです。
直す手間と、直し方の3つの型
直す手間を数えます。月1回の特典企画ごとに、表示の中身と掲載場所を2人で30分見る。年12回で、2人 × 0.5時間 × 12回 = 12時間です。時給2,500円とすれば、年6万円です。損失の目安1,008万円と比べると、手間のほうが小さすぎて比べにくいくらいです。
直し方は、型で3つあります。
1つ目は、期限を本当にする型です。「今月末まで」と書いたら、翌月の頭に条件を戻す。戻したことを、営業側が全員知っている状態にします。月末にお客さんから「あと1日だけ延ばせませんか」と言われたときの扱いを、先に決めておきます。個別の延長を認めるなら、「3営業日以内なら延長可」を最初から書いておく手もあります。
2つ目は、期限を書かない型です。常時やっている特典なら、「ご成約で30万円OFF」と書けば足ります。期限で急かす力は落ちますが、表示の矛盾は起きません。急かさなくても、特典が効くかどうかは別の話です。
3つ目は、条件を細かく書く型です。「フェア当日のご予約で、1か月以内にご契約の方」のように、誰に、いつまで、を条件として書きます。この型は、実際に条件を守る運用が前提です。条件に合わない人に同じ特典を出した瞬間に、1つ目と同じ問題が起きます。
どの型でも、共通して必要なのは、表示を出す人と、期限後の営業を見る人が同じ紙を見ていることです。ゲオストアが命令後に挙げたのも、キャンペーン企画の見直しと、表示の審査・承認を含む管理体制でした。小さな式場なら、特典の一覧と、開始日・終了日・掲載場所を並べた1枚の表を、月初に見るだけでも足ります。
全部同じ日に消す、という運用
実務で効くのは、期限を過ぎた日に全部消す運用です。公式サイト、予約ページ、ポータルサイト、SNSの固定投稿、フェアのチラシのPDF。終了日と一緒に、「消す場所」を書いておきます。
SNSは見落としが出やすい場所です。投稿を固定したまま忘れる、リールの説明文に期限付きの特典が残る。古い投稿を消せない場合は、期限を過ぎた投稿に「この特典は終了しています」と追記しておく形でも、見た人が誤解する余地は減ります。
まとめ
- 「今月末まで」と書いた特典を、翌月も同じ条件で出していると、景表法の有利誤認(第5条第2号)に当たるおそれがある
- 2026年6月のゲオストアの命令は、キャンペーン期間が終わった後も同じか有利な条件で買い取っていたことが問われた。期限後の実態が見られる
- 課徴金は対象売上の3%。年120組成約・1組400万円で特典付きが7割の仮の式場なら、1年分で約1,000万円
- ただし課徴金は150万円に満たなければ命じられない。月1〜2組の話なら課徴金は出ず、問題は措置命令と公表のほうに移る
- 直す手間は、月1回の表示チェックで年12時間。型は「期限を本当にする」「期限を書かない」「条件を細かく書く」の3つ
- 期限を過ぎたら、サイト・予約ページ・SNSの固定投稿まで同じ日に消す
