式場からの見積メールが届かない原因は、送信ドメイン認証の設定漏れ
見学のあとに見積書をメールで送ったのに、二人から返事が来ない。式場ではよくある場面です。このとき多くの式場は「検討中なのだろう」と考えて、数日後に電話で追いかけます。
でも、返事が来ない理由が「検討中」ではなく「メールが届いていない」だった場合は、話が変わります。追客の電話をかける前に、そもそも見積メールが二人の受信箱に入っているのかを確かめる。僕はこの順番が抜けている式場が、思ったより多いと考えています。
この記事では、迷惑メールフォルダに入ってしまう原因のうち、式場が自分で直せる「送信ドメイン認証」を扱います。専門用語が出てきますが、決めるのは経営者でなくてよい部分と、経営者が確認すべき部分を分けて書きます。
なお、損失の計算に使う数字は、僕が置いた仮のものです。実在の式場の実績ではありません。自分の式場の数字に入れ替えて使ってください。
迷惑メールに入る理由は、文面よりも送り主の確認
メールが迷惑メールに入る理由というと、文面に「無料」「特典」のような言葉が入っているからだと思われがちです。もちろん文面も関係します。ただ、受け取る側のメールサービスが先に見ているのは、「このメールは、名乗っているドメインから本当に送られたものか」という点です。
たとえば式場のメールアドレスが info@example-wedding.jp だとします。メールの世界では、差出人の表示は誰でも好きに書けます。だから受け取る側は、差出人のドメイン(example-wedding.jp)が、このメールの送信を許可したサーバーから出ているかを、別の仕組みで確かめます。この仕組みが送信ドメイン認証で、代表的なものが3つあります。
- SPF:このドメインのメールを送ってよいサーバーの一覧を、DNS(ドメインの設定台帳)に載せておく仕組みです
- DKIM:送るときにメールへ電子的な署名を付け、受け取る側が本物かを確かめる仕組みです
- DMARC:SPFとDKIMのどちらにも通らなかったメールを、受け取る側がどう扱ってほしいかを、送り主が宣言する仕組みです
式場でこの話が出にくいのは、ホームページを作った会社、予約システムの会社、メール配信ツールの会社が別々で、誰も全体を見ていないからです。メールの設定は、ドメインを管理している会社のDNSに書き込む作業になります。ここが宙に浮いたまま、数年たっている式場もあるはずです。
Googleが示している要件
2024年2月から、Gmailは送信者に対する要件を厳しくしました。Googleの管理者ヘルプ「メールの送信者のガイドライン」によると、送信者の規模に応じて、求められる内容が二段に分かれています。
すべての送信者に求められるのは、次の内容です。
- SPFまたはDKIMで、送信ドメインを認証すること
- 個人のGmailアカウントに送る場合、DKIMの鍵の長さは1024ビット以上(2048ビットが推奨)
- Postmaster Toolsで見る迷惑メール率を0.3%未満に保つこと
- TLSでメールを送ること
- 正しい逆引きDNS(PTRレコード)を持つこと
1日に5,000通を超えてGmailへ送る「大量送信者」には、さらに次の内容が加わります。
- SPF、DKIM、DMARCの3つをすべて設定すること。DMARCのポリシーは「none」でもよいとされています
- 差出人のドメインが、SPFまたはDKIMのドメインと一致していること
- 迷惑メール率は0.10%未満を保ち、0.30%以上には一度も達しないようにすること
- マーケティング系のメールには、ワンクリックで配信を停止できる仕組みを付けること
ここで大事なのは、式場は1日に5,000通も送らないので、大量送信者の要件は直接は当てはまらないということです。式場が守る必要があるのは、第一段の「SPFまたはDKIMで認証すること」です。ただし、Googleの文書が示しているのは「送り主の確認が取れないメールを、受け取る側が疑う」という方向です。DMARCまで入れておくほうが、式場の名前を使ったなりすましメールも減らせます。要件に当てはまらないから放っておく、とは僕は考えません。
Yahooも似た要件を出していると、各社の解説記事では説明されています。ただ、僕が一次資料で確かめたのはGoogleの文書だけなので、Yahooについては断定しません。二人の使うメールが、Gmailだけとは限らないことは覚えておいてください。
届かないと、いくら損するのか(仮の前提)
見積メールが届かないことで、どれだけの契約が消えるのかを計算します。前提は次のとおりで、すべて仮のものです。
- 月の見学組数:60組
- 見学後に見積メールを送り、そのメールを見ないまま追えなくなる組の割合:3%(良い場合)と10%(悪い場合)
- メールを見なかった組のうち、電話やLINEなど別の連絡で取り返せる組:半分
- 見積もりを見たあとの成約率:30%
- 1組の客単価:350万円、粗利率:35%(1組あたりの粗利は約122.5万円)
計算します。
- 3%の場合:月60組×3%=1.8組がメールを見ません。そのうち半分は取り返せるので、0.9組。成約率30%を掛けると、月に約0.27組の契約が消えます。年間では約3.2組、粗利にして約400万円です
- 10%の場合:月60組×10%=6組。半分の3組が取り返せず、成約率30%で月に0.9組。年間では約10.8組、粗利で約1,320万円です
3%でも、年400万円が静かに消える計算です。10%なら1,000万円を超えます。広告費をかけて呼んだ見学客のうちの数組が、メールの設定ひとつで消えている。そう考えると、DNSの設定を直す作業の優先度が少し上がってくるのではないでしょうか。
この計算には弱いところがあります。迷惑メールに入った割合は、実際には測らないと分かりません。3%と10%という数字も、僕が置いた仮のものです。ただ、「ゼロだと言い切れる式場は少ない」ことと、「ゼロでないなら年に数組分の粗利に響く」ことの2点は、前提を入れ替えても変わりません。
自分の式場のメールを確かめる手順
設定が正しいかどうかは、専門家でなくても確かめられます。次の手順で十分です。
手順1:Gmailの個人アカウントに、実際の送信元から送る。 予約システムの確認メール、見積書を送るときのメール、メール配信ツールの一斉配信を、それぞれ自分のGmailに送ってみてください。送る経路が違うと、設定の状態も違うからです。
手順2:届いたメールの「原文を表示」を開く。 Gmailでは、メールの右上のメニューから開けます。表示された画面の上に、「SPF」「DKIM」「DMARC」という3行があり、それぞれ「PASS」か「FAIL」などが出ます。
手順3:「PASS」が並んでいるかを見る。 SPFとDKIMのどちらかが「PASS」であることが最低限で、DKIMとSPFの両方が「PASS」で、DMARCも「PASS」なら理想です。「FAIL」や「NEUTRAL」が出たら、その経路の設定が足りません。
手順4:迷惑メールフォルダも見る。 認証が通っていても、フォルダを見たら迷惑メールに入っていることがあります。送信の記録と合わせて確認します。
この4つは、1経路あたり10分もかかりません。3経路を確かめても30分です。
式場でよく起きる設定漏れ
認証が通らないとき、原因はおおよそ次のどれかです。
差出人が、無料のメールアドレスになっている。 プランナー個人のGmailやYahooメールのアドレスを差出人にして、予約システムや配信ツールから送っているケースです。GmailのアドレスをほかのサービスのサーバーからDMARCつきで送ると、Gmail側のDMARCの設定と合わなくなり、拒否や迷惑メール扱いにされるおそれがあります。式場の独自ドメインのアドレスから送ってください。
SPFのレコードが2つある。 SPFは、ドメインにつき1つのレコードにまとめる決まりです。予約システムを入れたときに「このレコードを追加してください」と言われて、既存のSPFの横に別のレコードを足してしまうと、2つ存在する状態になり、認証全体が無効になります。1つにまとめて、送信元の指定を並べる形に直します。
SPFに送信元を追加し忘れている。 新しい配信ツールや予約システムを入れたのに、SPFの一覧にそのサービスを足していない状態です。サービスの導入時に、設定の手順書にDNSの追加が書かれているかを、一度見直してください。
DKIMを有効にしていない。 多くのメール配信ツールは、DKIMの署名を付けるために、DNSへ追加の記録を入れるよう求めます。この作業を飛ばすと、ツールの共通ドメインの署名で送られ、式場のドメインと一致しない状態になります。
DMARCのレコードがそもそも無い。 この場合はまず、ポリシーを「none」にして置きます。「none」は、何も拒否しないで、認証の結果の報告だけを受け取る設定です。報告の中身を見て、送信元に抜けが無いと分かってから、「quarantine」(迷惑メール扱い)へ段階的に上げます。最初から強い設定にすると、正規のメールまで止めてしまうおそれがあります。
誰が何をするか
これらの作業は、DNSを触る担当者がやるものです。経営者や支配人が自分で設定する必要はありません。ただ、誰もやらない状態を避けるために、次の3点だけは決めておくのがよいと僕は思います。
- ドメインの管理者を決める。 式場のドメインを、どの会社のどのアカウントで管理しているか。契約者が退職した担当者の個人名になっていないか。ここが曖昧だと、DNSを直したくても入れません
- メールを出している経路を、一覧にする。 予約システム、見積書の送付、メール配信ツール、各プランナーのメールソフト。経路ごとに、どのサービスが送っているかを1枚にまとめます
- 新しいサービスを入れるときの確認項目に入れる。 「送信ドメイン認証の設定は、導入の手順に含まれているか」を、導入チェックに加えます
制作会社や予約システムの会社に頼む場合は、「SPF、DKIM、DMARCがGmailで PASS するようにしてほしい」と伝えれば通じます。このとき、完了の確認に、先ほどの手順1〜3を使ってください。設定した側の「できました」ではなく、自分のGmailで確かめた結果を見ます。
迷惑メール率は、送り方でも変わる
認証が通っても、迷惑メール率が高ければ、届かなくなります。Googleの文書は、利用者に「迷惑メール」と報告された割合を0.3%未満に保つよう求めています。これは、宛先に迷惑メールだと思われた数で決まる数字です。
式場の一斉配信メールで、迷惑メール報告を増やしやすいのは次のような場面です。
- 見学に来ていない人、資料請求だけの人に、頻度を考えずに配信する
- 解除の方法が分かりにくい。解除できないと、迷惑メールのボタンで逃げられる
- 差出人の名前が毎回違って、誰からのメールか分からない
配信ツールを使っているなら、解除のリンクが本文にあるか、差出人名が式場名で固定されているかを、見てください。個別の見積メールは件数が少ないので、迷惑メール率の数字は出にくいです。認証が通っていることと、送る頻度を抑えることの2点が、現実的な対策になります。
なお、Postmaster Toolsで迷惑メール率を見るには、一定以上の送信量が必要だとされています。件数の少ない式場では、数字が表示されないことが多いはずです。表示されないことは、問題がないことの証明ではありません。
見学後の追客は、届いたかの確認から
最後に、運用の順番を整理します。見学後に見積メールを送ったのに反応が薄いとき、追客の前に次の2つを入れてください。
- 送信の記録で、メールが送られたことを確かめる。エラーの戻りメールが来ていないかも見ます
- 追客の最初の連絡は、メールを重ねず、電話かLINEなど別の経路で「見積書を送ったのですが、届いていますか」と聞く
2つ目は、やや気まずい聞き方に見えます。それでも「届いていますか」と聞かれて、二人が「見ていません」と答えることがあります。その場合は、迷惑メールフォルダを見てもらうか、LINEで見積書を送り直せば済みます。届いていたら、そこから検討状況の話に入れます。
届いたかどうかが分からないまま、メールだけを重ねるのは避けたいです。届いていないメールを何通送っても、二人からは何の反応も返ってきません。
まとめ
- 迷惑メールに入る理由は、文面だけでなく、送り主のドメインが本物かの確認(SPF・DKIM・DMARC)にもあります
- Googleのガイドラインは、すべての送信者にSPFまたはDKIMの認証、迷惑メール率0.3%未満などを求めています。1日5,000通を超える大量送信者には、DMARCや0.10%未満の基準が加わります
- 式場は大量送信者に当たりませんが、認証が通らないメールを疑う流れは同じです。DMARCまで入れておく価値があります
- 仮に月60組の見学で、見積メールが届かない組が3%なら、年間の粗利で約400万円が消えます。10%なら約1,320万円です。これは仮の前提での計算です
- 確認は、自分のGmailに各経路から送り、「原文を表示」で PASS を見るだけです。1経路10分です
- よくある原因は、無料メールの差出人、SPFの重複、送信元の追加漏れ、DKIM未設定、DMARC無しです
- ドメインの管理者と、メールを出す経路の一覧を決めておくと、設定が宙に浮きません
- 追客の最初は、メールを重ねず、別の経路で届いたかを確かめます
