ドリンクに安い段を作ると、仮の式場では招待客の3割が下に移って年148万円減る。取り返すのは、年1.07組の増加
披露宴のドリンクは、飲む人と飲まない人で、使う量が大きく違います。それなのに、見積もりでは全員が同じ1人あたりの金額になっている会場が、まだ多いのではないでしょうか。
そこで出てくるのが、安い段を作るという案です。ソフトドリンクとノンアルコール中心の段を、いまの飲み放題より安く用意する。お酒を飲まない人が多い二人に、見積もりの総額を下げて見せられる。成約率が上がるかもしれない。ここまでは筋が通っています。
ただ、安い段を作ると、いま満額を払っている人の一部が、そちらに移ります。移った人の分は、そのまま粗利が減ります。この減る額と、成約が増える額のどちらが大きいのかは、数えないと分かりません。
結論から書きます。ドリンクが1人4,100円、招待客52人の仮の式場で、2,500円の安い段を作ると、招待客の3割が移った場合に粗利が年148万円減ります。取り返すのに必要なのは、成約が年に1.07組増えることです。来館が年600組の会場なら、成約率が0.18ポイント上がれば足ります。数字だけ見ると、思ったより楽な条件です。ただし、その1.07組が本当にこの変更のおかげかどうかを見分ける手段がないと、やるか止めるかの判断ができません。
この記事の数字は、ドリンク費用の平均だけが統計で、あとはすべて僕が置いた仮のものです。自分の会場の数字に置き換えて読んでください。
前提:ドリンク4,100円、招待客52人、年120組
まず仮の式場を決めます。
- 年間の来館は600組、成約率は20%で、成約は年120組
- 1組あたりの粗利は140万円(ほかの記事でも使っている、仮の値です)
- 招待客は1組52人
- ドリンクの売価は1人4,100円。ゼクシィ結婚トレンド調査2020の、料理と飲物を合わせた1人あたり費用1万9,300円のうち、ドリンクにあたる額を借りました。料理は1万5,600円です
- ドリンクの原価率は35%。これは僕が置いた仮の値で、会場の仕入れ条件やお酒の比率で大きく動きます
- 安い段は1人2,500円、原価率は25%。お酒を使わない分、原価率は下がると考えました
ゼクシィのこの数字は2020年のもので、いまの水準とは違うはずです。原材料の値上がりを受けて、会場側の売価はこの数年で動いています。ここでは、4,100円という数字を「平均の目安」として借りているだけです。自分の会場の請求書や、見積もりのドリンク欄を見れば、実際の額はすぐ分かります。
1組あたりのドリンク売上は、4,100円×52人で21万3,200円です。粗利で見ると、4,100円×(1−35%)=2,665円が1人あたり、52人で13万8,580円になります。1組の粗利140万円のうち、ドリンクの粗利はおよそ1割です。
安い段に移ると、1人いくら減るか
安い段は、売価2,500円で原価率25%なので、粗利は1人1,875円です。
- いまの段の粗利:2,665円
- 安い段の粗利:1,875円
- 差:790円
売価の差は1,600円ですが、粗利の差は790円です。お酒の原価がなくなる分、売価ほどには減りません。ここを売価の差で計算してしまうと、損を2倍ほどに見積もることになります。
1組の招待客52人のうち、何割が安い段に移るかで、減る額を出します。
| 移る割合 | 1組あたり | 年120組で |
|---|---|---|
| 1割(5人) | 約4,100円 | 約49万円 |
| 3割(16人) | 約12,300円 | 約148万円 |
| 5割(26人) | 約20,500円 | 約247万円 |
3割で年148万円。5割でも年247万円です。1組の粗利140万円と比べれば小さな額に見えます。ただ、この額は何もしなければ毎年確実に減ります。一方、成約が増える分は、増えたかどうかが後から見えにくい額です。
成約がいくつ増えれば取り返せるか
減る額を、増える成約で取り返す計算をします。成約が1組増えると、粗利が140万円入ります。ただし、増えた組も安い段に移る人が出るので、その分は少し目減りします。この目減りまで入れて、必要な増加を出します。
安い段の売価と移る割合を動かした結果が、次の表です。原価率は、2,500円と3,000円と2,000円のときは25%、最後の行だけ35%にしました。
| 安い段の売価 | 1人の粗利の差 | 移る割合 | 年の粗利の減少 | 必要な成約の増加 | 成約率に直すと |
|---|---|---|---|---|---|
| 3,000円 | 415円 | 3割 | 約78万円 | 年0.56組 | 0.09ポイント |
| 2,500円 | 790円 | 1割 | 約49万円 | 年0.35組 | 0.06ポイント |
| 2,500円 | 790円 | 3割 | 約148万円 | 年1.07組 | 0.18ポイント |
| 2,500円 | 790円 | 5割 | 約247万円 | 年1.79組 | 0.30ポイント |
| 2,000円 | 1,165円 | 3割 | 約218万円 | 年1.58組 | 0.26ポイント |
| 2,000円(原価率35%) | 1,365円 | 5割 | 約426万円 | 年3.12組 | 0.52ポイント |
一番厳しい行でも、成約が年に3組ほど増えれば足ります。成約率にして0.5ポイント。見学した人の200組に1組が、この変更で契約に傾けばよい、という水準です。
数字だけ見ると、安い段を作る案はかなり有利に見えます。ここまでの結果は、僕もやや意外でした。
難しいのは、増えた分を見分けること
ここで、数字の見え方が変わります。必要な増加はわずかですが、わずかだからこそ、増えたのかどうかが分かりません。
成約率が20%の会場で、来館が年600組なら、成約は年120組です。ここで偶然のぶれがどれくらいあるかを見ます。成約の数を二項分布のばらつきで見ると、標準偏差は約9.8組になります。年1組や2組の増減は、偶然だけでも毎年動く範囲に、すっぽり収まります。
つまり、安い段を作った年に成約が2組増えても、それが変更の成果なのか、たまたまなのか、ほかの施策なのか、数字からは決められません。逆に、成約が1組減っても、変更が失敗だったとは言えません。
安い段で粗利が減る側は、確実に毎年出ます。増える側は、見分けられないまま、感覚で語られることになります。この非対称が、価格の変更を続けるか戻すかの判断を難しくします。
見分ける手段は、成約の数ではなく、その手前の数字です。
- 見積もりを出した組のうち、ドリンクの欄で質問や相談をした組の割合
- 安い段を提示した組と、提示しなかった組の、見積もりから返事までの日数
- 安い段で契約した組の、招待客の人数とお酒の飲み方(これは担当者の記録から拾います)
成約率そのものは、年120組の規模では、半年たっても結論が出ません。見るのは、プロセスの数字のほうです。
移る割合は、見せ方で決まる
計算の中で一番動かしやすいのは、移る割合です。3割と置きましたが、ここは会場が決められる数字です。
見積もりに安い段を並べると、人は価格の低いほうを見ます。いまの段を標準として先に出し、安い段は「ソフトドリンク中心にしたい方向け」と添える。この順番にするだけで、移る割合は変わると思います。ただし、これは僕の推測で、数字の裏付けはありません。移る割合が1割か5割かで、必要な成約の増加は年0.35組から1.79組まで、5倍動きます。
どの二人にどの段を勧めるかは、招待客の顔ぶれで決まります。
- 招待客に会社の同僚や上司が多い披露宴は、お酒を飲む人が多く、いまの段が合いやすい
- 招待客に学生時代の友人や家族が多い披露宴は、飲む量にばらつきが出やすい
- 昼の披露宴は、夜より飲む量が減りやすい
これは一般的な傾向で、会場ごとの実績とは別のものです。自分の会場で、披露宴の時間帯と招待客の構成ごとに、ドリンクの実際の消費を並べてみると、どの層が安い段に向くかが見えてきます。
安い段ではなく、追加の段を作る手もある
安い段を作ることは、いまの段の売価を下げることと同じです。逆向きの手もあります。いまの段はそのままにして、上に段を足す方法です。
たとえば、いまの4,100円の上に、ワインやカクテルを足した5,500円の段を作る。移る人が出るのは、上の段に向かうほうです。上の段に1割が移るだけで、1組あたり粗利が増えます。
ただし、上の段が選ばれるのは、お酒を飲む人が多く、かつ予算に余裕のある二人に限られます。この案は、上に出すのか、下に出すのかではなく、どちらの二人に勧めるのかの問題です。
3段にするという手もあります。この場合、真ん中を標準にして、見積もりの最初に出します。人は真ん中を選びやすいと言われます。ただし、これも僕の見聞の範囲で、数字を確かめた話ではありません。
やる前に、確かめること
安い段を作る前に、確認することが3つあります。
1つ目は、いまのドリンクの実績です。1組ごとのドリンクの請求額と、実際に出た杯数を、直近1年分並べます。お酒が大半を占める会場もあれば、ソフトドリンクが多い会場もあります。原価率35%という数字は、僕が置いたものなので、ここで実際の値に置き換えます。
2つ目は、安い段を、どの二人に、どの順番で見せるかです。全員に並べるのか、相談があった二人にだけ出すのか。見せ方で、移る割合が変わります。
3つ目は、やめる条件です。半年後に、見積もりの質問の割合や、返事までの日数が、変わっていなければ戻す。そういう線を、始める前に決めておきます。決めずに始めると、減った粗利だけが残り、やめる理由が見つかりません。
安い段を作らない場合
数字では有利に見えても、作らないほうがよい会場もあります。
- ドリンクの利益を、ほかの項目の割引の穴埋めに使っている会場。安い段を作ると、穴埋めの原資が減ります
- お酒を飲む人が、招待客の大半を占める会場。移る人が少なく、成約が増える余地も小さい
- ドリンクの仕入れが、料理や会場の契約と一緒に結ばれていて、お酒を減らすと条件が悪くなる会場
どれも、一般論ではなく、自分の会場の契約と数字の話です。
まとめ
- ドリンクが1人4,100円の仮の式場で、2,500円の安い段を作ると、1人あたりの粗利の差は790円。売価の差1,600円ではなく、粗利の差で計算する
- 招待客の3割が移れば、年148万円の粗利が減る。取り返すのは、成約が年に1.07組増えること。成約率なら0.18ポイント
- 一番厳しい行(売価2,000円、原価率35%、5割が移る)でも、必要な増加は年3.12組。数字の上では、安い段は有利に見える
- 難しいのは回収額ではなく、増えたかどうかを見分けること。年120組の規模では、成約の偶然のぶれ(標準偏差で約10組)に、1組や2組は埋もれる
- 見るのは成約ではなく、その手前の数字。見積もりでドリンクの相談が出る割合と、返事までの日数
- 移る割合は、見せ方で決まる。いまの段を標準に出すのか、並べて出すのかで、必要な成約の増加が5倍動く
- 始める前に、やめる条件を決めておく。決めずに始めると、減った粗利だけが残る
