ワインの持ち込みを無料で認めると、仮の式場では年44万円の粗利が減る。断って守れるのは年0.3組の離脱まで。持ち込み料は1本2,000円が損益ゼロの線
乾杯のスパークリングワインを、二人が自分で選んだものにしたい。親戚から譲ってもらった日本酒を鏡開きの後に出したい。見学や打ち合わせの席でそう言われたとき、式場の答えは「持ち込みはお断りしています」「持ち込み料をいただきます」「大丈夫です」のどれかに分かれます。
結論を先に書きます。持ち込みを断って守れるのは、僕が置いた仮の式場で年44万円の粗利です。この44万円は、年に0.3組、つまり3年に1組が「持ち込めないなら他に行く」と離れた時点で消えます。持ち込み料を取るなら、損益がゼロになる線は1本2,000円前後です。ただし、この計算が成り立つのは、乾杯の酒を別料金のオプションで売っている式場に限ります。飲み放題の定額に乾杯まで含めている式場では、持ち込みで失う売上はほぼありません。そこから先に確かめる必要があります。
この記事に出典つきの数字はありません。持ち込みを希望する二人の割合も、ドリンクの粗利率も、僕は確かめていません。以下の数字はすべて僕が置いた仮の前提です。自分の会場の数字に置き換えて読んでください。
仮の式場の前提
計算の土台を並べます。
- 年間の挙式は120組、1組の招待客は60人
- 乾杯のスパークリングは別料金のオプションで、1人800円。60人なら1組4.8万円の売上です
- オプションの粗利率は65%と置きます。1組あたりの粗利は3.12万円です
- 乾杯のオプションは、持ち込みがなければ7割の二人が付けると置きます。残りの3割は、もともと付けない二人です
- 持ち込みを希望する二人は、年120組のうち15%。年18組です
- 1組の持ち込み本数は12本。乾杯用に10本、ワインや日本酒を2本と置きます。750mlのボトルから6杯とると、乾杯の60人分は10本です
- 持ち込みを受けた日は、受け取り、冷やし、抜栓と提供の手間が1時間かかると置きます。人件費は1時間2,500円です
- 1組を取り逃がしたときの粗利は150万円です。ほかのコストを引いた後の、この記事用の丸めた値です
細かい数字を置きましたが、この計算で大事なのは「持ち込みで失うものは何か」を先に決めることです。次の節で、そこを分けます。
持ち込みで失うもの
持ち込みを認めると、式場は何を失うのか。分けて考えます。
1つ目は、別料金で売っていた酒の粗利です。乾杯のスパークリングを1人800円のオプションにしている式場は、二人が持ち込むとその売上が丸ごとなくなります。粗利で3.12万円。持ち込まなくても付けなかった二人が3割いるので、実際に失う分は3.12万円の7割、2.18万円です。
2つ目は、手間です。持ち込まれた酒は、式場の仕入れ品とは扱いが違います。受け取りの日時を決め、保管する冷蔵庫の場所を確保し、温度を見て、抜栓する。1組1時間で2,500円。小さい額ですが、ゼロではありません。
1組あたりの損は、2.18万円と0.25万円で2.43万円です。年18組なら43.8万円。これが、冒頭の「年44万円」です。
では、飲み放題に乾杯まで含めている式場はどうでしょうか。こちらは、定額の売上が持ち込みで減りません。むしろ、持ち込まれた分だけ式場の仕入れ原価は減ります。失うのは手間だけで、1組2,500円、年18組で4.5万円です。ここまで小さいなら、持ち込みを断る理由は粗利ではなく、品質や事故への不安のほうにあります。
つまり、持ち込みの損は、式場がどこから粗利を取っているかで決まります。自分の会場のドリンクが「定額の中」なのか「別売り」なのかを、先に見てください。
断るときの損益
持ち込みを断ると決めたとき、守れるのは43.8万円です。一方で、断られた二人の一部は、持ち込める式場に移ります。
離脱の損は、離れた組数に150万円を掛けて出ます。43.8万円を150万円で割ると、0.29組。希望する18組のうち、1.6%です。年に18組が持ち込みを希望して、そのうち0.29組が「それなら他に行く」と言えば、断った損のほうが大きくなります。3年で1組です。
この数字が小さいと感じるでしょうか。僕は、現実の式場の感覚に近いと思っています。持ち込みを希望する二人は、希望の理由が強い人たちです。「祖父がくれた日本酒を鏡開きで出したい」という二人は、その一点で式場を選ぶことがあります。逆に、乾杯のスパークリングの銘柄にこだわりはなく、節約のために持ち込みを聞いてみただけの二人は、断られても離れません。
だから、「断ると何組離れるか」を数えるときは、持ち込みを希望した18組の全員ではなく、「それがないと決められない」二人だけを数えます。この記事では、その割合を確かめていません。自分の会場の見学アンケートや、契約に至らなかった二人の理由に「持ち込み」が出てくる回数があるなら、そこが一番まともな数字です。
無料で認めるときの損益
無料で認めると、年に43.8万円の粗利を差し出します。その代わり、離脱は減ります。差し出す額は、持ち込みを希望する二人の数に比例します。
| 持ち込みを希望する割合 | 年の組数 | 無料で認める損 | 離脱の損益分岐 |
|---|---|---|---|
| 5% | 6組 | 14.6万円 | 0.10組 |
| 15% | 18組 | 43.8万円 | 0.29組 |
| 30% | 36組 | 87.6万円 | 0.58組 |
希望する割合が高いほど、損は大きくなります。同時に、離脱の分岐点も上がります。30%の会場では、0.58組の離脱があれば、断ったほうが損です。持ち込みの希望が多い会場ほど、断る選択は重くなります。
ここで注意するのは、無料で認めると、希望する割合が上がることです。「持ち込み無料」と案内すれば、これまで聞かなかった二人も聞いてきます。僕は、15%が30%になることは十分ありえると思っています。無料の案内が、損の額そのものを増やします。
持ち込み料の線
持ち込み料は、損を二人に返す形です。1組あたりの損は2.43万円、持ち込みが12本なら、1本あたり2,028円。つまり、1本2,000円前後で損益がゼロになります。
12本で2.4万円です。損は2.43万円なので、340円足りません。この差は誤差です。
ただし、持ち込み料には3つの落とし穴があります。
1つ目は、本数の数え方です。乾杯のスパークリングが10本、ワインが2本なら、12本に2,000円を掛けて2.4万円。しかし、1本ずつ数えると、二人は「ボトルが多いから高い」と感じます。乾杯酒は「1組一律2.4万円」にしたほうが、規定として説明しやすく、1本ずつ数える手間も省けます。
2つ目は、二人の目線で見たときの額です。1本2,000円の持ち込み料は、スパークリングの原価が1本3,000円なら、合計5,000円。式場が出す1人800円のオプションは、1本あたり4,800円です。持ち込んでも安く上がるとは限りません。二人が持ち込むのは、安く済ませたい人より、思い入れや銘柄にこだわる人のほうが多いはずです。持ち込み料が損益ゼロの線なら、二人にとっては納得できる額になります。
3つ目は、持ち込み料を取った後の離脱です。損益ゼロの線は、離脱が増えない前提で計算しています。持ち込み料を理由に、0.29組が離れたら、取った意味はありません。持ち込み料を取るなら、見積もりの最初から料金表に載せます。契約後に出すと、二人は「聞いていない」と感じます。
3つの方針の比べ方
3つの方針を、損益と、起きやすいことで並べます。
断る場合、粗利は守れます。損益の分岐は、年0.29組の離脱です。見学で持ち込みを聞かれるたびに断ることになるので、担当者の説明の手間は残ります。
無料で認める場合、離脱は減ります。損は年43.8万円で、希望が増えるほど膨らみます。式場が何も言わなくても、ほかの会場が「持ち込み料なし」を売りにしているなら、比較の土俵に乗るために無料にする、という判断はありえます。
持ち込み料を取る場合、損益は年0円前後です。離脱を呼ぶかどうかは、料金表に最初から載せるか、後から言い出すかで変わります。
どれが正しいかは、持ち込みを希望した二人の、その後の動きで決まります。僕が選ぶなら、3つ目を基本にして、乾杯の酒に限って「1組2.4万円で10本まで」と決めます。持ち込みを希望する理由の大半は、乾杯の1本に集まるからです。ワインや日本酒の追加は、本数で見て、式場が引き受けられる範囲を別に決めます。
規定に書く項目
方針を決めたら、規定に書く項目を決めます。口頭の約束にすると、当日、担当者が替わった時点で崩れます。
- 持ち込める酒の種類。未開封の瓶詰めに限る、手作りの果実酒は不可、など
- 持ち込みの期限。挙式の何日前までに届けるか。当日の朝に届くと、冷やす時間が足りません
- 本数の上限と、持ち込み料。乾杯酒の1組一律額と、追加ボトルの1本あたりの額
- 保管の責任。冷蔵庫の温度管理は式場が行うが、品質そのものの保証はしない、という線引き
- 提供の責任。抜栓と提供は式場スタッフが行う。二人やゲストが自分で注ぐ形は、衛生と事故の線をどう置くかを決めておく
- 未成年や運転するゲストへの提供。式場の通常の酒類の提供ルールと同じ扱いにする
保管と提供の責任については、「いかなる場合も式場は責任を負わない」と書くと、消費者契約法の面で無効とされる可能性があります。この点は別の記事で扱いました。書くなら、「式場が管理を誤って品質を損なった場合は責任を負う。持ち込み品そのものの品質は保証しない」のように、範囲を分けて書きます。法律の確認は、専門家に聞いてください。僕は法務の専門家ではありません。
持ち込みの理由で対応を分ける
持ち込みたい理由は、少なくとも3つに分かれます。
1つ目は、思い入れです。祖父の日本酒、二人の思い出のワイン、出身地の酒。これは「その1本」を出したい二人で、安くはなりません。式場が断ると、感情の部分で離れます。乾杯か鏡開きの1本までは、持ち込み料を取らない、という線の引き方もあります。1本の損は、ここで計算した額の12分の1です。
2つ目は、節約です。式場のドリンクの値段が高いと感じて、持ち込みを聞いてくる二人です。この二人には、持ち込み料を示すと、持ち込み後の総額が式場の料金表と並びます。そうすると、持ち込みの話は消えます。
3つ目は、銘柄です。式場のワインリストに、二人の飲みたい銘柄がない。この場合、式場が取り寄せられるかを先に確認します。取り寄せなら、式場の粗利が残ります。仕入れ値に3割を乗せれば、手間の分は取り戻せます。ただし、現実に取り寄せられるかは、仕入れ先が決まっているかどうかで変わります。
3つの理由を、見学の最初の会話で聞き分けます。「どんなお酒ですか」と聞くだけで、どれに当たるかが分かります。
今日の会場で確かめること
自分の会場に当てはめるときの、順番を書きます。
- 乾杯の酒が、飲み放題の中か、別料金かを確かめます。別料金なら、1組の粗利を出します
- 過去1年で、持ち込みを聞かれた回数を数えます。契約に至らなかった二人の理由の記録も見ます
- 聞かれた回数に1組あたりの損を掛けて、年の損を出します
- 年の損を、1組を取り逃がしたときの粗利で割ります。これが、断るときの離脱の損益分岐です
- 持ち込み料を決めます。損を持ち込み本数で割った額が、損益ゼロの線です
- 料金表と規定に載せます。見積もりの最初に出します
4番の答えが1組を下回るなら、持ち込みを断る意味は薄くなります。その場合は、持ち込み料で損益をゼロにするか、乾杯の1本だけ無料にします。
まとめ
- 持ち込みの損は、式場が酒のどこから粗利を取っているかで決まります。乾杯を別料金で売っていれば、持ち込みで粗利を失います。定額の中なら、失うのは手間だけです
- 仮の式場(年120組、乾杯オプションは1人800円)では、無料で認めると年44万円の粗利が減ります
- 断って守れるのは、年0.3組の離脱まで。希望する二人が増えるほど、分岐の組数は上がります
- 持ち込み料は、損を本数で割ると1本2,000円前後が損益ゼロの線です。乾杯酒は1組一律のほうが説明しやすくなります
- 持ち込み料は、見積もりの最初から料金表に載せます。契約後に出すと、離脱が増えます
- 規定には、種類、期限、本数、保管と提供の責任、未成年への扱いを書きます。「いかなる場合も責任を負わない」は避けます
- 持ち込みたい理由は、思い入れ、節約、銘柄の3つ。見学の最初に「どんなお酒ですか」と聞くと分かれます
