来館・成約

相見積もりの見積書を見せられたら、式場は総額より項目の差を聞く

見学の終わり際に、二人がバッグから他の式場の見積書を出す。式場の営業なら、一度は経験があるはずです。「ここは総額で40万円安いんです」と言われて、頭の中で値引きの上限を探し始める人は多いと思います。

結論から書きます。他の式場の見積書を見せられたら、最初にやるのは値引きの相談ではなく、二つの見積書の項目を並べて揃えることです。総額の差のうち、どれだけが「同じものの値段の差」で、どれだけが「入っているものの違い」なのかが分かるまで、金額の話には入りません。

この記事の数字は、会場も人数も金額も、すべて僕が置いた仮のものです。業界の平均ではありません。自分の会場の見積書の形に置き換えて読んでください。

総額の差は、ほとんどが「入っているものの差」

見積書は、式場ごとに書き方が違います。サービス料と税を最初から含める式場もあれば、小計の下に別建てで書く式場もあります。写真や映像が「含まれている」式場もあれば、「別途」と小さく書いてある式場もあります。

二人は、その違いを知らないまま総額だけを見比べています。見積書を見せてくれた時点で、二人は「同じ条件で比べている」と思っているのです。ここを揃えずに値引きの話をすると、本当は同じ条件ではないものを相手に、自分だけが下がることになります。

仮の例で考えます。60名の披露宴で、自社の見積書と、他の式場の見積書が次のようだったとします。

自社の見積書(税・サービス料込みとして揃えた金額)

  • 会場使用料:30万円
  • 料理:96万円(1人1.6万円)
  • 飲物:36万円(1人0.6万円)
  • 装花:25万円
  • 映像・音響:15万円
  • サービス料:13.2万円(料理と飲物の10%)
  • 合計:215.2万円

他の式場の見積書(見積書に書かれた総額)

  • 会場使用料:20万円
  • 料理:90万円(1人1.5万円)
  • 飲物:30万円(1人0.5万円)
  • 装花:12万円
  • 合計:152万円

見積書の総額だけを見れば、差は63.2万円です。ここで「うちも60万円下げます」とは、さすがに言えません。

ところが、他の式場の見積書をよく読むと、小さな字で「サービス料別」「写真は別途」と書いてあったとします。サービス料が料理と飲物の10%なら12万円。写真は仮に10万円です。この二つを足すと、他の式場の合計は174万円になります。映像・音響は入っていないままです。

揃えた後の差は、215.2万円から174万円を引いた41.2万円です。63.2万円あった差のうち、22万円は書き方の違いでした。値引きの相談を始める前に、差が3分の1ほど縮んでいます。

差を項目ごとに分けると、話す相手が変わる

41.2万円の差を、項目ごとに分けてみます。数字は上の仮の例のままです。

  • 会場使用料:自社が10万円高い
  • 料理:自社が6万円高い(1人1,000円の差)
  • 飲物:自社が6万円高い(1人1,000円の差)
  • 装花:自社が13万円高い
  • 映像・音響:自社が15万円高い(他の式場は入っていない)
  • サービス料:自社が1.2万円高い
  • 写真:他の式場が10万円高い(自社は別の扱い)

足すと差は、10+6+6+13+15+1.2−10=41.2万円です。

こうして並べると、「40万円高い」という一つの話が、性質の違う項目に分かれます。

  • 同じものの値段の差(料理・飲物・サービス料):合計13.2万円
  • 内容の差(装花の量、映像・音響の有無、会場使用料に含まれるもの):合計38万円
  • 他の式場だけが別建てにしているもの(写真):マイナス10万円

営業が値引きで話せるのは、1番目の「同じものの値段の差」だけです。2番目は、内容を見て、二人が「そこまで要らない」と思うなら外す、という相談になります。値引きではなく、項目を減らすことで差が縮みます。

ここを分けずに「総額で40万円下げてほしい」と受けてしまうと、二人は本当に必要なもの(たとえば映像)まで、値引きの交渉材料として扱うようになります。式場側も、何を削ってよいのか分からないまま金額だけ下げることになり、粗利の削り方が雑になります。

項目を揃えるために聞くこと

他の式場の見積書を預かる、または写真に撮らせてもらうところから始めます。断られたら、二人に「この項目はどう書いてありますか」と聞きながら、こちらの用紙に書き写します。見積書を取り上げる必要はありません。

聞くのは、次の4つです。

  1. サービス料と税は、書かれている金額に含まれていますか
  2. 写真、映像、衣装、ヘアメイク、司会、引き出物は、入っていますか。別の欄に出ていますか
  3. 料理と飲物は、1人あたりいくらで、人数は何名で見積もられていますか
  4. 会場使用料に、挙式や控室、前撮りの費用は含まれていますか

この四つで、書き方の違いのほとんどは拾えます。3番目の人数は、見落としやすいところです。自社は60名で見積もり、他の式場は50名で見積もっていれば、総額の差の相当な部分は人数の差になります。1人1.6万円の料理で10名の差は、16万円です。

聞くときの言い方にも気をつけます。「ここは安く見えるけれど、実際は高いですよ」という言い方は、他の式場を下げる話になり、二人の選んだ判断を否定します。おすすめしないのは、他社の見積書の弱点を指摘する営業です。「この見積書は、サービス料が別になっているみたいですね。こちらの見積書と同じ形に揃えて、並べてみましょうか」と、作業の提案として言えば、二人に押し付けにはなりません。

揃えたあとの、金額の話の順番

項目が揃った後で、金額の話に入ります。順番は次のとおりです。

  1. 二人が「どうしても入れたい」ものを一つか二つ聞く。揃った表に丸をつけてもらう
  2. 丸のついていない項目で、他の式場に無いもの、または他の式場より多いものを、外す案として出す
  3. 外した後の合計を、もう一度二人と見る
  4. それでも差が残るなら、「同じものの値段の差」に当たる部分だけ、値引きの相談に入る

この順番にする理由は、値引きを最後に残すためです。先に外せるものを外しておけば、値引きの額は小さくて済みます。上の仮の例なら、装花を他の式場と同じ12万円の水準に合わせ、映像・音響を外せば、差の38万円のうち28万円(装花の13万円と映像の15万円)は、内容の見直しだけで縮みます。残るのは、会場使用料の10万円と、料理・飲物・サービス料の13.2万円、写真の−10万円を合わせた13.2万円です。

値引きを求められる状況でも、相談の入口が「あと13万円をどう埋めるか」になれば、社内で決められる範囲に収まりやすくなります。40万円を前提に上司へ相談に行く場合と、13万円を前提に行く場合では、返ってくる答えがまったく違います。

揃えた表は、二人の手元にも渡す

揃えた用紙は、社内で見るだけで終わらせません。写真を撮ってもらうか、コピーを渡します。二人はこのあと、家で二人きりで、あるいは親と一緒に、もう一度見比べます。そのとき、自社だけが「値引きをした式場」として記憶に残るより、「他の式場の見積書の読み方を教えてくれた式場」として残るほうが、あとで効きます。

渡す表には、自社に不利な行も隠さず書きます。たとえば写真の欄で他の式場のほうが安いなら、そのとおりに書きます。ここを自社に有利な形に整えてしまうと、二人は家で他の式場の見積書と見比べたときに、表の偏りに気づきます。気づかれた時点で、揃えた作業全体への信用が落ちます。

もう一点、表を見せながら金額の結論を急がないことです。「今日決めていただければ」という期限つきの値引きは、二人に比べる時間を与えず、選んだ後で後悔を生みます。揃えた表を渡したうえで、次の連絡の日を決めて見学を終えるほうが、契約後のキャンセルも起きにくくなります。

値引きが要らない場合もある

項目を揃えてみたら、差がほとんど残らなかった、という結果もあります。そのときは、金額の話は終わりです。残った時間で、二人が迷っている理由を聞きます。見積書を持ち込む二人は、金額そのものより、「どちらにしても後悔しないか」を確かめたがっている場合があります。

逆に、揃えても差が大きく残る場合もあります。会場使用料が桁違いに違う、人数規模が合わない、といったときです。そのときは、無理に合わせにいかず、「この条件ならうちは難しい」と伝えるほうが、あとの関係を壊しません。値引きで契約を取れても、粗利が薄いまま、当日のサービスも薄くなるなら、二人にとっても得ではありません。

線を引く基準は、会場ごとに持っておくと楽になります。たとえば、「揃えた後の差が、総額の何%を超えたら値引きの相談は受けない」といった目安です。この数字は、会場の粗利率と、直近の成約状況で決まるものです。僕が置ける数字ではないので、自分の会場の原価率から計算してください。

見積書を揃える作業を、社内の型にしておく

この対応は、営業の腕に頼ると再現できません。型にしておくと、新人でも同じ質で対応できます。

  • 揃えるための用紙を、あらかじめ1枚作っておく。左に自社、右に相手の項目、中央に差額を書く欄
  • サービス料、税、写真、映像、衣装、人数、の6つは、必ず聞くチェック項目として印刷しておく
  • 揃えた用紙は、そのまま成約後の見積書の元として保存する。二人が何を外して何を残したかが、後の打合せで使える
  • 他の式場の見積書を見せてくれた二人には、お礼を一言添える。見せてくれたこと自体が、判断材料を渡してくれた行為だから

用紙の作成は、半日で済みます。1回使えば、翌週の見学から役に立ちます。

まとめ

  • 他の式場の見積書を見せられたら、値引きの相談より先に、項目を揃える
  • 総額の差には、書き方の違い(サービス料・税・別建て)と、内容の違いと、同じものの値段の差が混ざっている
  • 仮の例では、63.2万円の差が、揃えると41.2万円になり、値引きで話せるのは13.2万円分だけだった
  • 聞くのは、サービス料と税、別建ての項目、人数、会場使用料の範囲の4つ
  • 金額の話は、二人に必須の項目を聞く、外せる項目を出す、残った差を値引きで考える、の順に進める
  • 揃えた後に差が残らなければ金額の話は終わり。大きく残るなら、無理に合わせない
  • 揃える用紙を1枚作っておくと、担当者が替わっても同じ対応ができる